2,819 / 3,202
モスクワ侵攻作戦
しおりを挟む
11月の下旬。
俺はまたルイーサの城に行っていた。
定期的に月に一度は来ているのだが、毎回美味い料理が楽しみになってきている。
何しろ、あのルイーサが認める料理人なのだ。
仕方のないことではあるが、やはり人間とは圧倒的に違う。
人間よりも遙かに長命の故に、積み上げたものが断然高いのだ。
そのために俺が知っている料理であっても、唸る程の美味さになるし、また知らない料理も結構多い。
一つだけ難を言えば、出て来る料理の中で食材が不明なものが時々あるだけだ。
瞳が三つある目玉のようなものがスープに浮かんでいた時には、流石に驚いた。
しかし、ルイーサの前なので勇気を奮って口に入れると、得も言われぬほどの味わいがあった。
だから、それが何なのかは聞かなかった。
知りたくねぇー。
今日も晩餐が豪華で、美しいレジーナと一緒に味わった。
食事中のワインとは別に、食事の後で酒が振る舞われる。
今日は「Henri IV Dudognon Heritage Cognac Grande Champagne」という幻のコニャックだ。
えーと、1億6500万円……
まあ、双子に頼めば飲めないということもないが、別にそこまでして飲みたくもねぇ。
アラスカの「ほんとの虎の穴」にはディーヴァという数億円のウォッカも置いているが、俺の提供したレッドダイヤモンドとブルーダイヤモンドで蒸留したものだ。
飲むためではなく、レイとの思い出で購入した。
「純金のラベルに6500個のダイヤモンドが散りばめられている」
「へぇ」
「万能薬が入れられており、飲めば不老不死になるぞ」
「じゃあいらねえ」
ルイーサが大笑いした。
ルイーサは少し前から日本語で話してくれる。
ルイーサにとっては、言語の習得など何のこともないようだ。
「まあ飲め。こんなもので不老不死になるはずもない。珍しいものなので美獣に飲ませたかっただけだ」
「お前が出すものなら何でもいいけどな」
本当にとんでもないものを贈って来る奴だ。
フィリピンの顕さんはあの「ナゾ馬車」で訪問されただけで卒倒したそうだ。
俺の大事な兄貴なのだと紹介したせいなのだが。
その後で、確かとんでもない絵を頂いたと聞いている。
一つはレンブラントの真作で、もう一つ別な肖像画。
俺が知らない高貴な貴族を描いた人物画で、それを掛けた(ルイーサがその場で指示して壁に掛けた)だけで、家の中の波動が変わり以前にも増して健康になったと。
その上、なんでも相当な妖魔まで寄せ付けないと言われた。
まあ、とんでもなく良いものなのだろうが。
顕さんたちは時々、肖像が動くのでコワイとも言っていた。
「ところで美獣に頼みがある」
「何でも言えよ。俺が必ず叶える」
ルイーサが嬉しそうに微笑んだ。
およそ人間離れした美しさだが、笑顔は最高だ。
六花は人類最高と俺は思っているが、ルイーサは「存在」最高だ。
俺はどちらも好きで、優劣は無い。
もちろん、ルイーサの前では彼女が上だと言う。
それに、気位が超高いルイーサが「頼む」などと言うのは俺だけだ。
「「グレイプニル」の戦力も十分に高まった」
「そうか」
「グレイプニル」は石神家の剣聖を訓練教官に招き、徹底的に鍛え上げた。
豪虎さんが半年に亘って付ききりで教練し、ルイーサさえも驚くほどに仕上がった。
今では恐らく石神家本家に並ぶ戦闘力を持っている。
ノスフェラトゥは「血刀」の技が使え、そこに石神家の剣技が加わったためだ。
「魔方陣」は教えていないが、それを除けば石神家本家と並ぶ。
数は「グレイプニル」二万に対し、石神家一万五千(また増えたなー)。
「グレイプニル」は不死に近い再生力を持ち、石神家の剣聖は「魔方陣」を使う。
そういうことで、一師団規模の戦力としては「虎」の軍の双璧となった。
ちなみにアラスカのソルジャーは100万を超え、上級ソルジャーはそのうち20万、「魔方陣」を使える者は300名だ。
「グレイプニル」には「魔方陣」は無いが、その代わりにルイーサの「異界魔導」がある。
直訳をすれば「外道魔法」なのだが、俺が「異界魔導」と翻訳して名付けた。
どういうものかは俺もよくは理解していないが、存在の実存を破壊するという感じか。
見た目には何らかの攻撃に見えるのだが、物理的な実態は無い。
技の発動と同時に、相手の存在が破壊される。
ルイーサが中央アフリカの《ハイヴ》で見せた技なのだが、200名の「グレイプニル」の上級貴族(という位階)が使える。
そのうち100名の伯爵級以上になれば、あの時にルイーサの見せた規模に遜色無い威力だ。
もちろんの話だが、ルイーサは中央アフリカの《ハイヴ》では全力を出してはいなかった。
だからルイーサの実力がどれほどの規模なのかは俺も知らない。
「美獣、一度ロシアの首都を襲撃したい」
「なんだと?」
