富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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新宿悪魔 Ⅴ

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 すぐに俺は石神に連絡した。

 「捜査の方針が固まったので、石神にも報告しておくよ」
 「おう!」
 
 石神はまったく物事に動じたことが無い。
 これまで付き合って来て、石神が動揺したりビビった様子は見たことがない。
 まったく凄い男だ。

 「成瀬が、事件現場にいた人間を探すという提案をしたんだ」
 「そうだな」
 「それを早速実行している。「アドヴェロス」の他にも、新宿署にも応援を頼んでいる」

 石神が言った。

 「おい、その時に家族や知人の行方不明者も一緒に探しているだろうな?」
 「石神!」
 「なんだ、やってねぇのか!」
 「いや、今話そうと思っていたんだ。お前は気付いていたのか!」
 「当たり前だろう! こんだけの大食いの奴なんだ。これまでだって喰ってる可能性が高いだろうが!」
 
 まったく驚いた。
 成瀬がそのことも提案していたからだ。
 俺には思いも寄らない盲点だった。

 「成瀬がそう言っていたんだ。だからもちろんやっている。新宿署の行方不明者リストを照会しながら、聞き込みの中でも確認するようにしている」
 「じゃあいいけどよ」
 「お前は本当に凄いな!」
 「あ? だって成瀬も気付いていたんだろう?」
 「ああ。お前たちがいてくれて本当に助かる」
 「しっかりしろ!」
 「うん!」

 本当にそうだ。
 俺もしっかりしなければ。

 「それとよ」

 石神が言った。

 「ああ、なんだ?」
 「聞き込みの中で、ばったり出くわす可能性もあるんだ」
 「ああ!」
 「だから、ハンターも配置しておけよな」
 「分かった!」
 「都庁辺りでいいと思うぞ。交代で待機してろよ」
 「すぐにそうする!」
 「まあ、そのくらいかな」
 「ありがとう! 石神!」
 「いいって」

 俺は感動した。

 「まったくお前は動じないし、恐怖で臆することもない。その上こんな凄い考えを常に巡らしているんだな!」
 「ぉ、ぉぅ」
 
 石神が小さな声で言った。

 「本当に素晴らしい! 俺も頑張るよ!」
 「ぉぅ」

 少し様子がおかしかったが、俺は礼を言った。

 「ああ、ところで石神家本家は楽しかったか?」

 いきなり電話を切られた。
 まあ、あいつも忙しいのだろう。
 俺などとの世間話は邪魔だったに違いない。
 俺はすぐに成瀬に言い、「アドヴェロス」のハンターの配置を命じた。

 「ああ! その通りでした! すいません、頭が回らなくて!」
 「いいよ、石神が気付いてくれたんだ」
 「あの人は凄い人ですよね」
 
 副官の成瀬にだけは、石神が「虎」の軍の最高指揮官であることを話している。
 同時に日本の裏社会の支配者でもあるが、それは石神の表の顔の一つなので、一部の警察官であれば知っている。
 「虎」の軍のことは、公安の上層部と、警察のトップにしか知らされていない。

 成瀬が早速手配し、都庁の一室を「アドヴェロス」のために確保した。
 ハンターが3交代でそこに詰めるようにする。

 俺たちは調査の進展を待った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 
 「白瀬さん、まだ回るんですか?」
 「そうだよ」
 「もう署に戻る時間ですけど」
 「うるせぇ!」
 「もう!」

 白瀬は若い刑事の北沢と一緒に都庁周辺の聞き込みをしていた。

 「まあ、あれほどの事件ですからね。白瀬さんが燃えるのも分かりますけど」
 「まったく今の若い奴らって、何しに警察官になったんだよ?」
 「そりゃ、カッコイイですし」
 「そうかぁ?」
 「でも後悔してますけどね」
 「やっぱ?」

 北沢が笑って白瀬を見た。

 「きつ過ぎですよ! 真夏も真冬も一日歩き回るし」
 「相手にするのは社会のクズばっかだしな!」
 「アハハハハハ」

 口では愚痴も零すが、北沢が自分に必死について来ようとしていることは分かっている。
 今時の人間にしては随分と見どころがある。

 「白瀬さんは今回特に燃えてますけど、帳場(捜査本部)が立ったわけじゃないですよね」
 「そりゃ「アドヴェロス」主導に移ったからな」
 「でも、白瀬さんは立候補して地取り(周辺の聞き込み捜査)に入りましたよね?」
 「まあな」
 「それがどうしてかなーって」
 
