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「虎」の軍 新体制 Ⅲ
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石神家本家から帰った日の夜。
「タカさん、ちょっと相談があるの」
「おう」
俺の部屋にルーとハーが来た。
俺はソファに座り、二人は俺のデスクから椅子を持って来て、ちょっと殴り合いの末にハーがソファに、ルーが事務椅子に座った。
俺の寝室のソファは一人掛けが二つだ。
まあ、事務椅子と言ってもポルトローナ・フラウ社の「コックピット」だ。
240万円。
二人はよく俺の部屋へ入って来る。
遊びのことも多く、この二人はいつも来ると楽しい。
相談事も多く、研究のことや「人生研究会」のこともある。
家族の中で、一番いろんな話をするのは、この二人だろう。
同時に隠し事をされると相当ヤバい連中なので、俺が注意している。
ルーとハーには特に何でも話せと言っているので、一番相談事は多い。
亜紀ちゃんも柳も、ほとんどない。
二人とも自分で考えるタイプで、滅多に相談は無い。
亜紀ちゃんも柳も、大学に入った当初は俺にいろいろと聞いて来たが、今では何もないようだ。
むしろ亜紀ちゃんの場合、俺に隠し事が多いだろう。
先日の「タカさん教」はぶっ飛んだ。
まあいい。
今日の双子の相談は「人生研究会」に関することだった。
「あのね、二つあるの」
「一つは、国家公務員試験のことなの」
「国家公務員試験?」
意外な相談だった。
「「国家公務員・総合職」の試験があるでしょ?」
「ああ、キャリアになるものだよな?」
「うん」
いろいろと変遷し、昔の「上級」やら「Ⅰ」やらで、今では総合職と言われているようだ。
「受験の資格が、大学とか大学院の卒業でしょ? それをもっと門戸を開いて欲しいんだ」
ルーがそう言いながら、足を開いた。
下品なジョークが好きな奴らだ。
三人でニコニコした。
「お前らも受験したいのか?」
「うん、そう! まあ、高卒資格でも受験が出来るようにして欲しい」
「法の改正が必要だよなぁ」
「そこをなんとか!」
ルーもハーも、国家公務員になりたいのだろうか?
「お前ら、キャリアになりたいのか?」
「ううん、私たちじゃないの。「人生研究会」の人間たちなの」
「今も、いろんな省庁で嘱託の身分で活動してるじゃない」
「ああ、そうだったな」
ずっと以前に省庁の見学という名目で訪れ、そこで自分たちの実力を示して来た。
ほとんどの省庁で即戦力になることを知り、今では嘱託として雇われている。
もちろん御堂や俺の口添えがあってのことだが。
「人生研究会」は双子が鍛え上げた連中であり、将来は日本を支える人材を育成しようという意向があったのは俺も知っている。
まあ、随分と先になるとは思っていたが。
「もうこんな時代じゃない」
「だからね、グズグズしてないで、早い段階で日本を掌握しておきたいの」
「おいおい」
「タカさん、私たち本気だから。もう全省庁に人材は回してる。政治家として鍛えた連中もいるよ?」
「大体800人はいる。十分な数だと思うよ」
「実はね、この話はいろんな省庁からの要請もあるの」
「早く嘱託でない身分で来て欲しいって」
「ほう」
驚いた。
各省庁に派遣していることは知っていたが、その実態については俺も知らなかった。
そんなにも評判が良かったとは。
まあ、双子の指導で優秀な人材であることは聞いてはいたが。
「事務次官レベルの要請もあるの。だから法案としては通りやすいと思う」
「分かったよ、御堂に話そう」
「「タカさん、ありがとう!」」
双子に抱き着かれ、両頬にキスをされた。
嬉しい。
「それでもう一つってなんだ?」
「その前になんか飲もう! 喉渇いちゃった」
そう言って、キッチンから千疋屋のフレッシュジュースを持って来た。
俺はジンジャーエールを頼んだ。
飲みながら話した。
「実はね、もう一つは馬込のことなの」
「ああ、あいつか」
双子に逆らい続け、最後には双子を護る人間になると言い切った奴だ。
まあ、二人に惚れているのは分かっている。
もちろん、最初からだ。
子どもらしい、自分に振り向いて欲しい思いでずっと逆らっていたのだ。
今は同じ高校に通っているはずで、よくルーとハーが特訓をしてやっている。
二人にとっても、どうやら特別な人間のようだ。
「馬込がね、もう高校は辞めて早く「虎」の軍に入りたいんだって」
「もう本格的な訓練を受けて強くなりたいってさ」
「お前らが鍛えてんじゃないのか?」
「そうなんだけど、もっと全部の時間で鍛え上げたいって」
