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どこに行くのよー!
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笑顔のまま、蓮花がまた話し出した。
「栞様。石神様は、栞様と御子を一番大切に思っていらっしゃいます。斬様も御同様です」
「うん」
「わたくしも同じでございます。そして石神様に魂を取り戻されたブランたちも。この研究所の全ての者が同じ思いでおります」
「分かってます」
「ブランたちの中で、桜花、椿姫、睡蓮は三姉妹でございます。ブランたちは命令に忠実です。ですが栞様の護衛という一点にだけは、全ての者が名乗りを上げ、是非自分がと申しました」
「え!」
「初めてでございました。石神様も驚いていらっしゃいました。ですが、石神様はこの任務に先立って、桜花たちをご指導なさっておりました。そのことを知り、他のブランたちも身を退き、桜花たちに託したのでございます」
「……」
ブランたちのことは多少は分かっている。
石神くんのために戦う者たちだが、自我で何かを求めることは殆どない。
「桜花たちもその栄誉、そしてその任務の重要さを身に染みて存じております。命を擲つばかりではなく、魂を焼き尽くしても、栞様と士王さまを絶対にお守りする所存でおります」
「絶対……」
栞は、「絶対」が何をもたらすのかを石神から聞いていた。
栞は落ち着かざるを得なかった。
自分がどれほどの人間たちから期待されているのかを、改めて思い知った。
「分かった、蓮花さん。私がまだ甘かったのね」
「出過ぎた口を利きました。お許し下さい」
「いいえ、私こそ」
蓮花は内線を取り、どこかへ連絡した。
ほどなく、三人の女たちが入って来た。
「ご紹介致します。「桜花(おうか)」「椿姫(つばき)」「睡蓮(すいれん)」でございます」
桜花は身長180センチで筋肉が発達している。
他の姉妹も可憐で美しい顔立ちだが、桜花は控えめで物静かな容貌であった。
椿姫は身長2メートルで、桜花よりも大きな筋肉を有している。
やや浅黒く、最も快活で明るい顔立ちだった。
睡蓮は桜花と同じく180センチだったが、他の二人に比べて少々痩せている。
顔立ちはクールで、強い目の光を湛えていた。
「桜花はアタッカーとして最も優れております。「花岡」も、奥義はもちろん、「ブリューナク」と「トールハンマー」が使えます。またあらゆる武器に精通し、格闘技ももちろん高い水準にあります。格闘技だけであれば、あの亜紀様と互角に戦えるかと」
「それは!」
「椿姫は、見ての通りパワータイプです。防御能力を鍛え上げられ、「花岡」も奥義はもちろんですが、「闇月花」そして「大闇月」も使えます。また皇紀様の最終奥義「フェンリル」に近いものが使えます。 乗り物の操縦にも長け、自動車類はもちろん、ヘリコプター、船舶、航空機。戦闘機も多くは習得しております。工兵としても非常に優秀でございます」
「フェンリル!」
「睡蓮は攻撃力や防御力は他の二人に劣りますが、情報収集と分析、作戦立案能力が抜きん出ております。電子機器、特にコンピューターに関しての技術も高い。そして戦闘力に関しては「花岡」の奥義はもちろん使えますが、ある睡蓮だけの技がございます。攻撃力、防御力の両面で、いざという場合には栞様のために使います」
「その技はどのようなものなの?」
「今はお応え出来ません。万が一知られ、対抗手段を取られたくないのです」
「分かった」
栞は石神や蓮花たちが、自分のために備えてくれたものを理解した。
どのような事態にも対応できる準備が揃っていた。
「三人は戦闘に関したことばかりではございません。料理はわたくしが鍛え上げました。妊娠した女性の扱い方や子育てに関する事柄も十分に習熟しております。そして医学的な分野でも、高度な医療技術を習得し、薬剤に関しても。東洋医学の鍼灸や整体なども心得ております」
「凄いのね」
「はい。付け加えまして、瑠璃様と玻璃様から、蓼科氏の「光」を学んでおります」
「え!」
「お二人は、蓼科氏に懇願し、その技術を習得の上「解析」をなさいました。並大抵のことではございませんでしたでしょう。でも、今後の「虎」の軍に必要になることと仰っておられました。その技術を桜花たちは一部を伝授されました」
「そんな!」
「驚かれるのも無理はございません。石神様は全てを深く考え、用意なさっているのです」
「全然聞いたことないよ!」
「はい」
「どうして!」
「栞様は、少々お口がお軽いのだとか」
「エェー!」
蓮花は笑った。
「その素直な御性格のお陰で、今回ももしも敵方に情報を掴まれても、それが「ディス・インフォメーション」となると、石神様が仰っておられました」
「なによー!」
「憤慨なされますな。愛されておられるんですよ、栞様は」
「うーん」
蓮花は桜花たちに自己紹介をさせた。
三人は口々に、私を護衛できる誉れを語り、必ず守るのだと言ってくれた。
「栞様、これは最も重要なことでございます」
「何ですか?」
「三人には弟がおりました。年が離れた者で、三人は宝石のように大切にしていました」
「……」
私には聞かなくても分かった。
「「業」に殺されました。その恨みはもちろんございますが、この者たちは、次は絶対に守ると誓っております」
「ありがとう」
栞は立ち上がり、三人に頭を下げた。
「宜しくお願いします。でも、あなたたちも自分自身を守って。私も士王も、ヤワじゃない。私たちもあなたたちを守るわ」
三人が号泣した。
蓮花は後ろを向いていた。
その背中が震えていた。
知っている。
蓮花は石神くんのために、鬼になろうとしている。
でも、本当は優しい女なのだ。
自分が育て守って来たブランたちを戦場に送ることは、蓮花にとってはこの上ない苦痛なのだ。
蓮花の趣味の話を石神くんから聞いた。
蓮花はブランたちばかりでなく、手塩に掛けた機械たちをすら愛している。
そういう人間だった。
昼食も夕食も、栄養を考え尽くしたものだった。
ここにいる僅かな時間でも、蓮花は出来る限りのことを尽くそうとしている。
一緒に風呂に入った。
私の身体を丁寧に洗い、常に手を添えて移動させた。
浴槽の中で、マッサージを施してくれた。
「まあ、本当に元気な御子様ですね」
そう言って微笑んでくれた。
私は妊娠してからのあれこれを蓮花に話して聞かせた。
「悪阻は全然無かったの。不思議だった。でも、あの石神くんなんだから、何でも食べちゃうんだって分かった」
「ウフフフ」
「ねぇ、妊娠すると酸っぱい物が欲しくなるって言うでしょ?」
「はい」
「全然無かったの! 石神くんは酸っぱい果物とか嫌いだからね」
「ウフフフフフ」
「それでね、蹴る力が凄いんだけど、夜は大人しいのよ。ぐっすり眠れる」
「さようでございますか」
蓮花は嬉しそうだった。
「石神くんって、お母さんが大好きだったのね。でも一杯苦労をさせたんだっていつも言うの。だからかな。私に苦労させないために、夜は大人しくしてくれるんじゃないかな」
「きっと、さようでございますね」
蓮花が微笑んだ。
明るいく優しい笑顔だった。
「栞様。石神様は、栞様と御子を一番大切に思っていらっしゃいます。斬様も御同様です」
「うん」
「わたくしも同じでございます。そして石神様に魂を取り戻されたブランたちも。この研究所の全ての者が同じ思いでおります」
「分かってます」
「ブランたちの中で、桜花、椿姫、睡蓮は三姉妹でございます。ブランたちは命令に忠実です。ですが栞様の護衛という一点にだけは、全ての者が名乗りを上げ、是非自分がと申しました」
「え!」
「初めてでございました。石神様も驚いていらっしゃいました。ですが、石神様はこの任務に先立って、桜花たちをご指導なさっておりました。そのことを知り、他のブランたちも身を退き、桜花たちに託したのでございます」
「……」
ブランたちのことは多少は分かっている。
石神くんのために戦う者たちだが、自我で何かを求めることは殆どない。
「桜花たちもその栄誉、そしてその任務の重要さを身に染みて存じております。命を擲つばかりではなく、魂を焼き尽くしても、栞様と士王さまを絶対にお守りする所存でおります」
「絶対……」
栞は、「絶対」が何をもたらすのかを石神から聞いていた。
栞は落ち着かざるを得なかった。
自分がどれほどの人間たちから期待されているのかを、改めて思い知った。
「分かった、蓮花さん。私がまだ甘かったのね」
「出過ぎた口を利きました。お許し下さい」
「いいえ、私こそ」
蓮花は内線を取り、どこかへ連絡した。
ほどなく、三人の女たちが入って来た。
「ご紹介致します。「桜花(おうか)」「椿姫(つばき)」「睡蓮(すいれん)」でございます」
桜花は身長180センチで筋肉が発達している。
他の姉妹も可憐で美しい顔立ちだが、桜花は控えめで物静かな容貌であった。
椿姫は身長2メートルで、桜花よりも大きな筋肉を有している。
やや浅黒く、最も快活で明るい顔立ちだった。
睡蓮は桜花と同じく180センチだったが、他の二人に比べて少々痩せている。
顔立ちはクールで、強い目の光を湛えていた。
「桜花はアタッカーとして最も優れております。「花岡」も、奥義はもちろん、「ブリューナク」と「トールハンマー」が使えます。またあらゆる武器に精通し、格闘技ももちろん高い水準にあります。格闘技だけであれば、あの亜紀様と互角に戦えるかと」
