富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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皇紀 行方不明

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 ようやく地獄の岩手から戻って来た。
 土曜日の夜になっていた。
 途中で家に電話をし、双子の夕食と俺には野菜カレーを作っておくように頼んだ。
 8時に家に着き、三人で食事をする。
 双子は豚の生姜焼き(大量)、俺は野菜カレー。
 俺の分は別途頼んだのに、何故かカレーは一杯しかなかった。
 石神家の呪いを見た。

 「タカさん! 昨夜の『虎は孤高に』も最高でしたよ!」

 亜紀ちゃんが早速俺に話しかけてくる。
 一緒に観ようと誘われるが、もう俺は体力気力共に限界だった。

 「悪い、今日はすぐに寝るわ」
 「えぇー!」

 俺が食べている間に、それでも話してくる。
 保奈美との思い出が中心だったようだ。
 流石にセックスのシーンは無かったようだが、俺と保奈美との「純愛」が綴られていたらしい。
 
 「タカさんと一緒に言った、野辺山の月見草の花畑が出てきましたよ!」
 「ほんとか!」
 「はい! 多分、まだあそこにあるんじゃないでしょうか?」
 「そうかぁ」
 
 懐かしく思い出した。
 皇紀は亜紀ちゃんの強制でフィリピンに行っていた間の回をすべて見せられ(もちろん亜紀ちゃんも一緒)、昨夜はそのまま最新話を一緒に観たようだ。

 「相変わらずお姉ちゃんが凄いですね」
 「ワハハハハハハ!」

 亜紀ちゃんが大笑いしていた。

 「あ、そうだ! 忘れてたよ!」

 ルーが生姜焼きを頬張りながら言った。

 「皇紀ちゃん、後でラペルピン貸してね」
 「ん?」
 「ほら、出かける前につけてあげたじゃん」
 「あ、ああ」
 「あれ、毎日付けてくれてたでしょうね!」
 「うん」
 「じゃあ、後でね!」
 
 皇紀がキョトンとしている。
 俺も覚えがある。
 記録用に双子が渡したものだ。
 他の人間に気付かれないように、ラペルピンの形にしていた。
 ラペルピン自体もシンプルな仮面の形をしていて、結構品が良かった。

 「あれって、僕にくれたんじゃないの?」
 「データを抜いたらあげる」
 「データ?」
 「超小型のカメラで全部録画してたからね」
 「エェー!」
 「なーに?」
 「聞いてないよ!」
 
 双子も驚く。

 「あれ、ハー?」
 「私、ルーが言ってるものだと思ったもん」
 「なんだー。そっか。まあいいや」
 「全然良くないよ!」
 「だってさ、いろんな候補地を見に行ったんだし、戦闘の記録も必要じゃん」
 「それは!」
 
 皇紀が何故か激しく動揺しており、双子が訝しがった。
 皇紀の顔がみるみる青ざめて行った。

 「皇紀ちゃん、なんかヘンだよ?」
 「何か隠してる?」
 「そ、そんなことないよ!」
 「「ふーん」」

 双子が一気に皿の生姜焼きを口に入れ、ダッシュで皇紀の部屋へ向かった。

 「あー! ちょっとぉー!」

 皇紀も気付いて慌てて追い掛ける。
 俺も状況がさっぱり分からず、亜紀ちゃんに聞いた。

 「なんだ?」
 「さー」

 亜紀ちゃんが話を中断されてちょっと不機嫌だ。
 俺はそのままカレーを食べた。

 ガシンガシンガシン

 物凄い音が上でした。
 仕方なく俺と亜紀ちゃんと柳で見に行く。
 三人が激しいバトルを展開していた。
 内装を傷付けると俺の激怒に繋がるので、肉体同士の攻防だけだが。

 「皇紀ちゃん! 抵抗しないで!」
 「そっちこそやめろよ!」
 「データを貰うだけじゃん!」
 「そうはいかないんだよ!」
 「「なんでよ!」」
 「説明できないよ!」

 このままでは終わりそうにない。
 兄弟喧嘩はいいのだが、この辺で納めようと思った。
 
 「いい加減にしろ!」

 俺が怒鳴ると、三人がパッと離れた。
 皇紀はラペルピンを握りしめ、双子がまだ戦闘態勢を解除していない。
 まあ、「護り」に入った皇紀は、なかなか崩せない。

 「とにかく下へ行ってろ! 皇紀! 俺の部屋へ来い!」

 皇紀が泣きそうな顔で俺を見た。

 「タカさん! す、すみません!」
 「あ?」

 皇紀が走って自分の部屋へ入った。
 そして数秒後に上着を着て飛び出していった。

 「おい……」

 俺も他の子どもたちも呆然としていた。
 あの大人しい皇紀が俺に逆らって家を出て行った。
 完全に俺の想定外だ。

 「タカさん……」

 亜紀ちゃんが呟く。

 「おう」
 「どうしたんですかね?」
 「分かんねー」

 取敢えずリヴィングに戻り、俺は食事を済ませてコーヒーを飲んだ。
 双子もショックを受けている。

 「私たちが悪いのかなー」
 「ちょっと強引だったけどね」
 「カメラがあるって言わなかったけどね」
 
 普通、それが大問題だろう。
 本人が知らない間に全部映像に撮られているのだ。
 トイレも、多分オナニーも。
 あいつは絶対オナニーしてたはずだ。
 俺はそう思って二人で話そうと思っていたのだが。
 恥ずかしい映像だけ抜いてやろうとしたのだ。
 でも、、あいつは俺に逆らってまで逃げて行った。
 オナニーくらいいいだろうに。
 俺だけじゃなく、うちの家族全員が分かっている。
 あいつは絶対毎日ヤってたとみんな思っている。
 うちでもそうだったしなー。
 
 「タカさん、探しに行くね?」
 
 ルーとハーが言った。

 「いや、俺が行くよ。多分、お前たちに一番知られたくないんだろうよ」
 「そっか」
 「なんだろうね?」
 「オナニーじゃないかと思ったんだけどな」
 「それはしょうがないじゃん」
 「そこだけ抜けばいいだけでしょ?」
 「おう」

 やっぱりみんな分かっている。
 亜紀ちゃんも柳も別に嫌悪感は無い。
 オナニーは皇紀の一部だ。

 だったら、やはりそれ以外の見られたくないものがあるのだ。
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