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アラスカの山神
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話はまた少し先。
7月の上旬だ。
大変な思いをした先月の「アラスカ大運動会」の後始末が終わり、心の疵が癒えた頃。
俺は子どもたちを連れて、またアラスカへ来ていた。
「タイガーファング」を出すと大事で面倒なのだが、こいつらとは「飛行」で気軽に来れる。
以前よりもアラスカへ来る機会は増えたと思う。
何なら、来てお茶を飲んで帰れる気軽さだ。
「いらっしゃい! 今日は丁度ソロンさんが来て、またいっぱいお肉を置いて行ったの!」
栞が笑顔でそう言った。
ソロンさんは昔からアラスカに住むハンターで、大変に腕がいい。
アラスカの山や土地をよく知っており、俺のことも好いてくれてよく獲物を分けてくれるようになった。
お礼に皇紀と双子で得物運搬用のロボットを作って贈ったことが大喜びされ、ますますよく栞の所へ届けてくれるようになった。
運搬ロボットは山中でも移動できるように、6本脚の荷車のような形だ。
シンプルだが稼働音は低いし、パワーもあるので初老に差し掛かったソロンさんにはうってつけのものだった。
「これでえらい思いをして獲物を運ばなくて済むようになった」
ソロンさんは大感激で、俺たちも役に立てたことを喜んだ。
それに、長年の経験から獲物がどんどん増えていることに気付いていた。
「夢の中で山神様が仰っていてな。「虎」の方に感謝を忘れてはいけないと言われた。全ての豊穣は「虎」の方のお陰であり、いい獲物は必ず「虎」の方へ差し上げるようにとのことだった」
言われた栞は、山神様のことを聞いたそうだ。
「姿は分からん。ただ、途轍もなく大きく、アラスカの地を支配するお方じゃ」
それと、一つの伝言というか言葉を貰ったそうだ。
「「虎」の方に伝えて欲しいとのことじゃった。なんでも山神様よりももっと上の方のことだそうじゃ」
「はい」
「白からピンク。ピンクからパープル。自在の手足を備え、もう最大の幸福をもたらす。そういうことじゃった」
「なんでしょう?」
「さあ、わしにもさっぱり分からん。確かに伝えたよ」
栞が俺に伝えた。
全然、何とも、ほんの少しも、さっぱり分からんが、大いに安堵した。
しかし、あいつって……。
俺たちはソロンさんから頂いた肉を楽しく食べた。
若いムースのメスの肉で、肉自体からいい香りがした。
自分の所で熟成までこなす人らしい。
余りにも美味い肉で、塩コショウ以外は邪魔になる程だった。
みんなでその美味さを味わっていると、双子が俺に聞いて来た。
「タカさん、私たちも狩りに行ってもいい?」
「お願い!」
「お前らがかよ」
「「うん!」」
「でもなぁ」
「だって、狩人の血が騒ぐんだもん!」
遊びたいだけだろう。
それに狩人じゃねぇじゃん。
「あなた、いいじゃない」
「でもな、栞」
「ルーちゃんもハーちゃんも、危険なことなんて無いでしょう? 楽しく狩って来るだけだよ」
「でも、山は舐めちゃいけない場所だからなぁ」
「大丈夫だよ。何なら、ソロンさんと一緒にさ!」
「え! 栞もこいつらの狩は知ってるだろう!」
「あの人なら大丈夫! 「花岡」のこともちゃんと理解してるよ?」
「うーん」
俺は結局許可した。
まあ、確かに危険なこともないだろうし、ソロンさんもうちの子どもたちは好きだから、喜んでくれるかもしれない。
俺が許可すると、亜紀ちゃんと柳も行くと言った。
それならば、非常に嫌な予感もするので、皇紀も参加させた。
「僕もですかー」
「頼むよ」
「はい」
獲物は一人一頭までと決めた。
