富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,323 / 3,202

ガンスリンガー Ⅴ

しおりを挟む
 「ガンドッグ」との渡りが付いたので、トラと電話で話した。

 「「ガン・ドッグ」に接触する。明日、アリゾナに行くよ」
 「そうか。気を付けろ。こっちは今日襲われた」
 「なんだって!」
 
 驚いた。
 こんなにも早く連中が動くとは思ってもみなかった。
 
 「ルーとハーが撃たれた。命に別状はないが、胸と腹、それに二人とも腿を撃たれた」
 「あいつらがか! 武装は銃だったのか?」

 「花岡」を極めた奴らが、銃で撃たれるとは。

 「そうだ。俺も襲われた」
 「どんな奴だ?」

 トラが撃たれるわけはない。
 だから状況だけ聞いた。

 「武器はルガーのスーパーブラックホークだった。12インチのロングバレルに改造していたな」
 「随分と旧い銃だな。しかもシングルアクションかよ」
 「そうだ。ダブルアクションに改造もしていなかった」

 トラが相手の特徴を言った。
 長い金髪の痩せた長身。
 手足がやけに長い奴。
 戦い方を聞いた。

 「双子が見たんだが、でかい銃なのに一瞬で手にしてやがったそうだ。ハンマーを持ち上げる動作も見えなかった。しかもリロードも目に見えない速さだ。それは俺も実際に見た」
 「そうなのか。スピードローダーか?」
 「いや、そんなレベルじゃねぇ。魔法のようだよ。本当に一瞬で、ドラムマガジンで連射しているかのようなんだ」
 「そうか、とんでもねぇな」
 
 トラが言うのだからその通りなのだろう。
 俺もトラもそんな真似は出来ない。
 連射自体も素早いらしい。
 シングルアクションの銃で弾幕を張って来る。
 数回のリロードをトラの言う通りに一瞬でやっているとしか思えない。
 どのような方法かは分からないが。

 「双子も通常の対応は出来ていた。気配感知で敵の接近は気付いたし、発砲と同時に回避行動もした。でも撃たれた」
 「敵に読まれたな」
 「そうだ。「ガンスリンガー」は、相手の動作を読む。回避したつもりにさせてぶち込んでくる。見事にやられたな」

 トラが詳しい経緯を話した。

 「最初は二人の腿だったんだ」
 「急所じゃないのか?」
 「そうだ。ここに何かあるな」
 「ああ、そうだな」

 相手がある程度の使い手の場合、初手から殺せないのかもしれない。
 どの程度の使い手なのかを分析し、次のショットで決める。
 ただ、ルーとハーも尋常ではない奴らなので、殺し切れなかった。
 まあ、普通は肺や腹を撃たれれば動けないのだが、あいつらはまだまだ反撃の余力があった。
 だから一度退散したのか。

 そしてトラが二人を連れて病院から出た時に襲われた。
 待ち構えていたのだ。
 多分、「ガンスリンガー」の他に援護する体制がある。

 元々はトラが狙いだったのだろう。
 ルーとハーのレベル以上の敵と見做されたトラは、十分な対策の上で襲われた。
 双子が襲われたのも、後から思えばトラの実力を測るための襲撃だったに違いない。
 まあ、トラが誰かにやられるわけはないのだが。

 むしろ俺が驚いたのは、あのトラが敵に逃げられたことだ。

 「仕留めようと思ったよ。でも、俺を殺せないと判断した途端に逃走した。支援隊にジャベリンを大量に撃たせ、俺が対処している間にまんまと逃げた。見事な手際だ」
 「そうかよ」

 無人機に掴まっての逃走だったらしい。
 そんなことが出来る人間がいるとは。
 トラに殺されなかった実力も相当だが、戦闘の発想が物凄くキレる奴だ。
 こちらが想定しない方法で襲い逃げる。
 
 トラが言った。

 「聖、本当に気を付けろ。お前でも油断すれば危ない」
 「分かったよ。今の話を聞けて良かったぜ。俺も十分に準備していく」
 「ああ。接触場所にはデュールゲリエを配備しておくよ」
 「頼む。数は任せるから」
 「分かった」

 トラが本当に神経質になっている。
 敵の実力がまだ推し量れないためだ。
 しかし、トラはいつでも何とかする。
 ニカラグアの戦場以来、俺はトラのそういう所を知っている。





