2,851 / 3,202
夏の匂い Ⅱ
しおりを挟む
試験も終わり、もう終業式も近い12月の下旬の金曜日。
今年最後の「人生研究会」の定期集会を開いた。
最近は各人が出向いている官公庁の報告が多い。
みんな順調に各署で活躍しているのがよく分かる。
タカさんと御堂さんのお陰で、来年には司法試験や国家公務員試験の資格変更と低年齢化の法案が通ることに決まっており、多分今の人員はそのまま官公庁で正規にキャリアとして働けるようになるだろう。
いよいよ「人生研究会」が日本を掌握するんじゃぁー!
ヤルんじゃ、ゴルァー!
私とハーもそうだけど、経済活動に乗り出している人間も多く、それぞれ成果を挙げている。
今日の集会も、来年本格的にキャリア官僚になった場合の権力掌握の方法と各省庁での運営方針だ。
あらかた決まっては来たので、細かい調整の段階に入っている。
まあ、実際に「人生研究会」が喰い込んだら、またいろいろ問題は出て来るだろうが。
流石に結構優秀な人たちも多いし、何しろ強固な保守体制もある。
かかってこいやぁー!
「じゃあ、みんなでいつもの「金園」に行くよー!」
『はい!』
「金園」は年末の忘年会の予約で結構流行っているけど、私たちが行くのはいつも昼間なので大丈夫。
それに忘年会以上に飲み食いするから、「金園」も大歓迎だ。
「あのさ、俺らは帰っていいかな?」
磯良がヘンなことを言う。
タカさんと会ってから、磯良と胡蝶も「人生研究会」に入っている。
「虎」の軍の動きの一端なので、幹部会員として招待しているのだ。
別に胡蝶は必要ないんだけど、磯良が入るのならば自分もと言って来た。
胡蝶も優秀な人間なので断ることも無かったが、ちょっと気に入らない気持ちもある。
なんでだろ?
「なんか用事ある?」
「いや、別に。でもさっき昼食を食べたばかりだしさ」
「ん?」
「なんで意味わかんないって顔するんだよ!」
「いいからいいから」
「まあいいけどさ」
「人生研究会」のみんなで食べに行く時、ハーはちょっとだけ寂しそうな顔をする。
馬込がもういないからだ。
ハーが馬込がちょっとだけ好きなのは分かっている。
口に出して言ったことはないけど、私には分かる。
何でも話す私たちの間でも、ハーが言葉にしたことはない。
でも、私たちだから、何となく感じるのだ。
まあ、別に二度と会えないわけじゃないし、がんばー!
タクシーに分乗して「金園」の近くで降りた。
お店の前でみんなで降りると周りからヘンな目で見られたことがあるんで、ちょっと離れた場所で降りることにしている。
制服の高校生の集団がタクシーからゾロゾロ降りるのはおかしいもんなー。
「「こんにちはー!」」
「ルーちゃん、ハーちゃん! 待ってたよー!」
みんなもお店の大将に挨拶して、いつものようにお店の2階でみんなでワイワイ食べた。
最初にチャーシューましましの味噌ラーメンを食べ、用意してあった唐揚げやチャーハン、春巻き、シウマイ、青椒肉絲、エビチリなどをどんどん食べる。
磯良もつられて結構食べていた。
「私、太っちゃうよ」
「もっと食べなよ、美味しいよ!」
「そうだから困っちゃう」
胡蝶、ザマァ。
最近、確かにちょっと肉付きがいい。
弁当のおかずを奪うのも、少しだけ控えている。
どんどんデブれー。
でももうオッパイにはいくなー。
胡蝶はGカップ。
みんなで満足し、お店を出た。
今日は一段と物凄く食べたので大将が大喜びだった。
お店を出てみんなで歩くと、前に男の人が立ってこちらを見ていた。
別に嫌な雰囲気も無かったんだけど、なんとなく注視していた。
「ルー、あの人」
「うん、なんだろね?」
磯良も見ていた。
緊張している。
「磯良?」
「気を付けろ」
「え、敵?」
「分からない。でも何かおかしい」
磯良は私たちよりも警戒していた。
もちろんまだ攻撃はしないけど。
男の人は大体40代前半。
少し伸ばした髪を後ろに流している。
身長は170センチ台。
よく見ると引き締まった身体を大き目の綿のブルゾンで覆っているのが分かる。
ブルゾンの前を開いていたからだ。
下は柔らかそうなコーデュロイのパンツで、上下とも黒。
靴も黒のスニーカー。
顔は結構ダンディで、口元が少し笑っている。
でも、ただのイケメンじゃない。
顔に厳しい人生を刻みつけた渋い顔だ。
10メートルまで近づいた。
もう私たちは止まっている。
「無理か」
男が呟くのが聴こえた。
そして、男が魔法のように両手に銃を取り出すのが見えた。
しかも銃がおかしい。
凶悪なナイフが銃口の下に出ていて、途中から変形してトリガーガードの下まで伸びている。
なんだアレ?
