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皇紀とミユキ Ⅳ
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月曜日。
僕は朝早くに起きて、蓮花さんを手伝いに行った。
「おはようございます!」
「あらあら、随分とお早いですんね」
「はい。今朝は食事のお手伝いをしようかと」
「それは申し訳ございません。わたくしがやりますので、どうか」
「いえ。家ではいつもやっていることなので、身体が落ち着かないんです」
蓮花さんは笑った。
「さようでございますか。では少々お願いいたします」
僕は味噌汁の葉物を刻んだ。
今日はほうれん草とネギだ。
作りながら、蓮花さんは僕に料理を教えてくれた。
「折角皇紀様がお手伝い下さっていますので、ピクニックのお食事も作ってしまいましょうか」
「是非お願いします!」
二人でおにぎりを握った。
「タカさんは、小さなおにぎりが好きなんですよ」
「そうなのですか」
「はい。そういうのを知らなくて、僕とお姉ちゃんで大きなものを握ったら「品がねぇなぁ」って怒られました」
「ウフフフ」
「いつもお母さんが大きいのを握ってくれてたんで」
「じゃあ、皇紀様。今日はびっくりするくらい大きいのにしましょう」
「え、でも」
「親に逆らってみるのも、大きい男になる道ですよ」
「そうなんですか?」
「はい!」
笑いながら、大きなおにぎりを作った。
他にもウインナーを焼いたり、アスパラを炒めたりした。
蓮花さんはもうちょっと凝ったものを作った。
重箱に、蓮花さんが綺麗に並べてくれた。
ミユキさんは長袖の黄色のワンピースに、デニムの上着を羽織っていた。
蓮花さんもいつもの着物ではなく、生成りの綿のパンツに白いシャツ、それに薄い青のジャケット。
僕はタカさんに選んでもらったリーバイスのジーンズに白のタートルネックのセーター。
ミユキさんが持つと言ったが、僕が重箱を持たせてもらった。
「ミユキさん、綺麗ですよ!」
「ありがとうございます」
「皇紀様は石神様と同じで、女性の扱いがお上手ですね」
「れ、蓮花さん!」
ミユキさんが笑った。
蓮花さんは僕が素敵だの男らしいだのと言ってからかった。
ミユキさんはずっと笑っていた。
「すいません、わたくしは車の運転ができなくて」
「そんなこと! ピクニックって歩いていくものじゃないですか」
ミユキさんが重箱を持つ僕の手を握って来た。
「一緒に持ちましょう」
僕は赤くなったと思う。
「やはり皇紀様は女性の扱いが」
「蓮花さん!」
案内されたのは、一面にコスモスが咲き乱れる場所だった。
中ほどにテーブルとベンチがあった。
そこまで続く、細い歩道を歩いて行った。
「ここは知り合いが手入れしてる場所なのです。今日は他の方が入らないようになっておりますので」
「綺麗な場所ですね!」
ミユキさんも辺りを見渡して喜んでいるようだった。
重箱を拡げた。
たくさん作ったので、テーブル一杯になった。
「蓮花さんと一緒に、ミユキさんのために作ったんです!」
僕がそう言うと、ミユキさんが泣き出した。
「あ、すいません! 押し付けるようなことを!」
「いえ、そうではないのです。あまりに嬉しくて」
「ミユキ、いただきなさい。皇紀様が折角作って下さったんですから」
「はい」
ミユキさんが大きなおにぎりを手に取った。
綺麗なミユキさんには不釣り合いだった。
「蓮花さん、やっぱり大きいのはダメですね」
「アハハハハ」
蓮花さんが声を上げて笑った。
事情が分からないミユキさんに、タカさんが小さいほうが品があるというのに逆らって作ったのだと話した。
ミユキさんも笑った。
「まだまだタカさんは遠いですね」
「いいんですよ。大きなおにぎりも美味しそうです」
蓮花さんも一つ手に取った。
やはりダメだと思った。
三人で楽しく話した。
お互いの向こうで風で揺れるコスモスが、何よりも美しかった。
「タカさんの料理って絶品なんですよ」
「さようでございますね」
「チャーハンなんかも、六花さんの仲間がもうベタ褒めで」
「そうなんですか」
「タカさんが、六花さんをお父さんのお墓参りに連れてったんです。そうしたら六花さんの仲間が集まって大宴会になって」
「ウフフフ」
「そこでヒマなんでチャーハンを作ったら、もう大変な騒ぎになったそうです」
「あらあら」
「伝説みたいになっちゃって。何粒食べたかって自慢になってったそうですよ」
「「アハハハ」」
蓮花さんとミユキさんが笑った。
「ああ、その幹部の方たちがうちに泊まりに来て」
僕たちのすき焼き大会の話をしたら、二人とも大笑いした。
「それでその時ですね。タカさんがギターを弾いて。それがまた上手いんですよ!」
「そうなんですか!」
「わたくしもいつかお聞きしたいです」
ミユキさんが目を輝かせて言った。
「それまで、タカさんがギターを弾けることすら知らなくて。突然出て来てあれですからね。いつもびっくりです」
「石神様は、御歌も素敵ですよね」
ミユキさんが言った。
「あ! 御存知ですか!」
「はい。まだ石神様のお陰で「わたくし」を取り戻して間もない時でしたが。素敵な讃美歌を歌って下さいました」
「そうだったんですか」
「はい。あの歌は忘れません」
「皇紀様も歌がお上手なんですよね?」
蓮花さんが言った。
「いえ、僕なんかは」
「いいではありませんか。今はわたくしたちしかおりませんし」
僕は笑って立ち上がった。
お二人のために歌おう。
いつものシューベルトの『冬の旅』を歌った。
二人とも黙っている。
失敗したか!
ミユキさんが拍手をし、蓮花さんもハッとして一緒に拍手してくれた。
「すばらしいではないですか!」
「はい、本当に聞き惚れました」
口々に褒めてくれて困った。
「タカさんみたく、いろんな歌を知らなくてこればっかりなんです」
またいろいろな話をして、大いに食べた。
「皇紀様、少し休まれてくださいませ」
「いえ、全然疲れてませんよ」
「そうおっしゃらずに。ミユキ、膝をお貸しして」
「はい」
僕はミユキさんの膝枕で寝かされた。
ミユキさんの大きな胸が上にあって困った。
目を瞑る。
不思議なことに、すぐに眠ってしまった。
三十分くらいだったか。
起きると、驚くほどスッキリしていた。
本当に久しぶりに、お母さんの夢を見た。
嬉しかった。
僕は朝早くに起きて、蓮花さんを手伝いに行った。
「おはようございます!」
「あらあら、随分とお早いですんね」
「はい。今朝は食事のお手伝いをしようかと」
「それは申し訳ございません。わたくしがやりますので、どうか」
「いえ。家ではいつもやっていることなので、身体が落ち着かないんです」
蓮花さんは笑った。
「さようでございますか。では少々お願いいたします」
僕は味噌汁の葉物を刻んだ。
今日はほうれん草とネギだ。
作りながら、蓮花さんは僕に料理を教えてくれた。
「折角皇紀様がお手伝い下さっていますので、ピクニックのお食事も作ってしまいましょうか」
「是非お願いします!」
二人でおにぎりを握った。
「タカさんは、小さなおにぎりが好きなんですよ」
「そうなのですか」
「はい。そういうのを知らなくて、僕とお姉ちゃんで大きなものを握ったら「品がねぇなぁ」って怒られました」
「ウフフフ」
「いつもお母さんが大きいのを握ってくれてたんで」
「じゃあ、皇紀様。今日はびっくりするくらい大きいのにしましょう」
「え、でも」
「親に逆らってみるのも、大きい男になる道ですよ」
「そうなんですか?」
「はい!」
笑いながら、大きなおにぎりを作った。
他にもウインナーを焼いたり、アスパラを炒めたりした。
蓮花さんはもうちょっと凝ったものを作った。
重箱に、蓮花さんが綺麗に並べてくれた。
ミユキさんは長袖の黄色のワンピースに、デニムの上着を羽織っていた。
蓮花さんもいつもの着物ではなく、生成りの綿のパンツに白いシャツ、それに薄い青のジャケット。
僕はタカさんに選んでもらったリーバイスのジーンズに白のタートルネックのセーター。
ミユキさんが持つと言ったが、僕が重箱を持たせてもらった。
「ミユキさん、綺麗ですよ!」
「ありがとうございます」
「皇紀様は石神様と同じで、女性の扱いがお上手ですね」
「れ、蓮花さん!」
ミユキさんが笑った。
蓮花さんは僕が素敵だの男らしいだのと言ってからかった。
