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Kafka’s Nightmare
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ロボが俺にベッタリな土曜の夜。
亜紀ちゃん、柳と風呂上がりに酒を飲んだ。
ロボが隣に座った亜紀ちゃんと俺の膝の上で伸びる。
亜紀ちゃんも多少くっついてくる。
柳は亜紀ちゃんに遠慮して、いつもの俺の右前で梅酒を飲んでいた。
「ロボ、なんかでっかいイモムシみたいですね」
前足を脇に付け、後ろ足を真直ぐに伸ばし、ピタッと閉じている。
亜紀ちゃんが足で揺すると、前足で亜紀ちゃんの胸をポンポンする。
「なんだぁ! 文句あるのかぁ!」
柳と俺が笑った。
俺はアラスカでの斬の様子を話した。
「あの殺人鬼がよ、普通のおじいちゃんになってんだよ」
「「アハハハハハ!」」
「冗談抜きで、ほんとに「おじいちゃんでちゅよー」って言ったんだぞ!」
「「ギャハハハハハ!」」
大笑いだ。
「それでさ、夜に酒を飲もうとしたら、返事しねぇんだ」
「どうしたんですか?」
「酔いつぶれて寝てんの!」
「「ギャハハハハハ!」」
「一杯だぞ。二杯目注いでやって、俺が話したら黙ってんだからなぁ。びっくりしたぜ」
「お酒、弱かったんですね」
「おお。あいつならワイルドターキーを一本飲んでも大丈夫と思ってたからな。人は見かけに寄らないよなぁ」
ひとしきり笑いながら話した。
解散し、俺はロボと寝た。
ロボが俺にくっつくので、暑くて冷房を入れた。
ますますロボがひっついてきた。
翌朝。
ロボを連れてリヴィングに降りた。
子どもたちはもう夏休みに入っている。
休日の朝食は8時半からと決まっている。
一瞬誰の姿も見えなかったが、床を見て驚いた。
「なんだ!」
でかい、真っ白いイモムシが4匹転がっていた。
俺は咄嗟に構えた。
しかし殺気は無い。
「タカさーん!」
亜紀ちゃんの声がした。
「おい!」
イモムシが喋った。
「タカさん! 私です!」
「亜紀ちゃんか!」
「はい! さっき突然、みんなイモムシになってしまったんです!」
「タカさん!」
「「タカさーん!!」」
「どういうことだ!」
「分かりません。本当に突然でしたので」
「攻撃か?」
「分かりません。でも、ルーもハーも何も感じなかったみたいで」
「驚いたな」
「タカさん、どうなっちゃうんでしょうか?」
「まあ、落ち着け。まずは状況を判断しよう」
俺は自分も落ち着かせるように努めた。
余りにも荒唐無稽だ。
「タカさーん、お腹空いたよー」
「えーと、お前は」
「ルーだよ!」
「ああ!」
全然分からねぇ。
全員体長1メートルくらいで区別が付かない。
「腹が減ったって、何喰うんだ?」
「取り敢えず、ウインナー!」
「葉っぱじゃなくか?」
「うーん、分かんない」
俺はイモムシの子どもたちを移動した。
どれが誰だか分からないので、順番に亜紀ちゃん、皇紀、ルー、ハーと並べた。
頭の前に皿を置き、最初にレタスを置いた。
「まずはこれを食べてみろ」
四人が一斉に口に入れる。
ムシャムシャと食べる。
「どうだ?」
「レタスだね」
「あんま美味しくないね」
「そっか」
俺は次にウインナーを一本ずつ入れた。
ムシャムシャと食べる。
「どうだ?」
「美味しい!」
「ウインナーの味だよ!」
「そうか」
大丈夫そうなので、全員にウインナーを入れ、目玉焼きを焼いてそれも入れた。
全部食べた。
「まだ喰えるか?」
「うん!」
「分かった。でもちょっと様子を見よう」
しばらく待った。
10分後、ハーが言った。
「タカさん!」
「どうした!」
「なんか、糸みたいの出せるかも!」
「ほんとか!」
「やってみる!」
「おう!」
プリッ! ボトボト。
「ウンコじゃんか!」
「うわーん!」
「おい、泣くんじゃねぇ!」