それと、あまり人前で派手な技を出すなとも。
手刀ででかい獲物の首を切り落とすのは、心臓に良くない。
次の週にも子どもたちはアラスカへ飛び、ソロンさんが山を案内してくれることになった。
俺は栞の部屋でまったりした。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「「「「「こんにちはー!」」」」」
「やあ、よく来たね! 今日はどうせだから大勢で山に入ろうと思うんだ」
ソロンさんはハンターの仲間を20人も集めていた。
まだ若い人もいて、その人たちに指導しながらということらしい。
でも、半分はソロンさんと同じか、もうちょっと下の人。
ベテランってことだろう。
ソロンさんの自宅に集合し、そこから車に分乗していく。
私たちは亜紀ちゃんの運転でハマーに乗って来た。
今頃タカさんは栞ちゃんとイチャイチャしているだろう。
ゲヘヘヘヘヘ。
「ルー、楽しみだね!」
今日は何度もハーが私にそう言ってくる。
確かにその通りだ。
私も同じ回数、ハーにそう言っている。
「私、ハンティングなんて初めて!」
「そうだったね! 柳ちゃん、キャンプに来たこと無いもんね!」
「うん! でも、キャンプでハンティングなんかしてたの?」
「そーだよ! タカさんが一緒の時はあんましだけど、私たちだけでやる時は、ハンティングの獲物が食糧なんだから」
「そーなんだ!」
柳ちゃんはよく分かって無い。
まあ、多少のことは知ってて、「花岡」で狩をすることは分かっている。
「私たちのライフルは?」
「何言ってんの! 素手に決まってるじゃん!」
「やっぱ?」
「「うん!」」
まあ、覚悟はあったようだ。
1時間後、私たちは山道の入り口に着いた。
「よーし、じゃあここから山に入るぞー! あれ、お嬢ちゃんたちはライフルは?」
ハーが笑顔で「震花」を近くの岩にぶっこんだ。
岩が爆散した。
みんな呆気に取られていたが、ソロンさんが大笑いすると、みんなも笑った。
「じゃー、準備はいいってこったな!」
全員で叫んで、山の中へ入った。
最初はみんなで一緒に歩く。
「まあ、どうせならちょっと握るか! 一番獲物が少ない奴が、ビールを奢るのな!」
みんなが笑った。
「あのー、私たち、タカさんから獲物は一人一頭だって言われてるんですけどー」
「ああ、そんなものは黙ってりゃいい! 帰りに一頭ずつ持って帰れよ。あとはうちで熟成させてから届けるさ」
「なるほどー!」
「みんな、ビールくらいは飲めるんだろ?」
「はい!」
時々タカさんに断って飲んでる。
アラスカもそろそろ暑い。
ビールは美味しそうだ。
1時間も歩くと、そろそろみんなバラけてきた。
好きな場所で道を外れて獲物を探しに行く。
ソロンさんの指示で、若い人たちは三人一組で行動した。
私たちも山は初めてなので、一緒に行くように言われた。
私たちもソロンさんに断って、林に入った。
「ハー、どう?」
「あっちにヒグマかな」
「やりー!」
体長3メートルのヒグマがいた。
「誰が行く?」
「私!」
「じゃー、亜紀ちゃんね」
亜紀ちゃんは指をボキボキ鳴らしながらヒグマに近づいて行った。
ヒグマが気付いて後ろ足で立ち上がって威嚇する。
額に白い毛で星型のマークみたいのがあった。
亜紀ちゃんは獰猛な笑顔で更に近づき、ヒグマの前足の攻撃を右手のパンチで合わせた。
ヒグマの腕がぶっ飛ぶ。
「ふん!」
続けて胸に拳を充てると、大きな穴が空いてヒグマが倒れた。
「亜紀ちゃん、やり過ぎだよ!」
「内臓を滅茶滅茶にすると、お肉が美味しくないんだよ!」
「ごめーん」
また歩き出した。
「ハー、どう?」
「あっちにカリブーの群れかな」
「やりー!」
みんなで一斉に襲った。