「そうなのか」
双子もそうなのだが、「人生研究会」の連中はもう学校に通う意味は無いのかもしれない。
俺はまだモラトリアムののんびりとした時間を過ごしてもらいたいのだが。
「高校の授業ってもういらないじゃん」
「受験はすぐに出来るしね。学校に通う必要は確かに無いね」
「まあ、そうは言ってもなぁ」
気持ちはよく分かるのだが。
でも、高校くらいは出してやりたい。
馬込の親もそう思っているだろう。
「高卒の資格は、後からでも取れるでしょ?」
「まあな。大学受験とかはお前らならぞれで十分だろうな」
「ね! 馬込はもっと真剣に考えてるの」
「分かった、じゃあ俺が直接話そう。その上で馬込のご両親ともな」
「「うん!」」
「でも、お前らもそれでいいのか?」
「うん、今も学校の必要はもう感じてないしね」
「高校を卒業したら、もう「虎」の軍だね」
「そうか。大学はいいのか?」
「亜紀ちゃんが行ったからね。東大の医学部だよ。これでお父さんとお母さんも納得してもらう」
「皇紀ちゃんなんか中卒だしね!」
「「「ワハハハハハハハ!」」」
まあ、自分の人生を自分で始められる奴らだ。
亜紀ちゃんは何か言いそうだが、それでいい。
兄弟でちゃんと話し合って決めればいいのだ。
それに、恐らく柳も亜紀ちゃんも、医者にはならないだろう。
二人の相談が終わり、俺が話した。
「石神家に行って来たろ? そこで聖たちと面白い話をしたんだ」
「え、なーに?」
「最近、《ハイヴ》攻略で敵の反撃が多いだろう? その対抗手段でな」
「うん、どんな?」
「攻略作戦をなるべく近い《ハイヴ》で時間差で行なう。それによって、万一の事態で互いに応援に駆け付けられる」
「「なるほど!」」
「それと、別途背後を護る部隊を作る。それを将来的に馬込に任せたいかな」
「それはどういうの?」
「《ハイドラ=背虎》というな。本隊が作戦遂行に専念出来るように、その他の非常事態を全て受け持つ部隊だ」
「あ、それいいね!」
「馬込にピッタリじゃない?」
「そうだね!」
俺は笑った。
「戦場を知り尽くした奴じゃないと駄目だよ。それにどんな事態にも対応出来る優秀な指揮官でなければならない」
「タカさん、馬込、ズッコイよ!」
「あいつ、バカだけどとことんやるよ!」
「うん、絶対にやる奴」
「私たちが保証するよ!」
「ほう、そんなにかよ」
「「うん!」」
双子がこれほど推してくる奴とは思わなかった。
まあ、俺も馬込を知っているので考えてはいたわけだが。
「じゃあ、今度会う時に試してみるかぁ」
「そうして!」
「絶対にタカさんも気に入るよ!」
「そうか、楽しみだな!」
俺は続けて話した。
「タカさん、ちょっと相談があるの」
「おう」
俺の部屋にルーとハーが来た。
俺はソファに座り、二人は俺のデスクから椅子を持って来て、ちょっと殴り合いの末にハーがソファに、ルーが事務椅子に座った。
俺の寝室のソファは一人掛けが二つだ。
まあ、事務椅子と言ってもポルトローナ・フラウ社の「コックピット」だ。
240万円。
二人はよく俺の部屋へ入って来る。
遊びのことも多く、この二人はいつも来ると楽しい。
相談事も多く、研究のことや「人生研究会」のこともある。
家族の中で、一番いろんな話をするのは、この二人だろう。
同時に隠し事をされると相当ヤバい連中なので、俺が注意している。
ルーとハーには特に何でも話せと言っているので、一番相談事は多い。
亜紀ちゃんも柳も、ほとんどない。
二人とも自分で考えるタイプで、滅多に相談は無い。
亜紀ちゃんも柳も、大学に入った当初は俺にいろいろと聞いて来たが、今では何もないようだ。
むしろ亜紀ちゃんの場合、俺に隠し事が多いだろう。
先日の「タカさん教」はぶっ飛んだ。
まあいい。
今日の双子の相談は「人生研究会」に関することだった。
「あのね、二つあるの」
「一つは、国家公務員試験のことなの」
「国家公務員試験?」
意外な相談だった。
「「国家公務員・総合職」の試験があるでしょ?」
「ああ、キャリアになるものだよな?」
「うん」
いろいろと変遷し、昔の「上級」やら「Ⅰ」やらで、今では総合職と言われているようだ。
「受験の資格が、大学とか大学院の卒業でしょ? それをもっと門戸を開いて欲しいんだ」
ルーがそう言いながら、足を開いた。
下品なジョークが好きな奴らだ。
三人でニコニコした。
「お前らも受験したいのか?」
「うん、そう! まあ、高卒資格でも受験が出来るようにして欲しい」
「法の改正が必要だよなぁ」
「そこをなんとか!」
ルーもハーも、国家公務員になりたいのだろうか?
