富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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大阪へ

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 8月中旬。
 俺は夏休みを取った。
 今年は2週間の長期休暇で、そのせいで一江と大森は3日ずつしか休みが取れなくなった。

 「悪いな」
 「全然思ってないでしょう?」
 「まあな」

 一江が不貞腐れた顔をしたが、笑った。

 「部長がいろいろ忙しいのは知ってますからね」
 「俺はまだ医者なんだけどな」

 一江が一瞬真面目な顔をして俺を見た。

 「ずっと医者をして下さいよ」
 「そうだな」

 休み前の最後の15日の金曜日の夕方。
 俺は先に上がり、廊下の端で部下たちに頭を下げて帰った。
 




 明日から風花の所へ行き、大阪で本格的な防衛システムを構築する準備と、六花と吹雪を風花に見せる予定だ。
 俺と六花、吹雪、そしてよしこ、皇紀とロボを連れて行く。
 亜紀ちゃんたちは「カタ研」の連中と青森に合宿に行く。
 青森での防衛システムの拠点を視察する目的もある。
 お互いに二泊の予定だった。
 俺たちは京都の道間家でもう一泊するが。
 その他にもアラスカとニューヨーク、蓮花研究所、御堂家などという、俺たちの重要な拠点がある。
 これから本格的に忙しくなって行く。
 別荘にも行きたいが、今年は確定の予定には入れていない。
 全ての用事が済んだら行こうということになっている。

 金曜の晩に、俺と亜紀ちゃん、柳で酒を飲んだ。

 「明日からタカさんとは別行動ですね」
 「お前ら、あんまりハッチャケるなよな」
 「大丈夫ですよー!」
 「青森にはスパイダーマンはいねぇからな!」
 「あ、そうだったか!」

 亜紀ちゃんの頭を引っぱたく。

 「おい、柳。大丈夫だろうなぁ」
 「アハハハハハ!」

 柳が笑っている。
 もう、すっかり石神家の毒に冒されている。

 「大阪は響子ちゃんも行けるんですよね?」
 「ああ。どうしようかとも思ったんだけどな。よしこがリムジンを運転してくれることになったから。何とかな」
 「楽しそうですね」
 「お前らも楽しんで来いよ。暴れないでな!」
 「「アハハハハハハ!」」

 「木村にいろいろ頼んどいたから。宿や食事の手配なんかもな。お前らの食事の説明が大変だったぞ」
 
 二人が爆笑する。

 「佐藤先輩にも連絡してもらえました?」
 「ああ。時間を作ってくれるそうだよ。でも別にお前らが会ってもしょうがないだろう」
 「ダメですよ! 絶対に会いたい人なんですから!」
 「そうかよ。まあ宜しく伝えてくれ。また絶対に俺が会いに行くからってな」
 「はい!」

 亜紀ちゃんと柳は唐揚げをばくばく食べている。

 「みんな車で行くんだろう?」
 「はい」
 「運転は大丈夫か? 結構な距離だぞ」
 「私と柳さんで交代で。坂上さんと上坂さんも交代で運転しますから大丈夫ですよ」
 「まあ、お前らはともかく、普通の人がいるんだから気を付けてな」
 「「はい!」」

 亜紀ちゃんと柳はたこ焼きをばくばく食べている。

 「おい」
 「はい?」
 「お前らが泊まるのは星野リゾートのホテルなんだ。そうやって気軽に飯が食えるわけじゃないからな」
 「分かってますよ! アンシェントホテルと同じですよね?」

 亜紀ちゃんは以前に泊ったホテルの名前を挙げた。

 「そうだ。ああ、佐藤先輩と木村が一日目の夜に行ってくれるそうだから、歓迎してくれな」
 「わかりましたぁー!」
 「あんまりお前らに飲ませないように頼んではいるけどな。多分潰されるからな」
 「アハハハハハハ!」

 どこで飲むのかは知らん。
 まあ、木村が手配してくれるだろう。
 俺も折角楽しみにしている旅行に説教ばかり言いたくはない。
 「堕乱我」狩りの話などをして、二人を笑わせて解散した。




 翌日の土曜日朝7時。
 俺は皇紀とリムジンに乗り、出発した。
 亜紀ちゃんたちは既に出ている。
 ロボは後ろの広い空間で喜んでいる。
 皇紀が助手席に座っていた。

 「早く風花に会いたいだろう!」
 「アハハハハハ!」

 皇紀は15歳だが、この数か月でぐんぐん大人びて来ていた。
 もう仕事を始め、自分の責任を全力で果たそうとしているからだ。
 親に甘えている同年代の子どもとは違う。
 別に甘えるのが悪いわけではないが、昔の人間が同じ頃にはもう「成人」していたことを思うと、それもよく分かる。
 子どもというのは環境で子どもでいるだけだ。
 人間はいつだって人間なのだ。

 「ちゃんと夜は一緒にいさせてやるからな」
 「いいですよ!」
 「道具は持って来ているな?」
 「何もないですよ!」
 「なんだよ。じゃあ、六花からちょっと借りてやるよ」
 「いいですって!」

 下らない話をしているうちに、病院に着いた。
 資材搬入用の駐車場に向かう。
 響子の部屋には、もう六花とよしこが来ていた。
 吹雪が俺を見て手を伸ばして来るので、握ってやった。
 額にキスをする。

 「響子の準備は大丈夫か?」
 「はい! 歯を磨いてからまた寝てますが」
 「こいつとロボはいつも寝てるからなぁ」
 「アハハハハハ!」
 「よしこ、運転を頼むな。俺も替わるから」
 「大丈夫ですよ。大型は慣れてますから」
 「そうか。でも長距離だからな。俺も運転するよ」
 「はい!」

 俺が響子を抱いて出た。
 皇紀とよしこがみんなの荷物を持つ。

 リムジンに入り、皇紀が荷物を固定し、よしこに操縦を教える。

 「トラックと同じ感覚だけどな。車高が低いから気を付けてな」
 「はい」
 「しばらく俺が隣に座るから」
 「すいません」

 響子と吹雪が今日のために用意した簡易ベッドに寝かされ、身体に薄掛けを掛けられてハーネスで緩く固定される。
 六花が二人の前に座り、皇紀はその向かいのシートに座った。
 ロボは吹雪と響子の間に入って一緒に横になる。
 よしこが静かに車を動かした。
 問題無さそうだ。

 みんな食事をしていなかったので、東名高速に乗ったところで最初の海老名サービスエリアに寄った。
 響子も起きて着替えた。
 みんなで食事をする。 
 響子はつくねの串を見つけて喜んで食べた。
 他の人間はおにぎりを食べる。

 「タカトラ! 美味しいよ!」
 「良かったな! 俺が準備した甲斐があるよ」
 「えー、ウソだよ!」
 「お前、ほんとうに騙されなくなったな」
 「もう!」

 みんなが笑った。
 六花がソフトクリームが食べたいと言い、みんなで買う。
 響子はちょっとだけだ。
 六花にもらって喜んでいた。

 皇紀が助手席に座って出発した。
 六花が吹雪に授乳するためだ。
 俺はロボに焙ったエンガワを食べさせた。

 「六花も横になってろよ。まだ先は長いからな」
 「大丈夫ですよ」

 響子が六花の隣でニコニコして吹雪が母乳を飲むのを見ていた。

 「お前もちょっと飲むか?」
 「え、いいよ!」
 「なんだよ、遠慮すんなよ」
 「子どもじゃないもん!」

 「石神先生は一番オッパイを飲みましたよね」
 「おい!」
 「タカトラのエッチ!」
 「違うって!」

 六花が笑っていた。

 「石神先生はお母様が大好きでしたから」
 「あー、そっか」
 「思い出していただきたかったんです」
 「もうやめろって!」

 六花と響子が笑った。

 「吹雪は二番オッパイです」
 「おい」

 六花が何を言いたいのか分かっている。
 最愛の吹雪の上に、俺を置いている。

 「じゃあ、響子は0番な!」
 「なによ、それ!」
 
 みんなで笑った。




 俺は全員を守ってやる。
 誓いを新たにした。
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