富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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青の帰還 Ⅲ

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 青が帰って来た翌日の土曜日。
 俺は子どもたちを連れて、2時に「般若」に行った。
 急に連絡が来たからだ。

 「猊下が来る!」
 「「「「!」」」」

 マクシミリアンに、青の帰国予定は話していた。
 「いつでも遊びに来い」とは言ったが、今日来るとは思わなかった。
 また、ローマ教皇猊下を御連れして。

 御堂はサプライズで呼んでいた。
 他の8人の常連客と共に、これから常連になるのだと紹介して青を驚かせたかった。
 それに響子と六花、鷹、院長夫妻。
 うちの子どもたちは別の機会にと思っていた。
 今日は内輪で穏やかにやりたかった。

 「お前らの飯は用意してねぇんだ」
 「自分たちで何とかします!」

 亜紀ちゃんがすぐに指示を出し、店先でバーベキューをすることにした。
 ローマ教皇猊下が来るのであれば、食事も考えなければならない。
 内輪の歓迎会のつもりだったので、豪華なものではなくそこそこでと思っていたからだ。
 うちの食材をハマーに積んで出掛けた。





 「おい、赤虎。随分と早いじゃねぇか」
 「大変なんだよ!」
 「何が?」
 
 「えーと……」

 まだ話さない方がいいだろう。
 こいつもショックを受ける。

 「ちょっとスゴイ人が来ることになっちゃってさ」
 「誰だ?」

 「えーと、御堂とか?」
 「ああ、お前の親友だもんな。御堂総理が来るのかよ!」
 「え、うん」

 御堂がまったくサプライズではなくなってしまった。
 しょうがねぇ。

 「お前、今日は昔お世話になった方々を呼ぶって言ってただろう」
 「そうなんだけどさ。これから常連になりたいって。あ、御堂と内閣官房長官の大渕さんとか。そうだ! 「ルート20」の木村も!」
 「俺、そいつ、よく知らないんだけど」
 「そう?」

 まー、そうだよなー。
 でも、そこはどうでもいいんだよなー。

 「それとさ、連絡したらマクシミリアンも来るって」
 「おい! ほんとかよ!」
 「ああ。楽しみだな」
 「おう! じゃあ、歓迎しないとな!」
 「よろしくー」

 一緒にモノスゴイ人が来るんですけど。
 もう、俺も知らねぇー!

 「食材は持って来たからさ。ちょっと豪華な食事を出そうかってさ」
 「そうなのか、悪かったな」
 「いや、俺の方こそ」
 「?」

 ごめんなー。

 カスミと子どもたちを集めて、メニューを検討する。
 2階のキッチンも借りて、全員で準備した。
 亜紀ちゃんと柳が足りない食材を買い出しに行く。
 悪いけど、鷹にも応援を頼んだ。
 鷹もすぐに来てくれた。

 伊勢海老のテルミドール。
 松坂牛のしゃぶしゃぶ。
 名古屋コーチンの香草焼き。
 ミラノ風カツレツ。
 
 それらをメインにラタトゥイユやマリネ、各種煮物、焼き物、ジュレや御造りも用意する。
 干し鮑の吸い物や各種スープ。
 俺と双子、カスミがどんどん作っていく。
 カスミは流石の性能で、俺の指示で躊躇なくこなしていった。

 青はひたすら洗物だ。

 「おい、大変だな!」
 「まーな!」

 亜紀ちゃんと柳も戻って来て、全員で戦場の中のように働いた。
 
 何とか5時には間に合った。
 ふー。
 




 明恵和尚から電話が来た。

 「おい、トラ! 発酵装置を運ぶのを手伝え!」
 「わかりましたー!」

 和尚の寺から、和尚がシクラメンを、俺が発酵装置を抱えて戻った。

 「和尚!」
 「よう! 久し振りじゃな!」
 「はい! シクラメンをありがとうございました」
 「俺の趣味だからな。そら、元気じゃぞ」
 「はい!」

 青が嬉しそうに鉢を受け取り、そっと出窓に置いた。
 まだ花は付けていないが、緑の葉が青々と元気そうだ。
 青が俺の抱えている発酵装置を見た。

 「それは?」
 「ああ、肥料じゃよ。なんだトラ、説明してないのか?」
 「いや、まだです」
 「なんじゃよ! ああ、ウンコを発酵させてるんじゃよ。これがまた良くってなぁ。な、トラ?」
 「え、ええ」

 青がたちまち恐ろしい顔になる。
 そうだよなー。

 「赤虎! てめぇ何やってやがる!」
 「おい、本当に最高なんだって!」
 「お前ぇ!」
 「この肥料じゃないと、花が青くならないんだよ!」
 「何言ってんだぁ!」
 「ほんとだって!」

 みんなが笑っていた。

 「とにかく、後で説明する!」

 青は憤然となってシクラメンの鉢を撫でていた。
 なんか謝ってた。
 だからよー。
 響子と六花も来た。
 響子が楽しみで待ちきれなかったらしい。





 時間になり、続々と常連たちが入って来る。
 青が泣きそうな顔で歓迎し、中へ入れた。
 御堂と大渕さん、木村も来る。
 青が少し緊張しながら御堂と握手をし、テーブルに座らせた。
 
 「タカさん!」
 「おう!」

 外から亜紀ちゃんが駆け込んで来る。
 でかいリムジンが停まっている。
 俺が出迎えた。

 「ようこそ、猊下。わざわざこんな場所までお越しいただけるとは」
 「イシガミ様、楽しみにしておりました」
 「ありがとうございます」

 「イシガミ!」
 「マクシミリアン! 久し振りだな!」
 「ああ、サイバさんにも会いたかった」
 「ああ、まあ入れよ」

 ローマ教皇猊下、ガスパリ大司教、マクシミリアンを中へ入れた。

 「マクシミリアンさん!」
 「サイバさん!」

 二人はハグをして再会を喜んだ。
 青はヨーロッパ慣れしている。

 「こちらの方々は?」
 
 豪華な法衣に身を包んだ二人を、青は驚いて見ていた。

 「ローマ教皇猊下と駐日大使のガスパリ大司教様だ」
 「!」

 青が白目を剥いた。

 「な、驚くよな」
 「……」
 「俺もさ、前にいきなり俺の家に訪ねて来られてよ。あせったぜぇ」
 「……」

 他の常連客達も驚く。
 カスミがローマ教皇猊下たちをソファ席に案内した。
 カスミもやるなー。

 全員が揃ったので、青の歓迎会を始めた。
 俺の主催だったので、俺が挨拶し、青にも挨拶させた。

 「……」

 頭をぶん殴って意識を取り戻させ、しどろもどろの挨拶をした。
 みんなが笑っていた。
 明恵和尚に乾杯の音頭を頼んだ。

 「えー、クリスチャンの明恵です!」

 みんなが爆笑した。
 ローマ教皇たちも笑っている。

 「わしらのマスター・柴葉青児の帰還を祝って! 乾杯!」
 『乾杯!』

 




 青がグラスを掲げて俺を睨んでいた。
 知らねぇよ!
 子どもたちが外へ出て、いつも通りのバーベキューを始めた。

 あいつらもなー。
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