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メキシコの少女
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早乙女家の引っ越しが終わり、俺たちは家に帰った。
夕飯を食べて行けと言われたが、引っ越しで疲れているだろうし、断った。
「今日は二人でゆっくり過ごせよ」
「そうか、分かった。でも、明日は是非来てくれよ。本当に何かお礼をしたい」
「分かったよ。まあ、明日雪野さんが疲れていなければな」
「うん」
二人が俺たちを門まで見送ってくれた。
歩いて家に帰る。
まだ夕方の5時で明るい。
「タカさん、今日は何を食べたいです?」
「なんだ、決まってなかったのか?」
「ステーキの予定でしたけど、何か違うものが食べたいかなと」
「別に何でもいいよ。ステーキでもいいぞ」
「うーん」
亜紀ちゃんが悩んでいる。
「たまには違うものが食べたいなー」
「じゃあ、好きなものにしろよ」
「それが、何を食べたいか分からなくて」
「なんだよ」
俺は笑った。
「じゃあ、鰻でもとるか?」
「いいですね!」
双子も喜んだ。
家に帰り、亜紀ちゃんがすぐに注文をする。
「おい、一人三つまでだぞ!」
「はーい!
俺はいつも特上の二重天井だから決まっている。
子どもたちは特上を三人前が大体だ。
二重天井にしないのは、それが家長の俺の特権だと決めている。
他の食事でも、俺には一番いいものが来る。
食い意地の張ったように見える子どもたちだが、ちゃんと一歩退く。
俺は威張りたいわけではないが、こういうことは大事なことだとも思う。
金は持っている連中だ。
だから幾らでも高いものが好きなように食べられる。
でも、そうしない。
外でも大量に喰うようだが、最高級のものを食べ歩いていることはないようだ。
そんなに機会は無いが、誰かにご馳走する時だけは別だ。
まあ、みんなそんな偉い立場ではないので、本当に少ない。
亜紀ちゃんが真夜と飲みに行ったり、たまに寿司やフグなどを食べさせているようだ。
双子も「人生研究会」の幹部をラーメン屋などに連れて行ったりはする。
それらも、それほど高級なものではない。
皇紀も彼女相手にフレンチなどは食べない。
鰻は時間が掛かるので、6時半頃に夕食となった。
みんな腹を空かせていたので、旺盛に食べる。
ロボは白焼きを食べて喜んでいた。
その白焼きが別途3枚あった。
「夜はこれで飲みましょうね!」
亜紀ちゃんが嬉しそうに言った。
普通は鰻を喰った後で、白焼きを肴にはしないものだが。
まあいい。
子どもたちが片付けている間に、俺は庭に出た。
月下美人が最近花開いている。
それを見ようと思った。
庭に上品な香りが漂っている。
月下美人のものだ。
美しい白い花が見えた。
結構苦労した植物だった。
初年はカイガラムシがついて、植栽に慣れない俺は気付かずに蔓延させてしまった。
詳しい人間に聞き、毎朝にカイガラムシを指で落した。
葉が虫の排泄物で黒く汚れ、それも丁寧に指で拭った。
徐々に元気になり、冬場は囲いをして寒さから守り、水やりも注意した。
世話の甲斐があり、翌年の夏には美しい花を咲かせてくれるようになった。
ちゃんと根付いて数年が経過すると、随分と丈夫になってくれたので、世話も楽になった。
俺が見ていると、亜紀ちゃんが風呂を呼びに来た。
「あ! なんかいい匂いがしますね!」
