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モスクワ侵攻作戦 Ⅱ
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ルイーサが、どのように情報を得たのかを話してくれた。
「我らは人間を魅了出来る」
「ああ、そういう能力があるんだったな」
ルイーサは傑出して次元が違うが、「ノスフェラトゥ」たちの多くは非常に美しい容姿をしている。
ハインリヒとエリアスも、見た目だけでも女性が夢中になるような美しさだ。
その上で、能力として相手を魅了する力がある。
能力を発揮した瞳で見つめられると、相手は何も抗えなくなり、また何でも言いなりになる。
吸血行為のためばかりではない。
「ノスフェラトゥ」は、そうやって自分たちが操れる人間を増やして行ったのだ。
それが「ローテスラント」の発展の根幹だった。
「そうだ。多くは無いが、魅了で幾人かの政府高官の周辺の人間を操ることに成功した」
妻や娘などの家族の女性らしい。
またメイドなど身の回りの世話をする人間もいたようだ。
「ハインリヒとエリアスが潜入し、成功させた」
「あいつらかよ!」
「我の覚醒に伴い、あやつらの能力も増した。以前のような無様は晒さないぞ」
「ほんとかよ」
俺が知る限り、ハインリヒとエリアスは優秀ではあってもそれは通常の状況でのことだ。
並の人間相手であれば、「魅了」も効果があっただろう。
しかし、精神的に強固な人間、まして妖魔を取り込んだライカンスロープなどには通じなかった。
実際に、以前に「ボルーチ・バロータ」に接近して一発で正体がバレた。
多分、心を読まれたのだ。
危うく殺されそうになったところを、聖が救出した経緯があった。
「変装、いや骨格をも動かしてまったく別な人間になっている。精神も表層を偽装し、もう正体を掴まれることもない」
「ほう、流石だな」
一部だが、ハインリヒたちが俺の前でメタモルフォーゼを起こし掛けたことを知っている。
「ノスフェラトゥ」たちの能力なのだろうが、変身すれば飛躍的に能力が上がるようだ。
だから骨格まで変化させての変装というのも納得がいった。
先日の中央アフリカの《ハイヴ》攻略では、まだメタモルフォーゼまでの発現はさせていない。
だから俺も実際のメタモルフォーゼ後の能力のことは、まだよく分からない。
その上でルイーサは、現在のハインリヒたちは精神操作までこなせると言っている。
「現在のモスクワの様子については、二人が直接見ている。もちろん都市にはあまり入らずに、多くは周辺からの観測だがな」
「「業」はモスクワを潰したのか?」
「正確には違う。まだ人間はいて社会活動もあるが、高度な監視状況下であり、一切外部との接触は制限されている。完全に「業」の言いなりになっているのだ」
「政府機能は一応存続か」
「そういうことだな。だが、通常の人間がモスクワに入ればその瞬間に把握される」
「モスクワには人間以外もいるのか?」
俺はそいつらが侵入者の感知をしているのだろうと予想した。
「そうだ。妖魔については二人共見てはいないが、ライカンスロープたちが相当数いる。美獣の「霊素観測レーダー」を貸してもらえれば、正確に分かるだろう」
軍事衛星「御幸」によって、妖魔やライカンスロープの数は把握しているが、地上や近接して「霊素観測レーダー」を使えばもっと詳細が分かるのは確かだ。
人間の異常な状態まで観測出来ることを、ルイーサは指摘しているのだ。
俺は少し考えた。
哨戒観測機「ウラール」を飛ばせばある程度は分かるだろうが、何しろ敵地の真っただ中だ。
絶対に喪えない機体のため、安全に運用するとなればほぼ会戦規模での準備が必要になる。
「霊素観測レーダー」は絶対に敵に鹵獲されるわけには行かないのだ。
それにライカンスロープたちがどこかに隔離されていた場合、正確な情報は得られない。
実際に妖魔を練り込んだベトンに入られると、俺たちは観測出来ないことが分かっている。
今、技術的に何とかしようとしているが、まだ覚束ない状態だ。
相当な近距離まで迫る必要がある。
ならば。
「「霊素観測レーダー」は敵に絶対に知られるわけには行かないんだ。それに特殊な耐レーダーの構造物もあり、哨戒機を飛ばすのもそもそも難しい」
「直接運搬出来ないのか?」
