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夏の匂い Ⅲ
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「ハー、また死んだか!」
「死んでないもん!」
もうその遣り取りはいいです、タカさん。
まー、「ノリの石神家」だからしょうがないかー。
ハーもニコニコしてタカさんをポコポコしている。
タカさんはハーの傷口を診て、もう塞がっていることを確認して一安心していた。
念のために「Ωカメムシ」の丸薬を呑ませた。
タカさんがハーの耳をペロペロして、ハーが喜んだ。
「わたしもー!」と言うと、私の耳もペロペロしてくれた。
私たちが詳しい状況を話すと、タカさんは腕を組んで考えていた。
「なんかね、嫌な感じはしてたの」
「でもね、殺気は全然無かったよ? ヘンな感じだけ」
「顔は結構ダンディだった」
「突然ね、ジャケットの下の両脇からオートマチックを取り出したの」
「30センチくたいの長い刃渡りのナイフがレール部分から伸びててね、トリガーガードの前で半円の刃になってた」
「咄嗟に身構えたら、目の前で消えたの!」
「ハーが襲われた瞬間だけちょっと見えた! ハーが反応したんだけど、ギリギリで耳を斬られて死んだの!」
「死んでないもん! でも、私もルーも磯良もまた見失ったの!」
「また攻撃して来たら確実にやれたけどね!」
磯良にもタカさんが聴いたけど、同様な話をした。
「ハーが死んだ」と言い、ハーにポコポコされていた。
こいつも意外にノリが良いなー。
「あの武器は相当特殊ですね。あれだけ高度に気配を消すことといい、相当な訓練を積んだ暗殺専門の人間でしょう。ハーでなければ危なかった」
「磯良!」
ハーはニコニコしてポコポコした磯良の肩を揉む。
磯良はあまりの気持ちよさに驚いていた。
私たちはマッサージが上手い。
私が磯良の耳元で「チンコ揉む?」と言って磯良を慌てさせた。
「磯良、暗殺専門と言ったが、お前はそういう人間を知っているんだな」
「ええ、大した奴ではありませんでしたが。気配というか、雰囲気が今回の奴と似ていました。殺気は一切無いんですが、何か冷たい感じと言いますか」
「なるほど」
私たちは軍人やヤクザなんかは知ってるけど、暗殺者というのはあんまし出会っていない。
前にタカさんを襲った「テトラ」たちはそうだったか。
でも磯良と同じでほとんど戦闘もなく片付いてしまった。
「ガンスリンガー」も暗殺に来たけど、今回のような暗殺者ではなかった。
まあ、見えない場所からガンガン撃って来るんで、結構苦労したけど。
でもあいつのように気配を消し切ってしまうような奴は、妖魔以外に知らない。
人間に、あれほどのことが出来るのだろうか。
「花岡」にも、気配を消す技はあるけど、あそこまでのものではない。
警戒して見ていたのに消えてしまうなんてあり得ない。
気配を消す技術は、相手が気付いていない中で接近できる、という技だ。
要するに油断している隙を衝く技。
見えているのに見えなくなることは無い。
タカさんは斬さんと電話で話した。
暗殺者のことに一番詳しいのは斬さんだろう。
タカさんはスピーカーモードにして、みんなにも聴かせてくれた。
「暗殺専門の人間は確かにいる。じゃが、専門的に訓練を受けた人間はほとんどいない」
「まあ、そうだろうな。それほど需要があるわけじゃないしな」
それは分かる。
紛争地域や諜報活動が激しい地域では暗殺も多いが、日本ではほとんど使われることはないだろう。
諜報機関が暗殺を企てることがあるのは知っている。
例えばCIAのケースオフィサー(工作担当官)と呼ばれる連中は、多数の要人暗殺を実際に行なっている。
ただ、多くの場合は軍人を使うのだけれど。
「人を殺すのは案外簡単じゃ。技術さえあれば爆弾や銃やナイフを使えば良いし、毒殺も容易い。その他にも幾らでも方法はある。じゃから専門的な訓練なぞ必要は無いんじゃ」