亜紀ちゃんがどんどん首を「龍刀」で切り落とし、私とハーも負けずに斃して行った。
柳ちゃんは目の前に来た子どものカリブーを慌てて避け、横から助けに来たらしい母親らしいカリブーの頭を砕いた。
「うわー、柳ちゃん、残酷だね」
「えーん!」
皇紀ちゃんは一際大きな角を持つ奴を斃した。
その一頭で満足していた。
亜紀ちゃんが群れの先頭に高速で回り込み、広い場所で全ての群れを狩り尽くした。
柳ちゃんが逃がそうとした子どもも、その中に入っている。
「えーん!」
丁度いいんで、みんなでお昼にした。
その後で2頭ずつ担いで、最初の車を停めた場所まで運んだ。
何往復かした。
40頭くらいかな。
その後はヒマだったので、他のみんなを探しに行った。
「ルー!」
「うん! 私も感じた!」
邪悪な気配がした。
私たちはその方向へ駆け出した。
ソロンさんと数人の若いハンターがいた。
その向こうに、8メートルほどの大きな熊がいる。
熊のサイズってよく知らないけど、異常に大きな熊だとは分かる。
ソロンさんたちは動けないでいた。
一人の若いハンターは怪我をしているようだった。
「ソロンさん!」
「嬢ちゃんたちか! こっちへ来るな!」
「どうしたんですか!」
「ケガレ神だ! 逃げろ!」
ソロンさんを置いて逃げるわけはなかった。
私たちはソロンさんたちに駆け寄った。
「なんでこっちに来るんだ! あれは人間が敵う相手じゃねぇ!」
「ケガレ神って、なんですか?」
亜紀ちゃんが聞いた。
「元は産土の神よ。多分この山を預かってた神だったんだろう。でも、堕落した。今はこの山を汚すだけのモノよ」
「でも、普通に獲物がいますよね?」
「それは、もっと大きな産土の神がこの辺まで守ってるからだろう。相当な力だよ」
「そうなんですか」
「一度だけ、大きな鷲のような神を見た。多分あれだな」
「えーと、極彩色の?」
「おお、嬢ちゃんも知ってるのか!」
「えー、まー」
間違いなくタカさんの舎弟のワキンだろう。
亜紀ちゃんが指をボキボキ鳴らしながらケガレ神に近づいた。
右目が三つ、額に並んでる。
「ふん!」
亜紀ちゃんが腹に拳をぶっこんだ。
腹が爆散し、続けて何発もぶっこむ。
「ふん! ふん! ふん! ふん!」
ケガレ神がなくなった。
なんか腐ったような臭いが周囲を漂った。
「ワハハハハハハ!」
亜紀ちゃんが拳を上に上げて嗤っていた。
みんなで拍手した。
ソロンさんたちは腰を抜かしていたので、みんなで運んだ。
駐車場まで降りて、私たちの獲物を見て、ソロンさんがまた腰を抜かした。
「こりゃ、とてもじゃないけど運べんぞ」
他のハンターたちも戻って来て、みんなが驚いていた。
他の人たちは、獲物がほとんど無かった。
みんなで積めるだけ積んで、ソロンさんの家に運ぶ。
ソロンさんは友達に頼んで、大きなトレーラーを借りてくれた。
ついでに、冷凍庫まで借りる話をつけてくれ、助かった。
ソロンさんは私たちのハマーに乗って、トレーラーを連れて行った。
「しかし驚いたな。ケガレ神を人間が斃しちゃうし、あの獲物の量もびっくりしたし」
「アハハハハハ!」
「流石は「虎」の方のお嬢さんたちだ」
「ソロンさん、これからあの山には山神はもう現われないの?」
私が聞いてみた。
「いや、それがな。わしも何度かしか見てないんだが、間違いなく新しい神が育ってるんじゃよ」
「そうなんだ! 良かったー!」
「うん。ヒグマのでっかい奴でなー。身長は3メートルを超えている」
「へぇー!」
「そしてな。神の証なんだろうけど、額に白い星のマークがあるんじゃ。スゴイじゃろ?」
「「「「「!」」」」」」
「アレがもっと成長すれば、きっといい山神になる。楽しみじゃよ!」
「「「「「……」」」」」
