富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,286 / 3,202

院長夫妻と別荘 Ⅶ

しおりを挟む
 院長夫妻がいらした翌日の朝。
 5月7日だ。
 院長と静子さんには俺が朝食を用意した。
 
 焼き鮭。
 焼き海苔。
 ホワイトアスパラのボイル。
 コッコ卵のスクランブルエッグ。
 味噌汁はアオサだ。

 子どもたちは適当に自分たちで作る。
 
 「ここは静かでいいな」
 「夏はセミが多くてうるさいんですけどね」

 まあ、防音は完璧だが。

 「静子さんもお休みになれましたか?」
 「ええ、もうぐっすり。家にいるよりもよく眠れたわ」
 「それは良かった」

 院長も嬉しそうに微笑んでいる。
 静子さんが中心の人なのだ。

 「後で少し散策に行きましょう」
 「おお、そうか」
 「まあ、ここは何も無いんで、散策と言っても大したものじゃないんですけど」
 
 子どもたちが簡単に掃除をし、「移送車」を用意した。
 俺とロボ、院長夫妻と響子、六花、吹雪が中に入る。
 亜紀ちゃんと柳が押手を取り、皇紀とルーとハーが後ろを押す。

 「おい、石神!」
 「ここでやっと、奴隷らしいことをしてやれましたよ」
 「おい!」

 子どもたちが笑って「移送車」を押し始めた。
 ゆっくりと進んで「倒木の広場」に着く。
 子どもたちが荷台からブルーシートを取り出して敷き、院長夫妻を案内した。
 ルーとハーがみんなに紅茶とクッキーを配る。

 「おい、ここはなんだ?」
 「まあ、俺たちの散歩コースというか。毎回来てお茶を飲んで帰るんですよ」
 「そうか」
 「別荘では何もやることが無いですからね。意味はなくても、こういうことをしているんです」
 「なるほどな」

 「夜は「幻想空間」でタカさんのお話ですよね!」
 「だから決まってねぇ!」
 
 みんなが笑う。

 「でも、本当に大したことは。食事をする、お茶を飲む、風呂に入る、花火をする、ゲームをする、そんなものしかありません」
 「のんびりしていいな」

 静子さんに聞いた。

 「静子さん、院長は家で何をしてるんですか?」
 「さあ、御本を読んだりかしら」
 「他には?」
 「庭を眺めたり」
 「ボケますよ?」
 「石神!」

 昭和の人間は休日の過ごし方を知らない。

 「ああ、最近は少しお掃除とか手伝ってくれるの」
 「それ、院長のニセモノですよ!」
 「ウフフフフ」
 「石神!」

 みんなで笑った。

 「院長、前にも言ったでしょう。静子さんを連れ出して下さいよ」
 「あ、ああ、うむ」
 「ニューヨークで約束しましたよね?」
 「あ、あれは、そうだ、うん」
 
 真っ赤な顔をしてしどろもどろになっている院長を、静子さんが笑っている。

 「お願いしますね」
 「もうしょうがないなぁ。今度デートコースを教えますよ」
 「頼む、石神!」
 
 みんなが笑った。
 院長も、静子さんを喜ばせたいのだ。
 しかし不器用なのと自信がないので、なかなか実行できない。

 帰りは俺が全員を乗せて「移送車」を押した。
 子どもたちが喜んだ。






 昼食は蕎麦にした。
 子どもたちは天ぷらを揚げ、俺が院長と静子さんに厚揚げと素揚げのナスとインゲンを入れた。
 少し汁を甘めにする。
 俺と響子も同じものを食べる。

 「こういう蕎麦は初めてだ! 美味いな!」
 「本当に。どうしてこういうことを想いつかないのかしら」
 「院長への愛情が薄れたんですよ」
 「まあ!」
 「おい!」

 子どもたちが薬味のステーキを焼き始めた。

 「おい、目の毒だから端で喰え!」
 「「「「「はーい」」」」」

 午後は少し休んで頂こうと思ったが、昼に寝ると夜に眠れなくなると言われた。
 じゃあ買い物にでも連れて行こうかと思ったのだが、意外なことを言われた。

 「石神、俺にも「花岡」を教えてくれないか」
 「え、院長にですか?」
 「ああ。俺も学生時代には空手をやっていたんだ」
 「えぇー!」
 「もちろん40年も前のことだ。身体はとっくに……」
 「だからなんですかぁー!」
 「え?」
 「院長に殴られる時って、やけに痛いと思ってたんですよー!」
 「いや、お前!」

 静子さんが 爆笑した。

 「静子さんは知ってました?」
 「ええ、もちろん」
 「そうだったんだぁー!」

 俺は亜紀ちゃんに、院長のサイズに合うコンバットスーツを蓮花の研究所から借りて来るように言った。
 静子さんもやりたいということだったので、六花のジャージに着替えてもらった。

 亜紀ちゃんが10分で戻って来る。
 院長に着替えさせた。

 「おし! じゃあ「虎地獄」だぁ!」
 「タカさん、ダメだよ」
 「やめてあげて!」
 
 冗談なのだが、双子が必死に止めて来た。

 「じゃあ「ネコ地獄」な」

 ロボが「やんのかステップ」を始めた。

 庭に出て、基本的な「花足」から始めた。
 徐々にバリエーションを加えて行く。
 
 「これは身体を丈夫にしますからね。毎日やって下さい」
 「分かった」
 「難しいわね」
 「何度もやれば大丈夫ですよ」

 30分程もやっていると、二人とも何とか辿れるようになっていった。
 やはり院長は空手をやっていただけあって、覚えも早い。
 ただ、長年運動もして来なかったので、やはりぎこちないが。

 「身体も柔軟になって行きます。血行も良くなりますよ」

 慣れない動きで二人とも疲れたようなので、休憩にした。
 15分休んで、今度は呼吸法を教える。
 「花岡」では立ったままだ。
 双子が今度は中心になって指導する。

 「文学ちゃん、もっと下の方まで意識を落として」
 「静子さん、もっとゆっくりでいいから、光の珠を意識して」

 30分程やって、今日は終わりにした。
 亜紀ちゃんと柳が買い物から戻り、みんなでリヴィングへ上がってお茶にする。
 「紅オイシーズ」のシャーベットとミルクティを淹れた。

 「この一色の所の苺は美味いな!」
 「ありがとうございます!」

 六花が嬉しそうに笑った。
 響子と吹雪も少量食べて喜んでいる。

 「文学ちゃん、静子さん! 後でマッサージするね!」
 「ああ、ありがとう」

 双子がニコニコしている。
 お二人に「花岡」を教えられたのが嬉しいのだ。
 ロボが六花の所へ行って、「紅オイシーズ」をねだった。
 六花がスプーンに乗せてロボの顔の前に持って行く。
 ロボが匂いを嗅いで、前足で床をこすった。

 「この美味しさが分からないなんて、お前も所詮はネコだな」
 「フッシャァー!」

 柳に「第六天魔王キック」を見舞った。
 柳がぶっ飛ぶ。

 「なんでぇー!」
 
 ロボは静子さんの膝に乗って甘えた。
 夕飯まで自由にし、院長と静子さんは双子のマッサージを受けた。
 亜紀ちゃんと柳は鍛錬に行き、俺は残ったメンツで麻雀をした。
 俺と六花、響子と皇紀だ。

 



 また俺の配牌が異常によく、早々に「出て行け」と言われた。
 吹雪が座り、ロボと一緒になんかやってた。

 吹雪・ロボがそこそこ勝った。
 なんなんだ、こいつら。
 お前らが弱すぎなんじゃねぇの?

 俺は不貞腐れてソファで寝た。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...