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花岡シフト

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 俺と六花は、ベース内のバーに引っ張られていった。
 大勢の米軍兵が一緒について来る。

 「今日はバイクで来ているから、酒はダメだ」
 「タイガー、もうそんなこと言えないぞ」
 ジェイが笑いながら言う。
 周囲では、いち早く酒盛りが始まっていた。
 元大佐が入ってきた。
 ターナーという名だとジェイが教えてくれた。
 全員が直立して敬礼をする。
 ターナー少将は手を振って楽にするように言った。

 ジェイが俺たちが酒が飲めないと話した。

 「タイガー! 俺の顔を潰すな」
 「しかしサー・メジャー・ジェネラル」
 「俺のことはターナーでいい。お前は軍人ではないだろう」

 ターナー少将は、俺と六花にホテルを予約すると言った。
 隣にいた部下に命じて走らせた。
 俺は六花にそのことを話した。
 六花は、大喜びで「泊まりましょう!」と言った。
 超ゴキゲンのこいつがちょっと怖い。

 大宴会が始まった。




 俺は飲むよりも話すことが多かった。
 誰もが俺の技を聞きたがった。
 そして俺にべったりとくっついている六花の美しさを褒めた。
 ジェイが店でのことを話し、六花は「タイガー・レディ」と呼ばれ、本人は笑顔を振りまいた。

 「あたしのトラはサイコーなんだぁ!」
 でかいビールのジョッキを掲げて六花が叫ぶ。
 でも、誰も日本語が分からない。
 しかし、直後に俺に抱き着いてキスをするので、何となくは伝わっている。

 「ジェイ!」

 俺はターナーと一緒にカウンターで飲んでいたジェイを呼んだ。
 笑顔で近づくジェイと肩を組んだ。

 ♪ From the halls of Montezuma ♪

 ジェイが大笑いし、俺と一緒に歌い出す。
 『Marines' Hymn』だ。
 海兵隊の讃歌だ。

 バーの中にいた海兵隊員も歌い出す。
 メロディもクソもねぇ。
 怒鳴り散らすような歌い方だ。
 でも、それが軍歌だ。
 ターナー少将はニコニコと笑って聴いていた。

 歌い終わると、少将が俺を手招きしている。
 ジェイと一緒に行った。

 「お前は最高だ、タイガー」
 「さっき、俺の恋人も同じことを言ってましたよ」
 「俺もお前にベタ惚れだからな」

 「次は『Anchors Aweigh』でも歌うか?」
 ジェイが言った。

 「いや、悪くはねぇんだが、どうもシールズの連中が気に喰わなかったからなぁ」
 ターナー少将とジェイたちが笑う。

 「あのジャクソンって奴は、ここのシールズの中じゃ有名らしいぞ」
 「そうか」
 「それが呆気なくタイガーに潰されたんだから、連中も泣いてるだろうよ」
 「あいつはタイガーを殺すつもりだったな」
 ターナー少将が言った。

 「分かりましたか」
 少将は頷く。

 「まったく余興だっていうのにな。まあ、シールズはしばらく無理かもな」
 「タイガー! 何をしたんだ?」
 「背骨をちょっとな」
 ジェイたちは青ざめた。

 「あの技は何だったんだ?」
 「ここじゃ話せませんね、少将」
 ターナー少将はまた近くの男に何かを言い、男は走って行った。



 しばらくして、俺たちは静かなラウンジに移った。
 室内には誰もいない。
 少将が手を回したのだろう。
 バーテンすらもいなかった。
 ジェイがカウンターから勝手にヘネシーのボトルを持ってくる。
 もう一人がグラスを人数分配り、酒が注がれた。
 六花は俺の隣で黙っている。

 「あれはカラテの技か?」
 ターナー少将が聞いてきた。

 「いや違います。詳しいことは話せませんが、日本の戦闘狂の家系が編み出した、とだけ言っておきましょう」
 「どの程度の技なのだ?」
 「そいつらには、銃器は無力です。その一族の一人は、戦車も撃破したと聞いています。俺は調べられませんでしたが、日本の敗戦間際の中国大陸。ソ連の戦車が侵攻した中で、何台もの戦車が破壊されています。興味があるなら調べて下さい」

 「信じられん……」

 「それが70年も前のことです。その一族は、より強力な技を生み出しているかもしれない」
 「MBT(主力戦車)以上の破壊が可能だと?」
 「もしかしたら航空戦力も。核ミサイルならば大丈夫でしょうけどね」

 「タイガーは、どうして使えるのだ」
 「俺はその一族に二度殺されかけました。その時に技を盗みました」
 俺は、そう説明した。

 「……」

 「一人はソ連の戦車を破壊した年寄り。もう一人は俺よりも若い。今フランス外人部隊にいると思います」
 「何故、俺たちに話してくれるんだ?」
 「今は違いますが、恐らくその一族は俺と敵対する。そんな予感があります。そして、その一族はアメリカとも敵対する」
 「なんだと!」
 「今の腑抜けた日本人だけじゃないということです。覚えておいてください」
 「分かった」

 「ジェイの連絡先を聞いても?」
 「ジェイ! 教えてやれ」
 「アイ・サー!」
 ジェイは俺のスマホにナンバーを登録した。




 俺と六花はベースに近いホテルに案内された。
 ジェイたちがバイクを押してくれ、ホテルの駐車場に入れてくれた。

 死王は必ずまた来る。
 その時は大歓迎してやる。





 六花は、かなり酔っていた。
 俺がスーツを脱がせてやると、そのまま眠った。
 俺は軽くシャワーを浴び、六花の隣に横たわる。
 しばらく、六花の寝息を聞いていたが、そのまま眠った。


 俺たちはまた一歩を踏み出し、強力な仲間を得た。
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