「同じ理由で難しい。相当な重量で「飛行」では運べないんだ。だから車両か担いで行くことになるが、万一の場合に放棄出来ない」
「爆破ではダメなのか? 損失は我が誓って補填するが?」
「部品の一つも残したくないんだよ。それにそもそも金の問題じゃねぇんだ。あれを創り上げるのが大変なんだよ。だからまだあちこちにも設置していない」
「そうなのか」
ルイーサが残念がる。
「だからな、能力者を送ろうと思う」
「能力者?」
「ああ、二人宛がある。一人は道間家の血筋で、とにかく観測に関しては世界最高だ。もう一人は少し違う能力だが、妖魔やあらゆる反応を感知出来る」
「そのような者がおるのか?」
「ああ、俺は後者の人間を連れて行こうと思う」
「その者の名は?」
「柏木天宗さんだ。長年退魔師を生業とし、去年俺たちの仲間になった。能力は信じてもらっていいぞ。年齢は90歳を超えているが、若い連中以上に頑健だ」
「そうか。一度会えるか?」
ルイーサがそう求めることは分かっていた。
「連れて来よう」
「いや、我が会いに行く。時間と場所を示せ」
「じゃあ二日後に、俺の家で。呼んでおくよ。ああ、たまにはうちで食事をしてくれ。だから日本時間で3時にな」
「あい分かった」
さて、柏木さんはルイーサを前にして大丈夫だろうか。
弱い人ではないのだが、感性が繊細なのも間違い無い。
麗星などは完全にビビっていたしなぁ。
まあ、考えても仕方ない。
万一にもルイーサが柏木さんを認められないのであれば、また別な案を考えよう。
便利屋の能力は申し分ないのだが、絶対にルイーサは無理。
あいつ、気が弱いからなぁ。
吸血鬼の大親分を前にしたら、白目をむいて死ぬ。
ルイーサに対しては石神家の人間くらいしか、平然とはしていられないだろう。
以前にマクシミリアンがルイーサを見ているが、あれはまだ「寝起き」で力を全く取り戻してはいない状態だったのだ。
今のルイーサを前にしたら、あのマクシミリアンとてどうなるか分からん。
うちの子どもたちは何とかなっているが、心の中ではビビっている。
顕さんや早乙女も見ているが、その時はルイーサの方で波動をシャットする手段を嵩じてくれていた。
それでも顕さんは気絶したのだ。
剥き身の状態のルイーサはほとんどの人間が威圧されただじゃ済まない。
どうなることやら。
「我らは人間を魅了出来る」
「ああ、そういう能力があるんだったな」
ルイーサは傑出して次元が違うが、「ノスフェラトゥ」たちの多くは非常に美しい容姿をしている。
ハインリヒとエリアスも、見た目だけでも女性が夢中になるような美しさだ。
その上で、能力として相手を魅了する力がある。
能力を発揮した瞳で見つめられると、相手は何も抗えなくなり、また何でも言いなりになる。
吸血行為のためばかりではない。
「ノスフェラトゥ」は、そうやって自分たちが操れる人間を増やして行ったのだ。
それが「ローテスラント」の発展の根幹だった。
「そうだ。多くは無いが、魅了で幾人かの政府高官の周辺の人間を操ることに成功した」
妻や娘などの家族の女性らしい。
またメイドなど身の回りの世話をする人間もいたようだ。
「ハインリヒとエリアスが潜入し、成功させた」
「あいつらかよ!」
「我の覚醒に伴い、あやつらの能力も増した。以前のような無様は晒さないぞ」
「ほんとかよ」
俺が知る限り、ハインリヒとエリアスは優秀ではあってもそれは通常の状況でのことだ。
並の人間相手であれば、「魅了」も効果があっただろう。
しかし、精神的に強固な人間、まして妖魔を取り込んだライカンスロープなどには通じなかった。
実際に、以前に「ボルーチ・バロータ」に接近して一発で正体がバレた。
多分、心を読まれたのだ。
危うく殺されそうになったところを、聖が救出した経緯があった。
「変装、いや骨格をも動かしてまったく別な人間になっている。精神も表層を偽装し、もう正体を掴まれることもない」
「ほう、流石だな」
一部だが、ハインリヒたちが俺の前でメタモルフォーゼを起こし掛けたことを知っている。
「ノスフェラトゥ」たちの能力なのだろうが、変身すれば飛躍的に能力が上がるようだ。
だから骨格まで変化させての変装というのも納得がいった。
先日の中央アフリカの《ハイヴ》攻略では、まだメタモルフォーゼまでの発現はさせていない。
