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《マルドゥック》 Ⅳ
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俺たちは「タイガーファング」で飛び、アラスカの「ヘッジホッグ」の最上階にある指令本部で打ち合わせた。
蓮花が強化外骨格「Ωウォリアー」を脱ぐ前に、沢山写真を撮った。
「カワイイぞ!」
「え、そうです?」
「もっとポーズを取れ!」
「え。こうですか?」
パシャパシャ……
幾つもある作戦会議室の中でも、最も警備が厳戒な部屋「秘密の虎園」に集まった。
200平米ほどの広さで、電波暗室であることはもちろん、あらゆる盗聴などの外部接触を遮断出来る。
ドアは5枚あり、「ヘッジホッグ」の超量子コンピューター《ウラノス》が操作する。
そして毎回俺と俺が認めた人間以外は入れない部屋だ。
そういう場所は他にもある。
作戦会議室自体は幾つもあり、要は《ウラノス》が戦闘や作戦に必要なデータを提供出来る部屋、という意味だ。
そしてそういう内容を話し合う場所は、作戦会議室に限定している。
それも、防諜対策の一部であった。
《ウラノス》が「ヘッジホッグ」での全ての会話やデータ通信を常に把握しており、万一の情報漏洩に備えているということなのだ。
皇紀がコンソールに座り、大スクリーンに今日の《ハイヴ》攻略戦の戦闘を映しながら全員でまた観直した。
映像は俺たちが「タイガーファング」で降下してからのものだ。
俺もなるべく現場で見るようにはしていたが、様々な角度からの映像はやはりありがたい。
何度か俺の指示で拡大したり再生速度をスローにしたり、また別な角度からの映像に切り替えていく。
《ウラノス》自体も手伝って、作戦全体のことが一層把握出来た。
同時に《ウラノス》が《マルドゥック》たちのデータログを解析し、二体の戦闘時の思考や判断も解説してくれる。
もちろん超高速での演算であり、ナノセカンドでの思考が提示されているわけだが、《マルドゥック》たちがどのように攻撃や防御をしているのかが分かった。
観ながら俺が蓮花に聞いた。
「蓮花、どうだった?」
「はい、予想通りに凄まじい戦闘力ですね。現場でもまるで不安な展開はありませんでした。分析システムも大変に優秀で、ロックオンシステムも100%でした」
蓮花は戦闘中はほとんど常に端末を見ながら、機体の様子を観測していた。
「エクスタームドタイプ」の砲棘の発射数と妖魔の撃墜数により、撃ち漏らしが無いことも、蓮花の観測で分かっていた。
実際に今《ウラノス》の解析データを見れば、「エクスタームドタイプ」の攻撃がパターンに陥ることなく、変幻自在に為されていたことが分かった。
そして戦場での状況を完全に把握し、より効率的に敵を殲滅出来る計算も構築していた。
同時に、今回は初の試験運用だったため、自分の性能や能力を曝け出すことなく敵に実際の性能を知られないようにも行動していた。
「アサルトタイプ」は敵がどの程度の攻撃力、防御力かを予測しながら、実際に《地獄の悪魔》を撃破したことでその予測値の正確性も分かった。
これまでの妖魔や《地獄の悪魔》との戦闘データの蓄積から、そういう予測や解析を行なっているのだ。
要するに二体とも全くの全力ではないままに、今回の試験運用によって俺たちは《マルドゥック》の優秀な性能を確認したということだ。
今、《ウラノス》の解析によって、実際の全力での戦闘のシミュレーション画像が示される。
反対に敵にはそれがほとんど知られることは無かった。
シミュレーションでは、今回の敵の831%まで対応出来ることが分かった。
俺たちにとっては実用テストを大満足に終えたという感じだ。
「そうだな、聖はどうだった?」
「まあ、驚いたぜ。でもよ、破壊力はでかいけど、運用が難しいな」
「おう、確かにな」
蓮花が驚いていた。
「あの、どういうことでしょうか?」
「蓮花は戦場は初めてだからな。確かにガンガン敵を殺すが、そこに敵しかいないからだ。もしも人間が一緒にいた場合、あれほどの広域殲滅や思い切った強い破壊力は難しいということだよ」
「ああ、それは!」
蓮花にも分かったようだ。
「人間が行なう破壊力は限定的だからな。だから味方のいる中でも撃てる。しかし《マルドゥック》は余りにも破壊力がでかい。だから味方がいる中ではあれほど自由自在の戦闘は難しいだろうな」