うちの子どもは花には興味がない。
双子に花壇の世話をさせているが、そこだけだ。
柳は結構庭を見ている。
前にも、竜胆の感想を言ったり、他の植物についてもよく俺と話をする。
「月下美人だよ。夜に咲く花なんだ」
「へぇー!」
亜紀ちゃんが俺に並んで花を見る。
「綺麗ですねー!」
「毎年咲いてんだけどな」
「アハハハハハ!」
俺も笑って、亜紀ちゃんと風呂に入った。
風呂から上がって、亜紀ちゃんと酒の用意をする。
今日の肴は鰻の白焼きがメインなので、冷酒にした。
他にエノキのバター醤油、ナスの生姜焼きを作った。
「月下美人、綺麗でしたねー」
「いいよ、無理しないで」
「あ! 本当ですよ! 私も女の子ですから、お花は大好きです!」
亜紀ちゃんがニコニコして言う。
「しかしよ、本当にうちは女の子が三人もいて、誰も花に興味がねぇもんな」
「今、興味あるって話をしてたじゃないですか!」
亜紀ちゃんが、言いながら白焼きを摘まんで口に入れ、冷酒で流し込んだ。
「奈津江と一緒にアルバイトをしてた話をしただろ?」
「はい! タカさんのテレビ出演がお陰で観れました!」
「まあそれはどうでもいいんだけどさ。奈津江はよく帰りに花屋に寄りたがったんだ。花を買って帰るのが好きだったんだな」
「へぇー!」
亜紀ちゃんはエノキに大根おろしを乗せ、口に入れて味わい、冷酒を含んだ。
幸せそうな顔をする。
「まあ、どうでもいいけどな」
「奈津江さんは、何のお花が一番好きだったんですか?」
「興味あるのかよ?」
「はい!」
「白焼きよりも?」
「アハハハハハ!」
亜紀ちゃんが笑った。
「デンドロビウムだったな。春先を楽しみにしてた」
「あ! 柳さんが言ってましたよ! よくお墓にデンドロビウムがあるんだって。あれはタカさんだったんですね」
「まあ、その季節はよく買って行くな」
「へぇー!」
「お前らは花に思い出がねぇからなぁ」
「そうですねー」
「どうもなぁ。俺は結構花とか植物が好きなんだけど、お前らは全然だよな」
「うーん」
「俺が興味がなくて、お前らがだから花が好きでもないっていうなら分かるんだ」
「そうですよね」
亜紀ちゃんはナスにちょっと醤油を垂らして口に入れた。
幸せそうに冷酒を口に流し込む。
「まあ、酒も好きだけどよ」
「そうですね!」
俺は笑った。
「じゃあ、そろそろ」
「あんだよ?」
「月下美人のお話を」
「興味ねぇだろうが」
「タカさんのことでしたら、何でも聞きたいです」
俺は笑って話し出した。
夕飯を食べて行けと言われたが、引っ越しで疲れているだろうし、断った。
「今日は二人でゆっくり過ごせよ」
「そうか、分かった。でも、明日は是非来てくれよ。本当に何かお礼をしたい」
「分かったよ。まあ、明日雪野さんが疲れていなければな」
「うん」
二人が俺たちを門まで見送ってくれた。
歩いて家に帰る。
まだ夕方の5時で明るい。
「タカさん、今日は何を食べたいです?」
「なんだ、決まってなかったのか?」
「ステーキの予定でしたけど、何か違うものが食べたいかなと」
「別に何でもいいよ。ステーキでもいいぞ」
「うーん」
亜紀ちゃんが悩んでいる。
「たまには違うものが食べたいなー」
「じゃあ、好きなものにしろよ」
「それが、何を食べたいか分からなくて」
「なんだよ」
俺は笑った。
「じゃあ、鰻でもとるか?」
「いいですね!」
双子も喜んだ。
家に帰り、亜紀ちゃんがすぐに注文をする。
「おい、一人三つまでだぞ!」
「はーい!