涙は出ていない。
でもハーが泣いている。
「今、綺麗にしてやるから」
俺は頭を撫で、ウンコを始末してウェットティッシュでお尻(?)を拭いてやった。
ウンコはそれほど臭わなかった。
「私たち、どうなっちゃうんでしょうね?」
亜紀ちゃんが不安そうにそう言った。
俺にも分からない。
「タカさん、ご迷惑を掛けます」
「何言ってんだ。俺が何とかするよ」
「でも、もう戻らないかもしれませんよ?」
亜紀ちゃんがそう言うと、他の三人が泣いた。
「大丈夫だよ。万一戻らなくたって、俺がちゃんと面倒見るからな」
「タカさん……」
「お前たちはどんな姿だって、俺の大事なカワイイ子どもたちだ。何も変わらないぞ」
「ほんとですかー!」
亜紀ちゃんも泣いた。
俺はまた皿にウインナーを盛ってやり、どんどん喰えと言った。
食べ終わるとまた俺が焼き、満足するまで食べさせた。
「他に喰いたいものはあるか?」
「「「「ステーキ!」」」」
俺は笑った。
「分かった。お前らはやっぱりお前らだな。安心したぞ」
「なんかね、いつもより食べれそうな気がする」
「ウインナーも美味しかったよ!」
ルーとハーが嬉しそうに言った。
「でも、僕たちは食べることしか出来なくなっちゃったね」
皇紀が悲しそうに言う。
皇紀の頭を撫でた。
「それでいいんだよ。お前たちが元気なら、俺はそれで嬉しいぞ」
「タカさん!」
亜紀ちゃんがモゾモゾしている。
「亜紀ちゃん、何やってんだ?」
「あの、「花岡」が使えないかと」
「おい、無理するな。そんなものどうでもいい!」
「でも……」
「まずは元に戻る方法を探そう。きっとあるさ」
「……」
「戻れなくても落ち込むな。俺が必ず面倒を見る。俺に任せろ!」
「「「「タカさーん!」」」」
俺は取り敢えず寝ろと言った。
自分の部屋へ戻り、麗星に電話をした。
事情を話すと、麗星も驚いていた。
「わたくしも、聞いたことがございません」
「申し訳ないんですが、一度こちらへいらして頂けませんか?」
「もちろんでございます。すぐに向かいます」
「ああ、新幹線はうちで負担しますので」
「オホホホホ! 分かりましたわ」
「では、新幹線に乗られたら、またお電話下さい」
「かしこまりました」
俺は色々な方法を考えていた。
クロピョンならば、何とか出来るかもしれない。
タマやタヌ吉にも相談しよう。
ああ、いっそ「空の王」にも相談するか。
イリスを介せば、何とか対話が出来そうだ。
蓮花と一緒に、義体を作れるかもしれない。
意識はちゃんとある。
ならば、量子コンピューターの制御で人型のボディを動かせそうだ。
しばらくあれこれと考えて、またリヴィングへ戻った。
「おい、何かして欲しいことはないか?」
子どもたちが身体を移動し、頭を寄せ合っていた。
「タカさん、ルーとハーの部屋へ運んでいただけませんか?」
「双子の部屋に?」
「はい! お願いします!」
「あ、ああ、分かった」
俺はそっと亜紀ちゃんを抱えた。
ずっしりと重みを感じるが、せいぜい20キロ程だろう。
抱き上げて、少し悲しくなった。
ゆっくりと双子の部屋へ運ぶ。
他の三人も同様にして運んだ。
四人をベッドに横たえた。
「どうするんだ?」
「あの、ちょっと眠くて」
「そうか。それぞれの部屋へ運ぼうか?」
「いえ、今は四人一緒がいいです」
「ああ、そうだな。ゆっくり寝ろよ」
「はい。あ、あの」
「なんだ?」
亜紀ちゃんがルーにどれなのかと聞いている。
腕が無いので、ルーは指し示せない。
「私のデスクの一番下の引出しを」
「おう」
「広口瓶があるので、蓋を開けてください」
「ああ」
薬品の広口瓶があった。
蓋を開けると、ちょっと刺激臭があった。
「これは何だ?」
「気分を落ち着かせるものです。そのままでいいですから」
「そうか?」
双子が作ったものらしい。
俺は気になったが、希望通りにして床に置いてやった。
