富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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六花 出産間際

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 翌日の水曜日の夕方。
 警察から「日本一新会」の主だった人間が国内でテロを企んでいたことが発表され、マスコミは狂乱状態だった。
 春日部の「愛国義兵団」の本部は妖魔案件であったために、早乙女の「アドヴェロス」が捜査した。
 もちろん、俺から早乙女に情報は回している。

 「虎」の軍が未然に防ぎ、春日部でテロ組織による大規模な破壊があったこともマスコミに流れた。
 春日部での死者は49人。
 負傷者はゼロ。
 射線上にあった家屋の住民は、全員一瞬で蒸発して即死だった。
 遺体が無いので、これから更に死者の数は増えるのかもしれない。

 テロ組織のこと以上に、国政に関わる野党第一党の代表と幹部たちによるテロ計画ということが、マスコミを賑わした。
 自首して逮捕された6人は「業」と繋がっており、日本中が衝撃を受けた。

 御堂もマスコミに対して重大かつ許しがたい事件として、徹底的に調査することを約束した。
 「日本一新会」の人間は何も知らされておらず、自分たちの無実を主張した。
 しかし、もうそういう段階では無かった。
 保身のために右往左往する「日本一新会」に対し、マスコミ各社は盛大なバッシングを行なった。
 「日本一新会」は党の解散を宣言した。

 一方で元指定暴力団、現・千万グループがテロの情報を掴んでから「虎」の軍に協力して、テロを防いだことがマスコミによって明るみに出た。
 そのことで、代表の千両弥太が記者会見をした。

 「自分たちは、日本人のために当たり前のことをしたまでです」

 その報道はまたマスコミ各社を流れ、ネットでも大々的に拡散して行った。
 報道番組のコメンテーターが千両たちが如何に危険を冒してまでやったのかを解説し、一層千万グループへの評価が高まった。
 
 もちろん、俺の仕込みだ。

 「よう、千両!」
 「石神さん」
 「テレビでお前を観たぞ!」
 「そうですか」
 「なんだよ、ちょっと緊張してたな!」
 「はい、お恥ずかしい限りです」

 動揺が無く、からかい甲斐がない。

 「金曜日から予定は大丈夫だな?」
 「はい。お手数をお掛けしますが、宜しくお願いします」
 「おう!」

 金曜日の昼から、千両と桜をアラスカへ連れて行く。
 前から思っていたことだが、東雲や月岡たちをずっと俺の下で働かせている。
 また、多くの千万組の人間もアラスカにいる。
 一度千両と桜に合わせてやりたかった。
 今回の事件の褒美だなどとは言っているが、やっと実現してやれる。
 
 「タイガー・ファング」で、蓮花研究所から出発する予定だった。
 だから、斬と蓮花も連れて行くことにした。
 蓮花が大喜びした。

 「何を着て行きましょうか!」
 「お前はいつも一緒だろう!」
 「オホホホホホ!」

 ジェシカも誘ったが、蓮花がいない間の研究所の切り盛りで残らなければならないらしい。
 まあ、また機会もある。

 「タカさん! わたしもー!」
 「「わたしたちもー!」」
 「わ、わたしもー!」

 子どもたちが同行したがった。

 「今回はぶっ殺しはねぇからいらない」

 子どもたちが俺から離れてコソコソ言っていた。

 「タカさんに騙された」
 「もう、私たちの身体には興味がないんだよ」
 「ちょっと、散々見せ過ぎたよね」
 「アラスカで結ばれようと思ったのに」

 どうでもいい。




 俺は金曜日の早朝に出発した。
 六花の所へ顔を出そうと思っていたためだ。
 もう、いつ出産してもおかしくない。

 「紅六花ビル」に、朝の9時半に着いた。
 連中にはすぐに出るので、出迎えは必要無いと言っておいた。
 それでも、50人近くが集まっていた。

 「おい」
 「いいえ! 毎日これくらい来てるんですよ!」
 
 タケが恐縮して俺に言った。

 「何しろ、総長のご出産ですからね! みんな楽しみで集まっちゃうんです」
 「仕事はどうした」
 「そんなもの!」

 タケの頭を引っぱたいた。
 タケは笑っていた。 

 「無理ですって。私らは本当に楽しみなんですから」
 「しょうがねぇな」

 俺が上に上がると、六花がベッドで上体を起こして本を読んでいた。

 「石神先生!」
 「おう!」

 俺から近寄って、六花を抱き締める。

 「お前、ちょっと太ったんじゃねぇのか?」
 「そうですか!」

 まあ、想像はつく。
 みんなから「栄養のあるもの」といろいろもらって喰わされるんだろう。
 不味い程ではもちろんない。

 「本当にもうすぐだな」
 「はい!」

 六花には不安も無さそうだった。
 子どもの命を信じている。

 「前から言っているけど、出産には立ち会えないからな」
 「はい。大丈夫ですよ」
 「予定日の27日は木曜日か」
 「そうですね!」

 家族のいない六花だったが、これだけ大勢の人間に囲まれているのだ。
 大丈夫だろう。

 「あ! 出産をビデオに撮っておきましょうか!」
 「いいよ!」
 「そう言えば、そういうプレイはしたことないですね!」
 「そうだったな!」

 俺たちは笑った。

 「生まれたら、なるべく早く来る」
 「はい!」

 俺は六花が読んでいた本を見た。
 育児書だ。
 ベッド脇のテーブルには、他の育児書や関連書が数多くある。

 「勉強熱心なのはいいけどな。でも、一番重要なことは、子どもに愛情をたっぷり注いでやることだ」
 「はい!」
 「まあ、その点、六花には1ミリも不安は無いけどな!」
 「はい!」

 「じゃあ、そろそろ行くな」
 「え! もう行っちゃうんですか!」
 「この後で、千両たちをアラスカへ連れて行くんだよ」
 「軽くヤっときません?」
 「ばか!」

 俺は六花にキスをした。
 部屋の隅には、たくさんのベビー服が積み上がっている。
 「紅六花」の連中が持って来るのだろう。
 ベビーベッドもあれば、おもちゃもたくさんある。
 他の部屋にもあるし、ベビーカーはフェラーリだった。




 俺は一通り見て部屋を出た。
 もう一人の子どものことを考えていた。 
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