「お前は前に、北海道にそういう施設があったと言っていたよな?」
「ああ。ソ連のKGB崩れが雇われてやっとったな。今はもう無いけどな」
「どういう訓練だったか分かるか?」
「詳しくは分からんが、狙撃、銃撃、ナイフ、爆薬、毒、そういうものじゃろう。あとは変装や演技の技術じゃろうな。そういう話は聞いておる」
「チッ! 案外当てにならねぇなぁ」
「なんじゃ!」
あー、いつものように喧嘩になったよ。
「今、そこにいた奴らはどうなったんだ?」
「ふん! ほとんど残ってはおらんわ」
「殺されたのか?」
「ああ、公安の「銀狼部隊」という奴らが潰したんじゃ。部隊設立初期のことで、その成果が奴らの大きな実績となった」
「あいつらかぁ!」
「施設もKGBの男も、使おうとしていたヤクザの組も根こそぎな」
「資料は残っているか?」
「無い。何も残してはおらん」
「そうか。おい、どうやって人間を集めていたんだ?」
「子どもを誘拐していたらしい。その時訓練を受けていて殺された子どもは20人程度の人数じゃったらしいぞ」
「お前はどうやって知ったんだ?」
「その組から連絡があった。わしに「花岡」の手ほどきをして欲しいとな。興味が無いからある程度の内容を聞いて断った」
「どうしてだ?」
「ふん! わしが人殺しなんぞ育てるかぁ!」
「お前、すげぇ人殺しじゃん」
「何を言う! 殺すことを躊躇ったことは無いが、人殺しを育てるなぞ真っ平じゃ! 「花岡」を舐めるな!」
「お、おう」
どうして二人はいつも喧嘩腰に話すんだろうか。
まー、いいけど。
磯良が笑ってた。
斬さんはそれとなく暗殺者養成所のことは見張っていたようで、それで「銀狼部隊」による壊滅も知っていたようだった。
養成所にいた暗殺者も殺されたそうだけど、何人かはもう外に出ていたことも知っていた。
タカさんはもう少し調べると言っていた。
早乙女さんに「銀狼部隊」の資料を当たるように言い、早乙女さんはすぐに調べると言ってくれた。
「死んでないもん!」
もうその遣り取りはいいです、タカさん。
まー、「ノリの石神家」だからしょうがないかー。
ハーもニコニコしてタカさんをポコポコしている。
タカさんはハーの傷口を診て、もう塞がっていることを確認して一安心していた。
念のために「Ωカメムシ」の丸薬を呑ませた。
タカさんがハーの耳をペロペロして、ハーが喜んだ。
「わたしもー!」と言うと、私の耳もペロペロしてくれた。
私たちが詳しい状況を話すと、タカさんは腕を組んで考えていた。
「なんかね、嫌な感じはしてたの」
「でもね、殺気は全然無かったよ? ヘンな感じだけ」
「顔は結構ダンディだった」
「突然ね、ジャケットの下の両脇からオートマチックを取り出したの」
「30センチくたいの長い刃渡りのナイフがレール部分から伸びててね、トリガーガードの前で半円の刃になってた」
「咄嗟に身構えたら、目の前で消えたの!」
「ハーが襲われた瞬間だけちょっと見えた! ハーが反応したんだけど、ギリギリで耳を斬られて死んだの!」
「死んでないもん! でも、私もルーも磯良もまた見失ったの!」
「また攻撃して来たら確実にやれたけどね!」
磯良にもタカさんが聴いたけど、同様な話をした。
「ハーが死んだ」と言い、ハーにポコポコされていた。
こいつも意外にノリが良いなー。
「あの武器は相当特殊ですね。あれだけ高度に気配を消すことといい、相当な訓練を積んだ暗殺専門の人間でしょう。ハーでなければ危なかった」
「磯良!」
ハーはニコニコしてポコポコした磯良の肩を揉む。
磯良はあまりの気持ちよさに驚いていた。
私たちはマッサージが上手い。
私が磯良の耳元で「チンコ揉む?」と言って磯良を慌てさせた。
「磯良、暗殺専門と言ったが、お前はそういう人間を知っているんだな」
「ええ、大した奴ではありませんでしたが。気配というか、雰囲気が今回の奴と似ていました。殺気は一切無いんですが、何か冷たい感じと言いますか」
