富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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御堂、衆院選 大渕教授 Ⅱ

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 大渕教授との対談を終え、時間は夜の9時半になっていた。
 三人とも食事もせずに、夢中で話し合っていた。

 俺は大渕教授をレ・セゾンでの食事に誘った。

 「宜しいのですか?」
 
 流石に頭の回転が速い。
 食事をするからには、俺の顔を覆ったマスクを外すということだと分かっている。

 「もちろんです。大渕教授には全面的な信頼を抱きました」
 「それでしたら是非!」

 俺は御堂に先に向かってもらい、密かに用意した部屋で着替えてレ・セゾンに入った。
 個室を用意していたので、案内してもらう。
 俺が部屋へ入ると、大渕教授が立ち上がって握手を求めて来た。

 「お顔を拝見出来て光栄です!」
 「石神高虎です。先ほどは失礼致しました」
 「石神高虎!」

 驚く大渕教授を席に座らせた。
 メニューを見て、俺はコースに近いような料理を注文する。
 但し、ア・ラ・カルトも多めに頼んだので、出す順番は任せた。
 ウェイターが去ると、大渕教授が早速俺に尋ねて来た。

 「私は石神高虎という名前を知っています。日本の暴力団組織を驚くほどの早さで掌握したという」
 「あれは最初は単なる御堂のための票田のつもりだったんですけどね。でも、次第にヤクザ組織の改革に乗り出した次第で」
 「はい、表の顔というよりも、根底から変わりつつありますね」
 「ええ。でもやはり反発も多くて。組織を飛び出して新たな組を立ち上げる連中もいます。まあ、そちらは基本的に放置ですが」
 「石神さんは「虎」の軍では、どのようなお立場かお聞きしていいですか?」

 俺は御堂の顔を見て頷いた。

 「大渕さん。石神が「虎」の軍のトップなんですよ」
 「やはり!」
 
 前菜が運ばれ、俺たちは一時中断した。
 
 「食べながら話しましょう。大渕教授には我々のことを大分話しても良さそうだ」
 「ありがとうございます! もちろん、ここでのお話は口外致しません」

 信頼出来る約束だった。

 「大渕教授は「業」のことをどこまで御存知ですか?」
 「はい、その点では世間一般のことしか。世界を破滅させる恐ろしいテロリストと」
 「その通りなのですが、「業」は妖魔と合体した存在なんです」
 「妖魔?」
 「信じられないでしょうが、妖魔は実在します。ある家系は恐ろしく古くから妖魔を使役する研究と技を磨いて来ました」
 「そのような家系が……」
 「実際にご覧になった方が早いでしょう」
 「え?」

 俺はタマを呼んだ。

 「タマ、出て来い」
 
 テーブルの脇に着物姿の美しい女性のタマが現われる。

 「!」
 「大渕教授、タマは人の心が読めます。試してみたいのなら、何でも御自分のことで質問して下さい」
 「それでは! あの、僕の家の仕事のデスクの2番目に、ある重要な書類が入っています。その内容が分かりますか?」
 「奥方と子どもたちへの遺言のことか? 内容も全て分かるが」
 「なんと!」
 「話せばいいのか?」
 「い、いいえ! 黙っていて下さい」
 「分かった」

 俺は笑ってタマに言った。

 「おい、タマ。俺にも言う必要はないからな。お前の胸に仕舞っておけ」
 「分かった、そうしよう。主、これで良かったか」
 「ああ、十分だ。もう行ってくれ」
 「いつでも呼べ」

 タマが掻き消えた。

 「石神さん……」
 「これでご理解頂けたと思います。俺たちにも味方の妖魔がいますが、「業」にもいる。力ではこちらが優勢ですが、敵の妖魔の数がとにかく桁違いに多い。厳しい戦いですよ」
 「僕になど、お話しして良かったのですか?」
 「大渕教授は信頼出来る方と思いました。それに、出来れば俺たちに協力して頂きたいと思います」
 「是非! 僕も日本の政治を改革したいと考えていました。それに、僕などに出来ることでしたら、何でもお手伝い致します」
 「ありがとうございます」

 大渕教授は驚くほどに動揺しなかった。
 妖魔を見た瞬間は驚いていたが、実際に自分が観た物を即座に引き受けた。
 大物だ。

 「御堂、この方には全てを話すぞ」
 「分かった。石神に任せるよ」

 大渕教授は真剣な顔になる。

 「「花岡」という特殊な拳法があります。日本には三つの歴史に隠された家系があり、「花岡」は拳法で、道間家は妖魔で、そして神宮寺家はある刀を打つことで、それぞれが帝と日本を守ろうとしていました」

 俺の話を黙って聴いている。

 「俺はある切っ掛けで「花岡」の拳法に関わって、それを身に着けました。元々戦車すら破壊し、恐らく航空機もある程度は撃破出来るほどの力を持っていました」
 「それは恐ろしいですね」
 「俺はそれを更に進化させ、大陸を破壊出来るほどの技を編み出しました」
 「エェ!」
 「アメリカと敵対し、降伏させたのは、その技です」
 「まさか! あのテロ事件は「業」の仕業では無かったのですか!」
 「そうです。アメリカの陸軍とNSAが「業」に操られ、密かに非人道的な改造人間の兵士を開発していました。そして俺たちの大事な仲間の女性を拉致し、殺しました」
 「!」