「モスクワに精鋭100名を送り、都市ごと破壊する」
「そりゃ無茶だろう」
無茶というのは、破壊のことではない。
俺たちは「業」と戦争をしているが、ロシアが敵なのではないのだ。
だから「業」に関わらないロシア人は出来るだけ救いたいとは思っており、殺す対象ではない。
一部のロシア軍のように、「業」に降った奴らや寝返った連中は別だ。
「そうでもない。既にモスクワは「業」の手に堕ちている。まともな人間はもうほとんどいない」
「本当か!」
その事実よりも、俺はその情報を掴んだ手腕に驚いた。
ロシア国内の情報は既に途絶えて久しい。
潜入していた各国の諜報員やそれに繋がる組織が壊滅したためだ。
半分ほどは何とか国外へ逃がしたのだが、多くの者が殺された。
新たに送り込むことも、もう不可能だった。
ロシア国内では徹底した諜報に対するカウンター措置が施され、新たに潜入したスパイはすべて殺され、拠点は潰された。
敵の中に心が読める奴がいる、それが俺たちの結論だ。
「ローテスラント」もロシアの中枢に枝を伸ばしていたが、全て遮断されていた。
「業」の手足である「ボルーチ・バロータ」によって、「業」に忠誠を誓わない政治家や官僚たちが粛清(恐らくは殺害)され、一切の情報が入って来なくなった。
最初は徐々にだったが、この1年の間に急速に進み、ロシア情勢は一切外に漏れなくなっている。
俺たちは偵察衛星でロシア全土を観測し、そのデータを超量子コンピューターで解析はしているが、内部情報の詳細は掴めないでいた。
妖魔やライカンスロープたち、そして《ハイヴ》の情報は捉えられるが、実際にロシア国内で何が起きているのかは分からない。
超量子コンピューターによって多少のことは解析している。
観測した妖魔やライカンスロープたちの配備や動きによって、ある程度の解析はしている。
多分、ロシアからの軍事行動を起こせば必ず俺たちが掴めるはずだ。
そうなのだが、情報としては完全に不足している。
だから「業」が送り込む「ゲート」は全く予測出来ないでいるのだ。
しかし、ルイーサたちは何らかの方法でロシアの実態の一部とはいえ、把握しているようだった。
俺も、モスクワが完全に陥落していようとは、夢にも思っていなかった。
まだ「業」の多大な影響を受けてはいても、国家として存続していると考えていた。
改めて、ルイーサたち「ノスフェラトゥ」の力を実感した。
俺はまたルイーサの城に行っていた。
定期的に月に一度は来ているのだが、毎回美味い料理が楽しみになってきている。
何しろ、あのルイーサが認める料理人なのだ。
仕方のないことではあるが、やはり人間とは圧倒的に違う。
人間よりも遙かに長命の故に、積み上げたものが断然高いのだ。
そのために俺が知っている料理であっても、唸る程の美味さになるし、また知らない料理も結構多い。
一つだけ難を言えば、出て来る料理の中で食材が不明なものが時々あるだけだ。
瞳が三つある目玉のようなものがスープに浮かんでいた時には、流石に驚いた。
しかし、ルイーサの前なので勇気を奮って口に入れると、得も言われぬほどの味わいがあった。
だから、それが何なのかは聞かなかった。
知りたくねぇー。
今日も晩餐が豪華で、美しいレジーナと一緒に味わった。
食事中のワインとは別に、食事の後で酒が振る舞われる。
今日は「Henri IV Dudognon Heritage Cognac Grande Champagne」という幻のコニャックだ。
えーと、1億6500万円……
まあ、双子に頼めば飲めないということもないが、別にそこまでして飲みたくもねぇ。
アラスカの「ほんとの虎の穴」にはディーヴァという数億円のウォッカも置いているが、俺の提供したレッドダイヤモンドとブルーダイヤモンドで蒸留したものだ。
飲むためではなく、レイとの思い出で購入した。
「純金のラベルに6500個のダイヤモンドが散りばめられている」
「へぇ」
「万能薬が入れられており、飲めば不老不死になるぞ」
「じゃあいらねえ」
ルイーサが大笑いした。
ルイーサは少し前から日本語で話してくれる。
ルイーサにとっては、言語の習得など何のこともないようだ。
「まあ飲め。こんなもので不老不死になるはずもない。珍しいものなので美獣に飲ませたかっただけだ」
「お前が出すものなら何でもいいけどな」
本当にとんでもないものを贈って来る奴だ。
フィリピンの顕さんはあの「ナゾ馬車」で訪問されただけで卒倒したそうだ。
俺の大事な兄貴なのだと紹介したせいなのだが。
その後で、確かとんでもない絵を頂いたと聞いている。
一つはレンブラントの真作で、もう一つ別な肖像画。
俺が知らない高貴な貴族を描いた人物画で、それを掛けた(ルイーサがその場で指示して壁に掛けた)だけで、家の中の波動が変わり以前にも増して健康になったと。
