富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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電子バレンタインデー

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 「とにかくだ! 今年も絶対にバレンタインデーは実施する!」
 「とにかくだ! 今年は俺は絶対にチョコレートなんか受け取らない!」

 今年に入ってから、何度か秘書課と広報課の人間と時々院長を含めて話し合っている。
 正確には、広報課とは昨年の11月からだ。
 俺も本気だ。
 去年はえらいことになった。
 10万近い数のチョコレートが俺の所へ来た。
 100個貰ったって困る。
 それが1000倍だ。
 俺だから捌けたのだ。
 米軍機まで動かせる人間だからだ!

 あんなことはもう絶対にさせない。
 
 しかし、院長はもちろん、秘書課も広報課もやりたがっている。
 院長は単純にチョコレートが欲しいだけだから、まだいい。
 秘書課と広報課はただ自分たちが楽しみたいだけだ。
 今年は俺の記録で10万個を超えるという妙な執念に燃えている。
 俺は受け取らない権利を主張し、他の連中はあげたい権利を主張した。
 ぶつかり合いながら、俺たちは何度も話し合った。
 お前ら他の仕事を真面目にやれと言いたかった。
 話し合いは平行線で、お互いに譲らなかった。
 
 「日本中でやっている、もう純粋な人間同士のコミュニケーションの行事なんですよ」
 「冗談じゃないよ。10万も貰ったらどんだけ大変か」
 「でも、毎回石神先生は何とかされますよね?」
 「おい! あれは大分苦労してやってるんだ!」
 「それは石神先生がおモテになるんで仕方のないことでしょう」
 「君らがとんでもない本気を見せるからだろう!」
 「大きな声を出さないで下さい」
 「小さな声!」
 「俺はチョコレートが欲しい」

 「じゃあさ、やってもいいけどさ」
 「ほんとですか!」
 「処分は君らでやってくれ」
 「冗談じゃないですよ!」
 「俺はチョコレートが欲しい」

 平行線だ。
 空しい話し合いが続いた。




 1月第二週の金曜の晩。
 みんなで映画を観た後で、軽く飲んだ。

 早乙女の新しいポエムがアップされていて、みんなで笑って見て楽しんだ。

 「柳」
 「なんですか?」
 
 柳が俺の傍に来る。

 「前から気になってたんだけどよ」
 「はい」
 「この親指のマークってなんだ?」
 「「「「「え!」」」」」
 「おい、なんだよ?」
 「石神さん! 知らないんですか!」
 「ああ」
 「今までどこで生きてたんですか!」
 「東京だよ!」
 「にゃ!」

 子どもたちがザワザワしている。
 タカさんはおかしいとか言われてる。

 「なんだよ! 知らないといけないのかよ!」
 
 散々バカにされながらも、やっと教えてもらった。
 しかし、みんな何やってんだ。
 みんながネットに夢中になっているのは知っていた。
 こういうことをやっているのか。
 まあ、好きな人はいいんだし、やれば面白いのかもしれない。
 俺は聞いても興味はないが。
 自分の意見を言ったり、自分が評価することが正しいと思っている。
 そういう時代だ。

 その一方で、俺の中で何かが爆発した。





 翌日、俺は「でぶトラちゃん」になり、ちょっとヘコんだ。
 しかし月曜日に気を取り直して、また秘書課、広報課と話し合った。
 
 「電子だよ!」
 「はい?」
 「実物のチョコレートだから問題になるんだ。電子で送って気持ちを伝えればいいじゃねぇか!」
 「なるほど!」
 
 データならば100万来たって問題ない。
 秘書課と広報課は尚も実物の楽しさに拘ってはいたが、ここが妥協点だった。

 「もちろん、実物が欲しい人間は後で引換券とかやればいいだろう」
 「いっそ、電子マネーで精算にしてもいいかもしれませんね」
 「うーん、お金を貰うのはどうもなぁ」
 「まあ、石神先生がいらないと言うのなら、現物を用意しても大した量ではないですけどね」
 「そうか」
 「じゃあ、石神先生に限って電子チョコで、他は現物ということで」
 「おい、希望者には応えてやってくれよ」
 「他にいます?」
 「響子とか六花とか鷹とか。あいつらも結構貰ったからな」
 「ああ、なるほど」
 「響子は一部は欲しがるだろうけど。あ! あとうちのロボな!」
 「ロボちゃんも結構来ましたよね」
 「そうなんだよ! あいつはチョコなんか喰わないからさ」
 「じゃあ、ネコ缶とか?」
 「いや、そっちもあんましな。値段も釣り合わないだろう」
 「何か無いんですか?」
 「うーん、ああ、ピンポン玉」
 「え?」

 俺は「ロボピンポン」を教えた。
 後で絶対に動画を見せて欲しいと言われた。
 可愛いロボだから、喜んで承知した。

 「それともう一つ問題が」
 「なんだよ」
 「その電子チョコのためのシステムを組まなければなりません」
 「ああ、なるほど」
 「石神先生専用のシステムです。当日までに組み上げるのは結構大変ですよ」
 「去年まではどうしてたんだ?」
 「頑張りました!」
 