 大渕教授は押し黙った。

 「俺は仲間の女性を救出するためにアメリカへ行きました。でも目の前で女性は死に、俺は復讐のために改造人間の開発と実験の基地を二つ破壊しました。その報復で俺たちを狙って来た米軍を退け、西海岸を半壊させたのです」
 「そんな……」
 「俺たちの「花岡」はアメリカ全土を破壊することも出来た。でも、米軍の中の友と、ロックハート家の友が俺を止めた。アメリカは全面降伏し、俺たちはアラスカの移譲や米軍などの運用が出来るようになった」
 「それで「虎」の軍が表に出たと言うことですね」
 「はい。もちろんこれは表には出ていないことです。密約の形で、アメリカ政府と交渉しました」
 「アラスカに巨大な基地が建造されたことは耳にしています。それですら公表されたものではないはずですが」
 「いつかご案内しますよ」
 「是非、お願いします!」

 料理を食べながら、俺たちは話し続けた。
 料理が部屋に運ばれ、片付けられる間だけ中断した。

 「では千万組や稲城会も、その「花岡」で制圧したのですか?」
 「千万組は自分たちから下に付きたいと言ってきました。千両弥太が俺を気に入ったようでして。稲城会は、まあそうですね。娘や俺を殺しに来たので、毎日幾つもの拠点を吹っ飛ばして行って」
 「アハハハハ!」
 「死人は出しませんでしたよ? でも報復も一切無かった。最初のビル爆破と本家の襲撃で、もう諦めてましたね」
 「そうですか。それを知って、神戸山王会も吉住連合も石神さんに従ったんですね」
 「そうです。まだ逆らうような組織もあるでしょうが、一切手出しはして来ませんね」
 「なるほど」

 俺は妖魔の話に戻した。

 「俺は道間家とも関わるようになりました。道間家は「業」によって血筋の全てを殺されました。ただ一人、フランスへ行っていた麗星さんだけを残して。麗星さんが当主になり、俺に接触して来ました」
 「それは石神さんと共闘するということですか?」
 「結果的には。その前に、道間家が抱えていた問題を俺たちに依頼して来ました。それ以来、俺たちは親密な協力体制にあります」
 「そうですか。そちらも非常に興味があります」
 「もう一つ、神宮寺のことです」
 「刀の家系ですね」
 「はい。それは全てのものを斬るという刀で、長い間求められた末に、完成しました。「虎王」という刀があります」
 「それを石神さんが?」
 「はい。俺の手元に来ました。元々はこの御堂の家にあったものでしたが」
 「そうなんですか!」
 
 「大渕教授。俺たちは大きな運命の中にいるようです」
 「はい!」
 「あなたも、その仲間だと俺は確信しました」
 「光栄です!」
 
 本来は閉店の時間だったが、俺たちは特別に延長してもらっている。
 俺は根幹の幾つかを話した。
 もちろん、まだ隠さねばならないことや、語り尽くせないことも多くあった。
 深夜0時まで話し続け、俺たちはまた会う約束をして別れた。
 しきりに断ろとする大渕教授をロールスロイスで家まで送った。




 「石神、大渕教授を相当信頼したんだね」
 「ああ、あの人は最高だ。本物の侍だよ」
 「そうか。お前の最高の評価だよね」
 「そうだぁ!」

 俺たちは笑った。

 「今日の大渕教授との対談は、小島将軍がセッティングしてくれたんだよ」
 「そうなのか!」
 「あの人はずっと前から俺たちに協力してくれるつもりだったんだ」
 「直接会う前からか?」
 「そうだよ。そうじゃなきゃ、あの血判状は用意してないだろう」
 「そうか!」
 「お前ともあろう人間が、迂闊だったな」
 「それはそうだ。相手が大物過ぎるからな」
 「何を言ってるんだ。これからはお前が日本の中心になるんだぞ?」
 「うーん」
 
 俺は笑って御堂の肩を叩いた。

 「しっかりしろ! 親友!」
 「ああ、そうだね」

 「明日はいよいよ街頭演説だな!」
 「街頭じゃないじゃないか!」
 「アハハハハハハ!」

 東京ドームを貸し切っての自由参加の公開演説だ。
 そんなことをした政治家はいない。
 一部の招待客の他は全て自由席で、先着順になっている。
 既に徹夜組が並んでいると聞いた。

 「ド派手にやるぞー!」
 「本当に全部やるのか?」
 「当然だぁ! 御堂の晴れ舞台だからな!」
 「ちょっと遠慮したいよ」
 「ワハハハハハハ!」

 運転している青嵐も笑っていた。

 「御堂さん、明日も頑張って下さい!」
 「おお! 青嵐と紫嵐も見ろよな!」
 「はい! 必ず!」





 いろいろと仕掛けている。
 楽しんでもらえるだろう。
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