富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《マルドゥック》 Ⅴ

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 一通りの作戦の全体を観終えて、一段落した。
 途端に空腹を感じた。
 朝からの作戦行動で、昼にちょっとサンドイッチを食べただけなのを思い出した。
 みんな夢中だった。
 もしかしたら若い皇紀は相当腹ペコだったかもしれない。
 俺が「ほんとの虎の穴」に料理を注文し、ここへ運ばせた。
 デュールゲリエたちが運んでくれる。
 気付けば、もう夕飯になっていた。
 蓮花が普段はあまり食べない洋食に狂喜した。
 まあ、アラスカなのでキングサーモンを中心に頼んでいる。
 サーモンの他は野生キノコのリゾットと、カリブーのヒレ肉のステーキ、それと俺の好きなカプレーゼ。

 「やはり、アラスカはサーモンが最高でございますね!」

 サーモンはただのステーキではなく、今日のものは香辛料をふんだんに使ったものだ。
 いつもの分厚いものでもなく、若干薄切りにし、スープに半身が沈んでいる。
 サーモンとスープを一緒に口に運ぶと、絶妙な味わいになるのだ。

 「サーモンは低温でじっくりと仕上げ、途中で香辛料で味を付けている。スープは野菜で旨味を摂ったものに、グリルした野菜の香りも付けているものだな。サーモンそのものの味わいもあるが、これは暴力的に様々なものを添加している。こういうものも料理の醍醐味だよなぁ」
 「はい、まさしく! 研究所では人数が多いせいもありますが、肉類の方が断然多く。でもやはり魚もいいものですよね」
 「そうだよな。なあ、聖、石神家の食事も絶品だよなぁ」
 「そうだな。俺は洋食ばかり食って来たけど、あそこの食事は本当に好きだよ。こういうものとは違う方向だけど、本当に美味い飯だ」
 「素材がまず違うよなぁ。市場じゃなかなか手に入らない、本物の有機野菜や自然のものが多い。調味料も自家製で本物だ。それに料理も素朴だが手間暇を惜しまない丁寧な仕上がりだよ」
 「さようでございますか! ああ、うちの研究所でも畑をやりましょうか!」
 「まあ、考えてみてもいいかもな。そこだけならば外部の人間も入れられるしよ。でもお前は手を出すなよな」
 「何故でございますか?」
 「お前が夢中になるのは目に見えてんだよ!」
 「まあ!」

 みんなで笑った。

 「お前、時々ミユキたちのシロツメクサの花壇の手入れをしてるそうじゃねぇか」
 「だって、みんな楽しそうにやってるんですのよ?」
 「だからだって! ジェシカがしょっちゅうお前を探しにあちこち大変なんだってよ!」
 「あいつ!」
 「おい!」

 皇紀が大笑いしていた。

 「最近は皇紀様もなかなかいらっしゃらなくて」
 「すいません。僕は海外の拠点の方に出向いていることが多くて」
 「風花様もお寂しいですね」
 「まあ、子育てが大変ですから、多分そういうことも。でも、デュールゲリエたちが面倒見てくれてるので、普段は仕事もちゃんと出ているんですよ」
 「そうなのですか! 風花様もいろいろとお忙しいでしょうに」

 風花は大阪を中心に「虎」の軍の関西方面最高司令官としての立場もある。
 優秀な人材も揃っているのだが、それでも仕事は多い。
 まあ、最高司令官と言っても何かの作戦行動があるわけでもなく、肩書だけのものだ。
 大体にして、妖魔の殲滅は野薔薇と野菊が全部やっている。
 そういう中なので、梅田精肉店の仕事もこなしているのだ。
 俺が医者を続けているのと同じなのだが、それでもあいつも相当忙しいだろう。
 
 「風花さんは頑張ってやってますよ。僕が戻ればいろいろ手伝えるんですが」
 「さようでございますか。でも、是非うちの研究所にもいらして下さいね」
 「ええ、家族で押し掛けますよ」
 「それは本当に楽しみです!」

