富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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新技「あーん」

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 4月初旬の土曜日の朝。
 8時ごろに目が覚めた。
 特にやることもないので、グールモンの『對話と言葉』をベッドで読んだ。
 ロボは俺が起きたことは分かっているが、俺がベッドを出るまでは寝ている。
 本を読みながら、フサフサのロボの毛を撫でた。

 「《エロチシズム無しに、思考は存在しない》かぁ。なるほどな」

 俺はベッドを出て、すこし身体を動かした。
 腕をゆっくりと回してから、右足を伸ばして徐々に上に上げる。
 真直ぐに上げた足は俺の腹に腿が触れる。
 左足でも同じことをする。
 ロボが俺を見ていた。

 俺は左右の足を絡め、腰を捩じって両腕を頭の後ろで組んだ。
 顔を少し上に向け、ロボにウインクした。
 口から少し、吐息を出す。

 ロボがベッドを降りて来た。
 後ろ足で立って、前足を頭の後ろで組んで身体を捩じる。
 俺に片目を瞑った。

 「カワイイー!」

 俺は褒め称えた。
 ロボは嬉しかったかまだやってる。

 「命名! 「あーん」!」

 ロボが嬉しそうに俺に駆け寄って来た。
 そのまま抱き上げて下に降りた。

 「「「「「おはようございます!」」」」」
 
 子どもたちは朝食を終え、ゆっくりしていた。

 「おはよう! おい、ロボが新技を編み出したぞ!」
 「え! 室内で大丈夫なんですか?」

 柳が心配そうに言う。
 こいつはロボに一番喰らっている。

 「ああ、見てみろよ。すげぇぞ! ロボ、「あーん」!」

 みんながロボを見ていた。
 ロボは先ほどのように、立ち上がって前足を頭の後ろで組んだ。
 身体を捩じってウインクする。

 「「「「「カワイイーーーー!!!」」」」」

 子どもたちも大絶賛だった。
 ロボも得意気だ。
 ロボは人から褒められることが分かるし、大好きだ。
 
 亜紀ちゃんとハーが俺とロボの朝食を用意する。
 ルーが「あーん」と言うと、ロボがまたやった。
 
 「「「「「カワイー!」」」」」

 またロボが喜んだ。
 ハーが焼いたササミをロボの古伊万里の大皿に乗せた。
 ロボがガツガツと食べる。
 亜紀ちゃんが俺にプレーンオムレツとハムを挟んだクロワッサンを持って来た。
 コーンスープ付だ。

 「ヨーグルトもくれ」
 「はーい!」

 ハーが持って来た。
 子どもたちが「あーん」のポーズを真似して楽しんでいる。
 俺はゆっくりと朝食を食べ、柳の足を前足ではたいてからロボは毛づくろいを始めた。
 ロボは食事を終えて満足すると、必ず柳をはたく。

 「ロボ、「あーん」やって?」

 ハーが言うと、早速やった。
 またみんなで「カワイー」と言う。

 「ロボ、「あーん」!」

 柳が言うと、空中三段ネコキックで柳の腹、胸、額を蹴った。
 柳が縦回転しながらぶっとぶ。

 「なんで私だけぇー!」

 みんなで笑った。




 左門と力也が遊びに来た。
 俺は一緒に昼食を食べて行けと言った。
 子どもたちも歓迎する。

 「おい、ロボの新技を見てみろよ」
 「なんですか、トラ兄さん?」
 「ロボ、「あーん」!」

 ロボがやった。
 突然、二人が硬直した。

 「な、カワイ……おい、どうした!」
 「「……」」

 二人はお互いを見詰め合い、下を脱ぎ始めた。
 俺が左門を引き剥がし、両頬を張る。
 亜紀ちゃんに力也を同じようにさせた。

 「アレ?」
 「あ、なんで脱いでる?」

 二人が正気を取り戻した。
 なんだ、今のは。
 二人が雄々しいものを恥ずかしそうに仕舞った。

 

 その日の夜、早乙女たちを呼んだ。
 「出産祝い」の相談をするためだ。
 この近くに家を建てようと考えていた。
 別に高価なプレゼントをしたいためではない。
 これから俺たちに深く関わる早乙女たちに、十分な防衛システムを与えたかった。
 今のマンションでは限度がある。

 「おう、よく来たな!」
 
 二人は俺の厳命で手ぶらで来た。
 いつも食事を出してもらって申し訳ないと言うので、今度俺がご馳走になると言った。
 子どもたちは行かない。
 申し訳なさ過ぎる。

 リヴィングに直接上げ、子どもたちにも歓迎される。
 
 「ああ、ロボが可愛いポーズを覚えたんだよ」
 「そうなのか?」
 
 早乙女も雪野さんもロボが大好きだ。

 「ロボ、「あーん」!」

 ロボがやった。
 二人にウインクする。



 硬直した。



 「雪野さん!」
 「あなた!」

 服を急いで脱ぎ出した。
 すこし、こいつらのやり方を見たかったが、俺は双子に合図した。
 ルーとハーがピコピコハンマーで頭をはたく。
 ぴこぴこ。

 「なんだぁー!」
 「あなた!」

 驚く二人に早く服を着ろと言った。
 これである程度理解した。
 ロボの「あーん」は、愛し合う二人を情欲で染め上げるようだ。

 「タカさん、ロボ、ちゃんと撮りましたよ」

 亜紀ちゃんが言った。





 月曜日。
 俺はいつものように、一江から報告を受けた。

 「ところで、なんですか、そのピコピコハンマーは?」
 「ああ、ちょっとな」

 俺は一江にロボの動画を見せた。
 硬直する。
 
 「あの、部長!」
 「!」

 ぴこ。

 「あ、あれ?」
 「は、はやく戻れ!」
 「はぁ」

 なんだ、こいつ!
 ジェイとかセリスとかじゃねぇのか!
 一江に話そうかと思っていたが、話せなくなった。
 大森を呼ぶ。
 一応サンプルデータは数を集めなければならない。
 こいつは俺の可能性が高いので、ピコピコハンマーを手に握って動画を見せた。

 「ぶちょ、いえ、アーくん!」

 瞬ぴこした。
 ヤバい奴だ。

 響子にはやめた。
 分かり切ってはいたが、六花を響子の秘密倉庫に呼んで動画を見せた。

 即ぴこ。





 金曜日。
 鷹のマンションへ行き動画を見せ、ぴこ無しでそのまま愛し合った。
 
 「石神先生!」
 「おう!」

 いつもより若干激しいが、満足するとそのまま眠った。
 俺は朝食の支度をしてやり、家に帰った。






 土曜の午前中。
 俺は院長宅から帰って来た双子に結果を聞いた。
 双子は頷いて俺に動画を見せた。

 「静子!」
 「あなた!」
 
 ぴこぴこ。

 「「「……」」」

 俺やうちの子どもたちには効果は無い。
 どういうことかは分からんが、ロボのファミリー認識なのか、単にロボを見慣れているためなのか。






 対「業」に使える技なのかはまたいつか考えよう。
 でも、しばらくは封印だ。
 俺は思考を停止した。
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