富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,608 / 3,202

茜と葵 Ⅳ

しおりを挟む
 乾さんのお店へ行った翌日、俺は茜と葵を引き合わせた。
 俺の家だ。
 双子を一緒にいさせている。
 茜は俺がやった「虎」の軍の制服を着ている。
 乾さんの所で茜はディディを見て安心してはいたが、やはり若干緊張しているようだ。

 茜をリヴィングに上げ、俺は相棒のデュールゲリエを呼んだ。
 身長170センチ。
 明るい茶のベリーショートの髪に、目鼻立ちの整った日本人の顔。
 手足が長く、ボディラインも美しい。
 タイガーストライプのコンバットスーツを着せていた。

 「葵だ」

 敢えて茜よりも背の高い美人にして茜よりも目立たせているのは、茜を危険から守るためだ。
 敵が葵に目を向けるようにしている。
 茜の目が輝いた。
 気に入ったようだ。

 「葵さん!」
 「葵とお呼びください」
 「じゃあ、あたしのことも茜って呼んで!」
 「かしこまりました、茜。茜と一緒になることを楽しみにしてました」
 「そうなの!」
 「茜のことをいろいろ知りました。学生時代の話や社会人になってからのこと。そして石神様の下で訓練に励んできたこと」
 「そうなんだ!」
 「茜は最高です! 絶対に保奈美さんを見つけ出しましょう」
 「うん! 頑張ろうね!」
 「はい!」

 初めから意気投合して俺も驚いた。
 茜は他人に壁を作る奴ではないが、こんなにも互いに通じ合っている。
 葵の方はプログラムを組む過程である程度茜に好意的に仕向けてはいる。
 しかし、実際にはそれ以上に茜のことを慕っていたように感ずる。
 茜の方も、葵を見た瞬間に一気に受け入れた。
 まあ、良かったのだが。
 しばらく二人で話させたが、茜も気後れすることなく明るく喋っていた。
 自分のことを話しているが、実力がまだまだ不足していることを正直に話した。
 葵は茜のことは把握していたが、まず茜の努力を褒め称えた。
 茜が短期間でここまでの実力になったことは、普通ではあり得ないのだと。
 葵は茜が保奈美のために懸命に努力したことを理解していた。
 そしてそのことが如何に美しい事なのかを語った。
 
 「おい、軽く遣り合ってみろよ。相手の戦闘力を把握しろ」

 茜を着替えさせて庭に出して、二人が少し離れてから組手を始めた。
 最初はお互いの能力を探るようにし、徐々に本格的に遣り合っていく。
 どんどん二人が笑顔になっていく。
 30分もやり込んで、二人は笑いながら終えた。

 「いいね、葵!」
 「茜も!」

 葵は最新の戦闘データを入れている。
 だから茜よりも戦闘力は高い。
 戦場で茜を補佐し、万一の場合は助ける役目を持っている。
 今後も茜の訓練に、葵は役立つだろう。

 茜にシャワーを使わせ、その間に葵に昼食を作らせた。
 ナスと挽肉のポロネーゼにし、うちはアスパラとエリンギを入れると指示した。
 それに海藻のスープとビーフカツレツ(双子は厚め)。
 シャワーから戻った茜が喜んだ。
 エプロンを付けた葵を見て、すぐに悟った。

 「葵が作ったの!」
 「はい!」

 「おい、戦場じゃともかく、普段は美味いものが喰えるぞ」
 「やったぁー!」

 みんなで笑って食べた。
 もちろん美味い。
 蓮花はデュールゲリエの料理レシピに拘っている。
 それは、人間に喜んでもらい、デュールゲリエを大切にしてもらえるようにだ。
 蓮花の愛なのだ。
 今日は石神家の舌に合わせているが、今後は茜の好みの味付けになって行くだろう。
 茜はポロネーゼを美味しいと言って喜んだ。

 「蓮花様からいろいろな料理を教えて頂いています」
 「そうなんだ!」
 「1万種類以上あるんだぞ?」
 「エェー!」

 「石神様、今は2万種類を超えております」
 「そうなのかよ!」

 みんなで笑った。
 茜がハンバーガーも作れるかと葵に聞いた。

 「800種類くらいは」
 「ヤッタァー!」

 好きらしい。

 「おい、戦場じゃ喰えるものは限られるからな」
 「石神様、大丈夫でございます」
 「そんなこと言ってもよ」

 俺も聖も戦場では現地調達が多く、ろくなものは食べていなかった。

 「どこの戦場でも動物や虫など、様々な食材を調理出来ますので」
 「虫!」
 「はい。茜様に栄養不足は決してございません」
 「あたし、虫も食べるのー!」
 「はい!」

