富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《轟霊号》初出撃

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 《轟霊号》の進水式も終わり、徐々に試験運行と演習訓練を始めた。
 うちの子どもたちなどが一度乗りたいと言い、俺の許可で何度か試験運行などに同行した。
 亜紀ちゃんと双子と柳、皇紀と風花。
 特に風花は憧れの船旅だと喜んだ。
 全然船じゃねぇんだが。
 まあ、本人が喜んでいるのでいい。
 金華と銀華は訳も分からんだろうが、皇紀と風花に抱かれてニコニコしていた。
 四人で船首(まあ、本来はそういうものが無く、進んでいる方向に過ぎない)に立ち、風を浴びて騒いでいた。
 本格的な航行速度ではとても立っていられるものではないので、ゆっくりと進んでいる時だけだ。
 茜たち「トラキリー」は毎回同行し、自分たちの出撃訓練も何十回とこなしている。
 柏木さんも高齢の身体で、訓練の度に飛行して強化外骨格の操縦に慣れて行った。
 操縦と言っても、基本は柏木さんの思考を読み取ってのものなので、そのすり合わせということだ。

 「面白いものですね」

 柏木さんはそう言うが、山岸はまだ全然ダメだ。
 山岸にも強化外骨格を作ってやったが、しょっちゅう飛んでいる途中で意識を喪い。自動運転で帰還している。
 段々嘔吐しなくなったというのが、唯一の進歩か。

 「お前、大丈夫?」
 「申し訳ありません……」

 まあいい。
 山岸のことだ、いずれ克服するだろう。
 他の医師たちにも強化外骨格は与えており、それぞれに「飛行」をものにしていった。
 医師たちが飛ぶことはほとんどないだろうが、万一の場合には退却する場合もあるためだ。
 マンロウ千鶴と御坂鈴葉に関しては、申し分ない。
 二人とも石神家本家で鍛え上げられ、もちろん「飛行」もものにしている。
 千鶴たちは柏木さんの護衛が中心になるので、三人でよく訓練していた。

 クルーたちの訓練ももちろん十二分に行なう。
 様々な状況を想定しての実戦訓練はもとより、消火訓練や避難訓練も実施した。
 アラスカの各大隊も招いて何度も合同演習もした。
 何しろ広大な艦船なので、やることが大掛かりだ。
 航行動力が破壊された前提で、大人数での曳航訓練までやった。
 《轟霊号》搭載の「タイガーファング」、「ニーズヘッグ」や「ウラール」 そしてマルドゥックなどと合同演習も何度も繰り返す。
 訓練内容は茜たちも考えるが、主にアラスカの《ウラノス》が組み立ていた。
 そして、最初の作戦行動が決まった。



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「最初に泣いたのはいつだったか。親がもういないことを思い知らされた時か。自分に未来がないことを知った時か」

 ある日、突然村が襲われた。
 50人の武装した連中で、僕が10歳の時だった。
 「エイルスターズ」という海賊の連中だったのは、後で知った。
 村の大人の男たちと年寄りは全員殺され、若い女と10歳前後の子どもだけが海賊に捕らえられ、拠点となっているアデン湾の島まで連れて行かれた。
 男、幼い子ども、年寄りは全て殺された。
 僕たち子どもは翌日から銃を握らされ、訓練を受けるようになった。
 拠点には僕たちよりも前に連れて来られていた子どもたちが10人程いて、みんな死んだような目をしていた。
 大人たちの暴力に怯え、奴隷以下の扱いのためだ。
 僕たちもすぐに同じようになった。
 最初に海賊の大人たちから激しい暴力を受け、抵抗する気力も根こそぎ奪われた。
 恐怖に覆われ、言われるままに銃を撃って人を殺した。
 沖合を進む貨物船やタンカーを高速艇で襲い、またはどこかの小さな町や村を襲った。
 生きるためではない、大人たちに命じられるからだ。
 それ以外に僕たちが考えられることは無かった。
 自分が生きているということすら、忘れてしまった。
 大人たちに言われることをすることしか無かった。
 弱い自分たち子どもは命じられたことをするしかない。
 激しい銃弾、砲弾の飛び交う中を走らされた。
 前に行けと言われれば前に、右だと言われれば右に。
 一緒に走る子どもたちが何人も死んでいくのを見て来た。
 悲しいと思う気持ちよりも、ああなりたくないのか、それとも自分もああなりたいのか分からなくなった。
 地雷原をゆっくりと歩かされた。
 すぐ隣を歩いていた子どもが吹き飛んだ。
 僕と同じ子どもたちが何十人も死んだ。
 多分、僕も本心では死にたくはない。
 でも、死を遠ざけることは出来ない。
 いつも僕たちの後ろには、怖い顔をした、時にはニヤニヤ笑っている大人たちが銃を向けていた。
 それを見れば、僕たちの中には何もなくなった。

 僕の村が襲われて3年。
 僕は奇跡的にまだ生きていた。
 毎日銃を持たされ、訓練を受けた。
 容赦なく殴られ、時には遊び半分で殴られ蹴られた。
 一切逆らったことは無い。
 逆らえば、簡単に殺されてしまうことはすぐに学んだ。
 その恐怖の中で僕は何とか生き延びて来た。
 言われるままに銃を撃ち、人を殺した。
 最初は自分が罪を犯したことを嘆き、死にたくもなった。
 でも、それもそのうちに対して感じなくなって行った。
 そのことに時々悲しみ、そして感謝した。
 AK47を手に客船や貨物船、タンカーの乗組員、町や村の住民を撃った。
 子どもの人数が減ると、また僕の村のような小村を襲って子どもたちを補充する。
 女の人はレイプされ、どこかへ売り飛ばされた。
 子どもは男女を問わずに全員兵士にされた。
 力のない子どもは逆らうことが無く、従順だからだということも分かった。
 それに銃の引き金は子どもでも引ける。
 僕は他の子どもたちよりも銃の扱いが上手く、そのうちに可愛がられるようになった。

 「マカク、ちょっと来い」

 ある晩に呼ばれ、攫って来た女の人を抱かされた。
 褒美のつもりだったのだろうが、僕にはただ気分の悪いことでしかなかった。
 女の人は泣いていた。
 僕にはどうすることも出来なかった。
 いつか僕もどこかで死ぬだろうから、それで赦しを乞うしかなかった。
 僕は汚れてしまったのだ。
 僕は仲間の一員として認められていったが、僕は一度もあいつらを仲間だと思ったことは無い。
 でも、僕はあいつらのために人を殺して来た。
 僕も綺麗なわけではないのだ。

 いつか僕も戦闘で死ぬのだろう。
 その日が来るのが恐ろしくもあり、同時に一つの希望になっていった。
 もう鏡を見たくない。
 僕が死人の目以上に、亡霊の目になっているのを見たくない。
 もう何の価値も無い命が、僕には憎くもあった。
 こんな僕がまだ生きているということが、申し訳なかった。
 でも僕はまだ生きている。
 それが悲しかった。
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