富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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南と『虎は孤高に』

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 俺はゆっくり10時まで寝た。
 冗談じゃなく、本当に疲れていた。
 リヴィングに降りると、子どもたちが各々の勉強や研究などをしている。
 レイは大使館の仕事で出張だ。
 まったく忙しい女だ。
 
 「「「「おはようございます!」」」」
 「おう、おはよう。さすがみんな若いな!」
 「「「「アハハハハハハ!」」」」

 亜紀ちゃんがコーヒーを淹れてくれる。

 「朝食はどうします?」
 「ああ、いいよ。しばらくすれば昼だしな」

 亜紀ちゃんが俺を見ている。
 
 「ん? なんだ?」
 「タカさん、お疲れは取れましたか?」
 「あ、ああ。ゆっくり寝たからな」
 「よかったー!」

 「なんだよ」

 俺は笑った。
 しばらくゆっくりと子どもたちと一緒に論文を読んでいた。
 俺もこいつらと一緒にいるのが気持ち良くなった。
 前は自分の部屋で読んでいたのだが。

 昼食を食べ、また寛いでいると、インターホンが鳴った。
 
 「私が出ます!」

 亜紀ちゃんが急いでカメラ映像を確認しに行く。

 「なんだ、配達か?」
 「いーえ!」

 亜紀ちゃんが笑って玄関へ向かった。
 真夜でも来るのか。
 俺もたまには挨拶でもしようと、下に降りた。

 「おじゃまします」
 「なんだ、六花か?」
 「石神先生、おはようございます」
 「ああ、おはよう。今日はどうしたんだ」
 「はい、私の「お仕事」で。亜紀さんに呼ばれました」
 「お仕事? ふーん、まあ上がれよ」

 六花は靴を揃えて上がった。
 亜紀ちゃんがニコニコして先に歩く。
 俺は他愛ない話をしながら、一緒に階段を上がった。

 「おい、スイカ持ってかないか?」
 「いいんですか!」
 「おお。今年はたくさん出来たからなぁ」
 「私、石神先生のお宅のスイカ、大好きです!」
 「そうか。なら帰りにな」
 「はい!」

 リヴィングに上がった。

 「ルー!」
 「はい!」
 「あとで六花にスイカを持たせてやってくれ。網があっただろう」
 「はーい!」

 テーブルの端に座り、亜紀ちゃんが六花に冷たい麦茶を出した。
 美味しそうに六花が飲む。
 またインターホンが鳴った。
 亜紀ちゃんが飛んで行く。

 「なんだよ、今日は」

 俺は六花と一緒に麦茶を飲んでいた。
 六花はニコニコして何も言わない。
 下で亜紀ちゃんが客を迎えたようだ。

 「どうぞ、お入り下さい」
 「なんか、凄いお宅ですね」
 「そんな。どうぞご遠慮なく」

 そんな会話が聞こえる。
 誰だ?

 亜紀ちゃんと客が上がって来た。
 子どもたちも見ている。
 何も知らないようだ。

 「どうぞ、こちらです」

 亜紀ちゃんが女性を連れて来た。
 俺も立って迎える。
 知らない女性だ。

 「亜紀ちゃん、どちら様なん……南か!」
 「石神くん、お久しぶりです」







 俺は泣きながら南を抱き締めた。

 「本当に南か」
 「うん。会いたかった、石神くん」
 「俺もだ」

 南は最初は驚いていたが、俺のことも抱き締めてくれた。
 俺はソファへ南を連れて行き、座らせた。

 「おい、どうしてここが分かったんだ?」
 「亜紀さんに連絡をもらってね。驚いたよ」
 「おい!」
 「エヘヘヘ」
 「お前! 南のことは知らないだろう」

 俺が亜紀ちゃんに言うと、六花が寄って来た。

 「私が話しました。去年のクリスマスに、石神先生から素敵なお話を聞いたのだと」
 「お前らなぁ」

 亜紀ちゃんと六花は、時々栞の家で組み手をしている。
 六花は近接戦闘で、もっとも強い。
 亜紀ちゃんでも敵わない。
 まあ、亜紀ちゃんの場合、一発がでかいわけだが。