「お前ら、キャリアになりたいのか?」
「ううん、私たちじゃないの。「人生研究会」の人間たちなの」
「今も、いろんな省庁で嘱託の身分で活動してるじゃない」
「ああ、そうだったな」
ずっと以前に省庁の見学という名目で訪れ、そこで自分たちの実力を示して来た。
ほとんどの省庁で即戦力になることを知り、今では嘱託として雇われている。
もちろん御堂や俺の口添えがあってのことだが。
「人生研究会」は双子が鍛え上げた連中であり、将来は日本を支える人材を育成しようという意向があったのは俺も知っている。
まあ、随分と先になるとは思っていたが。
「もうこんな時代じゃない」
「だからね、グズグズしてないで、早い段階で日本を掌握しておきたいの」
「おいおい」
「タカさん、私たち本気だから。もう全省庁に人材は回してる。政治家として鍛えた連中もいるよ?」
「大体800人はいる。十分な数だと思うよ」
「実はね、この話はいろんな省庁からの要請もあるの」
「早く嘱託でない身分で来て欲しいって」
「ほう」
驚いた。
各省庁に派遣していることは知っていたが、その実態については俺も知らなかった。
そんなにも評判が良かったとは。
まあ、双子の指導で優秀な人材であることは聞いてはいたが。
「事務次官レベルの要請もあるの。だから法案としては通りやすいと思う」
「分かったよ、御堂に話そう」
「「タカさん、ありがとう!」」
双子に抱き着かれ、両頬にキスをされた。
嬉しい。
「それでもう一つってなんだ?」
「その前になんか飲もう! 喉渇いちゃった」
そう言って、キッチンから千疋屋のフレッシュジュースを持って来た。
俺はジンジャーエールを頼んだ。
飲みながら話した。
「実はね、もう一つは馬込のことなの」
「ああ、あいつか」
双子に逆らい続け、最後には双子を護る人間になると言い切った奴だ。
まあ、二人に惚れているのは分かっている。
もちろん、最初からだ。
子どもらしい、自分に振り向いて欲しい思いでずっと逆らっていたのだ。
今は同じ高校に通っているはずで、よくルーとハーが特訓をしてやっている。
二人にとっても、どうやら特別な人間のようだ。
「馬込がね、もう高校は辞めて早く「虎」の軍に入りたいんだって」
「もう本格的な訓練を受けて強くなりたいってさ」
「お前らが鍛えてんじゃないのか?」
「そうなんだけど、もっと全部の時間で鍛え上げたいって」
「そうなのか」
双子もそうなのだが、「人生研究会」の連中はもう学校に通う意味は無いのかもしれない。
俺はまだモラトリアムののんびりとした時間を過ごしてもらいたいのだが。
「高校の授業ってもういらないじゃん」
「受験はすぐに出来るしね。学校に通う必要は確かに無いね」
「まあ、そうは言ってもなぁ」
気持ちはよく分かるのだが。
でも、高校くらいは出してやりたい。
馬込の親もそう思っているだろう。
「高卒の資格は、後からでも取れるでしょ?」
「まあな。大学受験とかはお前らならぞれで十分だろうな」
「ね! 馬込はもっと真剣に考えてるの」
「分かった、じゃあ俺が直接話そう。その上で馬込のご両親ともな」
「「うん!」」
「でも、お前らもそれでいいのか?」
「うん、今も学校の必要はもう感じてないしね」
「高校を卒業したら、もう「虎」の軍だね」
「そうか。大学はいいのか?」
「亜紀ちゃんが行ったからね。東大の医学部だよ。これでお父さんとお母さんも納得してもらう」
「皇紀ちゃんなんか中卒だしね!」
「「「ワハハハハハハハ!」」」
まあ、自分の人生を自分で始められる奴らだ。
亜紀ちゃんは何か言いそうだが、それでいい。
兄弟でちゃんと話し合って決めればいいのだ。
それに、恐らく柳も亜紀ちゃんも、医者にはならないだろう。
二人の相談が終わり、俺が話した。
「石神家に行って来たろ? そこで聖たちと面白い話をしたんだ」
「え、なーに?」
「最近、《ハイヴ》攻略で敵の反撃が多いだろう? その対抗手段でな」
「うん、どんな?」
「攻略作戦をなるべく近い《ハイヴ》で時間差で行なう。それによって、万一の事態で互いに応援に駆け付けられる」
「「なるほど!」」
「それと、別途背後を護る部隊を作る。それを将来的に馬込に任せたいかな」
「それはどういうの?」
「《ハイドラ=背虎》というな。本隊が作戦遂行に専念出来るように、その他の非常事態を全て受け持つ部隊だ」
「あ、それいいね!」
「馬込にピッタリじゃない?」
「そうだね!」
俺は笑った。
「戦場を知り尽くした奴じゃないと駄目だよ。それにどんな事態にも対応出来る優秀な指揮官でなければならない」
「タカさん、馬込、ズッコイよ!」
「あいつ、バカだけどとことんやるよ!」
「うん、絶対にやる奴」
「私たちが保証するよ!」
「ほう、そんなにかよ」
「「うん!」」
双子がこれほど推してくる奴とは思わなかった。
まあ、俺も馬込を知っているので考えてはいたわけだが。
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