「「「!」」」
目の前で男の姿が消えた!
突然にだ!
咄嗟に周囲を警戒したけど、もう気配が無い。
いや、消えたわけじゃないので気配を消したのだ。
でも、この私たちが見えなくなるなんて!
ハーが襲われたのが僅かに分かった。
攻撃の瞬間だけだ。
そして反撃しようとした瞬間にまた男は消えていなくなった。
「ハー、妖魔じゃなかったよね!」
「うん、絶対違う。あれは人間だったよ!」
「じゃあどうして消えたんだろう!」
「わかんない!」
磯良にも分からないようだった。
「ハー! 耳!」
「え?」
ハーの左の耳が浅く切れていて血が滴っていた。
「え! どうして!」
すぐに「Ω軟膏」を出して塗った。
傷はたちまち塞がった。
「ヤバい奴だったな」
磯良が言った。
「多分、暗殺専門の人間だ。前にもそんな奴に出会ったけど、あれほど凄い奴は初めてだ」
「磯良、どうして消えたか分かる?」
「いや、分からない。でも多分気配を消すのに長けてるんだろう」
「どうやって……ハーも私も何も感じていなかったし」
「攻撃の瞬間だけ見えたよな?」
「うん、自分でもどうしてか分かんないけどね。プレッシャーを感じてちょっと動いた感じ? でも斬られたね」
「そうだよな。俺もちょっとだけ感じた。でもほんの一瞬で、何も出来なかった」
私とハー、それに磯良までがいて逃がしてしまった敵。
全員を解散し、一応タクシーを呼んで帰らせた。
きっと狙いは私とハー、それか磯良だろう。
胡蝶は帰らせ、磯良と一緒にうちに帰った。
タカさんには襲われた連絡はすぐにした。
怪我は大したこと無いと言ったんだけど、タカさんは早くに帰って来てくれた。
磯良は「アドヴェロス」に連絡し、タカさんと話した後は念のために「アドヴェロス」本部に泊まるように言われた。
雪野さんがすぐに周辺の監視カメラ映像を確認したけど、変装したらしくそれらしい人物は映っていなかった。
今年最後の「人生研究会」の定期集会を開いた。
最近は各人が出向いている官公庁の報告が多い。
みんな順調に各署で活躍しているのがよく分かる。
タカさんと御堂さんのお陰で、来年には司法試験や国家公務員試験の資格変更と低年齢化の法案が通ることに決まっており、多分今の人員はそのまま官公庁で正規にキャリアとして働けるようになるだろう。
いよいよ「人生研究会」が日本を掌握するんじゃぁー!
ヤルんじゃ、ゴルァー!
私とハーもそうだけど、経済活動に乗り出している人間も多く、それぞれ成果を挙げている。
今日の集会も、来年本格的にキャリア官僚になった場合の権力掌握の方法と各省庁での運営方針だ。
あらかた決まっては来たので、細かい調整の段階に入っている。
まあ、実際に「人生研究会」が喰い込んだら、またいろいろ問題は出て来るだろうが。
流石に結構優秀な人たちも多いし、何しろ強固な保守体制もある。
かかってこいやぁー!
「じゃあ、みんなでいつもの「金園」に行くよー!」
『はい!』
「金園」は年末の忘年会の予約で結構流行っているけど、私たちが行くのはいつも昼間なので大丈夫。
それに忘年会以上に飲み食いするから、「金園」も大歓迎だ。
「あのさ、俺らは帰っていいかな?」
磯良がヘンなことを言う。
タカさんと会ってから、磯良と胡蝶も「人生研究会」に入っている。
「虎」の軍の動きの一端なので、幹部会員として招待しているのだ。
別に胡蝶は必要ないんだけど、磯良が入るのならば自分もと言って来た。
胡蝶も優秀な人間なので断ることも無かったが、ちょっと気に入らない気持ちもある。
なんでだろ?
「なんか用事ある?」
「いや、別に。でもさっき昼食を食べたばかりだしさ」
「ん?」
「なんで意味わかんないって顔するんだよ!」
「いいからいいから」
「まあいいけどさ」
「人生研究会」のみんなで食べに行く時、ハーはちょっとだけ寂しそうな顔をする。
馬込がもういないからだ。
ハーが馬込がちょっとだけ好きなのは分かっている。
口に出して言ったことはないけど、私には分かる。
何でも話す私たちの間でも、ハーが言葉にしたことはない。
でも、私たちだから、何となく感じるのだ。
まあ、別に二度と会えないわけじゃないし、がんばー!
