富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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蓮花研究所に着いたよ!

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 12月30日。
 私は支度をして、群馬の蓮花の研究所へ向かった。
 新幹線でいつも通りに行こうと考えていたが、石神くんからハイヤーで行くように言われた。
 私の身体を思ってくれてのことで、嬉しくてすぐに承諾した。
 石神くんがタクシー会社に直接電話し、腕のいい安全運転の運転手を手配してくれた。
 
 「妊婦が移動するんです。そういう気遣いも出来る人を」

 目の前でそう話しているのを聞いて、嬉しかった。
 この人は、いつだって私のことを考えていてくれる。
 嘘を言ったり、教えてくれないこともあったけど、それは全部私のためだ。
 時々頭に来ちゃったこともあるが、後からしみじみと深い愛情を感じた。
 私は、もう石神くんの愛情を疑わないと誓った。
 私を心底から愛してくれている。
 ハイヤーの中で何度も思い出し、顔が綻んだ。

 


 ハイヤーの運転手さんは、腕のいい、優しい人だった。
 サービスエリアが近付くたびに、私に寄りましょうかと言ってくれた。
 眠くなったら眠って下さいと言う。
 初老の、ベテランの運転手さんだった。

 「赤ちゃん、楽しみですね!」
 「ええ。本当にやっと出来た子なんで」
 「そうですか!」

 本当に優しい人だった。

 研究所が近くなり、到着を知らせるために電話を掛けた。
 蓮花が門を開けて、ミユキと一緒に本館の玄関で待っていてくれた。
 蓮花もミユキも白衣姿だった。
 外部の人間に、不信感を抱かせないためだろう。
 ハイヤーが帰ると、物陰から完全武装の前鬼と後鬼が出て来た。
 ミユキにもすぐに武器を渡す。
 ミユキは白衣を脱ぎ、その下の武装が露わになった。

 「ようこそいらっしゃいませ、栞様」
 「蓮花、しばらくお世話になるね!」
 「はい。明日にはお迎えの方がいらっしゃいますが」
 「え?」
 「ここは少々、耳目に及んでおりますゆえ」
 「はい?」

 訳が分からなかった。

 「まさか、ここから移動するの?」
 「はい。でもまずは中へ。ここは寒うございます」

 蓮花が私の荷物を受け取り、自走ロボットの荷台へ一緒に上がった。
 ミユキたちは周囲を油断なく警戒し、端末を確認している。
 荷台は柔らかいクッションで、揺れを全く感じなかった。
 ミユキも一緒に乗り、前鬼と後鬼は別な高速タイプの自走ロボットに乗る。

 「栞様が入ってから、この研究所は最高の警戒レベルになっています」
 「そうなんだ。ありがとう」
 「栞様がお産みになる御子は、我々にとっても最重要人物の一人となります」
 「え、ええ」
 「栞様にはまず一休みして頂き、詳しく今後の予定もお話しいたします」
 「そう、宜しくね」

 そう言ったが、私は混乱していた。




 部屋に案内された。
 すぐ目の前が食堂になっており、楽な服に着替えてから来て欲しいと言われた。
 私は部屋で一休みし、ゆったりとしたスウェットに着替えた。
 お気に入りのディ〇ニーランドのものだ。
 子どもっぽ過ぎて、ちょっと石神くんには見せられない。

 蓮花が紅茶を淹れてくれ、和三盆の上品な干菓子を出してくれた。
 そして、明日からのことを話されて本当に驚いた。

 「明日、米軍の輸送ヘリが来ます。チヌークですので、揺れはそれほど無いかと」
 「エッェーー!」
 「それで一旦、三沢基地まで移動して頂きます」
 「どーしてぇー!」
 「三沢基地からは、C-17「グローブマスターⅢ」でアメリカのある場所まで。米海兵隊の精鋭が念のために護衛で搭乗いたします。護衛機は付きませんが、衛星から常に監視はいたしておりますので」
 「ちょっとぉー!」
 「それに、ブランの中でも栞様の護衛任務に特化した「桜花」「椿姫」「睡蓮」が常に栞様と一緒に行動いたします。石神様から特別に訓練を指示された三人の娘です。栞様をお守りすることを無上の喜びと思っている者たちですので、どうか可愛がってやって下さい」
 「だれぇよー!」

 蓮花は一旦説明を止めた。
 栞を見ている。
 紅茶を飲むように勧めた。
 言われるままに一口含んだ。
 なんかコワイ。

 「栞様」
 「はい!」
 「しっかりなさいませ! あなたは現「花岡」御当主の御子を身籠り、尚その御子は「花岡」の到達点を極める運命の御子でございます」
 「そうだけど……」
 「その御母堂たるあなた様がそのような体たらくでどういたしますか! あなたは士王様が「花岡」を極めるまで何としてもお守りし、導かねばならぬのですよ!」
 「なんであたしは怒られてんのー!」
 「栞様!」
 「はい! 分かりましたってぇー!」

 蓮花は微笑んだ。


 優しく、自愛に満ちた笑みだった。
 栞はその笑みを見て、やっと落ち着くことが出来た。
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