あたし、知らない。
亜紀ちゃんだもん。
ビールは断った。
7月の上旬だ。
大変な思いをした先月の「アラスカ大運動会」の後始末が終わり、心の疵が癒えた頃。
俺は子どもたちを連れて、またアラスカへ来ていた。
「タイガーファング」を出すと大事で面倒なのだが、こいつらとは「飛行」で気軽に来れる。
以前よりもアラスカへ来る機会は増えたと思う。
何なら、来てお茶を飲んで帰れる気軽さだ。
「いらっしゃい! 今日は丁度ソロンさんが来て、またいっぱいお肉を置いて行ったの!」
栞が笑顔でそう言った。
ソロンさんは昔からアラスカに住むハンターで、大変に腕がいい。
アラスカの山や土地をよく知っており、俺のことも好いてくれてよく獲物を分けてくれるようになった。
お礼に皇紀と双子で得物運搬用のロボットを作って贈ったことが大喜びされ、ますますよく栞の所へ届けてくれるようになった。
運搬ロボットは山中でも移動できるように、6本脚の荷車のような形だ。
シンプルだが稼働音は低いし、パワーもあるので初老に差し掛かったソロンさんにはうってつけのものだった。
「これでえらい思いをして獲物を運ばなくて済むようになった」
ソロンさんは大感激で、俺たちも役に立てたことを喜んだ。
それに、長年の経験から獲物がどんどん増えていることに気付いていた。
「夢の中で山神様が仰っていてな。「虎」の方に感謝を忘れてはいけないと言われた。全ての豊穣は「虎」の方のお陰であり、いい獲物は必ず「虎」の方へ差し上げるようにとのことだった」
言われた栞は、山神様のことを聞いたそうだ。
「姿は分からん。ただ、途轍もなく大きく、アラスカの地を支配するお方じゃ」
それと、一つの伝言というか言葉を貰ったそうだ。
「「虎」の方に伝えて欲しいとのことじゃった。なんでも山神様よりももっと上の方のことだそうじゃ」
「はい」
「白からピンク。ピンクからパープル。自在の手足を備え、もう最大の幸福をもたらす。そういうことじゃった」
「なんでしょう?」
「さあ、わしにもさっぱり分からん。確かに伝えたよ」
栞が俺に伝えた。
全然、何とも、ほんの少しも、さっぱり分からんが、大いに安堵した。
しかし、あいつって……。
俺たちはソロンさんから頂いた肉を楽しく食べた。
若いムースのメスの肉で、肉自体からいい香りがした。
自分の所で熟成までこなす人らしい。
余りにも美味い肉で、塩コショウ以外は邪魔になる程だった。
みんなでその美味さを味わっていると、双子が俺に聞いて来た。
「タカさん、私たちも狩りに行ってもいい?」
「お願い!」
「お前らがかよ」
「「うん!」」
「でもなぁ」
「だって、狩人の血が騒ぐんだもん!」
遊びたいだけだろう。
それに狩人じゃねぇじゃん。
「あなた、いいじゃない」
「でもな、栞」
「ルーちゃんもハーちゃんも、危険なことなんて無いでしょう? 楽しく狩って来るだけだよ」
「でも、山は舐めちゃいけない場所だからなぁ」
「大丈夫だよ。何なら、ソロンさんと一緒にさ!」
「え! 栞もこいつらの狩は知ってるだろう!」
「あの人なら大丈夫! 「花岡」のこともちゃんと理解してるよ?」
「うーん」
俺は結局許可した。
まあ、確かに危険なこともないだろうし、ソロンさんもうちの子どもたちは好きだから、喜んでくれるかもしれない。
俺が許可すると、亜紀ちゃんと柳も行くと言った。
それならば、非常に嫌な予感もするので、皇紀も参加させた。
「僕もですかー」
「頼むよ」
「はい」
獲物は一人一頭までと決めた。
それと、あまり人前で派手な技を出すなとも。
手刀ででかい獲物の首を切り落とすのは、心臓に良くない。
次の週にも子どもたちはアラスカへ飛び、ソロンさんが山を案内してくれることになった。