 今年はつまらなくなるから燃えないらしい。

 「分かったよ。そっちは俺が何とかする」
 「お願いします」

 俺は一江を呼んだ。
 概要を説明する。

 「ということで、俺への電子チョコのシステムを用意して欲しいんだ」
 「えー」
 「なんだよ」
 「めんどい」
 「お前!」

 一応仕事なのだが、多分に俺の個人的な面がある。

 「頼むよ」
 「まー、「セラフィム」を使えばいいんですけどね」
 
 「セラフィム」は一江の量子コンピューターだ。

 「だったらよ」
 「まあいいですけど。でも、電子データのみじゃつまらないですねぇ」
 「いいんだよ、面白くなくても」
 「でも、部長の困った顔が見えないじゃないですか」
 「てめぇ!」

 一江になんとかしてもらわないと困る。

 「じゃあ、数によって部長の面白画像を出していく、というのはどうです?」
 「おい、あんまりマズイものはダメだぞ」
 「そこは大丈夫ですよ! 社会的にマイナス評価になるものは出しません」
 「ま、まあ俺はそんなものは無いけどな!」

 一江が驚いた顔をした。

 「なんだ、てめぇ!」
 
 とにかく、一段落した。




 バレンタインデー当日。
 院長に呼ばれた。

 「石神! 今年は23個も貰ったぞ!」
 「流石は院長ですね!」

 全部サクラだが。
 俺は悠然と仕事をこなしていた。
 午後になると、時々俺の部まで顔を出しに来る人間が出て来た。

 「石神先生! 動画楽しいですよ!」
 「動画?」

 俺はナースが持っていたスマホでその「動画」を見せてもらった。
 俺の電子チョコが10000個ごとに、専用サイトに俺の「動画」が増えているのだと言う。
 一部はCGで作ったようだった。

 《ファイル0001:俺がスーツ姿でみなさんにお礼を言う(CG)》
 《ファイル0002:部屋の俺のデスクで瞑想(睡眠)中の俺(実写)》
 《ファイル0003:響子を膝に乗せている(響子8歳:実写)》
 《ファイル0004;山岸を鍛え上げた一連の動画(CG)》
 《ファイル0005:小児科の入院患者のためのライブ(一部メイキングあり:実写)》
 《ファイル0006:橘弥生とのセッション(門土との思い出部分はCG)》
 《ファイル0007:虎「レイ」との思い出(CG・最後の全裸部分はモザイクあり)》
 《ファイル0008:子どもたちとの食事風景(肉饗宴:日本舞踊あり)》
 《ファイル0009:ミユキとの思い出(CG)》
 《ファイル0010:小学6年生の「ソーシャルダンス」ワルツの思い出(CG)》
 《ファイル0011:佳苗さんの救出と、宇留間襲撃(CG)》
 
 
 現在11万を超えているので、相当な数の俺の「プロフィール」が晒されている。
 流石に「業」や「花岡」などに関わるものはないが。

 「あんだ、こりゃ」

 あまり晒されたくないものもあったが、この短期間によくここまで作ったと思った。
 うちの子どもたちからの提供もあるようだが、CGで作り込んだ動画は見事な物だった。

 執刀を終えた一江を呼んだ。

 「お前、俺の動画ってまだあるんだよな?」
 「はい!」
 「一応聞かせておいてくれ」

 一江から説明を受け、幾つかマズイものは止めた。
 替わりがあるということで、そちらは許可した。
 一応、俺以外は全て偽名になっている。

 「お前、よくCGなんて作ったな」
 「頑張りましたよー! まあ、「セラフィム」がいたから出来たんですけどね」
 「そうかよ」

 俺自身は恥ずかしかったが、一江の努力と見事さは素直に褒めた。

 「まあ、そろそろ終わるだろう」
 「エヘヘヘヘ」

 一江を仕事に戻した。
 午後の1時であり、3時には終了する。
 既に15万を超えているので、流石にここまでだろう。





 4時に秘書課の二人がニコニコして俺の所へ来た。

 「やりましたね、石神先生!」
 「なに?」

 タブレットで集計結果を見せてくれた。

 「一江さんが頑張りましたからねぇ。100万個を超えましたよ!」
 「なんだと!」

 全然見ていなかった。

 「今回は「家族・親族・友人」まで広げましたからね!」
 「何やってんだ」
 「石神先生の動画がポイントでしたよ! あれで石神先生を知らない人たちも大勢応募してくれて!」
 「いらねぇよ」

 まあ、秘書課の二人は単純に数字の伸びを楽しんだだけだ。
 俺も実害はそれほど無いのでどうでもいい。

 響子の部屋へ行くと、六花と俺の動画を楽しんでいた。

 「南ちゃんとのクリスマスもありましたね!」
 「あれ、私たちが最初に聞いたんだよね!」

 カワイイ響子の頭を撫でた。




 家に帰ると、子どもたちがニコニコして俺を出迎えた。
 食事の後で、酒を飲みながらみんなで一江の動画を見た。

 《ファイル0101:100万突破! スペシャル映像!》

 最後に俺の知らない動画があった。

 全裸で子どもたちと「ヒモダンス」を踊っていた。
 もちろん、全員モザイクで隠されている。
 俺以外は顔にもモザイクがかかっている。

 


 みんなで爆笑して観た。   
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