 食事を終え、デュールゲリエに酒を頼んだ。
 今日は蓮花もいるし酒の強くない皇紀もいる。
 だからクリュッグのロゼを頼んだ。
 俺も聖も酔う気はないので、それでいい。

 「聖、お前ならば《マルドゥック》をどう攻める?」

 聖に是非聞きたかった。

 「そうだな。「エクスタームドタイプ」の方は、砲棘以上の数を揃えるとどうなるかだな」
 「なるほど。数十億の妖魔に囲まれたらか」
 「ああ。それに、強力な攻撃を受ければ案外脆いかもしれないと感じた。《地獄の悪魔》級の奴が相手だとヤバいな」
 「そうだな。その場合は離脱だが、出撃した作戦は崩壊するだろう。「アサルトタイプ」はどうだ?」
 「そっちも《地獄の悪魔》の攻撃が集中すればだな。数百が相手となればやっぱりヤバいんじゃないのか?」
 「うん、俺もそう思う。今はまだ《地獄の悪魔》が数体規模だけどな。今後「業」がどう進化するか分からん。俺はいつの日か、そういう戦闘になって行くと思っているよ」
 「トラが言うならばそうだろうな。強くなるのは俺たちだけじゃない」
 「そうだ」

 蓮花が不安そうな顔をしている。
 あくまでも現状を鑑みての《マルドゥック》の開発だったからだ。
 今日の《ハイヴ》攻略戦では、目覚ましい成果を見たのだが。
 もちろん、今後は俺たちも今のままでいるつもりは無い。
 そういうことも、聖は分かっている。
 要は、立ち止まるなということを言いたいのだ。

 「ところでトラよ。俺の復活はいつ頃になりそうなんだ?」

 聖が笑顔で俺に言った。
 ずっと石神家で鍛錬をし、重傷を負った聖の身体は戻ったばかりか、以前よりも鍛え上げられている。
 俺は聖に、最高の舞台での復活を約束していた。
 聖は今日の《マルドゥック》のテスト運用を見て、俺が何かを考えていることを悟っていた。

 「《マルドゥック》を戦場で運用していきたい。その上で、お前の出番が来るだろうな」
 「《マルドゥック》で対応出来ない、ということか?」
 「そういうことだ」

 流石に聖はよく分かっている。
 聖に《マルドゥック》を見せ、戦う性能を見せたのだ。
 その上で、聖は《マルドゥック》だけでは足りなくなる戦場を想起した。

 「《マルドゥック》たちは別に機密の機体じゃない。デュールゲリエたちと同様に運用していくつもりだ。だから、「業」は必ず対抗手段を嵩じて来る。そこからが、俺たちと「業」との新たな展開になるだろうな」
 「そうだな」

 皇紀も考えている様子だった。

 「タカさん、「業」たちは機械技術では僕たちに到底及びませんね」
 「そうだな」

 技術者も少ないし、何よりも資源が断然不足している。
 俺たちが奪い取っているからだ。

 「だから必ず妖魔の運用を考えて来ると思います」
 「ああ」
 「だから、この《マルドゥック》の運用が、対妖魔戦の一区切りになるということですか!」
 「おお、その通りだ」

 蓮花ももちろん分かっている。
 俺たちは「業」との戦いにおいて、しばらくは対妖魔戦に関しては格段に優勢となるだろう。
 もちろん聖の想定した通り、「業」も妖魔運用の数と質を向上させるに違いない。
 それでも俺たちは《マルドゥック》の増産という返し手を打てる。
 それを確実にして行くために、今後の《マルドゥック》の運用が必要だ。
 そして、不足や弱点を俺や聖が補完していく。
 戦闘の天才の聖には、その行く末の予想も既にあるようだ。
 だから自分の出番の話をした。

 「まあ、もう少し待てよ。必ず、お前を戦場に連れて行く」
 「ああ、頼むぜ。楽しみだぜぇ!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 



 既にある新たな作戦を構想中だ。
 俺はその作戦に《マルドゥック》を同行させるつもりだった。
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