「じゃあ、俺は自分の部屋にいるからな。ドアは開けておくから、何かあったら呼べよな」
「「「「はーい!」」」」
こんな姿になっても、兄弟は仲良しだ。
今は精神的にショックもあるだろうが、俺は意外と冷静な四人に少し安心した。
ロボとベッドに横になっていた。
自分が食事をしていないことを思い出した。
でも、俺は空腹を感じなかった。
俺もショックを受けていた。
(可哀そうに。一体何が起きたんだ)
そう考えていると、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「タカさーん!」
俺は急いで双子の部屋へ入った。
「どうした?」
「すみません。もう一度リヴィングに運んでもらえますか?」
「なんだ、眠るんじゃなかったのか?」
「はい。やっぱりあのリヴィングがいいって」
「なんだ?」
「ほら、いろいろな思い出が一番ある部屋じゃないですか」
「あ、ああ、まあそうだな」
亜紀ちゃんが言っていることが、ちょっと分からなかった。
だが、俺は希望通りにもう一度一人ずつ運んだ。
リヴィングの床に布団を敷いて、その上に横たえた。
「ありがとうございました」
「いや、いいけど。どうかしたか?」
亜紀ちゃんの頭が俺を見ている。
「タカさん、お世話になりました」
「「「お世話になりましたー!」」」
「なんだよ?」
「タカさん、愛してます!」
「タカさん、尊敬してます! タカさんのようになりたかった!」
「タカさん! 楽しかったよ!」
「タカさん! 私たちを引き取ってくれてありがとう!」
一人ずつ叫んでいる。
俺は猛烈に嫌な予感がした。
「おい! お前ら何をした!」
「さっき、殺虫剤を飲みました。もうじきです」
「なんだと!」
「こんな身体になったら、もうタカさんのために戦えない」
「僕もここまでです。すみません」
「タカさん! ごめんね! こんなことになっちゃって!」
「タカさん! 私たちを忘れないで! ずっと見守ってるからぁ!」
全員が泣いた。
「すぐに吐き出せ! 俺が絶対に助けるからな!」
「もう無理ですよ。段々身体が静かになってきてます」
「痛みはないよ。気持ちいいくらい」
「タカさんに看取られるなら、いい最期かな」
「タカさん、ごめんね」
「よせ! 絶対に助けるから! お前ら、俺を置いて行かないでくれぇー!」
俺も泣いていた。
四人は徐々に動かなくなり、やがて完全に止まった。
「亜紀ちゃん! 皇紀! ルー! ハー!」
俺は大声で四人の名を叫んだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「タカさん! どうしたの!」
「タカさん! 大丈夫!」
双子に起こされた。
俺は涙を溢れさせていた。
「「タカさん!」」
「あ、ああ。大丈夫だ」
「何があったの!」
「大丈夫だ。夢を見ていたようだ」
「夢?」
「ああ、恐ろしい夢だった。最悪だ」
「そっかー!」
双子が少し安心したようだ。
俺はまだ涙を零していた。
止められなかった。
二人を抱き締める。
「良かった。本当に良かった」
「夢でしょ? 大丈夫だよ」
「タカさん、元気出して」
二人も俺を抱き締めてくれる。
少しして、ようやく落ち着いた。
朝食を呼びに来たらしい。
俺は顔を洗って落ち着いてから行くので、先に食べるように言った。
「タカさん、大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫だよ。本当に夢で良かった」
「そう。私たちがいるから安心してね?」
「そうだな。お前たちがいれば、俺は何もいらねぇ」
「「アハハハハハ!」」
双子が笑いながら降りて行った。
本当にそうだ。
俺は今更ながらに思い知った。
あいつらがいるから、俺は大丈夫なのだ。
俺の本当の宝物。
最悪の夢だったが、改めて俺に思い知らせてくれた。
二度と見たくはないが。
