富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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暁園へ

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 響子と吹雪を上で寝かせた。
 今晩は遅くまで起きるだろうから、ゆっくりと休ませる。

 「お前はどうする?」
 
 ロボに聞いた。
 俺とベッドの響子たちを見ていたが、俺の足元に来る。

 「おし! じゃあ行くか!」
 「にゃぁ!」

 「暁園」に出掛けた。

 


 ハマーによしこと数人を乗せて向かう。
 
 「石神さん、子どもたちが本当に元気で」
 「そうか!」
 「「花岡」も自分たちでどんどん習いたいって。竹流が群を抜いてますが、他の子どもたちも結構やるようになりましたよ」
 「どこまで教えるのかは、お前たちに任せるからな。あの子どもたちなら、上級まで覚えても問題ないだろう」
 「はい!」

 アラスカでは多くの人間が上級の「花岡」を習得している。
 希望があれば、戦士でない人間にも教えている。
 千石の特殊能力もあるが、基本的には双子が数学的に解析したことが大きい。
 千石は更に、才能の無い人間にも与えることが出来る。
 「槍雷」までは、誰でも頑張れば覚えられる。
 諸見もそうだった。
 千石が、その先の技も教えることが出来るようになったので、諸見も上級の技を習得した。
 そうなれば、戦場でも自分の身を護れるだろう。
 以前に響子が諸見が上級技を習得したことを知った時、大泣きしていた。
 何がそこまで響子の心を揺さぶったのかは分からない。
 多分、「先読み」で諸見の何かを見たのではないかと思った。
 それは、俺の感覚でもあった。
 何か、俺の周囲が変わったという感覚があった。
 誰にも話せなかったが、以前とは運命の行き先が違って来たような気がする。
 どういうことかは自分でも分からなかったが。

 俺は「暁園」の子どもたちには運動の一環として「花岡」を教えるつもりだっただけだ。
 戦士にするつもりなど、全く無い。
 竹流にしても、あいつを戦場に出すことは絶対に無い。
 俺はそう決めている。
 しかし、自衛のための技はどんどん習得させてもいいだろう。
 あそこには亜蘭がいるし、「紅六花」の連中もいざとなれば駆けつけてくれるだろう。
 そうであっても、子どもたち自身が身を護れることはいいことだ。
 ろくでもない俺の運命に巻き込んでしまっている。
 
 「石神さん、見えましたよ」
 「ああ」

 門を亜蘭が開いてくれる。
 ここには「養護施設」や「孤児院」という表記は無い。
 ただ、《紅六花「暁園」》とだけ門に掲げている。
 「暁園」の家族の住む場所だという意味だ。
 ハマーを中へ入れ、俺たちは降りた。
 玄関に子どもたちが集まって挨拶をしてきた。

 「また来たぞ! みんないい顔だな!」
 『はい!』

 全員が元気に返事をする。
 ロボが子どもたちに駆け寄り、みんなが喜んだ。
 人数が増えて、ここには41人の子どもがいる。
 経営が厳しくなった他の養護施設から、新たに受け入れたりもしている。
 悲しいことだが、今は親に頼れない事情の子どもが多くなっている。
 昔のように親戚付き合いも無い家庭も多い。
 
 食堂に行き、みんなでおやつを食べた。
 キハチのバウムクーヘンを買って来てある。
 よしこがさっそくカットしようとするので、俺が止めた。
 子どもたちにも見るように言う。

 「いいか! バウムクーヘンは切り方があるんだ」

 多くあるので、一部を縦にカットして見せた。
 そして別に、上から削ぐようにカットしていく。
 
 「よしこ、食べ比べてみろ」

 最初に扇形にカットしたものを口にする。
 次に、削ぎ切りにしたものを食べる。

 「!」

 驚いている。

 「お前! 黙ってないで説明しろ!」

 みんなが笑った。

 「全然違いますよ! 最初のはいつもの美味しさなんですが、削いで切った方は口の中で溶けるようで、甘さといい香りが拡がっていきます!」
 「おう、なかなかいい食レポだな!」

 また子どもたちが笑った。
 六花が隣で腕を組んでうなずいている。

 「同じものでも、切り方一つで全然違うこともあるんだ。バウムクーヘンもそうだ。削いでやることで、空気の層を潰さないで本来の美味さを味わえるんだな。まあ、沢山あるから両方の切り方で比べてみろよ」

 美味しいものだけでは分からない感動がある。
 不味いものを食べることで、人間は美味いものに感動出来るのだ。

 亜紀ちゃんと双子がカットしていき、2種類のバウムクーヘンを皿に乗せて行く。
 子どもたちが嬉しそうに皿を受け取って行く。
 柳がミルクティを注いで回った。

 「よし、全員配ったな! じゃあ、いただきます!」
 『いただきます!』

 子どもたちが楽しそうに食べ比べをしていく。
 確かに味が違うので、みんな驚き、喜んでいた。
 ちょっとしたことで美味さが変わることを体験し、子どもたちが興奮している。
 亜紀ちゃんがニコニコしてよしこの傍に座る。

 「私たちも、前にタカさんに怒鳴られたんですよ」
 「そうなんだ!」
 「バウムクーヘンの食べ方も知らないのかって。それが御堂さんから貰ったものだったんで」
 「ああ! そりゃ怒鳴られるな!」
 「アハハハハハ!」

 女の子たちが六花の傍に来て、吹雪を見せて欲しいと頼んでいた。
 六花は喜んで、スマホで吹雪の写真を見せてやる。
 みんな「カワイイ」と大騒ぎだった。

 おやつを食べて、子どもたちと遊んだ。

 《紅白対抗バトル玉入れ》

 普通の玉入れに加え、玉を投げて当てられたら10秒動けない。
 カゴに玉を入れつつ、敵を動けなくする要素が加わる。
 玉は発泡スチロール製なので当たっても痛くはない。
 飛距離も伸びない。
 子どもたちは夢中で楽しんだ。

 希望者は俺と組み手をし、ロボと鬼ごっこをする子どもたちもいる。
 1時間ほど楽しんだ。

 「じゃあ、また後でな!」

 今日は子どもたちも一緒に「弱肉強食」で食事をする。
 亜蘭が車まで俺たちに付いて来た。

 「亜蘭、みんないい子だな」
 「はい!」
 「お前が愛情をもって面倒を見ているのがわかるよ」
 「いえ、僕なんてそんな!」
 「分かるって。みんな幸せそうだ。自分の人生に不安を抱いている子どもは一人もいない」
 「まあ、みんないい子なんですよ」
 「普通の家庭だって、ああは行かないぞ。みんな、ここにいて大丈夫だと分かっている。だからあんなに幸せそうなんだよ」
 「そうですかね。まあ、ここにいれば大丈夫っていうのは本当ですけどね!」
 「お前がいるからな」
 「頑張りますよ!」

 よしこが嬉しそうに笑い、亜蘭の手を握った。
 亜蘭が我慢しているが、よしこは気付かない。

 「じゃあ、後で子どもたちを連れて来てくれな」
 「はい!」

 よしこが残って、2台のマイクロバスで子どもたちと来る。
 俺たちはハマーで帰った。
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