 翌日、飛行機でアリゾナ州に向かった。
 空港で車をレンタルし、2時間を掛けて待ち合わせの場所へ向かった。
 建物ではない。
 ソノラ砂漠の中で緯度経度を指定された。

 俺は「散華」だけを携行していた。

 ハイウェイを走破し、スマホの地図を頼りにソノラ砂漠へ入った。
 車はジープのラングラーだ。
 荒れ地でも走破出来る。
 待ち合わせ場所に近づくと、5人の男女が待っていた。
 相手は同じジープのグランド・チェロキーに乗って来たようだ。
 全員が銃を持っている。

 トラが行っていたルガー・スーパーブラックホークだった。
 12インチのロングバレル。
 となれば、全員が「ガンスリンガー」ということだ。

 50メートル手前で車を停めた。

 「コスタさん?」

 女は一人なので、リンダと名乗った奴だろう。
 
 「そうだ。あんたがリンダか?」
 「そうよ。ようこそ、アリゾナへ」
 「随分と用心深いんだな」
 「もちろん。うちのことは分かっているんでしょ?」
 「凄腕のガンマンだってことはな。ハーマン候補を見事な腕で暗殺した」

 リンダたちが笑った。

 「まあね。あれが私たちがやったって知っているのね」
 「俺も裏稼業が長いんでな。その腕を今回借りたい」
 「条件次第ね。あなたの会社は調べたわ。随分とショボい仕事ばかりじゃないの」
 「ほとんど俺以外は使える奴がいなくてな。どうしても大きい仕事は請け負えない」
 「そう。今回は暗殺?」
 「そうだ」
 「お金は用意出来るの?」
 「大丈夫だと思う。スポンサーがでかいからな」
 「どこ?」
 「それは言えない」

 リンダたちが俺を観察している。
 誰も銃に手を置いていない。

 「詳しい話を聞く前に、武器を預かるわ」
 「それは出来ない。俺もあんたたちを信用していない」
 「そう。でも、それじゃ交渉は出来ないわよ?」
 「勘弁してくれ。俺は独りで、そっちは5人だろう」
 
 そう言った瞬間に、5人が一斉にスーパーブラックホークを俺に向けていた。
 トラが言った通り、魔法のように一瞬で構えていた。
 ホルスターは腰に付けたフロントブレイクだった。
 そういう問題じゃない。
 この俺が反応できないほどに、本当に一瞬だった。

 「さあ、銃を渡して」
 「わ、分かった。撃つなよ!」
 「安心して。あなたがヘンな素振りを見せなければ大丈夫」
 「銃に手を掛けてもいいか?」
 「いいえ。私が預かるわ」

 リンダが構えたまま俺に近づいた。
 俺は右の腰を前に出す。

 「いい銃ね」

 そう言ってリンダがグリップを握り、「散華」を取り出そうとした。

 「!」

 俺はその一瞬でリンダのスーパーブラックホークのバレルを左手で握り、捻った。
 右手でレバーにパンチを入れる。
 リンダが一瞬で失神し、俺はリンダを楯にして4人と向き合った。
 「散華」を構えている。

 男たちが笑っていた。

 「あいつ、やられたぞ」
 「バカな奴だ」
 「でも、何があった?」
 「こいつの銃に触れた瞬間だったな」

 まだ弾は撃って来ない。

 「おい、争う気はないんだ! 撃たないでくれ!」
 
 「どうするかな」
 
 男たちはまだ笑っていた。
 この状況がまったく脅威ではないということだ。
 相当な手練れだ。

 リンダが覚醒した。

 「こいつ! カザンの銃を持ってるわ!」
 「「「「!」」」」

 4人の男たちの銃が一斉に火を噴いた。
 俺は躊躇せずにリンダを抱いたまま「飛行」で逃げた。
 俺のその足の下で、銃弾が交差するのが分かった。
 リンダの身体を避けて、軌道が曲がって俺に撃ち込んでいた。

 そのまま俺は飛び去った。
 リンダは音速を超える速さで呼吸が出来ずに失神した。






 その状態で、まだスーパーブラックホークを握っていた。
 俺は「ガンスリンガー」の恐ろしさを感じていた。
 こいつらの銃技は底が知れない。
 そして、銃に関してはこの世の誰よりも突出している。
 虎白さんたちが剣技で最高峰なのと同じく、銃技の最高峰がこの連中だ。

 「ガンスリンガー」は石神家本家と同じだ。
 それは、俺とトラを殺せるということだった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

処理中です...