「なるほど」
私たちは軍人やヤクザなんかは知ってるけど、暗殺者というのはあんまし出会っていない。
前にタカさんを襲った「テトラ」たちはそうだったか。
でも磯良と同じでほとんど戦闘もなく片付いてしまった。
「ガンスリンガー」も暗殺に来たけど、今回のような暗殺者ではなかった。
まあ、見えない場所からガンガン撃って来るんで、結構苦労したけど。
でもあいつのように気配を消し切ってしまうような奴は、妖魔以外に知らない。
人間に、あれほどのことが出来るのだろうか。
「花岡」にも、気配を消す技はあるけど、あそこまでのものではない。
警戒して見ていたのに消えてしまうなんてあり得ない。
気配を消す技術は、相手が気付いていない中で接近できる、という技だ。
要するに油断している隙を衝く技。
見えているのに見えなくなることは無い。
タカさんは斬さんと電話で話した。
暗殺者のことに一番詳しいのは斬さんだろう。
タカさんはスピーカーモードにして、みんなにも聴かせてくれた。
「暗殺専門の人間は確かにいる。じゃが、専門的に訓練を受けた人間はほとんどいない」
「まあ、そうだろうな。それほど需要があるわけじゃないしな」
それは分かる。
紛争地域や諜報活動が激しい地域では暗殺も多いが、日本ではほとんど使われることはないだろう。
諜報機関が暗殺を企てることがあるのは知っている。
例えばCIAのケースオフィサー(工作担当官)と呼ばれる連中は、多数の要人暗殺を実際に行なっている。
ただ、多くの場合は軍人を使うのだけれど。
「人を殺すのは案外簡単じゃ。技術さえあれば爆弾や銃やナイフを使えば良いし、毒殺も容易い。その他にも幾らでも方法はある。じゃから専門的な訓練なぞ必要は無いんじゃ」
「お前は前に、北海道にそういう施設があったと言っていたよな?」
「ああ。ソ連のKGB崩れが雇われてやっとったな。今はもう無いけどな」
「どういう訓練だったか分かるか?」
「詳しくは分からんが、狙撃、銃撃、ナイフ、爆薬、毒、そういうものじゃろう。あとは変装や演技の技術じゃろうな。そういう話は聞いておる」
「チッ! 案外当てにならねぇなぁ」
「なんじゃ!」
あー、いつものように喧嘩になったよ。
「今、そこにいた奴らはどうなったんだ?」
「ふん! ほとんど残ってはおらんわ」
「殺されたのか?」
「ああ、公安の「銀狼部隊」という奴らが潰したんじゃ。部隊設立初期のことで、その成果が奴らの大きな実績となった」
「あいつらかぁ!」
「施設もKGBの男も、使おうとしていたヤクザの組も根こそぎな」
「資料は残っているか?」
「無い。何も残してはおらん」
「そうか。おい、どうやって人間を集めていたんだ?」
「子どもを誘拐していたらしい。その時訓練を受けていて殺された子どもは20人程度の人数じゃったらしいぞ」
「お前はどうやって知ったんだ?」
「その組から連絡があった。わしに「花岡」の手ほどきをして欲しいとな。興味が無いからある程度の内容を聞いて断った」
「どうしてだ?」
「ふん! わしが人殺しなんぞ育てるかぁ!」
「お前、すげぇ人殺しじゃん」
「何を言う! 殺すことを躊躇ったことは無いが、人殺しを育てるなぞ真っ平じゃ! 「花岡」を舐めるな!」
「お、おう」
どうして二人はいつも喧嘩腰に話すんだろうか。
まー、いいけど。
磯良が笑ってた。
斬さんはそれとなく暗殺者養成所のことは見張っていたようで、それで「銀狼部隊」による壊滅も知っていたようだった。
養成所にいた暗殺者も殺されたそうだけど、何人かはもう外に出ていたことも知っていた。
タカさんはもう少し調べると言っていた。
早乙女さんに「銀狼部隊」の資料を当たるように言い、早乙女さんはすぐに調べると言ってくれた。
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