富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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石神家 in フィリピン Ⅱ

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 顕さんと話した翌週。
 桜は現地の真岡という男が案内役になると言って来た。

 「自分もやっぱり行きます!」
 「お前が来てもなー」
 「いえ! 明日の飛行機を押さえましたから」
 「ほんとに来んの?」
 「はい!」

 「まあいいけど。俺たちは金曜の夜になる。向こうの待ち合わせ場所を決めてくれ。その夜のうちに終わらせるからな」
 「え!」
 「俺らは忙しいんだよ。ああ、亜紀ちゃんと双子を連れて行く。食事の用意を頼むな。食事は分かってるな!」
 「は、はい!」

 「ヤサは掴んでいるか?」
 「はい! 現地ですぐにご案内します!」
 



 そして金曜の夕方。
 俺は早めに仕事を上がり、4時に家に帰る。
 亜紀ちゃんたちは準備が出来ている。

 「じゃあ、行くか」
 「「「はい!」」」

 全員手ぶらだ。
 何の準備も無い。
 俺はスマホと財布を持っているだけ。
 後は子どもたちが、GPSと一応の変装用のウィッグと塗料を持っているだけ。
  
 タイガーストライプのコンバットスーツと、ビブラムソールのブーツ。
 それで全てだ。



 庭から上空へ上がり、亜紀ちゃんの先導でフィリピンへ向かった。
 恐らく様々なレーダーに捕捉されているだろうが、俺たちを追える相手はいない。
 謎の高速飛翔物体であり、それ以上のことは分からない。

 本当に30分で着いた。



 人目を避けてマニラ・オーシャン・パークに降り、待ち合わせの桜たちに合流した。

 「お前、ほんとにいたのか」
 「石神さん、そりゃないですよ」
 「まあいい。まずは飯だ」
 
 真岡の運転するハイエースで、郊外のテラスレストランへ行った。
 俺たちは一応ジーンズにTシャツになっている。
 マニラはまだ6月だが異常に暑い。
 もう30度を超えている。

 「タカさん、暑いね」

 ルーが言う。

 「ああ。早く仕上げて帰ろう」
 「うん」

 現地時間でまだ6時半だ。
 日本時間で5時半。

 「店の人間は準備だけしていません。貸し切りにしました」
 「そうか」

 桜が気を回していた。
 俺たちが適当に座ると、桜と真岡が肉を焼いて持って来る。
 それをたらふく喰った。

 「桜、ありがとうな」
 「いいえ!」
 「また俺の家に来たらホモビデオ見せてやるからな」
 「え、いえ、それは」
 
 真岡が桜を驚いて見ていた。

 「だって、こないだ俺んちで観たじゃん」
 「確かに観ましたけど」

 真岡が桜からちょっと離れた。

 「遠慮すんなって」
 「は、はい」
 
 コーヒーが配られ、真岡が14Kのアジトの説明をした。

 「大体、この時間に集まってます。金曜は幹部も全員来ますよ」
 「丁度いいな」

 俺は周辺の地図を見た。

 「千万組とは接点はあるのか?」
 「いえ。うちらは別系統の組織です。どちらかと言うと敵対的な相手ですね」
 「じゃあ、遠慮なくぶっ潰してもいいんだな?」
 「はい!」

 真岡の運転で、14Kのアジトのビルへ行く。



 中国は長い歴史の中で、黒社会を三合会が支配するようになった。
 幾つかの派閥があるが、14Kは最大派閥であり、海外でも中国人地区を拠点に発展している。
 フィリピンでは現地のギャングと提携し、人員の交流も盛んだった。
 それが、今では独立組織として活動しているようだ。
 フィリピンには20万人の中国人がいる。
 だから一つの勢力になってもおかしくはない。
 今回、奴らは10億ドルの示談金を請求していた。



 アジトのビルは、マニラ市街の東側にあった。
 10階建ての大きなビルだ。
 離れた場所で車を降り、桜たちは車に残す。
 車の中で、俺たちは顔を黒く塗り、ウィッグを被っていた。
 俺たちは屋上から侵入した。

 屋上のドアは施錠されているので、ハーが吹っ飛ばす。
 最上階でルーとハーが波動で幹部の集会を探す。
 こういう時は、こいつらの特殊能力が本当に便利だ。
 5分も掛からずに、会議室を見つけた。

 廊下に立っているガード二人を襲い、ドアを蹴破る。
 ガードは廊下の先まで吹っ飛んだ。
 20人程がでかい円卓を囲って集まっていた。

 「この中で、〇〇商業施設に関わっている奴は誰だ?」

 俺が英語で言った。
 全員が驚いて立っている。
 俺は手前の人間の腕を折った。

 「誰だ?」

 もう一人の肩を掴んで潰した。
 背後の廊下で、こちらへ向かってくる人間を、双子が吹っ飛ばしている。
 亜紀ちゃんが「虚震花」で廊下を潰した。
 二人の人間が手を挙げた。