だから俺も実際のメタモルフォーゼ後の能力のことは、まだよく分からない。
その上でルイーサは、現在のハインリヒたちは精神操作までこなせると言っている。
「現在のモスクワの様子については、二人が直接見ている。もちろん都市にはあまり入らずに、多くは周辺からの観測だがな」
「「業」はモスクワを潰したのか?」
「正確には違う。まだ人間はいて社会活動もあるが、高度な監視状況下であり、一切外部との接触は制限されている。完全に「業」の言いなりになっているのだ」
「政府機能は一応存続か」
「そういうことだな。だが、通常の人間がモスクワに入ればその瞬間に把握される」
「モスクワには人間以外もいるのか?」
俺はそいつらが侵入者の感知をしているのだろうと予想した。
「そうだ。妖魔については二人共見てはいないが、ライカンスロープたちが相当数いる。美獣の「霊素観測レーダー」を貸してもらえれば、正確に分かるだろう」
軍事衛星「御幸」によって、妖魔やライカンスロープの数は把握しているが、地上や近接して「霊素観測レーダー」を使えばもっと詳細が分かるのは確かだ。
人間の異常な状態まで観測出来ることを、ルイーサは指摘しているのだ。
俺は少し考えた。
哨戒観測機「ウラール」を飛ばせばある程度は分かるだろうが、何しろ敵地の真っただ中だ。
絶対に喪えない機体のため、安全に運用するとなればほぼ会戦規模での準備が必要になる。
「霊素観測レーダー」は絶対に敵に鹵獲されるわけには行かないのだ。
それにライカンスロープたちがどこかに隔離されていた場合、正確な情報は得られない。
実際に妖魔を練り込んだベトンに入られると、俺たちは観測出来ないことが分かっている。
今、技術的に何とかしようとしているが、まだ覚束ない状態だ。
相当な近距離まで迫る必要がある。
ならば。
「「霊素観測レーダー」は敵に絶対に知られるわけには行かないんだ。それに特殊な耐レーダーの構造物もあり、哨戒機を飛ばすのもそもそも難しい」
「直接運搬出来ないのか?」
「同じ理由で難しい。相当な重量で「飛行」では運べないんだ。だから車両か担いで行くことになるが、万一の場合に放棄出来ない」
「爆破ではダメなのか? 損失は我が誓って補填するが?」
「部品の一つも残したくないんだよ。それにそもそも金の問題じゃねぇんだ。あれを創り上げるのが大変なんだよ。だからまだあちこちにも設置していない」
「そうなのか」
ルイーサが残念がる。
「だからな、能力者を送ろうと思う」
「能力者?」
「ああ、二人宛がある。一人は道間家の血筋で、とにかく観測に関しては世界最高だ。もう一人は少し違う能力だが、妖魔やあらゆる反応を感知出来る」
「そのような者がおるのか?」
「ああ、俺は後者の人間を連れて行こうと思う」
「その者の名は?」
「柏木天宗さんだ。長年退魔師を生業とし、去年俺たちの仲間になった。能力は信じてもらっていいぞ。年齢は90歳を超えているが、若い連中以上に頑健だ」
「そうか。一度会えるか?」
ルイーサがそう求めることは分かっていた。
「連れて来よう」
「いや、我が会いに行く。時間と場所を示せ」
「じゃあ二日後に、俺の家で。呼んでおくよ。ああ、たまにはうちで食事をしてくれ。だから日本時間で3時にな」
「あい分かった」
さて、柏木さんはルイーサを前にして大丈夫だろうか。
弱い人ではないのだが、感性が繊細なのも間違い無い。
麗星などは完全にビビっていたしなぁ。
まあ、考えても仕方ない。
万一にもルイーサが柏木さんを認められないのであれば、また別な案を考えよう。
便利屋の能力は申し分ないのだが、絶対にルイーサは無理。
あいつ、気が弱いからなぁ。
吸血鬼の大親分を前にしたら、白目をむいて死ぬ。
ルイーサに対しては石神家の人間くらいしか、平然とはしていられないだろう。
以前にマクシミリアンがルイーサを見ているが、あれはまだ「寝起き」で力を全く取り戻してはいない状態だったのだ。
今のルイーサを前にしたら、あのマクシミリアンとてどうなるか分からん。
うちの子どもたちは何とかなっているが、心の中ではビビっている。
顕さんや早乙女も見ているが、その時はルイーサの方で波動をシャットする手段を嵩じてくれていた。
それでも顕さんは気絶したのだ。
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