 葵が笑った。
 ジョークなのかどうかは俺にも分からん。
 茜は物凄い顔をしていた。
 またみんなで笑った。

 「そういえばよ、茜。お前、何度も青の「般若」に行ってるだろ?」
 「はい! 行くと青さんがいつもサービスしてくれて! カスミちゃんと涼子ちゃんもカワイイし」
 「そうか。あそこのな、カスミも実はデュールゲリエなんだよ」
 「エェッーーーー!」
 「やっぱ知らなかったか」
 「全然! だって、スゴイ綺麗な子ですよ!」
 
 そこでやっと俺は気付いた。
 茜が「綺麗」と言うのは、見た目のことじゃないのだ。
 こいつには霊感のようなものがあって、人間の魂、本質を見ている。
 乾さんのことも一目で「良い人」と言い、ディディのことも「最高」と言っていた。
 だからディディを見て、デュールゲリエと一緒に行動することの不安が一気に解消されたのだろう。
 茜はディディの中にある「魂」を確かに見たのだ。
 茜の感覚では、人間もデュールゲリエも魂に違いは無いのかもしれない。
 だからカスミのことも人間と思い込んでいた。

 「カスミは綺麗か?」
 「はい! 青さんのために一生懸命で。娘さんと紹介されましたけど、そうじゃなかったんですね」
 「いや、娘だよ。亡くなった明穂さんがな、もしも青との間に子どもが出来たらって話をしていたんだ」
 「ああ、あの写真の方ですね?」
 「そんな未来は無い二人だったんだけどな。俺がもしもって話をしたら、話してくれた」

 俺は茜に青と明穂さんとのことを話した。
 二人の出会いから、限られた寿命の中での温かな結婚生活、そして別れ。
 青は3年間も明穂さんの遺影を抱いてヨーロッパを巡った。
 茜が号泣し、葵までが泣き出して困った。

 「それでな、日本へ帰って来てあの喫茶店を開く時に、カスミを創った。青は明穂さんの言葉を知り、カスミを自分の娘として受け入れたんだ」
 「……そうだったんですね……」
 「だからな、カスミは本当に青と明穂さんの娘なんだ」
 「はい、分かりました。それでトラさん、実は」
 「あんだよ?」
 「青さんの「般若」なんですけど、多分、あの人が明穂さんなんじゃないかって」
 「お前! また見えてたのかよ!」

 双子も驚く。

 「えーと、凄くお綺麗で、いつも青さんのお近くにいて。カスミちゃんの傍にもいて、ニコニコしてて」
 「明穂さんじゃん!」

 間違いねぇ。

 「おい、茜」
 「はい、なんですか?」
 「俺がいる時に、青の前でその話はすんなよ?」
 「え、どうしてです?」
 「あいつが泣いちゃってどうにもならなくなるからだよ!」
 「まあ、そうなりますかね?」
 「そうしたら俺がめんどくせぇだろう!」
 「え?」
 「だからな、話をすんなら俺がいない時にしろ!」
 「トラさん、なにげに冷たいっすね」
 「冗談じゃねぇ!」

 みんなが笑った。

 「まあ、青さんには黙っときますか」
 「そうだな」
 「青さんも変わりましたよね」
 「そうかもな」
 「昔はどす黒い感じでしたけど。だから、最初はちょっと会うのは嫌だったんです」
 「響子が青のことが大好きだからなぁ」
 「はい。でも、会ったら、もう物凄く「綺麗」で。あれって、トラさんのお陰ですよね?」

 茜は青のことも「綺麗」だと言った。
 やはり、魂の色を見ているのだろう。

 「俺なんかは関係ねぇよ。あいつが自分で変わったんだ」
 「そうですかねぇ。あそこまでどす黒い人は、なかなか変われないもんですが」
 「そういうものか?」
 「はい」

 茜なりに、自分の霊感のようなものの経験を積み上げているようだ。
 自分に霊感があることは、あまり気付いていないようなのだが。
 普通に見えてしまうので、本人も特別なことではないのかもしれない。
 今度、柏木さんにでも聞いてみよう。
 
 昼食を食べて、茜は葵と一緒にアラスカへ戻った。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...