富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,882 / 3,202

パレボレ教官 Ⅱ

しおりを挟む
 最高司令官が、遠い目をしながら語った。

 「我々ははるかな過去に「#$%&%$」とさえも戦おうとしました」
 「はい、その歴史は知っています」

 ロボさんのことだ。
 その戦闘の中で、この宇宙が滅びかけたことすらある。
 今ではグランマザーの宣言によって、ロボさんは不可侵の存在となっており、地球の石神さんと一緒にいることは全員が承知している。

 「他にも様々な敵と戦いました。今では主に紛争が起きた場合の鎮圧が主な戦闘になります」
 「はい、それも理解しています」

 今は「敵」というものがおらず、「大銀河連合」内での軍事力を用いた紛争の平定に乗り出すことは知っている。

 「しかし、しばらく前から未知の敵が現われました。その敵は生命体とは言い難く、それでも何らかの意識を持ったエネルギー体であることは確かなのです。まだ「大銀河連合」全体には公表はしていませんが、かなり激しい戦闘になっています」
 「そうなのですか。それは知りませんでした」

 伺うと、逸早くグランマザーが予見していたもので、そのために「大銀河連合軍」も早い段階で準備が出来ていたようだ。

 「その敵は、「ミレー星系」に突然現われました」
 「ミレー星系ですか?」
 「はい。かの石神高虎様が地球で「業」と本格的に戦い始めてからのことです。グランマザーによると、石神様の戦いが全宇宙に関連するものであると確定しております」
 「なんですって! 石神さんが!」

 最初の頃はともかく、今であれば石神さんの途轍もない運命は僕も感じていた。
 グランマザーからも、石神さんが宇宙の運命に関わるということは聞いてはいた。
 でも、現実にミレー星系で実際の戦闘が始まっていたとは!

 「グランマザーが未知のエネルギー体との戦闘に有効な兵器を開発し、徐々に戦闘は我々に有利に動きつつあります。特に石神様が「トゥアハー・デ・ダナン星系」に《リア・ファル》を投下されて以降は敵の勢力も縮小し、我々の戦線が格段に優位に立ちました」
 「そうなのですか! そうなんです、石神さんは最高なんです!」

 僕の知らない所で石神さんはとんでもないことをしていたのだ。
 あの人はやっぱり違う。

 「はい、石神様はグランマザーが仰るようにこの宇宙を救う方であることは、我々も確信しています。それでも、やはり戦闘は厳しく、兵士たちも終わりの見えない戦争に疲弊していました」
 「そうなのですか!」

 大変なことだ。

 「そうなのですが、パレボレさんが発信されている《地球学》の講義が素晴らしく! あれを全軍に周知して再教育を施したところ、兵士の戦意高揚が顕著に見られ、そのお陰で一層戦線は我々が盛り立てているのです!」
 「え?」
 「パレボレさん、あなたのお陰ですよ!  あなたの《地球学》は本当に素晴らしい! もちろんここにいる私たちも毎日学んでいます。それにパレボレさんのご紹介の地球の「ドラマ」ですか、あの『虎は孤高に』は我々の聖典です。本当に素晴らしいものをありがとうございます!」
 「い、いえ、そんな! あのドラマも地球で制作されたものですし!」
 「それを我々にもたらして下さったのはパレボレさんです。今日はその感謝をお伝えしたく、お忙しいパレボレさんにここまでお越し頂きました」
 「そんな、僕なんて……」

 他の高官の方々からも何度もお礼を言われたてしまった。

 「我々は、本当の「軍隊」というものを理解していなかったことがよく分かりました。本当の軍隊とは何なのか、戦うというのはどういうことなのか。それを学ぶことが出来ました」
 「僕の力など何もありませんが、それは喜ばしいことと思います」
 「いいえ、パレボレさんが石神様のこと、地球のことを教えてくれなければ何も分かりませんでした。最大の感謝をパレボレさんに捧げます」
 「そんな! 僕なんて何も! 石神さんたちの素晴らしさだけですよ!」
 
 みんなが笑っていた。

 「それです。そういう所が《地球学》です。もう我々にも分かっていますよ」
 「いいえ、あの……」

 本当に困ってしまった。
 僕などはお礼を言われるような人間ではないのだ。
 でも、みなさんが石神さんたちのことを理解してくれたのは、嬉しかった。

 「パレボレさんに是非ともお礼がしたいのですが」
 「いいえ、何もいりません! みなさんはこの宇宙のために勇敢に戦っていらっしゃる! そんな方々の助力になったとすれば、それだけで十分です」
 「そう仰ると思いました。でも、それでは我々がパレボレさんからいただいた感謝が納まりません」

