富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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マリーン

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 土曜の10時。
 俺は六花のマンションへ行った。
 既に六花はマンションの前で待っていた。
 俺のドゥカティを見つけ、手を振ってくる。
 俺はヘルメットを脱ぎ、六花と軽くキスをする。
 簡単にコースを確認し、出発した。

 麻布十番を曲がって、浜崎ジャンクションからレインボーブリッジを抜ける。
 いよいよ湾岸線だ。
 潮の香りが心地よい。
 よく晴れたために、海の輝きが美しい。

 羽田を突っ切り、横浜を抜け、三浦半島に向かう。
 六花が俺の前でスラロームを描くので、俺はウイリーで追い越した。
 六花の笑い声がインカムから聞こえる。
 随分と遠回りをし、途中で休みながら来たので、横須賀には1時過ぎに着いた。
 ドブ板近くの駐車場にバイクを停め、歩いて店に行く。



 「ここだよ」
 ハンバーガーを模した楕円形の緑色の看板。
 店内は薄暗く、雰囲気がある。
 満席ではなかったが、多くの客がいた。
 半数は米兵と思われる、屈強な男たちだった。
 俺たちはネイビーバーガーを二つと、カレーをそれぞれ頼んだ。
 結構、空腹だった。

 「おい、肉汁に気をつけろよ!」
 「はい。あー!」
 「だから言っただろう」
 
 六花は慌ててハンバーガーをプレートに寄せる。
 日本のハンバーガーでは味わえない、濃厚で、派手で、刺激的な味わいだ。
 本当に「肉」を感じる。
 
 カレーはシンプルで、それでいてちゃんと美味い。
 海軍は、どこの国でもカレー自慢だ。

 美味い、美味い、と俺たちは笑いながら食べていた。





 「タイガー!」

 突然、カウンターに座っていた黒人が叫んだ。

 2メートルを超える長身でいながら、分厚い胸と腕。
 鍛え上げている。
 俺に足早に近づいてくる。
 俺は立ち上がった。
 六花が何事かと、俺を見ている。

 黒人が、いきなり上段回し蹴りで俺の頭を狙う。
 俺は左腕でブロックする。
 ガシンと、骨がぶつかる音が響いた。

 六花が椅子を蹴立てて黒人を襲った。
 スプーンで黒人の眼球を狙う。

 「待て! 六花! 違うんだ!」

 俺は横から六花を抱きしめた。
 スプーンは、黒人の顔の数センチ前で止まった。

 「ファックオフ!」

 黒人が派手に両手を上げる。





 昔、グアムで出会ったマリーンだ。
 俺に合気道で寝転がされた、確かジェイと呼ばれていた男だった。

 「ジェイ!」
 「タイガー!」

 俺たちは握手をした。
 俺は六花に説明してやる。

 「こいつはリッカ。俺の大事な恋人だ」
 「タイガー・レディか!」
 ジェイは六花の凶暴さに驚いていた。
 
 「あちらに大佐がいるぞ。まあ今は将官だけどな」
 「お前も出世したのか?」
 「ああ。中尉になったぞ」

 六花はまだ緊張している。
 俺はジェイが、六花のことを「トラのヨメ」だと言ったと教えてやる。
 六花は一瞬で微笑み、ジェイと握手をした。

 元大佐が俺に近づいてきた。
 握手をする。

 「よろしいか、タイガー・レディ」
 六花に手を差し出す。
 六花は嬉しそうにその手を握った。

 「どうしてマリーンがいるんだ?」
 「ああ、ちょっとな。俺たちはお客さんだ」
 詳しくは話せないのだろう。

 「よかったらベースに来ないか? グアムでタイガーを見た連中もいるから」
 六花にジェイの言葉を伝える。

 「行きましょうよ!」
 笑顔で言った。
 ゴキゲンだ。
 店の支払いはジェイがしてくれた。
 騒ぎを起こした詫びだそうだ。




 俺と六花はバイクを取りに行き、ジェイの運転するジープに付いていった。
 ジェイが電話で知らせていたため、俺たちは歓待された。
 名前は憶えていないが、顔はなんとなく覚えがある。
 その外にも、誘われたのか海軍らしき連中も多数いる。

 俺たちは訓練場に案内された。

 「ちょっとまた見せてくれよ!」

 ジェイが言う。
 彼が最初だ。

 二秒で地面に倒し、顔の横の地面に拳を叩き込む。

 「オォーウ!」

 拍手と歓声が沸いた。
 そのまま三人と組み手をし、いずれも瞬殺した。

 「シールズを連れてこい!」
 ジェイが叫んだ。
 俺は六花に抱き着かれ、頬にキスをされた。
 大分興奮している。

 一際、屈強そうな奴が来た。
 シールズか。
 シールズは、ネイビーの最強の兵士だ。
 100人に一人も受からないと言われる、厳格な審査と厳しい訓練を課せられる。

 俺の頭を捕まえに来た。
 上には逃げられない。
 俺は膝の横にフックを放つ。
 激痛に、シールズの男は上体を起こした。
 俺はベルトを掴み、背後に一瞬で移動する。
 ブレンバスターをかました。
 しかし、シールズの男は両手で体重を支え、後ろに重心をずらした。
 凄まじい筋力とバランス感覚だ。

 それに逆らわず、俺も空中に回転する。
 顔面に膝を落とす。
 鼻が潰れる感触。
 シールズが立ち上がった。
 やはり、タフだ。

 血まみれの顔で、俺に立ち技で挑んできた。
 俺は攻撃のすべてを捌き、胸の中心にストレートをぶち込んだ。
 肋骨が砕ける感触。
 それでも、シールズは倒れなかった。

 仕方がない。

 俺は顎の先にフックを放ち、激しく脳を揺らす。
 やっとシールズは倒れた。
 大歓声と共に、六花が駆け寄って俺に抱き着く。
 俺は六花の腕をつかみ、ジャイアントスイングで回転してやった。
 六花の白いライダースーツが美しく舞う。


 まだ終わらなかった。


 「ジャクソンだ」
 誰かが言った。
 シールズの中でも、格闘技の上位者だろう。
 冷酷な目で俺を見ている。
 嫌な光だった。

 俺は「縮地」でジャクソンに迫り、瞬時に腹に掌底を打ち込む。
 ジャクソンは後方へ吹っ飛び、人垣に突っ込んだ。
 白目を剥いて、泡を吹いている。
 誰もが唖然としている。
 沈黙が続いた。

 「タイガー」
 元大佐が近づいてきた。

 「お前、今何をしたんだ」

 「ハンバーガーの礼を」

 「Ah! Ha! Ha! Ha! Hah!」

 元大佐が大笑いした。
 先ほどに勝る大歓声が沸いた。





 六花が俺に駆け寄り、中指を立てて笑った。
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