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スパイダーマン Ⅱ
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俺は聖に電話した。
「トラ!」
「聖、悪いがトラブルだ。うちの子どもたちが男性に怪我をさせてしまった」
「そうなのか?」
「ああ。大した怪我ではないと思うんだが、特殊な状況なんだ。どこかゆっくりと話せる場所は無いかな?」
聖はある建物の場所を言った。
「セイフハウスだ。俺も敵が多いからな」
「ありがとう、ちょっと借りるぜ」
「ああ、俺もすぐに行く。開けて待ってるよ」
俺は静江さんに住所を言い、運転手へ伝えてもらった。
「ちょっと男性を介抱してから帰りますね」
「はい、分かりました。病院はよろしいんですね?」
「大丈夫です。ちょっとショックで昏倒しているだけですので」
脳に爪が入ったのだが。
指定の建物の前に行くと、既に聖が待っていた。
脇に大型のバイクが停まっている。
「おい! ホンダの「Gold Wing Tour」じゃねぇか!」
世界でも有数のエンジンのでかさだ。
V6気筒の1800CCの化け物マシンだ。
「うん」
「お前、いつ買ったんだよ!」
「こないだトラの家に行ったら、バイクがあったじゃん」
「おお! スーパーレッジェーラな!」
「だから俺も買った」
「よく分からん!」
まあ、どうでもいいが。
今はそれどころではない。
俺は聖の後をついて、男を運んだ。
建物は郊外の公園脇に建つ、8階建てのビルだった。
入り口には電子部品を扱う商社の看板があった。
もちろん無人だ。
細い階段を上がって2階に行く。
簡易ベッドがあり、俺は男を寝かせた。
「なんだ、こいつ?」
「ああ、うちの子どもらが街で遊んでたんだ」
「うん」
「まあ派手にやっててな。頭に衝撃を喰らったらしい」
「そう」
聖には興味が無い。
「処分すんならやっとくぜ?」
「いや、迷惑を掛けたんだ。それにすぐに起きるだろう」
「そうか」
聖がソファに誘った。
冷蔵庫からエヴィアンを持って来る。
部屋はほとんど何も無い。
簡易ベッドと四人掛けのソファセット、スチールデスク、スチール棚、冷蔵庫と簡易キッチン。
100平米ほどの広さだった。
床はリノリウムだ。
築40年といったところか。
「ここはどういうビルなんだ?」
「10年前に買った。何かあった時のためだけど、まあいろいろ使ってるよ」
「そうか」
辺りに住宅はない。
非合法のことをやるのはうってつけだろう。
俺はタマを呼び出し、男の記憶を探った。
男はジョナサン・ゴールド、21歳。
テキサス州の出身で、今はニューヨーク大学に通っている。
俺は住所や家族構成などを聞き、今日の行動について聞き出した。
子どもの頃からスパイダーマンに憧れ、昨年のうちの子どもたちのパフォーマンスに感動した。
今日、またそれを偶然見つけて大興奮で近づいてしまったと。
タマには言語的な問題は無かった。
まあ、妖魔だからな。
「少し変わった奴だな」
タマがジョナサンを見て言った。
「大分ヘンな奴だろうよ。うちの子どもらのアクションを見てるのに突っ込んでくるなんてよ」
「まあ、そうだな」
情報を得た俺が聖に「Gold Wing Tour」の話を聞いていると、男が目を覚ました。
軽く縛った上で目隠しをしている。
「え! ここは!」
自分の状況に気付いて男が叫んだ。
「大人しくしてくれ、チンカス野郎。てめぇの尻に危害を加えるつもりはないんだ」
「エェ!」
俺の英語は下品だ。
「あなたは!」
「スパイダーマン」
「やっぱり!」
男が興奮している。
「もちろん、あのスパイダーマンじゃねぇ。だけど世の中のために何かやってはいる。分かったか、ファック野郎?」
「はい! ちょっと下品ですが、あなたを信用します!」
「そうか、テカテカチンコで良かったぜ。身体はおっ立つくらいに大丈夫か?」
「ちょっと頭痛がありますが、大丈夫です。むしろ爽快と言っていいかと」
「良かったぜ。ちょっと心配してたんだ」
俺は聖に手で挨拶し、ジョナサンを抱えた。
「外に出すからな。悪いが俺たちは秘密の組織なんだ。姿を見せられなくてすまん」
「いいえ、お会い出来ただけで光栄です」
「そうか」
俺はビルを出て、公園の人気が無い場所まで運んだ。
後ろで縛っていた縄を解く。
ジョナサンのポケットに1万ドルを押し込む。
「悪かったな」
ジョナサンの肩を叩いて、俺は高速飛行で飛んだ。
地上でジョナサンが目隠しを外し、辺りを探している様子が見えた。
ロックハート家に戻ると、玄関で子どもたちが土下座していた。
ロボもいる。
「お前らぁ!」
子どもたちが震える。
俺は一人ずつ頭に拳骨を落とした。
数秒ずつ気絶する。
ロボは撫でてやった。
「もういい。事故みたいなものだったしな」
「「「「すみませんでしたぁ!」」」」
「あの男性も無事だった。すぐに目を覚ましたぞ」
子どもたちも安心した。
俺は部屋へ戻り、聖に電話して礼を言った。
「いいって。それよりも、今晩は大丈夫だろうな?」
「もちろんだ。6時にあの店だな?」
「ああ、ジャンニーニと待ってる」
今晩は聖とジャンニーニで飲む予定だった。
ランチはピッツァだった。
ロックハート家の厨房には本格的な石窯がある。
ロドリゲスの得意料理の一つだった。
何種類ものピッツァに、子どもたちが喜ぶ。
そう言えば、うちでは滅多に食べない。
俺も嫌いなわけではないのだが。
響子がマルゲリータを頬張りながら俺に言った。
「私、ロドリゲスのピッツァが大好き!」
「そうだったか。じゃあ、時々ピッツァを用意するか」
「うん!」
響子が自分でテーブルに置かれたピッツァを選びに行った。
肉食獣がうろついている。
「響子が行くぞ!」
肉食獣が日本舞踊を踊った。
みんなが爆笑した。
食後のコーヒーを飲んでいると、亜紀ちゃんが近寄って来た。
「あの、タカさん」
「あんだよ?」
「さっきの男の人に、お詫びに行きたいんですが」
「あ?」
「ちょっとコワイ目に遭わせてしまったし」
「……」
詫びとしてさっき金は渡した。
だが、自分たちの不始末を全部親が片付けて、こいつらが何もしないというのはどうなのだろう。
俺は少し考えた。
「分かった。じゃあ、お前らで謝って来い。さっき金は渡したから、謝るだけでいいからな」
「これ、持ってっていいですか?」
ロドリゲスのピッツァを指差す。
「ああ、いいだろう」
俺はジョナサンの住所を言い、静江さんに頼んでピッツァを箱に入れてもらった。
子どもたちがスパイダーマンの衣装で出掛けて行った。
俺は響子を誘って一緒に昼寝した。
ロボも一緒だ。
ロボが何か俺に訴えていた。
「にゃーにゃーにゃー」
「全然分かんねぇよ」
「にゃ!」
ロボは俺たちがチーズ臭いので、ちょっと離れて寝た。
「トラ!」
「聖、悪いがトラブルだ。うちの子どもたちが男性に怪我をさせてしまった」
「そうなのか?」
「ああ。大した怪我ではないと思うんだが、特殊な状況なんだ。どこかゆっくりと話せる場所は無いかな?」
聖はある建物の場所を言った。
「セイフハウスだ。俺も敵が多いからな」
「ありがとう、ちょっと借りるぜ」
「ああ、俺もすぐに行く。開けて待ってるよ」
俺は静江さんに住所を言い、運転手へ伝えてもらった。
「ちょっと男性を介抱してから帰りますね」
「はい、分かりました。病院はよろしいんですね?」
「大丈夫です。ちょっとショックで昏倒しているだけですので」
脳に爪が入ったのだが。
指定の建物の前に行くと、既に聖が待っていた。
脇に大型のバイクが停まっている。
「おい! ホンダの「Gold Wing Tour」じゃねぇか!」
世界でも有数のエンジンのでかさだ。
V6気筒の1800CCの化け物マシンだ。
「うん」
「お前、いつ買ったんだよ!」
「こないだトラの家に行ったら、バイクがあったじゃん」
「おお! スーパーレッジェーラな!」
「だから俺も買った」
「よく分からん!」
まあ、どうでもいいが。
今はそれどころではない。
俺は聖の後をついて、男を運んだ。
建物は郊外の公園脇に建つ、8階建てのビルだった。
入り口には電子部品を扱う商社の看板があった。
もちろん無人だ。
細い階段を上がって2階に行く。
簡易ベッドがあり、俺は男を寝かせた。
「なんだ、こいつ?」
「ああ、うちの子どもらが街で遊んでたんだ」
「うん」
「まあ派手にやっててな。頭に衝撃を喰らったらしい」
「そう」
聖には興味が無い。
「処分すんならやっとくぜ?」
「いや、迷惑を掛けたんだ。それにすぐに起きるだろう」
「そうか」
聖がソファに誘った。
冷蔵庫からエヴィアンを持って来る。
部屋はほとんど何も無い。
簡易ベッドと四人掛けのソファセット、スチールデスク、スチール棚、冷蔵庫と簡易キッチン。
100平米ほどの広さだった。
床はリノリウムだ。
築40年といったところか。
「ここはどういうビルなんだ?」
「10年前に買った。何かあった時のためだけど、まあいろいろ使ってるよ」
「そうか」
辺りに住宅はない。
非合法のことをやるのはうってつけだろう。
俺はタマを呼び出し、男の記憶を探った。
男はジョナサン・ゴールド、21歳。
テキサス州の出身で、今はニューヨーク大学に通っている。
俺は住所や家族構成などを聞き、今日の行動について聞き出した。
子どもの頃からスパイダーマンに憧れ、昨年のうちの子どもたちのパフォーマンスに感動した。
今日、またそれを偶然見つけて大興奮で近づいてしまったと。
タマには言語的な問題は無かった。
まあ、妖魔だからな。
「少し変わった奴だな」
タマがジョナサンを見て言った。
「大分ヘンな奴だろうよ。うちの子どもらのアクションを見てるのに突っ込んでくるなんてよ」
「まあ、そうだな」
情報を得た俺が聖に「Gold Wing Tour」の話を聞いていると、男が目を覚ました。
軽く縛った上で目隠しをしている。
「え! ここは!」
自分の状況に気付いて男が叫んだ。
「大人しくしてくれ、チンカス野郎。てめぇの尻に危害を加えるつもりはないんだ」
「エェ!」
俺の英語は下品だ。
「あなたは!」
「スパイダーマン」
「やっぱり!」
男が興奮している。
「もちろん、あのスパイダーマンじゃねぇ。だけど世の中のために何かやってはいる。分かったか、ファック野郎?」
「はい! ちょっと下品ですが、あなたを信用します!」
「そうか、テカテカチンコで良かったぜ。身体はおっ立つくらいに大丈夫か?」
「ちょっと頭痛がありますが、大丈夫です。むしろ爽快と言っていいかと」
「良かったぜ。ちょっと心配してたんだ」
俺は聖に手で挨拶し、ジョナサンを抱えた。
「外に出すからな。悪いが俺たちは秘密の組織なんだ。姿を見せられなくてすまん」
「いいえ、お会い出来ただけで光栄です」
「そうか」
俺はビルを出て、公園の人気が無い場所まで運んだ。
後ろで縛っていた縄を解く。
ジョナサンのポケットに1万ドルを押し込む。
「悪かったな」
ジョナサンの肩を叩いて、俺は高速飛行で飛んだ。
地上でジョナサンが目隠しを外し、辺りを探している様子が見えた。
ロックハート家に戻ると、玄関で子どもたちが土下座していた。
ロボもいる。
「お前らぁ!」
子どもたちが震える。
俺は一人ずつ頭に拳骨を落とした。
数秒ずつ気絶する。
ロボは撫でてやった。
「もういい。事故みたいなものだったしな」
「「「「すみませんでしたぁ!」」」」
「あの男性も無事だった。すぐに目を覚ましたぞ」
子どもたちも安心した。
俺は部屋へ戻り、聖に電話して礼を言った。
「いいって。それよりも、今晩は大丈夫だろうな?」
「もちろんだ。6時にあの店だな?」
「ああ、ジャンニーニと待ってる」
今晩は聖とジャンニーニで飲む予定だった。
ランチはピッツァだった。
ロックハート家の厨房には本格的な石窯がある。
ロドリゲスの得意料理の一つだった。
何種類ものピッツァに、子どもたちが喜ぶ。
そう言えば、うちでは滅多に食べない。
俺も嫌いなわけではないのだが。
響子がマルゲリータを頬張りながら俺に言った。
「私、ロドリゲスのピッツァが大好き!」
「そうだったか。じゃあ、時々ピッツァを用意するか」
「うん!」
響子が自分でテーブルに置かれたピッツァを選びに行った。
肉食獣がうろついている。
「響子が行くぞ!」
肉食獣が日本舞踊を踊った。
みんなが爆笑した。
食後のコーヒーを飲んでいると、亜紀ちゃんが近寄って来た。
「あの、タカさん」
「あんだよ?」
「さっきの男の人に、お詫びに行きたいんですが」
「あ?」
「ちょっとコワイ目に遭わせてしまったし」
「……」
詫びとしてさっき金は渡した。
だが、自分たちの不始末を全部親が片付けて、こいつらが何もしないというのはどうなのだろう。
俺は少し考えた。
「分かった。じゃあ、お前らで謝って来い。さっき金は渡したから、謝るだけでいいからな」
「これ、持ってっていいですか?」
ロドリゲスのピッツァを指差す。
「ああ、いいだろう」
俺はジョナサンの住所を言い、静江さんに頼んでピッツァを箱に入れてもらった。
子どもたちがスパイダーマンの衣装で出掛けて行った。
俺は響子を誘って一緒に昼寝した。
ロボも一緒だ。
ロボが何か俺に訴えていた。
「にゃーにゃーにゃー」
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