俺はいつも特上の二重天井だから決まっている。
子どもたちは特上を三人前が大体だ。
二重天井にしないのは、それが家長の俺の特権だと決めている。
他の食事でも、俺には一番いいものが来る。
食い意地の張ったように見える子どもたちだが、ちゃんと一歩退く。
俺は威張りたいわけではないが、こういうことは大事なことだとも思う。
金は持っている連中だ。
だから幾らでも高いものが好きなように食べられる。
でも、そうしない。
外でも大量に喰うようだが、最高級のものを食べ歩いていることはないようだ。
そんなに機会は無いが、誰かにご馳走する時だけは別だ。
まあ、みんなそんな偉い立場ではないので、本当に少ない。
亜紀ちゃんが真夜と飲みに行ったり、たまに寿司やフグなどを食べさせているようだ。
双子も「人生研究会」の幹部をラーメン屋などに連れて行ったりはする。
それらも、それほど高級なものではない。
皇紀も彼女相手にフレンチなどは食べない。
鰻は時間が掛かるので、6時半頃に夕食となった。
みんな腹を空かせていたので、旺盛に食べる。
ロボは白焼きを食べて喜んでいた。
その白焼きが別途3枚あった。
「夜はこれで飲みましょうね!」
亜紀ちゃんが嬉しそうに言った。
普通は鰻を喰った後で、白焼きを肴にはしないものだが。
まあいい。
子どもたちが片付けている間に、俺は庭に出た。
月下美人が最近花開いている。
それを見ようと思った。
庭に上品な香りが漂っている。
月下美人のものだ。
美しい白い花が見えた。
結構苦労した植物だった。
初年はカイガラムシがついて、植栽に慣れない俺は気付かずに蔓延させてしまった。
詳しい人間に聞き、毎朝にカイガラムシを指で落した。
葉が虫の排泄物で黒く汚れ、それも丁寧に指で拭った。
徐々に元気になり、冬場は囲いをして寒さから守り、水やりも注意した。
世話の甲斐があり、翌年の夏には美しい花を咲かせてくれるようになった。
ちゃんと根付いて数年が経過すると、随分と丈夫になってくれたので、世話も楽になった。
俺が見ていると、亜紀ちゃんが風呂を呼びに来た。
「あ! なんかいい匂いがしますね!」
うちの子どもは花には興味がない。
双子に花壇の世話をさせているが、そこだけだ。
柳は結構庭を見ている。
前にも、竜胆の感想を言ったり、他の植物についてもよく俺と話をする。
「月下美人だよ。夜に咲く花なんだ」
「へぇー!」
亜紀ちゃんが俺に並んで花を見る。
「綺麗ですねー!」
「毎年咲いてんだけどな」
「アハハハハハ!」
俺も笑って、亜紀ちゃんと風呂に入った。
風呂から上がって、亜紀ちゃんと酒の用意をする。
今日の肴は鰻の白焼きがメインなので、冷酒にした。
他にエノキのバター醤油、ナスの生姜焼きを作った。
「月下美人、綺麗でしたねー」
「いいよ、無理しないで」
「あ! 本当ですよ! 私も女の子ですから、お花は大好きです!」
亜紀ちゃんがニコニコして言う。
「しかしよ、本当にうちは女の子が三人もいて、誰も花に興味がねぇもんな」
「今、興味あるって話をしてたじゃないですか!」
亜紀ちゃんが、言いながら白焼きを摘まんで口に入れ、冷酒で流し込んだ。
「奈津江と一緒にアルバイトをしてた話をしただろ?」
「はい! タカさんのテレビ出演がお陰で観れました!」
「まあそれはどうでもいいんだけどさ。奈津江はよく帰りに花屋に寄りたがったんだ。花を買って帰るのが好きだったんだな」
「へぇー!」
亜紀ちゃんはエノキに大根おろしを乗せ、口に入れて味わい、冷酒を含んだ。
幸せそうな顔をする。
「まあ、どうでもいいけどな」
「奈津江さんは、何のお花が一番好きだったんですか?」
「興味あるのかよ?」
「はい!」
「白焼きよりも?」
「アハハハハハ!」
亜紀ちゃんが笑った。
「デンドロビウムだったな。春先を楽しみにしてた」
「あ! 柳さんが言ってましたよ! よくお墓にデンドロビウムがあるんだって。あれはタカさんだったんですね」
「まあ、その季節はよく買って行くな」
「へぇー!」
「お前らは花に思い出がねぇからなぁ」
「そうですねー」
「どうもなぁ。俺は結構花とか植物が好きなんだけど、お前らは全然だよな」
「うーん」
「俺が興味がなくて、お前らがだから花が好きでもないっていうなら分かるんだ」
「そうですよね」
亜紀ちゃんはナスにちょっと醤油を垂らして口に入れた。
幸せそうに冷酒を口に流し込む。
「まあ、酒も好きだけどよ」
「そうですね!」
俺は笑った。
「じゃあ、そろそろ」
「あんだよ?」
「月下美人のお話を」
「興味ねぇだろうが」
「タカさんのことでしたら、何でも聞きたいです」
俺は笑って話し出した。
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