俺が降りると、子どもたちが笑顔で挨拶してくれた。
ちゃんと、いつもの子どもたちだった。
俺も笑って挨拶をした。
亜紀ちゃん、柳と風呂上がりに酒を飲んだ。
ロボが隣に座った亜紀ちゃんと俺の膝の上で伸びる。
亜紀ちゃんも多少くっついてくる。
柳は亜紀ちゃんに遠慮して、いつもの俺の右前で梅酒を飲んでいた。
「ロボ、なんかでっかいイモムシみたいですね」
前足を脇に付け、後ろ足を真直ぐに伸ばし、ピタッと閉じている。
亜紀ちゃんが足で揺すると、前足で亜紀ちゃんの胸をポンポンする。
「なんだぁ! 文句あるのかぁ!」
柳と俺が笑った。
俺はアラスカでの斬の様子を話した。
「あの殺人鬼がよ、普通のおじいちゃんになってんだよ」
「「アハハハハハ!」」
「冗談抜きで、ほんとに「おじいちゃんでちゅよー」って言ったんだぞ!」
「「ギャハハハハハ!」」
大笑いだ。
「それでさ、夜に酒を飲もうとしたら、返事しねぇんだ」
「どうしたんですか?」
「酔いつぶれて寝てんの!」
「「ギャハハハハハ!」」
「一杯だぞ。二杯目注いでやって、俺が話したら黙ってんだからなぁ。びっくりしたぜ」
「お酒、弱かったんですね」
「おお。あいつならワイルドターキーを一本飲んでも大丈夫と思ってたからな。人は見かけに寄らないよなぁ」
ひとしきり笑いながら話した。
解散し、俺はロボと寝た。
ロボが俺にくっつくので、暑くて冷房を入れた。
ますますロボがひっついてきた。
翌朝。
ロボを連れてリヴィングに降りた。
子どもたちはもう夏休みに入っている。
休日の朝食は8時半からと決まっている。
一瞬誰の姿も見えなかったが、床を見て驚いた。
「なんだ!」
でかい、真っ白いイモムシが4匹転がっていた。
俺は咄嗟に構えた。
しかし殺気は無い。
「タカさーん!」
亜紀ちゃんの声がした。
「おい!」
イモムシが喋った。
「タカさん! 私です!」
「亜紀ちゃんか!」
「はい! さっき突然、みんなイモムシになってしまったんです!」
「タカさん!」
「「タカさーん!!」」
「どういうことだ!」
「分かりません。本当に突然でしたので」
「攻撃か?」
「分かりません。でも、ルーもハーも何も感じなかったみたいで」
「驚いたな」
「タカさん、どうなっちゃうんでしょうか?」
「まあ、落ち着け。まずは状況を判断しよう」
俺は自分も落ち着かせるように努めた。
余りにも荒唐無稽だ。
「タカさーん、お腹空いたよー」
「えーと、お前は」
「ルーだよ!」
「ああ!」
全然分からねぇ。
全員体長1メートルくらいで区別が付かない。
「腹が減ったって、何喰うんだ?」
「取り敢えず、ウインナー!」
「葉っぱじゃなくか?」
「うーん、分かんない」
俺はイモムシの子どもたちを移動した。
どれが誰だか分からないので、順番に亜紀ちゃん、皇紀、ルー、ハーと並べた。
頭の前に皿を置き、最初にレタスを置いた。
「まずはこれを食べてみろ」
四人が一斉に口に入れる。
ムシャムシャと食べる。
「どうだ?」
「レタスだね」
「あんま美味しくないね」
「そっか」
俺は次にウインナーを一本ずつ入れた。
ムシャムシャと食べる。
「どうだ?」
「美味しい!」
「ウインナーの味だよ!」
「そうか」
大丈夫そうなので、全員にウインナーを入れ、目玉焼きを焼いてそれも入れた。
全部食べた。
「まだ喰えるか?」
「うん!」
「分かった。でもちょっと様子を見よう」
しばらく待った。
10分後、ハーが言った。
「タカさん!」
「どうした!」
「なんか、糸みたいの出せるかも!」
「ほんとか!」
「やってみる!」
「おう!」
プリッ! ボトボト。
「ウンコじゃんか!」
「うわーん!」
「おい、泣くんじゃねぇ!」
涙は出ていない。
でもハーが泣いている。
「今、綺麗にしてやるから」
俺は頭を撫で、ウンコを始末してウェットティッシュでお尻(?)を拭いてやった。
ウンコはそれほど臭わなかった。