 「もう手を出さないのなら、お前らの命は奪わない」
 
 亜紀ちゃんが部屋の天井を消失させた。
 全員が頷いた。
 俺は部屋の左側をすべて吹っ飛ばした。

 「約束を違えれば、今度はお前ら全員を消す。俺たちはいつでも簡単にそれが出来る」

 また全員が頷いた。
 俺たちは亜紀ちゃんが開けた穴から外へ出て、そのまま車で去った。




 「石神さん! ビルの上が吹き飛びました!」

 桜が驚いていた。

 「腹が減ったな」
 「はい?」
 「どこか屋台が一杯ある所へ連れてってくれ」

 俺は後ろで着替えながら言った。

 「子どもたちがまだ喰うってよ」
 「はい!」

 真岡が大笑いした。

 「石神さん! 最高です!」

 

 車を駐車場に停め、真岡の案内で屋台が並ぶストリートへ行った。
 俺は子どもたちに好きなように喰えと言った。
 金は両替してある。
 
 ブタの丸焼きがあった。
 いい色に焼けている。
 亜紀ちゃんが見つけ、早速3頭ほど買い、近くのテーブルで夢中で喰っていった。
 真岡が次々に美味そうなものを買ってくる。
 豚まんのようなものや、シウマイ、その他よく分からないもの。
 俺たちの喰いっぷりに、人が集まって来る。
 ガンガン食べていると、俺の後ろから声を掛けられた。

 「あれ? ルーちゃんとハーちゃん?」

 声で分かった。
 顕さんだった。
 亜紀ちゃんが咄嗟に俯く。
 俺はルーとハーの顔面に、豚の頭をくっつけた。
 そのまま急いで離れた。



 駐車場で待っていると、桜たちが走って来た。

 「すぐに出せ!」

 俺たちは、最初の公園へ行った。
 また車の中でコンバットスーツに着替える。

 「じゃあ、帰るからな!」
 「え!」
 「真岡! 今後も反対運動があったらすぐに知らせろ」
 「は、はい!」

 「じゃあな!」
 「本当にもうお帰りですか!」
 「おう! 二人とも、世話になったな」
 「「いいえ!」」

 俺たちは飛び去った。
   




 20分後、俺たちは栞の家の庭に降りた。
 栞が気付いて出て来た。

 「石神くん!」
 「おーす」
 「みんな、どうしたの?」
 「悪い、旅行の帰りなんだ」
 「え?」

 「フィリピンにな。ちょっとな」
 「何言ってんの?」

 「ああ、栞! 明日は昼飯でも喰いに来いよ」
 「え、うん。嬉しいけど」
 「じゃ、そういうことで」
 「ちょっと!」

 俺たちは塀を飛び越えて帰った。



 風呂に入り、四人でリヴィングで寛いだ。
 俺と亜紀ちゃんはワイルドターキーを呑み、双子は葛湯を大量に作り、でかいジョッキに氷を入れて飲んだ。

 「タカさん」

 亜紀ちゃんが言った。

 「あんだよ」
 「今度アメリカ行って支配しちゃいます?」
 「やめてやれ」

 「でも、いつでも海外旅行に行けるっていいですね」
 「お前、絶対に俺の許可なく「飛行」使って行くなよな!」
 「分かってますよ!」
 「ルーとハーもだぞ!」
 「「はーい」」
 
 絶対に大事を起こすに決まっている。

 

 


 数日後、顕さんから連絡が来た。

 「石神くん! こないだ話した反対運動がなくなっちゃったよ!」
 「え! そうなんですか?」
 「うん。なんか突然誰も来なくなっちゃって。本当によく分からないんだ」
 「そうなんですか。でも良かったじゃないですか!」

 「そうだけどなぁ。ああ! ルーちゃんたちにそっくりな子を見たんだよ」
 「ルーに?」
 「ハーちゃんもいた! 絶対そうだと思ったんだけどな。石神くんみたいに大きな人が連れてっちゃったんだ」
 「へー」

 「こっちへみんなで来てないよね?」
 「行くわけないじゃないですか」
 「そうなんだけどなー」
 「行ったら絶対に顕さんに会いに行きますって」
 「そうだよね。じゃあやっぱり勘違いか」
 「当たり前ですよ。それで顕さんはちょっとでも日本に帰って来れないんですか?」
 「まだやることが一杯でなぁ。時間が出来たらきっと行くよ」
 「待ってますよ!」

 顕さんは嬉しそうだった。

 「そのそっくりな二人な、レチョンのブタの顔を付けて逃げてったんだよ」
 「レチョン?」

 顕さんはブタの丸焼きのことだと言った。

 俺は電話を切り、双子のキャンプの写真を顕さんにメールに添付して送った。
 すぐに顕さんが大笑いしたと返信が来た。

 桜から、ゆっくり話がしたいと連絡が来た。

 「ブタの丸焼きを用意しておけ」

 桜は絶対に用意すると言った。
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