富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,606 / 3,215

茜と葵 Ⅱ

しおりを挟む
 トラさんに、乾さんのお店へ連れて来られた。
 デュールゲリエがどういうものか見せてくれるというお話だった。
 私が知らない相棒にビビって不安に思っていることを心配して下さっている。
 自分でも情けない話だが、人間ですら緊張するのに、デュールゲリエとどう付き合えばいいのか分からなかった。

 先に中華街で陳さんのお店で昼食を頂く。
 オーナーの陳さんが本当に喜んでいたのがすぐに分かった。
 トラさんも嬉しそうに陳さんと話していた。

 「こっちへ来ると、絶対に寄るんだよ」
 「そうなんですか!」

 「トラちゃん、今日も一杯食べてってね!」
 「はい!」

 私は本格的な中華料理を知らないので、注文は全部トラさんがやってくれた。
 出て来たお料理がなんていう名前か知らないものも多かったが、本当に全部絶品で美味しかった。
 特に北京ダック!
 あんなに美味しい物がこの世にあったなんて。
 トラさんが私に一杯勧めてくれた。
 お腹が苦しくなるほど食べてしまった。

 「ここには、乾さんたちにしょっちゅう連れて来てもらったんだ」
 「そうなんですか!」

 高校時代にも、トラさんが走り屋の方々と親しくしているのは知っていた。
 乾さんというお名前ももちろんだ。
 でかい輸入バイクの販売店をしていたことも知っている。
 トラさんは乾さんのことをいろいろと話して下さった。
 知らないお話ばかりで、トラさんが本当に可愛がられていたことが分かった。
 卒業の時の、RZとの別れは思わず号泣し、トラさんが困っていた。
 そして数年前に亜紀さんがトラさんと乾さんを再会させたこと。
 嬉しくって、私も叫んでしまった。
 陳さんが来て笑っていた。

 「すいません、大声で。こいつに昔話をちょっとしたら」
 「うん、いいよ。茜さん、いい子だね」
 「まあ、そうなんですが」

 私がお料理が美味しいと言うと、陳さんも喜んでくれた。
 陳さんがサービスだと北京ダックを追加してくれ、トラさんがまた困った顔をしていた。
 トラさんは誰からも愛されるお人だ。

 食事を終えて、乾さんのお店へ伺った。
 大きなバイクショップで、品もいい。
 それに掃除が行き届いているのが印象的だった。
 トラさんの愛車アヴェンタドールで行ったので、エンジン音でか乾さんがお店の外へ出て来た。

 「乾さーん!」
 「おう、やっと来たか! てめぇすっかり来なくなっちまってよ!」
 「年明けにも来たじゃないですかぁ!」
 「毎週来い!」
 「そんなぁ!」

 乾さんに紹介していただいた。

 「こいつも「ルート20」のメンバーでして」
 「美住茜です! 今日は押し掛けてすいません!」
 「いいよ。トラの大事な人間なんだろう? だったら俺も大歓迎だ」
 「え!」
 「茜は「虎」の軍に入ったんです。ちょっと危険な任務もあるんで、デュールゲリエを付けるつもりで」
 「ああ、そうか。じゃあディディを観たいってことだな?」
 「はい。ディディを見れば、デュールゲリエがどういうものか分かると思って」
 「そうか、じゃあ入れよ。茜さん、ゆっくりしてってくれな」
 「はい、ありがとうございます!」

 トラさんが笑っていた。

 「お前、どこがコミュ障なんだよ?」
 「え、だって、乾さんっていい人じゃないですか!」
 「会ったばかりだろう」
 「そんなの! あんなに良い人って滅多にいませんって」
 「そうかよ」

 トラさんがまた嬉しそうに笑った。
 お店に入って、すぐにディディさんがコーヒーを持って来てくれた。
 あんまりにも綺麗な人なんでびっくりした。
 身長は2メートル以上あるんだけど、優しい雰囲気で包まれている。
 本当に人間と変わらないと言うか、人間以上に温かなことが分かった。
 トラさんが私を紹介してくれ、ディディさんも丁寧に挨拶してくれた。
 
 「石神様、今日も陳さんのお店へ寄られましたか?」
 「ああ、ついさっきな。だから茶うけはいらないよ」
 「かしこまりました。でもオレンジケーキがありますので、後で是非」
 「そうか、ありがとうな」

 ディディさんはにこやかに笑って、仕事へ戻った。
 乾さんが微笑んで見送っていた。

 「悪いな、今ちょっと接客中でよ。すぐに来るから」
 「はい」

 トラさんが乾さんと楽しそうに話し始めた。
 お二人とも本当に嬉しそうだ。
 
 「トラ、そういえばちょっと前から幾つかキリスト教の教会からの注文が続いててよ」
 「へ、へぇー」
 
 乾さんがトラさんを睨んでいた。
 トラさんの目がちょっと泳いでいる。
 なんだろ?