 「石神先生、私も『虎は孤高に』を読みました」
 「あ、私も!」
 「それで南に連絡したのか」
 「はい! 出版社経由で手紙を届けてもらいました」

 乾さんのことで、俺に散々やられたはずだが。
 亜紀ちゃんは、俺が止めてもやる女になったのだ。

 「分かったよ。ありがとうな」

 亜紀ちゃんと六花が嬉しそうだった。

 「南、俺も偶然に本屋で買ったんだ。タイトルが良かったからな」
 「うん、聞いたよ。嬉しかった」
 「読んでびっくりしたよ」
 「ごめんね、勝手に」
 「全然いいよ。主人公は俺よりもカッコイイじゃないか」
 「そんなことないよ」

 俺たちは語り尽くせない思い出がある。

 「でも、不思議だったのは、高校生の俺のエピソードが随分と多いじゃないか」
 「うん、保奈美に聞いてたの」
 「え! 八木保奈美か!」
 「そうよ。石神くんが何をしたって、いつも教えてくれてた」
 「レイのこともか」
 「うん! あの話は良かったよね! 読者にも凄く人気があるエピソードなの」

 保奈美は「ルート20」のレディースだった。
 俺とも仲が良かった。

 「南と八木が仲良しだって、知らなかったなぁ」
 「家が近所で、幼馴染だったんだよ。保奈美は石神くんが医者になるって言うんで、看護師になったでしょ?」
 「あ、ああ。そんなこと言ってたな」
 「私と同じですね!」

 六花が割り込んで来た。

 「で、お前はなんでいるんだよ?」
 「はい、あの南さん」
 「はい?」
 「虎曜日……グッフゥ!」

 俺の手刀が六花の胃にめり込んだ。

 「まったくろくでもねぇ用事で来やがって!」
 「石神くん!」
 「こいつのことは気にしないでくれ」
 
 亜紀ちゃんがHDDを持って来た。

 「南さん。お話ししたように、この中にタカさんのことが一杯入ってますから」
 「おい! なんだそれは!」
 「私たちがタカさんから聞いたお話が全部入ってます。あ、これからも聞いたら送りますね! 他にはタカさんのネットの動画とか」
 「お前! 何勝手に!」

 亜紀ちゃんが俺の肩に手を置く。

 「タカさん、南さんにまた書いてもらうんですよ」
 「何を!」
 「『虎は孤高に』の続編です!」
 「なんだと?」

 俺は驚いた。

 「あの話はもう完結しているだろう」
 「そうですよ。でも、主人公がヒロインに告白したところで終わってます。その後の話があるじゃないですか」
 「あのなー」
 「石神くん。あの話は私の願望であそこで終わっただけなの」
 「おい、南」

 南が真剣に俺を見詰めていた。

 「お願い、石神くん。石神くんの本当の姿を書かせて!」
 「本当の俺って言ったってなぁ」
 「高校を卒業してからの石神くんを、私は全然知らない!」
  「南さん! それは凄い話があるんですよ! 聖さんとか乾さんとかですねぇ、イタイ!」

 俺は亜紀ちゃんの頭を引っぱたいた。

 「その話はともかく、今はここまでだ。おい! 昼の準備をしろ!」
 「「「「はい!」」」」
 「分かってるだろうな! 豪勢にしろよ!」
 「「「「はい!」」」」
 「いつもはメザシだけどな!」
 「「「「アハハハハハ!」」」」

 「タカさん、ロブスターのテルミドールを仕込んでます!」
 「亜紀ちゃん、でかした!」
 「あとはA5ランクのランプステーキとキノコのリゾットを!」
 「やったな! それでメザシは!」
 「はい、今日の晩御飯に!」
 「よし!」

 南が大笑いした。
 六花とロボに南の相手をさせ、俺もキッチンに立った。
 前菜のカリフラワーとリンゴの炙りサラダ、バルサミコソース。
 そしてフルーツの飾り切りをした。
 スープがなかったので、オークラのコンソメの在庫を全部出して温めた。

 六花が南に紙を渡していた。
 気になって見に行くと、「虎曜日認定証」だった。

 「お前、いつの間にこんなの作ったんだよ?」
 「一江さんにお願いしました」
 「……」

 南は笑ってバッグに大事そうに仕舞った。
 俺の調理を見に来て、ニコニコしていた。

 「南、もうちょっと待っててくれな!」
 「うん。いつまでも待ってるよ」
 「そうか!」





 南は嬉しそうに笑っていた。
 俺も嬉しくてしょうがなかった。
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