俺は栞の部屋でまったりした。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「「「「「こんにちはー!」」」」」
「やあ、よく来たね! 今日はどうせだから大勢で山に入ろうと思うんだ」
ソロンさんはハンターの仲間を20人も集めていた。
まだ若い人もいて、その人たちに指導しながらということらしい。
でも、半分はソロンさんと同じか、もうちょっと下の人。
ベテランってことだろう。
ソロンさんの自宅に集合し、そこから車に分乗していく。
私たちは亜紀ちゃんの運転でハマーに乗って来た。
今頃タカさんは栞ちゃんとイチャイチャしているだろう。
ゲヘヘヘヘヘ。
「ルー、楽しみだね!」
今日は何度もハーが私にそう言ってくる。
確かにその通りだ。
私も同じ回数、ハーにそう言っている。
「私、ハンティングなんて初めて!」
「そうだったね! 柳ちゃん、キャンプに来たこと無いもんね!」
「うん! でも、キャンプでハンティングなんかしてたの?」
「そーだよ! タカさんが一緒の時はあんましだけど、私たちだけでやる時は、ハンティングの獲物が食糧なんだから」
「そーなんだ!」
柳ちゃんはよく分かって無い。
まあ、多少のことは知ってて、「花岡」で狩をすることは分かっている。
「私たちのライフルは?」
「何言ってんの! 素手に決まってるじゃん!」
「やっぱ?」
「「うん!」」
まあ、覚悟はあったようだ。
1時間後、私たちは山道の入り口に着いた。
「よーし、じゃあここから山に入るぞー! あれ、お嬢ちゃんたちはライフルは?」
ハーが笑顔で「震花」を近くの岩にぶっこんだ。
岩が爆散した。
みんな呆気に取られていたが、ソロンさんが大笑いすると、みんなも笑った。
「じゃー、準備はいいってこったな!」
全員で叫んで、山の中へ入った。
最初はみんなで一緒に歩く。
「まあ、どうせならちょっと握るか! 一番獲物が少ない奴が、ビールを奢るのな!」
みんなが笑った。
「あのー、私たち、タカさんから獲物は一人一頭だって言われてるんですけどー」
「ああ、そんなものは黙ってりゃいい! 帰りに一頭ずつ持って帰れよ。あとはうちで熟成させてから届けるさ」
「なるほどー!」
「みんな、ビールくらいは飲めるんだろ?」
「はい!」
時々タカさんに断って飲んでる。
アラスカもそろそろ暑い。
ビールは美味しそうだ。
1時間も歩くと、そろそろみんなバラけてきた。
好きな場所で道を外れて獲物を探しに行く。
ソロンさんの指示で、若い人たちは三人一組で行動した。
私たちも山は初めてなので、一緒に行くように言われた。
私たちもソロンさんに断って、林に入った。
「ハー、どう?」
「あっちにヒグマかな」
「やりー!」
体長3メートルのヒグマがいた。
「誰が行く?」
「私!」
「じゃー、亜紀ちゃんね」
亜紀ちゃんは指をボキボキ鳴らしながらヒグマに近づいて行った。
ヒグマが気付いて後ろ足で立ち上がって威嚇する。
額に白い毛で星型のマークみたいのがあった。
亜紀ちゃんは獰猛な笑顔で更に近づき、ヒグマの前足の攻撃を右手のパンチで合わせた。
ヒグマの腕がぶっ飛ぶ。
「ふん!」
続けて胸に拳を充てると、大きな穴が空いてヒグマが倒れた。
「亜紀ちゃん、やり過ぎだよ!」
「内臓を滅茶滅茶にすると、お肉が美味しくないんだよ!」
「ごめーん」
また歩き出した。
「ハー、どう?」
「あっちにカリブーの群れかな」
「やりー!」
みんなで一斉に襲った。
亜紀ちゃんがどんどん首を「龍刀」で切り落とし、私とハーも負けずに斃して行った。
柳ちゃんは目の前に来た子どものカリブーを慌てて避け、横から助けに来たらしい母親らしいカリブーの頭を砕いた。
