富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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ファイヤーバードの兄弟 Ⅲ

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 家に帰る頃には、俺は元に戻っていた。
 何か、少し疲れた感じと、気持ち良さが残っていた。

 「どうだったよ」
 「兄貴、なんだよあれは?」
 「マリファナだよ」
 「え!」

 兄貴が車を庭に入れ、俺を兄貴の部屋に案内してくれた。

 「ベランダで育ててるんだ。あとは庭にもな」
 「マリファナをかよ!」
 「そうだ、いい金になる。今仲間と一緒に捌いているんだ」
 「ヤバいんじゃないのか?」
 「大丈夫だよ。口の堅い連中にしか配ってないからな」
 「でも……」
 
 兄貴が笑って俺の肩を叩いた。

 「お前が心配することはない。あのファイヤーバードも、マリファナの金で買った。まあ、まだローンが結構あるけどな。でもすぐに全部返済出来るよ」
 「そんな……」

 兄貴のことが心配だった。
 兄貴は悪いこともするが、俺には昔から優しい。
 俺が困っていると、いつも助けてくれた。

 うちの親父はこの辺りの地主であり、また県会議員を長年勤め、結構な資産を遺した。
 俺が小学4年生の時に急死したが、遺産だけで十分に贅沢が出来た。
 お袋は何もしない人だった。
 好きな絵だけ一日中描いていて、俺や兄貴のことはどうでも良かった。
 家のことは二人の女中がやっている。
 兄貴も俺も、結構な小遣いを与えられ、親がどうでも何も感じなかった。
 兄貴は中学の頃からグレて、不良たちをまとめるようになった。
 高校に上がってからは2年生で全校を支配した。

 兄貴は俺を可愛がってくれ、いろんなものをくれた。
 カッコイイ服も兄貴から全部もらった。
 だから女にモテ、男たちは俺に従っていた。
 石神が現われるまではだが。

 でも、マリファナはヤバい。
 警察に捕まれば、相当な罪になる。
 兄貴はもう未成年じゃない。
 刑務所に入るかもしれない。

 それでも、俺は兄貴を止められなかった。
 兄貴に嫌われたくなかった。






 夏休みが終わり、俺はなし崩し的に兄貴の大麻を育てるようになった。
 最初は兄貴から「ちょっと水をやってくれ」と言われ、仕方なくやった。
 そのうちに水やりが俺の役目になった。
 兄貴は昼間仕事でいないからだ。
 暑い時期なので、朝と夕方の水やりを俺がやった。
 
 時々兄貴や兄貴の仲間たちが葉を切って持って行った。
 大麻はすくすくと育ち、兄貴から世話の礼だと小遣いをもらった。
 俺は辞めた方がいいと思いながら、ずるずると引き込まれていった。

 ある日、岡が来た。

 「よう」
 「なんすか」

 俺は岡が大嫌いだった。
 岡一平。
 兄貴の子分だったが、得体の知れない気持ち悪さがあった。
 兄貴の前では下手に出ているが、陰ではとんでもなかった。

 あの日、兄貴に頼んで石神を締めようとした時。
 石神は兄貴を瞬殺し、喧嘩自慢の8人を集めたが半分もすぐに潰された。
 俺と兄貴は下を脱がされ、木の枝を尻に刺された。
 痛みと恥辱で泣き叫んだ。

 保奈美も笑っていた。
 
 俺はもう終わりだと思った。
 高校生の兄貴たちを引き連れた卑怯な俺が、呆気なく粉砕された。
 これ以上の恥は無い。
 俺は地獄の中学時代を送った。
 俺はたびたび石神の仲間に呼び出され、殴られた。
 かつて俺を慕って周りにいた連中までがその中にいた。
 思い出したくもない、酷い事をされた。
 
 もう死のうかと思った。

 それを止めてくれたのは、あの石神だった。
 石神は仲間に二度と俺に手を出すなと言ってくれた。

 「山内、知らなかったんだ。悪かったな」
 「……」
 「もう誰にも絶対に手を出させない。済まなかった」

 石神が俺に頭を下げていた。
 大勢の人間が見ている前でだ。

 あいつは、そういう奴だった。
 所詮、俺とは器が違った。
 喧嘩も、頭の良さも、顔の良さも圧倒的にあいつが上だ。
 そして、優しさも。

 俺は泣くことしか出来なかった。
 自分のくだらなさを思い知らされた。
 保奈美が石神に惚れるのは当然だと思った。
 それだけが悲しかった。





 「おい、大麻はちゃんと育ててるかよ?」
 「兄貴に言われてる。ちゃんとやってるよ」

 岡が近付いて、俺の腹を殴った。
 息が出来ずにうずくまった。

 「お前よ、口の利き方に気を付けろよな?」

 岡が下卑た笑いを浮かべていた。

 「生意気なんだよな、お前。山内の弟だからって、いい気になってんじゃねぇぞ?」

 俺は怖くて震えた。

 「おい、久し振りにヤルか!」

 身体の震えが大きくなった。

 「お前、ちょっと可愛くなったよな? よし、脱げ」

 俺は必死に立ち上がって逃げようとした。
 横腹を殴られた。

 「逆らうんじゃねぇ!」

 岡はド変態だった。
 石神に木の枝を尻に突っ込まれた後、あれに興奮したと岡が言った。
 兄貴のいない時に俺の家に来て、俺は岡にレイプされた。
 子どもの頃から空手をやっているという岡に、俺は抵抗できなかった。
 ヤラれた後で写真を撮られた。
 最初から岡は準備していた。

 「山内に言ったら、この写真をバラまくからな!」

 俺はその後も3回岡に犯された。
 口でしゃぶらされたこともある。





 今日は岡が俺のものをしゃぶった。
 俺は岡の口に発射した。
 俺は岡のおもちゃだった。
 岡の言いなりだった。
 岡が俺にくわえさせた。
 もう逆らうことは出来なかった。

 俺の地獄は続いていた。
 俺は泣くことも出来なかった。
 兄貴に助けを求められない俺は、ただの弱いガキだった。





 「聡、どうした? 元気がないな」

 兄貴が帰って来た。
 やっぱり岡のことは言えなかった。

 「なんでもないよ。ちょっとカゼでも引いたかな」
 「そうか。じゃあ、何か美味い物でも喰いに行くか!」
 「そうだな!」

 兄貴の優しさに涙が出そうになった。
 俺は着替えて来ると言って、顔を洗って自分を落ち着かせた。

 兄貴はファイヤーバードに夢中だった。
 自分の彼女と乗り回すことが多かったが、俺もよく乗せてくれた。
 深夜に走っている時に、俺にも運転を教えてくれた。

 「こいつのハンドルを握らせるのはお前だけだからな」
 「兄貴!」

 俺は最初緊張しながら走らせていたが、すぐに運転を覚えた。
 本当に楽しかった。

 何度か、「ルート20」の連中と遭遇した。
 派手なこの車がいつも目を引いたが、連中は何もしないで通り過ぎて行った。
 石神が手を振って笑っていた。
 あいつのお陰だと分かった。
 俺たちに手を出さないように徹底してくれたのだろう。
 石神に感謝した。




 あいつは昔から、本当に優しい奴だった。
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