富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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ファイヤーバードの兄弟 Ⅱ

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 山内聡、中学生時代に俺に絡んできた男。
 俺とは違う小学校で、山内はそこの小学校の同級生の男たちを全員従え、女たちのほとんどが夢中になっていた奴。
 しかし、中学でどんどん女たちが俺に乗り換え、男たちも俺の下につくようになった。
 そして山内は俺とぶつかって負け、高校の兄貴たちを頼っても、尚俺にぶちのめされた。
 そのことで中学で山内は孤立していった。
 高校は不良たちが通う、偏差値の低い県立高校へ行ったはずだ。

 山内は俺を恨んでいただろうが、俺には何の感慨も無かった。
 むしろ、俺の仲間が中学時代によく山内を結構いじめていたので、悪いとも思っていた。

 保奈美が来た。
 俺は山内が乗っていたことで、見逃すつもりだった。
 山内は一言も口を利かなかった。

 「トラ、どうするの?」
 「ああ、山内だったよ」
 「え!」
 「顔見知りだ。だから今日は勘弁してやろう」
 「トラの言う通りにするよ!」

 保奈美が俺に抱き着き、頬にキスをした。
 山内が、それをジッと見ていた。
 俺はその目を見てすぐに分かった。
 山内はまだ保奈美に惚れている。
 元々山内が一番可愛がっていた女だった。
 保奈美は山内に対してそれほどの気持ちは最初から無かった。
 そして山内が派手に俺に負け、保奈美は俺に惚れ込んだ。

 俺は山内たちを行かせ、本隊に戻った。
 パレードはその後何の問題も無く終わった。

 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 石神の隣に保奈美がいた。
 保奈美は今も石神の女だった。
 保奈美は今も綺麗だった。

 「おい聡、元気出せよ」

 兄貴が声を掛けて来た。

 「まいったな、まさか「ルート20」だったとはよ」
 「ああ」

 兄貴は愚連隊の頭で、そこそこ勢力があった。
 だから族の集団にも突っ込んでいったのだ。
 まさか最大勢力の「ルート20」とは思っていなかった。
 旗を掲げた本隊がまだ見えていなかった。

 「石神はとんでもねぇ。中学の時から相当強かったけどよ。今じゃ「ルート20」の特攻隊長で、化け物みたいにヤバイ奴だ」
 「ああ、知ってる」

 石神の噂はよく聴く。
 うちの高校はヤンキーの集まりで、そこそこ喧嘩の強い連中も多い。
 でも、みんな「赤虎」のことを恐れ、学校の中でも「ルート20」のメンバーは一番幅を利かせている。
 俺には兄貴がいたので、結構守られてる。
 兄貴は卒業後も車の整備工をしながら高校時代の仲間とつるんで、愚連隊を作って結構暴れている。
 そのお陰で、俺も学校の中でそこそこ持ち上げられていた。
 でも、「ルート20」の連中には逆らえない。
 あいつらは自分たちの倍もいるチームを潰してでかくなった。
 不良たちの憧れだ。
 そして、その伝説の中心に「赤虎」こと石神がいた。
 ヤクザ連中も、石神には手を出さない。
 幾つかの組が、石神によって潰されたと聞いている。

 俺は中学時代に石神とぶつかって負けた。
 兄貴が出張ってくれたが、兄貴たちも簡単に負けた。
 尻に木の枝を突っ込まれ、俺は中学で卒業するまで石神の仲間たちに散々やられた。
 俺の周りに集まっていた連中も、全員石神に乗り換えるか俺から離れて行った。

 でも、それだけではない。

 俺は保奈美を石神に奪われた。
 保奈美はいずれ俺の女になるはずだった。
 いい雰囲気になっていたと思っていた。
 でも、保奈美は石神を選んだ。
 石神も数多くの女と関係しながら、保奈美を一番にしていた。

 俺は石神から離れたかった。
 石神と保奈美を見ていたくなかった。
 中学時代は地獄だった。

 




 「おい、これを吸えよ」

 兄貴がタバコを俺に寄越した。

 「いいよ」
 「吸ってみろって。気分が良くなるからよ」

 タバコは吸ったことはあるが、好きにはなれなかった。
 咳き込むし、嫌な臭いがする。
 兄貴は高校時代から吸っているが、俺は好きではない。

 「ほら」
 「分かったよ」

 兄貴がしつこく勧めるので、受け取った。
 ライターもくれたので火を点けた。

 「最初は思い切り肺の中に吸い込め」
 
 俺はそうした。
 前に吸った時よりも、咽る感覚は無い。
 俺は思い切り吸い込み、吐き出した。

 「そうだ、何度かやってみろ」
 「ああ」

 兄貴が嬉しそうに俺を見た。
 2度ほど吸い込んだ。

 「どうだ?」
 「いや、別に」

 悪い感じは無かったので、俺はまた吸い続けた。

 「あれ?」

 俺の様子を見て、兄貴が笑っていた。

 「来たか!」
 「なんだ?」

 夜道を照らす街灯が、違ったものに見えて来た。
 物凄く綺麗だった。
 ホウセンカのように垂れ下がった綺麗な花に見えた。
 段々もっと変化して行った。
 対向車が綺麗な輝くテントウムシに見えた。

 「キレイだな!」
 「そうか!」
 「兄貴、なんかすごく綺麗だ! アハハハハハハ! 楽しいぜ!」

 兄貴が白い作務衣を着ていた。
 筆で描いたような、いろいろな色の短い線がある。
 なんだかカッコイイ。

 「あれ? 兄貴着替えたのか?」
 「そうか」
 「なんかいいな、それ!」
 「そうだろう!」

 突然強い風が吹いて来た。
 でも、心地いい。

 「屋根を取ったのか!」
 「楽しめよ」
 「うん!」

 涙が出る程楽しいドライブだった。

 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「トラ、山内たちを逃がしてよかったの?」

 パレードの後で保奈美に言われた。

 「まあな」
 「でも、けじめはつけた方がいいよ」
 「そうだけどな」

 誰も何も言わなかったが、最初にファイヤーバードを停めた5番隊の連中は面白くなかっただろう。
 信号止めで突っ込んで来る奴は、完全に俺たちを舐めている。
 だから、それなりの制裁が必要な場面だった。
 しかし、俺はそれを見逃した。

 「山内にはちょっと可哀想なことをしたからな」
 「なに?」
 「俺の仲間たちが、あいつにちょくちょくヤキを入れていただろう?」
 「ああ、トラが止めたよね?」
 「後から知ったからな。あいつはもう俺に逆らうことは無かった。だからいじめられるのは違うぜ」
 「そっか」

 最初に尻にモップを突っ込んだ。
 そして兄貴を頼って俺をリンチにしようとしたので、今度は木の枝を突っ込んだ。
 無様な姿を晒してやった。
 でも、それは俺に向かって来たからだ。
 あいつは中学で孤立し、さぞ辛い時期を過ごしただろう。
 俺はそういうことを考えていた。
 そして、山内はまだ保奈美に惚れていた。
 ならば、俺と保奈美を見て、あいつは何を感じていたのか。
 山内に同情する必要は無いが、あいつの気持ちが俺に突き刺さった。

 「山内の兄貴って、愚連隊を作ってるよ?」
 「そうか」
 「まあ、トラなら何のことも無いよね?」
 「そうだな」

 俺は笑って保奈美を連れて保奈美の家に行った。
 もう、山内のことは忘れていた。
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