タクシーに分乗して「金園」の近くで降りた。
お店の前でみんなで降りると周りからヘンな目で見られたことがあるんで、ちょっと離れた場所で降りることにしている。
制服の高校生の集団がタクシーからゾロゾロ降りるのはおかしいもんなー。
「「こんにちはー!」」
「ルーちゃん、ハーちゃん! 待ってたよー!」
みんなもお店の大将に挨拶して、いつものようにお店の2階でみんなでワイワイ食べた。
最初にチャーシューましましの味噌ラーメンを食べ、用意してあった唐揚げやチャーハン、春巻き、シウマイ、青椒肉絲、エビチリなどをどんどん食べる。
磯良もつられて結構食べていた。
「私、太っちゃうよ」
「もっと食べなよ、美味しいよ!」
「そうだから困っちゃう」
胡蝶、ザマァ。
最近、確かにちょっと肉付きがいい。
弁当のおかずを奪うのも、少しだけ控えている。
どんどんデブれー。
でももうオッパイにはいくなー。
胡蝶はGカップ。
みんなで満足し、お店を出た。
今日は一段と物凄く食べたので大将が大喜びだった。
お店を出てみんなで歩くと、前に男の人が立ってこちらを見ていた。
別に嫌な雰囲気も無かったんだけど、なんとなく注視していた。
「ルー、あの人」
「うん、なんだろね?」
磯良も見ていた。
緊張している。
「磯良?」
「気を付けろ」
「え、敵?」
「分からない。でも何かおかしい」
磯良は私たちよりも警戒していた。
もちろんまだ攻撃はしないけど。
男の人は大体40代前半。
少し伸ばした髪を後ろに流している。
身長は170センチ台。
よく見ると引き締まった身体を大き目の綿のブルゾンで覆っているのが分かる。
ブルゾンの前を開いていたからだ。
下は柔らかそうなコーデュロイのパンツで、上下とも黒。
靴も黒のスニーカー。
顔は結構ダンディで、口元が少し笑っている。
でも、ただのイケメンじゃない。
顔に厳しい人生を刻みつけた渋い顔だ。
10メートルまで近づいた。
もう私たちは止まっている。
「無理か」
男が呟くのが聴こえた。
そして、男が魔法のように両手に銃を取り出すのが見えた。
しかも銃がおかしい。
凶悪なナイフが銃口の下に出ていて、途中から変形してトリガーガードの下まで伸びている。
なんだアレ?
「「「!」」」
目の前で男の姿が消えた!
突然にだ!
咄嗟に周囲を警戒したけど、もう気配が無い。
いや、消えたわけじゃないので気配を消したのだ。
でも、この私たちが見えなくなるなんて!
ハーが襲われたのが僅かに分かった。
攻撃の瞬間だけだ。
そして反撃しようとした瞬間にまた男は消えていなくなった。
「ハー、妖魔じゃなかったよね!」
「うん、絶対違う。あれは人間だったよ!」
「じゃあどうして消えたんだろう!」
「わかんない!」
磯良にも分からないようだった。
「ハー! 耳!」
「え?」
ハーの左の耳が浅く切れていて血が滴っていた。
「え! どうして!」
すぐに「Ω軟膏」を出して塗った。
傷はたちまち塞がった。
「ヤバい奴だったな」
磯良が言った。
「多分、暗殺専門の人間だ。前にもそんな奴に出会ったけど、あれほど凄い奴は初めてだ」
「磯良、どうして消えたか分かる?」
「いや、分からない。でも多分気配を消すのに長けてるんだろう」
「どうやって……ハーも私も何も感じていなかったし」
「攻撃の瞬間だけ見えたよな?」
「うん、自分でもどうしてか分かんないけどね。プレッシャーを感じてちょっと動いた感じ? でも斬られたね」
「そうだよな。俺もちょっとだけ感じた。でもほんの一瞬で、何も出来なかった」
私とハー、それに磯良までがいて逃がしてしまった敵。
全員を解散し、一応タクシーを呼んで帰らせた。
きっと狙いは私とハー、それか磯良だろう。
胡蝶は帰らせ、磯良と一緒にうちに帰った。
タカさんには襲われた連絡はすぐにした。
怪我は大したこと無いと言ったんだけど、タカさんは早くに帰って来てくれた。
磯良は「アドヴェロス」に連絡し、タカさんと話した後は念のために「アドヴェロス」本部に泊まるように言われた。
雪野さんがすぐに周辺の監視カメラ映像を確認したけど、変装したらしくそれらしい人物は映っていなかった。
1
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる