富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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青の帰還 Ⅴ

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 6時半に、ローマ教皇たちと御堂たちが帰った。
 忙しい人間たちだ。
 7時には響子と六花、鷹も帰った。
 子どもたちが表を片付けて中へ入って来る。
 青が中を遠慮していた子どもたちに詫びる。

 「みんな悪かったね」
 「「「「いいえ!」」」」

 まあ、まったく遠慮していたというわけでもないのだが。
 子どもたちがテーブルを移動して繋げ、みんなでそこに座った。
 カスミが青に断って酒を出す。

 「お前がその気なら、夜はバーに出来るぞ」
 「ああ、考えてみようかな」
 
 酒は幾つか入れてある。
 カクテルも出来るように揃えていた。
 カスミがカクテルも一通り出来る。

 「喫茶店だけの売上じゃ厳しいもんな」
 「いや、お前が喰って行く分には十分だと思うぞ?」

 俺はうちの病院の人間が来ることを話した。
 表でテラス席が作れる話もした。

 「多分、ランチタイムは満席になるからな。ああ、行列も出来るだろうよ」
 「なんだと!」
 「だからカスミを入れたんだよ。お前だけじゃ手が回らないよ」
 「そうなのかよ!」

 青は驚いていた。

 「常連の人たちも来てくれるだろうからよ。ああ、カウンターは常連のために空けといてな」
 「あ、ああ、分かった」

 常連の和尚たちが喜んだ。

 「でもなぁ」
 「なんだよ?」
 「お前に早く借金を返したいしさ」
 「ああ!」

 俺はハーに言って、資産運用の推移の資料を青に渡した。
 青が気にしていたから用意していた。
 ハーが青に説明していく。

 「最初の1000万円を全部株に投資しました。ここです。半年で1億円を超えました。この売買記録を見て下さい。そこから……」
 「……」

 「一応80億円は現金化しました。この記録です。別に残りの10億はまだ運用中です。それはこちらで」
 「おい、赤虎!」
 「おう!」
 「お前、マジで80億円もあるのかよ!」
 「そう言っただろう?」
 「お前……」

 言葉を喪っていた。
 他の常連たちも固まっている。

 「だからよ、本当にお前の金なんだって。あ、ここの土地と建築で30億円使ったからな。あと50億円と運用中の10億円。あ、それももう増えてっぞ?」
 「……」

 青が俺を見て言った。

 「おい、もう運用はやめてくれ」
 「そう?」
 「頼む」
 「分かったよ。ああ、今は50億円の貯金だけどさ。手堅い株式にしておくな?」
 「どうしてだ?」
 「銀行預金って、保証の上限があんだよ。だから一定以上の金を持ってる人間は、大体株式とか金、債券にしてんの」
 「ああ、そうなのか」

 青も相当持っていたが、全部現金だった。
 隠しておく必要があったからだ。

 「50億の配当だと、大体毎年、最低でも3億円くらいはある」
 「!」

 「株価は変動するけどさ。売らないで持っておけばいいんだよ」
 「赤虎……」

 「ハー、そういうことで銀行株でも買っておいてくれ」
 「りょうかい!」
 「金相場は今高いから、下がってからな。債権も適当に」
 「はい!」

 「ということで」
 「赤虎!」

 みんなが驚いていたが、やがて笑った。

 「金なんてどうでもいいんだよ。お前は喫茶店をやってけばいいんだって」
 
 青がしばらく悩んでいたが、なんとか納得した。

 「分かったよ! 金はもう知らねぇ! まったくお前はよ!」
 「ワハハハハハハハ!」

 楽しく話していると、最年少の常連の式場涼ちゃんが言った。
 当時は女子高生で、今は有名私大に通っているそうだ。

 「マスター、良ければ私、ここでアルバイト出来ませんか?」
 「え?」

 青が驚いている。

 「前から夢だったんです。あの時はまだ受験生でしたので出来ませんでしたけど。今ならここで働けます」
 「いや、でもなぁ」
 
 「青、いいじゃねぇか。多分、カスミがいても結構忙しくなるぞ」
 「でも、バイト代を出せるほどになるかな」
 「絶対ぇ大丈夫」
 「おい、なんで言えんだよ!」
 「だからうちの病院のスタッフが来るって。万一足りなきゃ、うちの子どもたちに通わせる」
 「おお!」

 さっきまで、子どもたちの凄まじい喰いを青も観ている。

 「な!」
 「ああ、なんか安心したぜ」
 
 子どもたちが笑った。
 青も冗談半分だが。
 俺は思い出した。

 「柳! ちょっと調べてくれ」
 「はい! 何をですか?」
 
 俺はローマ教皇が言った、式典での青の話がどういうものだったのか調べて欲しいと言った。
 柳がすぐに検索する。

 「あ、ありました!」
 
 英訳されたネットの記事の概要を柳が読み上げる。

 「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」

 全員が驚いた。
 ローマ教皇が新たな枢機卿の叙任式で語った言葉のようだった。
 その式典で、本当に青の話が語られ、「愛の最も美しい話」とまで絶賛していた。
 そしてその言葉がEUやアメリカなどの世界中のキリスト教会に紹介され、物凄い話題になっていた。

 「近くセイジ・サイバ氏は日本へ戻り、またアキホさんとの思い出の喫茶店を再開するそうです」

 そうとまで語っていた。

 「青!」
 「赤虎!」
 「どうなんだ、これ!」
 「分からねぇよ!」
 「とんでもねぇことになるかもしれんぞ!」
 「やめてくれよ!」
 「俺、知らねぇ」
 「おい!」

 なんかヤバい気がする。
 亜紀ちゃんが叫んだ。
 亜紀ちゃんも別途検索していた。

 「バチカン・ニュース!」
 「なんだ!」
 「ローマ教皇庁の!」
 「話せ!」

 亜紀ちゃんが、たった今ローマ教皇庁のバチカン・ニュースが、先ほどのローマ教皇が青の店に訪問したことを報じていた。
 温かな店内で青の帰国を祝うパーティがあり、日本の御堂総理始め、青を慕う人間が集まっていたことが書かれている。

 「住所も乗ってます!」
 「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」

 どうする!

 「青、終わったな」
 「!」
 「さあ、そろそろ俺らは帰るかなー」
 「待て! 赤虎!」
 「お、俺のせいじゃねぇもん!」
 「そんなこと言うな!」
 
 「涼ちゃん、青を宜しくな!」
 「は、はい!」
 「赤虎!」

 青が俺の肩を掴んで放さなかった。

 「俺もさ」
 「なんだ!」
 「前にネットで「フェラーリ・ダンディ」とかで騒がれてさ」
 「おう!」
 「困っちゃった」
 「おい!」

 青がこの店を出て行くと言うのでみんなで止めた。

 「クリスチャン禁止とか書く?」
 「暴動になるだろう!」
 「あ! 和尚の寺の本尊をここに置きましょうよ!」
 「ふざけんな、トラぁ!」

 「と、とにかくさ。開店までに考えておこう」
 




 何とかその場は終えたが。
 でもまあ、青の店が繁盛するのは喜ばしい。
 なんとかなるだろう。
 
 知らねぇが。
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