 「お前、なんか知ってるよな?」
 「なんでですかぁ! 俺はクリスチャンじゃないですよ!」
 「あ、やっぱ知ってるな!」
 「だからなんでぇ!」
 「お前がウソついてる時は分かるんだよ!」
 「えぇ!」
 「白状しろ!」

 トラさんが珍しくしどろもどろで話した。

 「あのですね、ちょっとキリスト教関係で俺の関係のサイトがありまして」
 「なんだよ、そりゃ?」
 「あの、なんかファンクラブ的な?」
 「そんなのがあんの?」
 「はい。ちょっと事情がありまして。そこにですね、前に俺がお世話になってて素晴らしいバイクショップがあるってですね」
 「うちのことかよ!」
 「そうですよ! 素敵なお店じゃないですか!」
 「バカ!」
 「いいじゃないですか!」
 「また忙しくなりやがってんだぞ!」
 「おめでとうございます!」
 「このやろう!」

 思わず笑ってしまった。
 きっと、トラさんが関わっているきっかけは、ローマ教皇の関連だろう。
 ピエロの青さんも、そのお陰で酷い目に遭ったとこないだ言ってた。
 響子ちゃんに会いに、トラさんの病院へ行くと青さんのお店に寄るようになった。
 だから大体の事情は私も知ってる。
 
 ディディさんが接客を終えて、こっちへ来た。

 「おお、ディディ、座れよ!」
 「トラ、まだ話があんだよ!」
 「今日はもう、この辺で。茜にディディを紹介しなくちゃ!」
 「このやろう」

 乾さんが嬉しそうなのが印象的だった。
 トラさんに会えたからなんだろう。

 「それにしてもトラぁ! お前すっかりご無沙汰じゃねぇか!」
 「だから年明けに、六花と来ましたよね?」
 「だからもっと来い!」

 ディディさんが微笑んでいた。
 私にも分かった。
 ディディさんは、乾さんが喜んでいると自分も嬉しいのだ。
 乾さんは、とにかくトラさんにもっと来てもらいたいのだろう。
 さっきもそんな遣り取りがあった。
 そのことがディディさんにも分かっている。
 
 「あなた、石神さんがいらして良かったですね」
 「あ? うぅ、まあな」
 「ウフフフフ」
 「ディディ、毎晩やってるか!」
 「はい!」
 「おい!」

 ディディはトラさんの命令には絶対に従うと聞いていた。
 だけど、こんなことまで即答かー。
 恥ずかしがってる乾さんが可愛らしかった。

 ああ、ここは温かい。
 トラさんが、その温もりを護ろうとしていることも分かった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る

雪城 冴
キャラ文芸
1/23本編完結‼️ 【中華サスペンス】 皇帝が隠した禁忌の秘密。 それを“思い出してはいけない少女”がいた―― 【あらすじ】 特殊な眼を持つ少女・翠蓮(スイレン)は、不吉を呼ぶとして忌み嫌われ、育ての父を村人に殺されてしまう。 居場所を失った彼女は、宮廷直属の音楽団の選抜試験を受けることに。 しかし、早速差別の洗礼を受けてしまう。 そんな翠蓮を助けたのは、危険な香りをまとう皇子と、天女のように美しいもう一人の皇子だった。 それをきっかけに翠蓮は皇位争いに巻き込まれ、選抜試験も敵の妨害を受けてしまう。 彼女は無事合格できるのか。 ◆二章◆ 仲間と出会い、心を新たにするも次なる試練が待ち受ける。 それは、ライバル歌姫との二重唱と、メンバーからの嫌がらせだった。 なんとか迎えた本番。翠蓮は招かれた地方貴族から、忌み嫌われる眼の秘密に触れる。 ◆三章◆ 翠蓮の歌声と真心が貴妃の目にとまる。しかし後宮で"寵愛を受けている"と噂になり、皇后に目をつけられた。 皇后の息子から揺さぶりをかけられ、もう一人の皇子とは距離が急接近。 しかし、後宮特有の嫌がらせの中で翠蓮は、自分の存在が皇子に迷惑をかけていると知る。 わずかに芽生えていた恋心とも尊敬とも付かない気持ちは、押さえつけるしかなかった。 ◆最終章◆ 後宮で命を狙われ、生死をさまよう翠蓮は、忘れていた記憶を取り戻す。 かつて王家が封じた“力”とは? 翠蓮の正体とは? 身分違いの恋の行方は? 声を隠すか歌うのか。 運命に選ばれた少女が、最後に下す決断とは―― ※架空の中華風ファンタジーです ※アルファポリス様で先行公開しており、書き溜まったらなろう、カクヨム様に移しています ※表紙絵はAI生成

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

処理中です...