「でもよトラ、そうじゃない戦場で運用すればいいんじゃねぇか?」
「その通りだけどな。まあ、今回のような敵だらけの《ハイヴ》の攻略戦には実に有用なことが分かった。拠点防衛ではちょっと戦況を整えないといけないだろうけどな」
「ああ、離れた前線が出来れば使えるな」
「そうだ。でも、突然ゲートで接近された場合は難しい。まあ、それでも《地獄の悪魔》には有効だろうし、敵味方が入り乱れても、砲棘はちゃんと狙えるだろうけどな。スージーはどうだ?」
「はい、感動しましたよ! あの数の妖魔を一切寄せ付けずに駆逐出来るんですからね。うちにも是非配備して下さい」
「おう、そのつもりだ。皇紀、お前はどこの拠点を優先する?」
皇紀はもう考えているようだった。
「はい、まずは蓮花さんの研究所には10体ずつ、アラスカに30体ずつ、「セイントPMC」とロックハート家には1体ずつ。それにフィリピン、パムッカレ、アゼルバイジャン、西安、その後で建造する基地には1体ずつ、ああ大阪にも欲しいですね」
皇紀は自分たちのいる大阪を遠慮がちに述べた。
「他には?」
「《御虎》には5体ずつ、六花さんの故郷に1体ずつ。バチカンと「ローテスラント」はどうしますかね?」
「おう、ルイーサは必要無いだろうけど、バチカンは考えるよ」
「残りは作戦行動で使うのが良いかと」
「おれんちは?」
「必要ないでしょう。ああ、盛岡の石神家も」
「ワハハハハハハハハ!」
皇紀は分かっている。
《マルドゥック》の戦力を今後示しながら、それが配備されない場所に敢えて敵を誘い込む限定を考えているのだ。
それにまあ、うちの近くであんなものが暴れ回ってはたまらん。
「じゃあ、大体当初の計画通りの建造で良さそうだな」
「そうですね。建造は蓮花さんの研究所だけですか?」
「そうだ。とんでもない機密の機体だからな。万一を考慮して、あそこだけで作る」
デュールゲリエに関しては、既にアラスカで大生産工場を建造している。
「配備にはどのくらいかかりますか?」
「どうだ、蓮花?」
「建造特化のデュールゲリエを生産中です。半年もあれば。もちろんその後も建造は続けてまいります」
「最初は自分とこな!」
「はい、ありがとうございます!」
蓮花が笑った。
蓮花が強化外骨格「Ωウォリアー」を脱ぐ前に、沢山写真を撮った。
「カワイイぞ!」
「え、そうです?」
「もっとポーズを取れ!」
「え。こうですか?」
パシャパシャ……
幾つもある作戦会議室の中でも、最も警備が厳戒な部屋「秘密の虎園」に集まった。
200平米ほどの広さで、電波暗室であることはもちろん、あらゆる盗聴などの外部接触を遮断出来る。
ドアは5枚あり、「ヘッジホッグ」の超量子コンピューター《ウラノス》が操作する。
そして毎回俺と俺が認めた人間以外は入れない部屋だ。
そういう場所は他にもある。
作戦会議室自体は幾つもあり、要は《ウラノス》が戦闘や作戦に必要なデータを提供出来る部屋、という意味だ。
そしてそういう内容を話し合う場所は、作戦会議室に限定している。
それも、防諜対策の一部であった。
《ウラノス》が「ヘッジホッグ」での全ての会話やデータ通信を常に把握しており、万一の情報漏洩に備えているということなのだ。
皇紀がコンソールに座り、大スクリーンに今日の《ハイヴ》攻略戦の戦闘を映しながら全員でまた観直した。
映像は俺たちが「タイガーファング」で降下してからのものだ。
俺もなるべく現場で見るようにはしていたが、様々な角度からの映像はやはりありがたい。
何度か俺の指示で拡大したり再生速度をスローにしたり、また別な角度からの映像に切り替えていく。
《ウラノス》自体も手伝って、作戦全体のことが一層把握出来た。
同時に《ウラノス》が《マルドゥック》たちのデータログを解析し、二体の戦闘時の思考や判断も解説してくれる。
もちろん超高速での演算であり、ナノセカンドでの思考が提示されているわけだが、《マルドゥック》たちがどのように攻撃や防御をしているのかが分かった。
観ながら俺が蓮花に聞いた。
「蓮花、どうだった?」
「はい、予想通りに凄まじい戦闘力ですね。現場でもまるで不安な展開はありませんでした。分析システムも大変に優秀で、ロックオンシステムも100%でした」
蓮花は戦闘中はほとんど常に端末を見ながら、機体の様子を観測していた。
