富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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オオサカ・オイシーズ

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 ロボの新技騒動の翌週の週末。
 俺は六花と一緒に長距離ツーリングに出掛けた。
 風花のいる大阪だ。
 朝8時に待ち合わせた。

 六花はいつものようにマンションの前で待っていた。

 「おはようございます!」
 「ああ、おはよう。今日もお前は綺麗だなぁ!」
 「ウフフフ」

 俺たちは軽くキスをして、ルートを確認した。
 
 「昼頃には着く予定だからな。向こうで美味いものを喰おう」
 「はい!」
 「静岡の鰻は帰りにな!」
 「はいはい!」

 六花も大好きだ。
 今回は三人前を食べると言っている。
 
 バイクなので、荷物は無い。
 着替えなどは、事前に宅急便で風花のマンションに送っている。
 今晩は風花のマンションに泊めてもらう予定だった。
 東名高速を御殿場ジャンクションで新東名に乗り換える。
 最初のサービスエリアでコーヒーと軽食を摂った。

 「新東名が長いからな。途中で疲れたら言ってくれ」
 「はい!」

 六花はニコニコしてパンケーキとアメリカンドッグにかぶりついた。
 俺が途中でソフトクリームを買って来ると、さらにニコニコした。

 「お昼は精のつくものを食べましょうね!」

 俺は笑って分かったと言った。

 六花のNinjaは乾さんのところでパーツを変え、更に早くなった。
 俺のスーパー・レッジェーラはそれほど換装の余地は無かった。
 乾さんが特別に俺用に調整してくれ、操縦性は高まったが。

 



 大阪の梅田には昼前に着いた。
 俺たちはやはり速い。
 風花にマンションの鍵を預かっているので、勝手に入らせてもらう。
 俺たちに用意された寝室の荷物を開き、シャワーを浴びてから着替えた。
 俺に迫って来る六花に、「食事が先だ」と諭す。

 ちょっとむくれていたが、焼肉を食べ始めるとニコニコした。

 「大阪って何でも美味しいよなぁ!」
 「大阪、美味しいです!」

 二人で店の在庫のシャトーブリアンを喰い尽くした。
 それでも100万もいかないのだから、石神家の異常を思い知る。

 「あー、なんかちょっと食べすぎましたかね」
 「運動が必要かぁー」

 暇なので暴れたいという遣り取りだ。
 俺たちはゲーセンを探した。
 店に入る。
 みんな楽しく真剣に遊んでいる。

 「ハルオやオオノがいそうだな。邪魔しないでおこう」
 「?」

 思いついて神に電話した。

 「おい、大阪のゲーセンでヤバイとこ教えろ」
 「はい?」
 「別にゲーセンでなくてもいい。暴れたいバカが多い場所を教えろ」
 「なんなんですか?」
 「てめぇの組にカチコまれたくなきゃ、すぐに教えろ!」
 「は、はい!」

 神はあるビルの場所を口にした。

 「絶怒(ゼッド)って愚連隊の連中のアジトでしてね。ヤクザを怖がらねぇ奴らですよ」
 「あのよ」
 「はい」
 「どこだよ?」
 「え、だから今住所を!」
 「大阪は疎いんだよ! てめぇ、案内しろ!」
 「はい!」

 俺は焼き肉屋の前に戻って神を待った。
 ベンツに乗って5分で来た。

 「遅ぇ!」
 「すみません!」

 ベンツの後部シートに乗り、案内させた。
 神が六花の美しさに驚いている。
 助手席から何度も振り返った。
 俺は助手席の背を蹴った。

 「てめぇの汚ぇ目で見るんじゃねぇ!」
 「すみません!」

 六花は俺に腕を絡め、俺の匂いをかぎながらニコニコしている。

 「ところで六花、最近梅田精肉店の売上がちょっと落ちたってなぁ」
 「ああ、聞きました」
 「おかしいよなぁ。俺はあそこを目一杯使えって命じているんだけどなぁ」
 「おかしいですよね?」

 「ヒィッ!」

 神がすぐに仕切り直すと言った。
 車は10分もかからずに到着した。
 8階建てのビルだ。

 「ここです。今日は土曜ですから、100人くらいはいるかと」
 「ケツモチは?」
 「いません。とにかく暴れたいって連中で、喧嘩をふっかけてはぶちのめすって」
 「女攫ったりとかは?」
 「さあ。あんましやらないんじゃないかと」
 「そうか」

 俺と六花は中へ入った。

 「六花、多少の骨折はいいけど、治る範囲でな」
 「分かりましたー!」
 
 俺たちはゆっくりぶちのめしていった。
 喧嘩屋を気取っていることはあり、そこそこやる。
 もちろん、俺たちの相手ではないが。
 2階に上がった所で、騒ぎを聞きつけて上から降りて来るようになった。
 40人ほど潰したところで、誰も向かって来なくなった。
 上の人間らしい奴らが降りて来た。

 「お前らなんだ!」
 「オオサカ・オイシーズだ」
 「なんだと?」
 「食後の運動にな」
 「てめぇ!」

 ボクシングをやっているらしい動きだった。
 左のジャブに右手を合わせ、拳を潰した。
 右ストレートを三発胸に打ち、アバラを折った。
 続いて190センチくらいのでかい奴が来た。
 ローキックで大腿骨をへし折り、顎を平手で打って意識を奪った。
 次々と来るが、誰も俺と六花には向かわなかった。
 上の連中が全部沈んだ。

 俺は全員に動けない奴らを外に出させた。
 俺と六花が上から全部見て回った。
 金を溜め込んだり、ヤバイ薬やヤリ部屋のようなものは無かった。

 ぞろぞろと男たちが出て来るので、神が驚いていた。
 俺がビルを「虚震花」で破壊した。
 全員が呆然と見ていた。

 「おし! 行こうか!」
 
 神に言い、俺たちは梅田精肉店へ向かった。

 「石神さん、今のって」
 
 神が聞く。

 「あんだよ?」
 「あの、今のって」
 「だからなんだぁ!」
 「あの、何か意味はあるんですか?」
 「あるわけねぇだろう」
 
 「……」

 六花はニコニコして俺の胸の匂いをかいでいた。

 梅田精肉店の近くで降ろしてもらった。

 「おい、山王会全体に号令かけろよな」
 「はい?」
 「梅田精肉店を使えってだよ!」
 「はい!」

 俺は神にレッドダイヤモンドの欠片を手間賃として渡した。
 最近はいつもポケットに幾つか忍ばせている。
 飴ちゃんの感覚だ。




 


 俺と六花がビルに近づくと、売店の女性が気付いてくれた。
 手を振って来るので、俺たちも手を振って頭を下げた。

 すぐに外へ出て来て、俺たちを社長室へ案内してくれる。
 本当にいい会社だ。

 社長室で、塩野社長が笑顔で出迎えてくれた。 
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