富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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夏の匂い Ⅱ

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 試験も終わり、もう終業式も近い12月の下旬の金曜日。
 今年最後の「人生研究会」の定期集会を開いた。
 最近は各人が出向いている官公庁の報告が多い。
 みんな順調に各署で活躍しているのがよく分かる。
 タカさんと御堂さんのお陰で、来年には司法試験や国家公務員試験の資格変更と低年齢化の法案が通ることに決まっており、多分今の人員はそのまま官公庁で正規にキャリアとして働けるようになるだろう。
 いよいよ「人生研究会」が日本を掌握するんじゃぁー!
 ヤルんじゃ、ゴルァー!
 私とハーもそうだけど、経済活動に乗り出している人間も多く、それぞれ成果を挙げている。
 今日の集会も、来年本格的にキャリア官僚になった場合の権力掌握の方法と各省庁での運営方針だ。
 あらかた決まっては来たので、細かい調整の段階に入っている。
 まあ、実際に「人生研究会」が喰い込んだら、またいろいろ問題は出て来るだろうが。
 流石に結構優秀な人たちも多いし、何しろ強固な保守体制もある。
 かかってこいやぁー!
 
 「じゃあ、みんなでいつもの「金園」に行くよー!」
 『はい!』

 「金園」は年末の忘年会の予約で結構流行っているけど、私たちが行くのはいつも昼間なので大丈夫。
 それに忘年会以上に飲み食いするから、「金園」も大歓迎だ。

 「あのさ、俺らは帰っていいかな?」

 磯良がヘンなことを言う。
 タカさんと会ってから、磯良と胡蝶も「人生研究会」に入っている。
 「虎」の軍の動きの一端なので、幹部会員として招待しているのだ。
 別に胡蝶は必要ないんだけど、磯良が入るのならば自分もと言って来た。
 胡蝶も優秀な人間なので断ることも無かったが、ちょっと気に入らない気持ちもある。
 なんでだろ?

 「なんか用事ある?」
 「いや、別に。でもさっき昼食を食べたばかりだしさ」
 「ん?」
 「なんで意味わかんないって顔するんだよ!」
 「いいからいいから」
 「まあいいけどさ」

 「人生研究会」のみんなで食べに行く時、ハーはちょっとだけ寂しそうな顔をする。
 馬込がもういないからだ。
 ハーが馬込がちょっとだけ好きなのは分かっている。
 口に出して言ったことはないけど、私には分かる。
 何でも話す私たちの間でも、ハーが言葉にしたことはない。
 でも、私たちだから、何となく感じるのだ。
 まあ、別に二度と会えないわけじゃないし、がんばー!

 タクシーに分乗して「金園」の近くで降りた。
 お店の前でみんなで降りると周りからヘンな目で見られたことがあるんで、ちょっと離れた場所で降りることにしている。
 制服の高校生の集団がタクシーからゾロゾロ降りるのはおかしいもんなー。

 「「こんにちはー!」」
 「ルーちゃん、ハーちゃん! 待ってたよー!」

 みんなもお店の大将に挨拶して、いつものようにお店の2階でみんなでワイワイ食べた。
 最初にチャーシューましましの味噌ラーメンを食べ、用意してあった唐揚げやチャーハン、春巻き、シウマイ、青椒肉絲、エビチリなどをどんどん食べる。
 磯良もつられて結構食べていた。

 「私、太っちゃうよ」
 「もっと食べなよ、美味しいよ!」
 「そうだから困っちゃう」

 胡蝶、ザマァ。
 最近、確かにちょっと肉付きがいい。
 弁当のおかずを奪うのも、少しだけ控えている。
 どんどんデブれー。
 でももうオッパイにはいくなー。
 胡蝶はGカップ。

 みんなで満足し、お店を出た。
 今日は一段と物凄く食べたので大将が大喜びだった。
 お店を出てみんなで歩くと、前に男の人が立ってこちらを見ていた。
 別に嫌な雰囲気も無かったんだけど、なんとなく注視していた。

 「ルー、あの人」
 「うん、なんだろね?」
 
 磯良も見ていた。
 緊張している。

 「磯良?」
 「気を付けろ」
 「え、敵?」
 「分からない。でも何かおかしい」

 磯良は私たちよりも警戒していた。
 もちろんまだ攻撃はしないけど。
 男の人は大体40代前半。
 少し伸ばした髪を後ろに流している。
 身長は170センチ台。
 よく見ると引き締まった身体を大き目の綿のブルゾンで覆っているのが分かる。
 ブルゾンの前を開いていたからだ。
 下は柔らかそうなコーデュロイのパンツで、上下とも黒。
 靴も黒のスニーカー。
 顔は結構ダンディで、口元が少し笑っている。
 でも、ただのイケメンじゃない。
 顔に厳しい人生を刻みつけた渋い顔だ。
 10メートルまで近づいた。
 もう私たちは止まっている。

 「無理か」

 男が呟くのが聴こえた。
 そして、男が魔法のように両手に銃を取り出すのが見えた。
 しかも銃がおかしい。
 凶悪なナイフが銃口の下に出ていて、途中から変形してトリガーガードの下まで伸びている。
 なんだアレ?
 
 「「「!」」」

 目の前で男の姿が消えた!
 突然にだ!
 咄嗟に周囲を警戒したけど、もう気配が無い。
 いや、消えたわけじゃないので気配を消したのだ。
 でも、この私たちが見えなくなるなんて!
 ハーが襲われたのが僅かに分かった。
 攻撃の瞬間だけだ。
 そして反撃しようとした瞬間にまた男は消えていなくなった。

 「ハー、妖魔じゃなかったよね!」
 「うん、絶対違う。あれは人間だったよ!」
 「じゃあどうして消えたんだろう!」
 「わかんない!」

 磯良にも分からないようだった。

 「ハー! 耳!」
 「え?」

 ハーの左の耳が浅く切れていて血が滴っていた。

 「え! どうして!」
 
 すぐに「Ω軟膏」を出して塗った。
 傷はたちまち塞がった。

 「ヤバい奴だったな」

 磯良が言った。

 「多分、暗殺専門の人間だ。前にもそんな奴に出会ったけど、あれほど凄い奴は初めてだ」
 「磯良、どうして消えたか分かる?」
 「いや、分からない。でも多分気配を消すのに長けてるんだろう」
 「どうやって……ハーも私も何も感じていなかったし」
 「攻撃の瞬間だけ見えたよな?」
 「うん、自分でもどうしてか分かんないけどね。プレッシャーを感じてちょっと動いた感じ? でも斬られたね」
 「そうだよな。俺もちょっとだけ感じた。でもほんの一瞬で、何も出来なかった」

 私とハー、それに磯良までがいて逃がしてしまった敵。
 全員を解散し、一応タクシーを呼んで帰らせた。
 きっと狙いは私とハー、それか磯良だろう。
 胡蝶は帰らせ、磯良と一緒にうちに帰った。
 タカさんには襲われた連絡はすぐにした。
 怪我は大したこと無いと言ったんだけど、タカさんは早くに帰って来てくれた。
 磯良は「アドヴェロス」に連絡し、タカさんと話した後は念のために「アドヴェロス」本部に泊まるように言われた。
 雪野さんがすぐに周辺の監視カメラ映像を確認したけど、変装したらしくそれらしい人物は映っていなかった。
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