 白瀬が笑った。

 「まあ、個人的に早乙女さんが大好きだからな」
 「え?」
 「あの人は立派な人だよ。警察官の中でも、あんな立派な人はいねぇ」
 「知ってるんですか?」
 「偶然にな。あの人の親父さんに、駆け出しの頃に世話になったことがあってな」
 「そうだったんですか」
 「まあ、仕事で失敗して懲戒免職かって時によ。かばってもらったことがあるんだ」
 「へぇー」
 
 白瀬は尋問中の被疑者に暴行を働いたことを話した。

 「シャブ持ってて暴れての現行犯逮捕だったんだけどな。随分と生意気な口を利きやがって頭に来てなぁ。生憎、そいつは政治家のボンボンでよ。そっちからの圧力も掛かってな」
 「大変ですね」
 「その時に、その話を聞いた早乙女さんの親父さんがな。いろいろ手を回して何とかしてくれた。それで俺が礼を言いに言ったらよ、反対に酒をご馳走になっちまって。本当にいい方だった」
 「へぇー」
 「逆らえば自分だって危なかったのにさ。顔も知らなかった俺のために必死で動いてくれた。「お前も警察官だ。だったら俺の大事な仲間なんだから」って言われた。泣けたぜ」
 「そうですか」

 白瀬は北沢を向いて言った。

 「こないだよ、早乙女さんが御堂総理に表彰されただろう」
 「ああ、あれ!」
 「あの人、賞状も賞金も総監に渡しちゃってさ、「自分の手柄なんかじゃない。警察官全員の手柄なんだ」って言ったよ。俺は感動したぜ! あの人は親父さんとおんなじだ! だからよ、俺は早乙女さんのために何でもやるぜ!」
 「分かりましたよ! 自分もついてきます」
 「おう!」

 白瀬の話に、北沢はこれまでの人生で感じたことのない熱いものに触れた。

 「ところで、これからどこへ行くんです?」
 「ああ、ちょっと都庁の職員の面接の時に気になった人がいてな」
 「はぁ」
 「土谷美津という女性で、経理部の人だった」
 「その人が?」
 「土谷美津自身には何の問題もないんだ。当日は土曜日で休日だった。都庁にはいなかった」
 「それで?」
 「当日出勤していた人間を知ってるか聞いたんだ。上司の片桐という課長が出勤していたと話した」
 「はい」
 「片桐は別な人間が面接したんだけどな。片桐は確かに出勤していて、外の騒ぎが怖かったと話している」
 「そうでしょうね」
 「だけどな、土谷美津の証言では、片桐は何も気付かずに仕事をしていたと聞いたそうだ」
 「!」

 北沢も分かっている。

 「土谷美津の勘違いという可能性もある。または片桐が部下を不安にさせないためにそう言ったのかもしれない」
 「だから確かめに行くんですね」
 「いや、俺の勘では、片桐がどうにもクサい」
 「え?」
 「他の調査で、片桐の部下の庄司和美が行方不明になっていることが分かっている」
 「そうなんですか?」
 「非常に真面目な人間だったようだが、ボーナスの一部を着服して飛んだらしい」
 「……」
 「たかが2千万円程度だぞ? しかもすぐにバレるようなやり方だった。もう引き出されてはいるが、貯金が3千万以上あったそうだ。真面目に勤めてりゃ、2千万円程度、どうにでもなったはずなのにな」
 「確かにおかしいですね」
 「犯罪者になってまでやるか?」
 「はい」
 「まあ、余程の事情があればだけどな。今そっちの線も洗っている」
 
 証拠は何もない。
 白瀬は任意同行で片桐に話を聞くつもりだった。
 それが無理でも、本人と話せば何か分かるかもしれない。
 とにかく、何でもやるつもりだった。
 金曜日の夜6時。
 初台の片桐のマンションへ向かった。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 金曜日の夕方5時。
 俺は先に出て、自宅に帰り、土谷を待った。
 一緒に歩いて出れば、誰かに見つかる可能性もあったためだ。
 念のために土谷には、一度伊勢丹辺りに行ってからタクシーで来るように伝えた。

 「何か、悪いことをするみたいですよね?」
 「そうだね」

 土谷が艶っぽい目で俺を見て言った。
 その通りだ。
 土谷は「そのつもり」で来る。
 夕飯を一緒にとも話していない。
 ただ、うちに来るように誘った。
 
 お互いに楽しみだ。
 土谷の姿を思い浮かべた。

 「ん?」

 自分の股間を見た。

 「ああ!」

 思わず笑った。
 
 「じゃあ、こっちも楽しみだな!」

 俺は笑って股間を撫でた。
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