ミユキさんはずっと笑っていた。
「すいません、わたくしは車の運転ができなくて」
「そんなこと! ピクニックって歩いていくものじゃないですか」
ミユキさんが重箱を持つ僕の手を握って来た。
「一緒に持ちましょう」
僕は赤くなったと思う。
「やはり皇紀様は女性の扱いが」
「蓮花さん!」
案内されたのは、一面にコスモスが咲き乱れる場所だった。
中ほどにテーブルとベンチがあった。
そこまで続く、細い歩道を歩いて行った。
「ここは知り合いが手入れしてる場所なのです。今日は他の方が入らないようになっておりますので」
「綺麗な場所ですね!」
ミユキさんも辺りを見渡して喜んでいるようだった。
重箱を拡げた。
たくさん作ったので、テーブル一杯になった。
「蓮花さんと一緒に、ミユキさんのために作ったんです!」
僕がそう言うと、ミユキさんが泣き出した。
「あ、すいません! 押し付けるようなことを!」
「いえ、そうではないのです。あまりに嬉しくて」
「ミユキ、いただきなさい。皇紀様が折角作って下さったんですから」
「はい」
ミユキさんが大きなおにぎりを手に取った。
綺麗なミユキさんには不釣り合いだった。
「蓮花さん、やっぱり大きいのはダメですね」
「アハハハハ」
蓮花さんが声を上げて笑った。
事情が分からないミユキさんに、タカさんが小さいほうが品があるというのに逆らって作ったのだと話した。
ミユキさんも笑った。
「まだまだタカさんは遠いですね」
「いいんですよ。大きなおにぎりも美味しそうです」
蓮花さんも一つ手に取った。
やはりダメだと思った。
三人で楽しく話した。
お互いの向こうで風で揺れるコスモスが、何よりも美しかった。
「タカさんの料理って絶品なんですよ」
「さようでございますね」
「チャーハンなんかも、六花さんの仲間がもうベタ褒めで」
「そうなんですか」
「タカさんが、六花さんをお父さんのお墓参りに連れてったんです。そうしたら六花さんの仲間が集まって大宴会になって」
「ウフフフ」
「そこでヒマなんでチャーハンを作ったら、もう大変な騒ぎになったそうです」
「あらあら」
「伝説みたいになっちゃって。何粒食べたかって自慢になってったそうですよ」
「「アハハハ」」
蓮花さんとミユキさんが笑った。
「ああ、その幹部の方たちがうちに泊まりに来て」
僕たちのすき焼き大会の話をしたら、二人とも大笑いした。
「それでその時ですね。タカさんがギターを弾いて。それがまた上手いんですよ!」
「そうなんですか!」
「わたくしもいつかお聞きしたいです」
ミユキさんが目を輝かせて言った。
「それまで、タカさんがギターを弾けることすら知らなくて。突然出て来てあれですからね。いつもびっくりです」
「石神様は、御歌も素敵ですよね」
ミユキさんが言った。
「あ! 御存知ですか!」
「はい。まだ石神様のお陰で「わたくし」を取り戻して間もない時でしたが。素敵な讃美歌を歌って下さいました」
「そうだったんですか」
「はい。あの歌は忘れません」
「皇紀様も歌がお上手なんですよね?」
蓮花さんが言った。
「いえ、僕なんかは」
「いいではありませんか。今はわたくしたちしかおりませんし」
僕は笑って立ち上がった。
お二人のために歌おう。
いつものシューベルトの『冬の旅』を歌った。
二人とも黙っている。
失敗したか!
ミユキさんが拍手をし、蓮花さんもハッとして一緒に拍手してくれた。
「すばらしいではないですか!」
「はい、本当に聞き惚れました」
口々に褒めてくれて困った。
「タカさんみたく、いろんな歌を知らなくてこればっかりなんです」
またいろいろな話をして、大いに食べた。
「皇紀様、少し休まれてくださいませ」
「いえ、全然疲れてませんよ」
「そうおっしゃらずに。ミユキ、膝をお貸しして」
「はい」
僕はミユキさんの膝枕で寝かされた。
ミユキさんの大きな胸が上にあって困った。
目を瞑る。
不思議なことに、すぐに眠ってしまった。
三十分くらいだったか。
起きると、驚くほどスッキリしていた。
本当に久しぶりに、お母さんの夢を見た。
嬉しかった。
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