「それは!」
「椿姫は、見ての通りパワータイプです。防御能力を鍛え上げられ、「花岡」も奥義はもちろんですが、「闇月花」そして「大闇月」も使えます。また皇紀様の最終奥義「フェンリル」に近いものが使えます。 乗り物の操縦にも長け、自動車類はもちろん、ヘリコプター、船舶、航空機。戦闘機も多くは習得しております。工兵としても非常に優秀でございます」
「フェンリル!」
「睡蓮は攻撃力や防御力は他の二人に劣りますが、情報収集と分析、作戦立案能力が抜きん出ております。電子機器、特にコンピューターに関しての技術も高い。そして戦闘力に関しては「花岡」の奥義はもちろん使えますが、ある睡蓮だけの技がございます。攻撃力、防御力の両面で、いざという場合には栞様のために使います」
「その技はどのようなものなの?」
「今はお応え出来ません。万が一知られ、対抗手段を取られたくないのです」
「分かった」
栞は石神や蓮花たちが、自分のために備えてくれたものを理解した。
どのような事態にも対応できる準備が揃っていた。
「三人は戦闘に関したことばかりではございません。料理はわたくしが鍛え上げました。妊娠した女性の扱い方や子育てに関する事柄も十分に習熟しております。そして医学的な分野でも、高度な医療技術を習得し、薬剤に関しても。東洋医学の鍼灸や整体なども心得ております」
「凄いのね」
「はい。付け加えまして、瑠璃様と玻璃様から、蓼科氏の「光」を学んでおります」
「え!」
「お二人は、蓼科氏に懇願し、その技術を習得の上「解析」をなさいました。並大抵のことではございませんでしたでしょう。でも、今後の「虎」の軍に必要になることと仰っておられました。その技術を桜花たちは一部を伝授されました」
「そんな!」
「驚かれるのも無理はございません。石神様は全てを深く考え、用意なさっているのです」
「全然聞いたことないよ!」
「はい」
「どうして!」
「栞様は、少々お口がお軽いのだとか」
「エェー!」
蓮花は笑った。
「その素直な御性格のお陰で、今回ももしも敵方に情報を掴まれても、それが「ディス・インフォメーション」となると、石神様が仰っておられました」
「なによー!」
「憤慨なされますな。愛されておられるんですよ、栞様は」
「うーん」
蓮花は桜花たちに自己紹介をさせた。
三人は口々に、私を護衛できる誉れを語り、必ず守るのだと言ってくれた。
「栞様、これは最も重要なことでございます」
「何ですか?」
「三人には弟がおりました。年が離れた者で、三人は宝石のように大切にしていました」
「……」
私には聞かなくても分かった。
「「業」に殺されました。その恨みはもちろんございますが、この者たちは、次は絶対に守ると誓っております」
「ありがとう」
栞は立ち上がり、三人に頭を下げた。
「宜しくお願いします。でも、あなたたちも自分自身を守って。私も士王も、ヤワじゃない。私たちもあなたたちを守るわ」
三人が号泣した。
蓮花は後ろを向いていた。
その背中が震えていた。
知っている。
蓮花は石神くんのために、鬼になろうとしている。
でも、本当は優しい女なのだ。
自分が育て守って来たブランたちを戦場に送ることは、蓮花にとってはこの上ない苦痛なのだ。
蓮花の趣味の話を石神くんから聞いた。
蓮花はブランたちばかりでなく、手塩に掛けた機械たちをすら愛している。
そういう人間だった。
昼食も夕食も、栄養を考え尽くしたものだった。
ここにいる僅かな時間でも、蓮花は出来る限りのことを尽くそうとしている。
一緒に風呂に入った。
私の身体を丁寧に洗い、常に手を添えて移動させた。
浴槽の中で、マッサージを施してくれた。
「まあ、本当に元気な御子様ですね」
そう言って微笑んでくれた。
私は妊娠してからのあれこれを蓮花に話して聞かせた。
「悪阻は全然無かったの。不思議だった。でも、あの石神くんなんだから、何でも食べちゃうんだって分かった」
「ウフフフ」
「ねぇ、妊娠すると酸っぱい物が欲しくなるって言うでしょ?」
「はい」
「全然無かったの! 石神くんは酸っぱい果物とか嫌いだからね」
「ウフフフフフ」
「それでね、蹴る力が凄いんだけど、夜は大人しいのよ。ぐっすり眠れる」
「さようでございますか」
蓮花は嬉しそうだった。
「石神くんって、お母さんが大好きだったのね。でも一杯苦労をさせたんだっていつも言うの。だからかな。私に苦労させないために、夜は大人しくしてくれるんじゃないかな」
「きっと、さようでございますね」
蓮花が微笑んだ。
明るいく優しい笑顔だった。
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