富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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早乙女家 出産祝い Ⅱ

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 「石神さん、本当にお世話になりました」
 「ほんとにね!」

 雪野さんが笑った。

 「ありがとう、こんな素晴らしい食事を」
 「ああ、うちでも初めてこんな豪華な食事を作ったぞ」
 「ありがとうな」

 早乙女がしおらしく言う。

 「いきなりこんな大勢で押し掛けたから、子どもは今日は見なくてもいいぞ」
 「ありがとうございます。後で様子を見て、大丈夫なようでしたら」
 「いいって。最初は母親と二人きりでいるのがいいんですよ」
 「そうなんですか!」
 「そうやって、母親からの愛情を感じて、自分と自分以外の関係性を理解して行くんです。母親が愛情を注げば、子どもは他人を信じ愛する人間になる。だからいろんな人間と接するよりも、最初は母親と二人きりがいいんですよ」
 「なるほど!」

 「おい、父親は?」
 「別にいらねぇんじゃねぇの?」
 「そんな!」
 「しばらく遠くで妖魔と戦ってろよ」
 「いしがみー!」

 雪野さんと笑った。
 子どもたちはワイワイと食べている。
 今日は本当にいろいろな料理があって、戦争も無い。
 伊勢海老などは、一人一尾と厳命している。
 数限定の料理が多い。
 それでも大量に食べられるのだが。

 俺は早乙女に、雪野さんの料理を持って来るように言った。

 「身体はどうですか?」
 「はい。出産後は多少痛みましたが、もうほとんど。大丈夫ですよ?」
 「そうなんでしょうが、産後の肥立ちは本当に寝て無きゃダメです。絶対ですからね」
 「はい、分かりました」
 
 柳がロボに刺身や焼いた魚、肉を与えている。
 ロボもいつもよりも豪華なので喜んでいる。
 俺は柳に、自分も食べろと言い、ロボ当番を替わった。
 
 早乙女と雪野さんが、大皿に盛った料理を仲良く食べている。
 子どもたちも楽しそうに食べている。
 ビュッフェスタイルはあまり経験がないので、一層楽しいようだ。
 響子の祝賀パーティーと、俺の快気(お詫び)パーティー、それと先日の「寮歌祭」くらいか。
 俺自身があまりパーティーが好きではないので、子どもたちも連れて行っていない。
 まあ、連れて行くと大騒ぎになるということもある。

 俺はキッチンに行き、追加の料理をワゴンで運び、空いたバットなどと入れ替える。
 ラン、スー、ミキはキッチンで料理を温めたりしている。
 柳が来て、自分がやると言う。

 「いいよ、今日は楽しめよ」
 「いえ、やらせて下さい」
 
 俺は笑って一緒にやった。
 早乙女たちがもう一杯食べたと言うので、紅茶を淹れてやる。

 「みんな、よく食べるね」
 「ああ。だから間違っても石神家を食事に招待、なんて考えるなよな」
 「アハハハハ」

 二人が笑った。
 ハイピッチで食べていたので、子どもたちもペースが落ちて来た。
 亜紀ちゃんに、フルーツとデザートをランたちに持って来させるように言った。
 
 二人をケーキの前に連れて行った。
 カワイイ女の子の顔と、「怜花ちゃん」と描かれている。
 双子が描いた。
 早乙女達が喜んだ。
 早乙女が写真を撮ると言うので、カットを待った。

 ケーキと、子どもたちも撮って行った。
 早乙女にカットさせ、それぞれ手にしてテーブルに戻った。

 「そう言えば前にさ、六花と一緒に「スイーツ食べ放題」に行ったんだよ」
 「へぇ」
 「結構高かったな、5000円だったかな。それで二人で食べてたら、他の客に囲まれちゃって」
 「ああ、お前も六花さんも目立つからなぁ」
 「そうなんだ。だから店の人間に何とかしろって言ったのな。そうしたら「お客様同士のトラブルは」なんて店長が言いやがってよ!」
 「「アハハハハハ!」」

 「だからさ、亜紀ちゃんと双子を呼んだのな。三人でガンガン食べて、たちまちケーキが無くなった」
 「「アハハハハハ!」」

 「詐欺だって詰め寄ってさ。食べ放題なんて言っときながら、もうねぇじゃんって。そこにいた客全員に返金させた」
 「「アハハハハハ!」」
 「最後に亜紀ちゃんがさ、「私のタカさんによくも恥を!」って言ってさ。「期間中毎日来るから!」って。そうしたら翌日から閉店になってた」
 「「アハハハハハ!」」

 俺は亜紀ちゃんが新宿他の食べ放題の店で出禁になっていることや、開店した焼き肉屋が潰れた話をした。

 「ペンペン草も残らねぇ」
 「「アハハハハハ!」」

 食事も落ち着いて行き、子どもたちも食べながら話し始めた。
 早乙女が席を立って、どこかへ行った。
 ギターを持って来て、サングラスを嵌めていた。

 浜田省吾の『愛の世代の前に (僕と彼女と週末に)』を歌った。
 ギターはコードだ。

 みんなが盛り上がった。
 きっと、俺たちのために練習してくれたのだろう。

 「じゃあ、みんな! お祝いの「ヒモダンス」! やるよ!」

 亜紀ちゃんが立ち上がって叫んだ。
 石神家の全員が集まる。
 
 《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!……》

 ロボも一緒にやる。
 早乙女と雪野さんが大笑いだった。

 



 突然、警報が鳴った。

 《屋敷内を移動する存在を感知しました》

 防衛AI《ぴーぽん》がアナウンスした。
 俺たちやランたちは予めAIが認識しているので、それ以外の誰かが動いていることになる。

 子どもたちは早乙女たちの周囲を囲み、構えた。

 《1階より、エレベーターで上昇……3階で降りました。ゆっくりとみなさんのいるお部屋へ移動中です》

 「なんだ、随分と堂々と来るな」
 「タカさん、敵ですね」
 「まあ、待て。余りにも余裕があり過ぎだ。それに殺気がねぇ」
 「はい」

 妖魔ではない。
 そうであれば、AIがそう告げているはずだ。

 《ドアの前に来ました》

 全員がドアに注目する。
 ノブが回された。
 ドアが開いた。
 全高5メートルの大きなドアだ。
 ゆっくりと開いた。


 「「「「「ギャァァァァァァーーーーー!!!!!」」」」」 


 子どもたちが絶叫した。




 「柱」が立っていた。

 「い、石神!」
 「待て!」

 早乙女が俺を呼び、俺も一瞬硬直していた。
 「柱」は中へ入り、ちゃんとドアを閉めた。

 数歩入って来て止まる。
 
 「石神、止まったぞ!」
 「見てるよ!」

 早乙女は雪野さんの前に立っている。
 雪野さんは早乙女の腰に手を当てて、脇から覗き込んでいた。

 俺は近づいて行った。

 「タカさん!」
 
 亜紀ちゃんが叫ぶのを、手で制した。
 2メートルまで近づいた。
 何も起こらない。

 「もしかして、お前も祝いに来たのか?」
 
 柱がゆっくりと、小さな両手を上に上げた。
 
 「あ?」
 
 左右に上げる。

 「お?」

 下に下げる。

 「おお!」


 《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!》


 やった。

 《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!……》

 俺と一緒に踊った。
 子どもたちを手招いた。
 恐る恐る、一緒にやる。

 《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!……》

 段々調子が出て来た。
 早乙女達も呼ぶ。

 《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!……》

 《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!……》

 何度か繰り返し、俺が声を高めた。

 《よし、ラストぉー! ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!!!》

 全員が終わった。

 「よし! 楽しかったぞ! 戻っていいぞ!」

 「柱」が一礼してドアを開け、去って行った。



 「「「「「「「……」」」」」」」
 「にゃー……」



 「さて、そろそろ帰ろうかな」
 「い、石神、今日は泊まって行けよ」
 「やだよ! あんなのがいる家は!」
 「お前が持って来たんだろう!」
 「もうお前のものだろう!」

 雪野さんもお願いだからと言う。

 「じゃ、じゃあ、柳を置いてくよ」
 「やめて下さい、石神さん!」

 




 結局俺がロボと泊まった。
 意外とグッスリ寝た。
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