その上、なんでも相当な妖魔まで寄せ付けないと言われた。
まあ、とんでもなく良いものなのだろうが。
顕さんたちは時々、肖像が動くのでコワイとも言っていた。
「ところで美獣に頼みがある」
「何でも言えよ。俺が必ず叶える」
ルイーサが嬉しそうに微笑んだ。
およそ人間離れした美しさだが、笑顔は最高だ。
六花は人類最高と俺は思っているが、ルイーサは「存在」最高だ。
俺はどちらも好きで、優劣は無い。
もちろん、ルイーサの前では彼女が上だと言う。
それに、気位が超高いルイーサが「頼む」などと言うのは俺だけだ。
「「グレイプニル」の戦力も十分に高まった」
「そうか」
「グレイプニル」は石神家の剣聖を訓練教官に招き、徹底的に鍛え上げた。
豪虎さんが半年に亘って付ききりで教練し、ルイーサさえも驚くほどに仕上がった。
今では恐らく石神家本家に並ぶ戦闘力を持っている。
ノスフェラトゥは「血刀」の技が使え、そこに石神家の剣技が加わったためだ。
「魔方陣」は教えていないが、それを除けば石神家本家と並ぶ。
数は「グレイプニル」二万に対し、石神家一万五千(また増えたなー)。
「グレイプニル」は不死に近い再生力を持ち、石神家の剣聖は「魔方陣」を使う。
そういうことで、一師団規模の戦力としては「虎」の軍の双璧となった。
ちなみにアラスカのソルジャーは100万を超え、上級ソルジャーはそのうち20万、「魔方陣」を使える者は300名だ。
「グレイプニル」には「魔方陣」は無いが、その代わりにルイーサの「異界魔導」がある。
直訳をすれば「外道魔法」なのだが、俺が「異界魔導」と翻訳して名付けた。
どういうものかは俺もよくは理解していないが、存在の実存を破壊するという感じか。
見た目には何らかの攻撃に見えるのだが、物理的な実態は無い。
技の発動と同時に、相手の存在が破壊される。
ルイーサが中央アフリカの《ハイヴ》で見せた技なのだが、200名の「グレイプニル」の上級貴族(という位階)が使える。
そのうち100名の伯爵級以上になれば、あの時にルイーサの見せた規模に遜色無い威力だ。
もちろんの話だが、ルイーサは中央アフリカの《ハイヴ》では全力を出してはいなかった。
だからルイーサの実力がどれほどの規模なのかは俺も知らない。
「美獣、一度ロシアの首都を襲撃したい」
「なんだと?」
「モスクワに精鋭100名を送り、都市ごと破壊する」
「そりゃ無茶だろう」
無茶というのは、破壊のことではない。
俺たちは「業」と戦争をしているが、ロシアが敵なのではないのだ。
だから「業」に関わらないロシア人は出来るだけ救いたいとは思っており、殺す対象ではない。
一部のロシア軍のように、「業」に降った奴らや寝返った連中は別だ。
「そうでもない。既にモスクワは「業」の手に堕ちている。まともな人間はもうほとんどいない」
「本当か!」
その事実よりも、俺はその情報を掴んだ手腕に驚いた。
ロシア国内の情報は既に途絶えて久しい。
潜入していた各国の諜報員やそれに繋がる組織が壊滅したためだ。
半分ほどは何とか国外へ逃がしたのだが、多くの者が殺された。
新たに送り込むことも、もう不可能だった。
ロシア国内では徹底した諜報に対するカウンター措置が施され、新たに潜入したスパイはすべて殺され、拠点は潰された。
敵の中に心が読める奴がいる、それが俺たちの結論だ。
「ローテスラント」もロシアの中枢に枝を伸ばしていたが、全て遮断されていた。
「業」の手足である「ボルーチ・バロータ」によって、「業」に忠誠を誓わない政治家や官僚たちが粛清(恐らくは殺害)され、一切の情報が入って来なくなった。
最初は徐々にだったが、この1年の間に急速に進み、ロシア情勢は一切外に漏れなくなっている。
俺たちは偵察衛星でロシア全土を観測し、そのデータを超量子コンピューターで解析はしているが、内部情報の詳細は掴めないでいた。
妖魔やライカンスロープたち、そして《ハイヴ》の情報は捉えられるが、実際にロシア国内で何が起きているのかは分からない。
超量子コンピューターによって多少のことは解析している。
観測した妖魔やライカンスロープたちの配備や動きによって、ある程度の解析はしている。
多分、ロシアからの軍事行動を起こせば必ず俺たちが掴めるはずだ。
そうなのだが、情報としては完全に不足している。
だから「業」が送り込む「ゲート」は全く予測出来ないでいるのだ。
しかし、ルイーサたちは何らかの方法でロシアの実態の一部とはいえ、把握しているようだった。
俺も、モスクワが完全に陥落していようとは、夢にも思っていなかった。
まだ「業」の多大な影響を受けてはいても、国家として存続していると考えていた。
改めて、ルイーサたち「ノスフェラトゥ」の力を実感した。
2
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる