富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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絶対ガーディアン

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 7月の第四週の土曜日。
 先週は忙しかったので、俺はのんびり過ごす予定だった。

 朝食後に庭に出た。
 中庭のテーブルでアイスコーヒーを飲んだ。
 日陰になっており、風が通って涼しい。

 ロボがトコトコと来た。
 俺が横に椅子を並べてやると、そこに寝そべった。
 俺はのんびりと、諸見の虎の鏝絵を眺めていた。
 双子が遊びに来る。
 クリームメロンソーダを持っている。
 椅子を持ってきて、一緒に座った。
 まったりする。

 「先週はタカさんがいなかったから、ロボがべったりだね」
 「随分寂しがってたんだよ」
 「そうか」

 俺はロボの頭を優しく撫でた。
 
 三羽のスズメが回り込んで入って来た。
 中庭は、上にガラスの天井があるので、空から直接は入れない。
 横の空いた空間から何羽か飛んで来た。
 床のウッドデッキをチョンチョンと跳んで来る。
 
 「スーの一族だー!」
 
 双子が喜んだ。

 三羽が飛び、俺の目の前のテーブルに降りる。
 チュンチュンと鳴いて俺を見ている。

 「焼き鳥」

 俺が言っても逃げない。
 双子が笑った。

 「焼きネコ」

 ロボに向かって言った。
 ロボが俺に飛びつき、前足で俺の胸をポコポコ叩く。

 「冗談だ! 悪かった! 絶対にしねぇ!」

 ロボが悲しく鳴いて、また椅子に横たわった。

 「タカさん、カワイソウだよ!」
 「ロボ泣いちゃったじゃん!」

 「ああ、悪かったな」
 
 また優しく撫でてやった。
 喉をゴロゴロと鳴らす。

 「でも、ロボって人間の言葉が分かるんだね」
 「俺はネコ語は分からんけどな」
 「「アハハハハハ!」」

 まあ、普通のネコじゃないと思ってるので、不思議ではない。
 ネコだが。

 ロボが立ち上がって庭を回って行った。
 フヨフヨと飛んで行く。
 気まぐれな奴だ。
 カワイイが。

 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「宇羅、石神への攻撃はどうだ?」
 「はい、「業」様。すべて防がれています。それがどうも、例の防衛システムとは別なもののようでして」

 ロシアのとある場所。
 「業」が制圧した町に建てられた、広大な研究所の地下深く。
 ザハ・ハディッドの異様な椅子に腰かけた「業」と、その前に立つ道間宇羅。
 「業」は機嫌が良いらしく、時折見せる闇の煙のようなものは無い。

 「そうか。あいつも妖魔を従えているらしいからな。俺が蓮華が使っていた研究所へ行った時にも、相当な妖魔が控えていた」
 「はい。「業」様であればどうにでもできましたでしょうが」
 「いや、あれは危なかった。次にまみえれば何とかするが、初見では俺も危なかったかもしれない」
 「それほどですか」
 「俺も日々成長している。次は撃破するがな」
 「それはもちろんでございます」

 宇羅は一言一句を慎重に選びながら話した。
 「業」の機嫌を損ねれば、自分などは一瞬で消されてしまう。

 「これまで、どのくらいの数を仕向けた?」
 「はい。凡そ50体かと。そこそこ強いモノも居りましたが、ことごとくやられました」
 「そうか。それは空間に呑み込まれたか?」
 「いいえ。詳細は分かりませんが、爪を使う妖魔のようです」
 「爪?」
 「さようでございます。わたくしにも不思議なのです。どのような作用を持つ爪なのか。防御力の高いモノもおりました。しかし、一瞬で狩られたようです」
 「全て同じ爪の攻撃か」
 「はい。向かわせた妖魔には、別な妖魔の種が埋め込まれております。ですので、どのような攻撃を受けたのかは把握しているのですが」
 「爪の攻撃とは、単純だな」
 「はい。強力な妖魔であれば、もっとエネルギー的な攻撃もありますでしょうに」
 「そうだな。それで、石神は斃した妖魔をどうしている?」
 「それは不明です。斃されては、種も働きませぬ故」
 「分かった。では今後も引き続きやれ。そうだな、次は強いものを宛ててみろ。爪以外の攻撃が見られるかもしれん」
 「かしこまりました!」