 気持ちは分かるのだけど、僕も困ってしまう。
 石神さんはこういう場合、どうするのだろう。
 僕はその日は何とか断って、一度考えさせて欲しいと言った。
 みなさんは僕のことを奥ゆかしいとか言ってくれたけど、そういうことじゃない。
 僕は丁寧にお礼を言って、帰った。



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 僕の《地球学》の講義が丁度ワンクールを終え、地球に戻って亜紀さんに電話で相談した。

 「なんじゃ、ソレ?」
 「いえ、だからミレー星系で大変な戦争が起きてまして」
 「落穂ひろい?」
 「なんです?」
 「よく分からんな」
 「そうですかね」
 
 分からないかー。

 「とにかくさ、タカさんに話してみなよ」
 「はい!」

 その晩に石神さんのお宅へ伺い、石神さんにお会いした。
 僕はミレー星系の戦争の話をし、石神さんのお陰で兵士たちの士気が高まっていることを話した。

 「へぇー」
 「はい!」
 「それで何くれるって?」
 「いや、それは聞いてませんが」
 「じゃあ俺も何とも言えねぇよ」
 「なるほど」

 確かにそうだろうと思った。

 「その戦争よ、ロボに頼む?」
 「ああ!」
 「多分、一発だよな」
 「そうですよね!」
 「以上!」
 「はい!」

 どういうことか分からなかったけど、確かにロボさんなら一発だ。
 石神さんがソファで寝ていたロボさんを呼んでくれた。
 石神さんに呼ばれてロボさんが嬉しそうに来る。

 「じゃあ、ロボに頼めよ」
 「え、僕がですか!」
 「お前らのことだろう!」
 「はい! えー、あのロボさん」
 「にゃー」
 「一緒に来て頂きたいのですが」

 クリオネタイフ-ン・ポセイドン殺しキックを喰らった。
 柳さんが。

 「なんでぇー!」

 石神さんが吹っ飛ぶ柳さんを黙って見ていた。

 「なんかロボは嫌がってるな」
 「そうなんですか?」
 「まあ、しょうがねぇよ。お前らで何とかしろ」
 「はい、「大銀河連合軍」の方々もそのつもりであるかと」
 「ああ、礼ってことならよ、何でも貰っておけよ」
 「そういうものですか」
 「お前が感謝されてんだろ?」
 「いいえ、石神さんたちのお陰ですよ」

 石神さんは笑って自分は何もいらないと言った。
 僕もそうなんですけどー。
 石神さんはちょっと待てと言い、段ボール箱一杯のDVDなどを貸してくれた。

 「宇宙戦争って言ったらコレだからな。参考にしろよ」
 「はい! ありがとうございます!」

 《機動戦士ガンダル・シリーズ 全巻(第一作から最新『機動戦士GundarGQuuuuuuX』まで)》

 「特によ、フルバーニアンとかのハイエンド的なものがカッチョイイぞ」
 「そうなんですか」

 僕は丁寧にお礼を言い、お借りした。
 亜紀さんが夕飯を一緒に食べて行けと言うのでご馳走になった。
 「カレー大会」ということで、僕も大好物で嬉しかった。
 相変わらずの激しい食事で、僕も頑張った。
 石神さんがいつになく本気で食べていた。
 カレーはいつも一杯しか食べられないそうだ。
 なんでだろう?




 
 
 《機動戦士ガンダル・シリーズ》は「大銀河連合軍」の指令本部の方々が絶賛し、すぐに全軍に放映された。
 兵器開発部の方々が夢中でモビルスーツを開発し、戦線に投入された。
 それまでの艦隊での攻撃がより柔軟な作戦行動となり、戦線は大いに活性化したそうだ。
 僕も想定外だったけど、様々な星の種族が集まっているので、同じ船に乗ることすら難しく、共同作戦は戦艦単位になっていたのだ。
 それがモビルスーツで個別な環境を設計出来るので、集団戦が格段に柔軟になりやりやすくなったということだった。
 艦隊での攻撃は強力ではあったが小回りが効かず、敵に回り込まれると苦戦することが多かったという問題が一気に解決した。
 すぐにモビルスーツが大増産され、ミレー星系での戦闘で活躍して行った。
 モビルスーツのパイロットたちは一躍軍の花形となり、人気が高まった。
 ただ、モビルスーツの名前が「パレボレスーツ」と呼ばれてしまい、困っている。
 
 石神さんにご報告し、実際の戦闘も見て頂いた。

 「おい、まんまガンダルじゃねぇか!」
 「カッコイイですからね」
 「あ、《赤い彗星》もいんのかよ!」
 「カッコイイですからね」
 「これ、《ダブルオーライザー》?」
 「カッコイイですからね」
 「《ザザビー》とかもいんの?」
 「カッコイイですからね」
 「……」

 石神さんが黙り込んでしまった。
 地球での戦闘にも関わらせてもらおうとしたら、地球ではいろいろ「版権問題」があるので来るなと言われた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...