「エクスタームドタイプ」の砲棘の発射数と妖魔の撃墜数により、撃ち漏らしが無いことも、蓮花の観測で分かっていた。
実際に今《ウラノス》の解析データを見れば、「エクスタームドタイプ」の攻撃がパターンに陥ることなく、変幻自在に為されていたことが分かった。
そして戦場での状況を完全に把握し、より効率的に敵を殲滅出来る計算も構築していた。
同時に、今回は初の試験運用だったため、自分の性能や能力を曝け出すことなく敵に実際の性能を知られないようにも行動していた。
「アサルトタイプ」は敵がどの程度の攻撃力、防御力かを予測しながら、実際に《地獄の悪魔》を撃破したことでその予測値の正確性も分かった。
これまでの妖魔や《地獄の悪魔》との戦闘データの蓄積から、そういう予測や解析を行なっているのだ。
要するに二体とも全くの全力ではないままに、今回の試験運用によって俺たちは《マルドゥック》の優秀な性能を確認したということだ。
今、《ウラノス》の解析によって、実際の全力での戦闘のシミュレーション画像が示される。
反対に敵にはそれがほとんど知られることは無かった。
シミュレーションでは、今回の敵の831%まで対応出来ることが分かった。
俺たちにとっては実用テストを大満足に終えたという感じだ。
「そうだな、聖はどうだった?」
「まあ、驚いたぜ。でもよ、破壊力はでかいけど、運用が難しいな」
「おう、確かにな」
蓮花が驚いていた。
「あの、どういうことでしょうか?」
「蓮花は戦場は初めてだからな。確かにガンガン敵を殺すが、そこに敵しかいないからだ。もしも人間が一緒にいた場合、あれほどの広域殲滅や思い切った強い破壊力は難しいということだよ」
「ああ、それは!」
蓮花にも分かったようだ。
「人間が行なう破壊力は限定的だからな。だから味方のいる中でも撃てる。しかし《マルドゥック》は余りにも破壊力がでかい。だから味方がいる中ではあれほど自由自在の戦闘は難しいだろうな」
「でもよトラ、そうじゃない戦場で運用すればいいんじゃねぇか?」
「その通りだけどな。まあ、今回のような敵だらけの《ハイヴ》の攻略戦には実に有用なことが分かった。拠点防衛ではちょっと戦況を整えないといけないだろうけどな」
「ああ、離れた前線が出来れば使えるな」
「そうだ。でも、突然ゲートで接近された場合は難しい。まあ、それでも《地獄の悪魔》には有効だろうし、敵味方が入り乱れても、砲棘はちゃんと狙えるだろうけどな。スージーはどうだ?」
「はい、感動しましたよ! あの数の妖魔を一切寄せ付けずに駆逐出来るんですからね。うちにも是非配備して下さい」
「おう、そのつもりだ。皇紀、お前はどこの拠点を優先する?」
皇紀はもう考えているようだった。
「はい、まずは蓮花さんの研究所には10体ずつ、アラスカに30体ずつ、「セイントPMC」とロックハート家には1体ずつ。それにフィリピン、パムッカレ、アゼルバイジャン、西安、その後で建造する基地には1体ずつ、ああ大阪にも欲しいですね」
皇紀は自分たちのいる大阪を遠慮がちに述べた。
「他には?」
「《御虎》には5体ずつ、六花さんの故郷に1体ずつ。バチカンと「ローテスラント」はどうしますかね?」
「おう、ルイーサは必要無いだろうけど、バチカンは考えるよ」
「残りは作戦行動で使うのが良いかと」
「おれんちは?」
「必要ないでしょう。ああ、盛岡の石神家も」
「ワハハハハハハハハ!」
皇紀は分かっている。
《マルドゥック》の戦力を今後示しながら、それが配備されない場所に敢えて敵を誘い込む限定を考えているのだ。
それにまあ、うちの近くであんなものが暴れ回ってはたまらん。
「じゃあ、大体当初の計画通りの建造で良さそうだな」
「そうですね。建造は蓮花さんの研究所だけですか?」
「そうだ。とんでもない機密の機体だからな。万一を考慮して、あそこだけで作る」
デュールゲリエに関しては、既にアラスカで大生産工場を建造している。
「配備にはどのくらいかかりますか?」
「どうだ、蓮花?」
「建造特化のデュールゲリエを生産中です。半年もあれば。もちろんその後も建造は続けてまいります」
「最初は自分とこな!」
「はい、ありがとうございます!」
蓮花が笑った。
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