 宇羅は深々と頭を下げ、「業」の部屋を出た。
 「業」はバイオノイドやジェヴォーダンを開発しているが、それは通常の人間の理の中での戦いだ。
 「業」の本来の力は、妖魔部隊にある。
 膨大な数の妖魔を操る「業」は、いずれ世界を圧倒するだろう。
 人間のあらゆる兵器は、妖魔には通じない。
 人類はなす術も無く、滅び去るはずだった。
 まだ力の制御が及んでいないが、いずれは「業」が乗り越え、妖魔軍団を結成して世界を蹂躙するはずだ。
 
 しかし、石神も妖魔を従えていることが分かった。
 予想外の反攻勢力に、「業」は驚き、歓喜した。
 宿敵は、やはり立ちはだかる者だったのだ。
 「業」はそれでも自分の優位を疑っていなかったが、先日の日本への侵入の際、侮れない力を石神が有していることが分かった。
 単発的に宇羅が送り込んだ妖魔の悉くの壊滅も、それで納得が行った。
 
 「石神は、複数の妖魔を従えている」

 道間家にしか出来ないはずのことを、石神は単身で成し遂げていた。
 宇羅も驚愕した。

 「強大な妖魔は、必ず「試練」を与えて来る。それを乗り越える人間はいない筈だが」

 低級の妖魔であれば、呼び出して使役することも可能だ。
 その技術があればだが。
 石神の従えている妖魔は低級ではない。
 少なくとも、高位魔獣の力はある。
 それは、何度か送り込んだ中位級が瞬殺されていることから分かる。
 一切の反撃すら出来ず、一瞬で斃されて来た。

 「「業」様は、強いモノをと仰った。ならば、一度高位の妖魔を送り込むか」

 まだ高位の妖魔は数が少ない。
 宇羅は迷ったが、「業」の指示に従うことにした。

 「首無しを送るか」

 西洋の妖魔で「デュラハン」と呼ばれるモノを選んだ。
 霊的防御に優れた甲冑に身を包んでいるため、爪の攻撃は通じないはずだ。
 それに、デュラハンには特殊な能力がある。
 デュラハンに触れた者は、すべて死の運命に覆われる。
 
 「さて、石神。お前の大事な妖魔を一つ殺してやろう」

 宇羅は邪悪な笑みを浮かべ、送り込む準備をした。

  



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 フヨフヨ。

 「ニャ!」
 「フフフ。我はデュラハン……」

  シャキン!

 「ワハハハハ! 我が鎧に爪などこざかしいわ!」

 ブスッ!




 「タカさーん!」

 「あんだ?」

 「またロボがー!」

 表の庭で亜紀ちゃんが叫んでいる。
 俺は双子と一緒に庭を回った。

 前庭のウッドデッキの前で、亜紀ちゃんが指さしている。
 でかい西洋甲冑を纏った騎士のようだった。
 これもでかい真っ黒い馬に乗ったまま、倒れている。

 「今度はまたでかいな」
 「はい。なんでうちって、こんなヘンなのばっか来るんですかね」
 「なんだろうなぁ。ロボが呼んでるのか?」
 「ニャ!」  
 「何言ってんのか分かんねぇ」
 「……」

 「どうします、これ」
 「佐藤さんちだけど、触って平気か?」
 「え! 危険ですか?」
 「分からんよ。でも、なんか気持ち悪いな」
 「そーですねー」

 「おし! タヌ吉!」
 「はい、主様ぁ!」
 
 タヌ吉が嬉しそうに現われた。

 「このでかい奴を、「地獄道」に入れちゃってくれよ」
 「かしこまりましたぁー!」

 タヌ吉が「地獄道」に呑み込んだ。

 「サンキュー!」
 「どういたしまして」
 「おい、お茶でも飲んでけよ」
 「宜しいのですか!」

 タヌ吉が喜んだ。
 俺は亜紀ちゃんに言って、俺の分と一緒にアイスコーヒーを頼んだ。




 「何だったんだろうな、あれ」
 「さー」

 亜紀ちゃんが自分の分もアイスコーヒーを淹れ、双子も一緒に座って楽しく話した。
 ロボは爪を舐めて、全身の毛づくろいを始めた。




 「結構強めの敵だったようですが。ネコに違いないとはいえ、宇宙龍が入ってますからねぇ」

 タヌ吉の呟きは誰にも聞こえなかった。
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