「うわー、柳ちゃん、残酷だね」
「えーん!」
皇紀ちゃんは一際大きな角を持つ奴を斃した。
その一頭で満足していた。
亜紀ちゃんが群れの先頭に高速で回り込み、広い場所で全ての群れを狩り尽くした。
柳ちゃんが逃がそうとした子どもも、その中に入っている。
「えーん!」
丁度いいんで、みんなでお昼にした。
その後で2頭ずつ担いで、最初の車を停めた場所まで運んだ。
何往復かした。
40頭くらいかな。
その後はヒマだったので、他のみんなを探しに行った。
「ルー!」
「うん! 私も感じた!」
邪悪な気配がした。
私たちはその方向へ駆け出した。
ソロンさんと数人の若いハンターがいた。
その向こうに、8メートルほどの大きな熊がいる。
熊のサイズってよく知らないけど、異常に大きな熊だとは分かる。
ソロンさんたちは動けないでいた。
一人の若いハンターは怪我をしているようだった。
「ソロンさん!」
「嬢ちゃんたちか! こっちへ来るな!」
「どうしたんですか!」
「ケガレ神だ! 逃げろ!」
ソロンさんを置いて逃げるわけはなかった。
私たちはソロンさんたちに駆け寄った。
「なんでこっちに来るんだ! あれは人間が敵う相手じゃねぇ!」
「ケガレ神って、なんですか?」
亜紀ちゃんが聞いた。
「元は産土の神よ。多分この山を預かってた神だったんだろう。でも、堕落した。今はこの山を汚すだけのモノよ」
「でも、普通に獲物がいますよね?」
「それは、もっと大きな産土の神がこの辺まで守ってるからだろう。相当な力だよ」
「そうなんですか」
「一度だけ、大きな鷲のような神を見た。多分あれだな」
「えーと、極彩色の?」
「おお、嬢ちゃんも知ってるのか!」
「えー、まー」
間違いなくタカさんの舎弟のワキンだろう。
亜紀ちゃんが指をボキボキ鳴らしながらケガレ神に近づいた。
右目が三つ、額に並んでる。
「ふん!」
亜紀ちゃんが腹に拳をぶっこんだ。
腹が爆散し、続けて何発もぶっこむ。
「ふん! ふん! ふん! ふん!」
ケガレ神がなくなった。
なんか腐ったような臭いが周囲を漂った。
「ワハハハハハハ!」
亜紀ちゃんが拳を上に上げて嗤っていた。
みんなで拍手した。
ソロンさんたちは腰を抜かしていたので、みんなで運んだ。
駐車場まで降りて、私たちの獲物を見て、ソロンさんがまた腰を抜かした。
「こりゃ、とてもじゃないけど運べんぞ」
他のハンターたちも戻って来て、みんなが驚いていた。
他の人たちは、獲物がほとんど無かった。
みんなで積めるだけ積んで、ソロンさんの家に運ぶ。
ソロンさんは友達に頼んで、大きなトレーラーを借りてくれた。
ついでに、冷凍庫まで借りる話をつけてくれ、助かった。
ソロンさんは私たちのハマーに乗って、トレーラーを連れて行った。
「しかし驚いたな。ケガレ神を人間が斃しちゃうし、あの獲物の量もびっくりしたし」
「アハハハハハ!」
「流石は「虎」の方のお嬢さんたちだ」
「ソロンさん、これからあの山には山神はもう現われないの?」
私が聞いてみた。
「いや、それがな。わしも何度かしか見てないんだが、間違いなく新しい神が育ってるんじゃよ」
「そうなんだ! 良かったー!」
「うん。ヒグマのでっかい奴でなー。身長は3メートルを超えている」
「へぇー!」
「そしてな。神の証なんだろうけど、額に白い星のマークがあるんじゃ。スゴイじゃろ?」
「「「「「!」」」」」」
「アレがもっと成長すれば、きっといい山神になる。楽しみじゃよ!」
「「「「「……」」」」」
あたし、知らない。
亜紀ちゃんだもん。
ビールは断った。
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