「私たち、どうなっちゃうんでしょうね?」
亜紀ちゃんが不安そうにそう言った。
俺にも分からない。
「タカさん、ご迷惑を掛けます」
「何言ってんだ。俺が何とかするよ」
「でも、もう戻らないかもしれませんよ?」
亜紀ちゃんがそう言うと、他の三人が泣いた。
「大丈夫だよ。万一戻らなくたって、俺がちゃんと面倒見るからな」
「タカさん……」
「お前たちはどんな姿だって、俺の大事なカワイイ子どもたちだ。何も変わらないぞ」
「ほんとですかー!」
亜紀ちゃんも泣いた。
俺はまた皿にウインナーを盛ってやり、どんどん喰えと言った。
食べ終わるとまた俺が焼き、満足するまで食べさせた。
「他に喰いたいものはあるか?」
「「「「ステーキ!」」」」
俺は笑った。
「分かった。お前らはやっぱりお前らだな。安心したぞ」
「なんかね、いつもより食べれそうな気がする」
「ウインナーも美味しかったよ!」
ルーとハーが嬉しそうに言った。
「でも、僕たちは食べることしか出来なくなっちゃったね」
皇紀が悲しそうに言う。
皇紀の頭を撫でた。
「それでいいんだよ。お前たちが元気なら、俺はそれで嬉しいぞ」
「タカさん!」
亜紀ちゃんがモゾモゾしている。
「亜紀ちゃん、何やってんだ?」
「あの、「花岡」が使えないかと」
「おい、無理するな。そんなものどうでもいい!」
「でも……」
「まずは元に戻る方法を探そう。きっとあるさ」
「……」
「戻れなくても落ち込むな。俺が必ず面倒を見る。俺に任せろ!」
「「「「タカさーん!」」」」
俺は取り敢えず寝ろと言った。
自分の部屋へ戻り、麗星に電話をした。
事情を話すと、麗星も驚いていた。
「わたくしも、聞いたことがございません」
「申し訳ないんですが、一度こちらへいらして頂けませんか?」
「もちろんでございます。すぐに向かいます」
「ああ、新幹線はうちで負担しますので」
「オホホホホ! 分かりましたわ」
「では、新幹線に乗られたら、またお電話下さい」
「かしこまりました」
俺は色々な方法を考えていた。
クロピョンならば、何とか出来るかもしれない。
タマやタヌ吉にも相談しよう。
ああ、いっそ「空の王」にも相談するか。
イリスを介せば、何とか対話が出来そうだ。
蓮花と一緒に、義体を作れるかもしれない。
意識はちゃんとある。
ならば、量子コンピューターの制御で人型のボディを動かせそうだ。
しばらくあれこれと考えて、またリヴィングへ戻った。
「おい、何かして欲しいことはないか?」
子どもたちが身体を移動し、頭を寄せ合っていた。
「タカさん、ルーとハーの部屋へ運んでいただけませんか?」
「双子の部屋に?」
「はい! お願いします!」
「あ、ああ、分かった」
俺はそっと亜紀ちゃんを抱えた。
ずっしりと重みを感じるが、せいぜい20キロ程だろう。
抱き上げて、少し悲しくなった。
ゆっくりと双子の部屋へ運ぶ。
他の三人も同様にして運んだ。
四人をベッドに横たえた。
「どうするんだ?」
「あの、ちょっと眠くて」
「そうか。それぞれの部屋へ運ぼうか?」
「いえ、今は四人一緒がいいです」
「ああ、そうだな。ゆっくり寝ろよ」
「はい。あ、あの」
「なんだ?」
亜紀ちゃんがルーにどれなのかと聞いている。
腕が無いので、ルーは指し示せない。
「私のデスクの一番下の引出しを」
「おう」
「広口瓶があるので、蓋を開けてください」
「ああ」
薬品の広口瓶があった。
蓋を開けると、ちょっと刺激臭があった。
「これは何だ?」
「気分を落ち着かせるものです。そのままでいいですから」
「そうか?」
双子が作ったものらしい。
俺は気になったが、希望通りにして床に置いてやった。
「じゃあ、俺は自分の部屋にいるからな。ドアは開けておくから、何かあったら呼べよな」
「「「「はーい!」」」」
こんな姿になっても、兄弟は仲良しだ。
今は精神的にショックもあるだろうが、俺は意外と冷静な四人に少し安心した。
