富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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青の帰還 Ⅳ

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 青が乾杯の後で立ち尽くしている。
 隣の俺に言った。

 「赤虎、御堂総理までは驚きはしてもまだ分かる。お前の親友だからな」
 「おう!」
 「でも、ローマ教皇ってなんだよ!」
 「おう!」
 「おうじゃねぇ!」

 でかい声を出すので静かにしろと言った。
 小声で青が言う。

 「だからどういうことなんだよ! お前、ちゃんと説明しろよ!」
 「だって、マクシミリアンとお前は友達だろ?」
 「だからどうした!」
 「マクシミリアンはローマ教皇庁のシュヴァリエなんだぞ?」
 「しゅば?」
 「シュヴァリエだよ! 教皇庁の最上位の戦士だ。パラディンという聖騎士の中でも特に戦闘力が高くてローマ教皇の信頼の篤い人間のことをシュヴァリエって言うんだよ。マクシミリアンはそれだ」
 「なんだって!」

 俺は自宅にいきなりローマ教皇たちが来たことを話した。

 「ちょっとした誤解があってな。俺をローマ教皇庁の跳ねっ返りが襲ってきたんだよ。その詫びだってことで、いきなり来たの」
 「なんだよそれ!」
 「な? 分かんねぇだろ?」
 「まったくな」
 「俺も焦ったぜぇ。亜紀ちゃんなんか、トイレでヤキ入れるとか言うしよ」
 「すげぇな」
 「な! ああ、突然護衛を連れて来たからさ、最初にうちを護ってるデュールゲリエが襲い掛かってよ。乗って来た車斬っちゃった」
 「おい!」

 まあ、話せば長くなる。

 「とにかく、そこからの縁だ。マクシミリアンはいつもローマ教皇のガードで一緒に来るんだよ」
 「その時だけじゃねぇのか!」
 「うん、4月にもうちの花見に来た」
 「なんなんだよ、お前!」
 「俺にも分かんねぇよ!」

 呆然としている青の背中を叩き、ローマ教皇たちのテーブルに連れて行った。
 悪いが常連たちは後だ。

 「ローマ教皇猊下、本日はわざわざお越し頂きまして」

 俺が挨拶すると、三人がニコニコ笑ってた。
 マクシミリアンが言った。

 「サイバさん、私などが今日は来るべきではないとは分かっていたのです。でも、あなたの帰国に、是非お祝いを言いたかった」
 「マクシミリアンさん……」

 ローマ教皇が話し出した。
 マクシミリアンが通訳する。

 「サイバさん。私はマクシミリアンからあなたのお話を聞きました。亡くなった奥様、盲目で旅行が出来なかった奥様のために、あなたが美しい景色を見せて歩いているのだと。なんと貴い話かと感動いたしました。先日、大きな式典の席で、私はサイバさんのお話を皆さんの前でいたしました。その場の全員があなたの美しい行為を称賛し、来ていた各国のマスコミも絶賛しておりました」

 なにぃ?
 後で調べておかねぇと。

 俺が青と明穂さんのことを三人に話した。
 三人が感動し、ローマ教皇が涙を流された。

 「たった2年と少しでしたけどね。青と明穂さんは最高の夫婦でしたよ」

 出窓に置いたシクラメンの話をしていると、明恵和尚が来た。

 「こんにちは、クリスチャンの明恵です!」

 僧衣だったので、三人が笑った。

 「ああ、青が旅行中にシクラメンを預かっていたのが、この明恵和尚なんです」
 「そうなんですか! あなたも最高だ!」

 マクシミリアンが感動して叫んだ。

 「随分と元気そうなシクラメンですね」

 ローマ教皇が褒めると、和尚がドヤ顔で言った。

 「肥料にね、ウンコをやるのがコツなんですよ!」
 「「!」」

 日本語の分かるマクシミリアンとガスパリ大司教が驚く。
 ローマ教皇が通訳を待っているが、マクシミリアンは困っていた。

 「ここに来る前もちゃんとやったんですよ。な、トラ?」
 
 俺は和尚の頭を引っぱたいてカウンターに連れ戻した。
 青も「ごゆっくり」とか言いながらこっちへ来た。

 「和尚! ウンコの前で食事させるつもりですか!」
 「あ、ああ!」
 「まったく!」
 「わりぃわりぃ」

 笑って謝っていたが、多分最初から仕組んでいたんだろう。
 キリスト教の総本山に悪戯したかったのだ。
 まったくこの人は。

 青を御堂のテーブルへ連れて行った。
 
 「御堂総理。随分とご立派になられたんですね」
 「いえ、その節は本当にありがとうございました」
 「申し訳ありません。妹のことであなたには辛く当たってしまった」
 「とんでもない。私こそ」

 青の妹の柴葉典子は御堂のことが好きだった。
 御堂も恐らく誠実な付き合いを考えていたのではないか。
 その矢先に、柴葉典子はアフリカで病死してしまった。
 青は御堂を受け入れたがらなかったが、俺が頼んで御堂に線香を上げさせてもらった。
 青にとってはそれが精一杯であり、御堂も深く感謝している。

 「石神から、柴葉さんの話を聞きました。帰国されたら、是非ここに通わせていただきたいと思っていました」
 「それはどうも。是非いらして下さい」
 「ありがとうございます」

 大渕さんと木村も紹介する。
 青は二人も歓迎していた。

 「自分は「ルート20」で、トラさんと一緒でした」
 「ああ、そうですか!」
 「ピエロの青さんは有名でしたよね?」
 「いや、お恥ずかしい。お互い暴れましたね」
 「はい!」

 もう過去の禍根は無い。
 同じ青春を過ごした仲間だ。

 響子たちのテーブルへ行った。
 全員青の顔見知りであり、響子が一段と喜んだ。
 
 「吹雪だ。俺と六花の子どもなんだよ」
 「おい! ほんとうかよ!」
 「カワイイだろ?」
 「ああ! 観たこと無いくらいカワイイ子だな!」
 「こんにちは!」

 「はい!」

 吹雪が笑顔で挨拶し、青が嬉しそうな顔をしてくれた。

 「赤虎、お前結婚したのか」
 「え、いや、まあ、そんな感じ」
 「?」

 いずれゆっくりと話そう。
 六花も鷹も、また通うと言うと青が喜んだ。
 院長夫妻も青の帰国を喜んでくれた。
 青がしきりに恐縮していた。
 静子さんが、青に美しい花瓶を持って来た。
 青が受け取り、大切にしますと言っていた。

 



 やっとカウンターの常連たちの所へ行った。
 カスミが相手をしていた。

 「おい! カスミさんは可愛くていいな!」

 和尚が満面の笑みだ。

 「これから通う楽しみが増えたぞ!」
 
 カスミが嬉しそうに笑っている。
 みんなカスミにすっかり馴染んでくれたようだ。

 「マスター! 明恵和尚さんがシクラメンの話をして下さいました」
 
 カスミが嬉しそうに報告した。

 「今後も「肥料」は持って来て下さるそうです」
 「!」
 「石神様にも是非と」
 「お、おう」

 全員が爆笑していた。

 「おい赤虎、本当に必要なのか?」
 「そうなんだよ。試しに普通の肥料をやったら、本当に紫色の花になっちゃったんだよ。肥料をウンコに変えたら元に戻った」
 「マジか」
 
 俺は青に聞いてみた。

 「お前、どういう肥料だったんだよ?」
 「ああ、明穂が遺してくれたものをやってたぞ」
 「それは?」
 「え、和尚に預けたはずだけど」

 和尚がそっぽを向いている。

 「和尚!」
 「悪い、どっかいっちまってよ」
 「何やってんですか!」
 「しょうがねぇだろう! うちのモンが勝手に庭で使っちまったんだよ!」
 「庭の方をウンコにすれば良かったでしょう!」
 「お前! 神聖な場所でウンコなんか使えるわけねぇだろう!」
 「あんたね!」

 みんなが笑っていた。
 青も笑って許してくれた。

 「まあしょうがねぇな。明穂の青い花のためだからな」
 「おい、肥料は臭くねぇからな!」
 「そうですか」
 「おう! 俺は「シクラメンのプロ」だからよ!」
 「ありがとうございます」

 



 みんなが、青のコーヒーを飲みたがった。
 豆は以前に使っていたものを揃えている。
 青は昨日から焙煎や新しい器具を試していたらしい。
 今日の場で、みんなに振る舞いたかったのだろう。
 すぐにみんなにコーヒーを淹れた。
 テーブルにもカスミが配って行く。

 「あ! 前と同じだ!」
 「本当だ!」
 「懐かしいぃー!」
 「美味しい!」

 常連たちが喜んでいた。
 俺も貰った。

 本当に、あの「般若」で飲んでいた味だった。

 「般若」が戻って来た。
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