ロボとベッドに横になっていた。
自分が食事をしていないことを思い出した。
でも、俺は空腹を感じなかった。
俺もショックを受けていた。
(可哀そうに。一体何が起きたんだ)
そう考えていると、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「タカさーん!」
俺は急いで双子の部屋へ入った。
「どうした?」
「すみません。もう一度リヴィングに運んでもらえますか?」
「なんだ、眠るんじゃなかったのか?」
「はい。やっぱりあのリヴィングがいいって」
「なんだ?」
「ほら、いろいろな思い出が一番ある部屋じゃないですか」
「あ、ああ、まあそうだな」
亜紀ちゃんが言っていることが、ちょっと分からなかった。
だが、俺は希望通りにもう一度一人ずつ運んだ。
リヴィングの床に布団を敷いて、その上に横たえた。
「ありがとうございました」
「いや、いいけど。どうかしたか?」
亜紀ちゃんの頭が俺を見ている。
「タカさん、お世話になりました」
「「「お世話になりましたー!」」」
「なんだよ?」
「タカさん、愛してます!」
「タカさん、尊敬してます! タカさんのようになりたかった!」
「タカさん! 楽しかったよ!」
「タカさん! 私たちを引き取ってくれてありがとう!」
一人ずつ叫んでいる。
俺は猛烈に嫌な予感がした。
「おい! お前ら何をした!」
「さっき、殺虫剤を飲みました。もうじきです」
「なんだと!」
「こんな身体になったら、もうタカさんのために戦えない」
「僕もここまでです。すみません」
「タカさん! ごめんね! こんなことになっちゃって!」
「タカさん! 私たちを忘れないで! ずっと見守ってるからぁ!」
全員が泣いた。
「すぐに吐き出せ! 俺が絶対に助けるからな!」
「もう無理ですよ。段々身体が静かになってきてます」
「痛みはないよ。気持ちいいくらい」
「タカさんに看取られるなら、いい最期かな」
「タカさん、ごめんね」
「よせ! 絶対に助けるから! お前ら、俺を置いて行かないでくれぇー!」
俺も泣いていた。
四人は徐々に動かなくなり、やがて完全に止まった。
「亜紀ちゃん! 皇紀! ルー! ハー!」
俺は大声で四人の名を叫んだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「タカさん! どうしたの!」
「タカさん! 大丈夫!」
双子に起こされた。
俺は涙を溢れさせていた。
「「タカさん!」」
「あ、ああ。大丈夫だ」
「何があったの!」
「大丈夫だ。夢を見ていたようだ」
「夢?」
「ああ、恐ろしい夢だった。最悪だ」
「そっかー!」
双子が少し安心したようだ。
俺はまだ涙を零していた。
止められなかった。
二人を抱き締める。
「良かった。本当に良かった」
「夢でしょ? 大丈夫だよ」
「タカさん、元気出して」
二人も俺を抱き締めてくれる。
少しして、ようやく落ち着いた。
朝食を呼びに来たらしい。
俺は顔を洗って落ち着いてから行くので、先に食べるように言った。
「タカさん、大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫だよ。本当に夢で良かった」
「そう。私たちがいるから安心してね?」
「そうだな。お前たちがいれば、俺は何もいらねぇ」
「「アハハハハハ!」」
双子が笑いながら降りて行った。
本当にそうだ。
俺は今更ながらに思い知った。
あいつらがいるから、俺は大丈夫なのだ。
俺の本当の宝物。
最悪の夢だったが、改めて俺に思い知らせてくれた。
二度と見たくはないが。
俺が降りると、子どもたちが笑顔で挨拶してくれた。
ちゃんと、いつもの子どもたちだった。
俺も笑って挨拶をした。
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