富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《轟霊号》初出撃 X

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 俺の傍で端末を持った副官が言った。
 「ウラール」からの観測データらしい。

 「コハクさん、100億出て来たそうです!」
 「おう! ところでお前、名前なんだっけ?」
 「ミラーですよ! いい加減覚えて下さい!」
 「ああ、そうだ、ミラーだったな。大佐だっけか?」
 「もうそこはどうでもいいです。ミラーだけ覚えて下さい」
 「おう!」


 人の名前を憶えるのは苦手だ、
 ずっと毎日同じ連中と付き合って来たせいか。
 特に外国人の名前なんざ、馴染みもクソもねぇ。
 まあ、いい奴なのは分かっているので付き合うのは問題ない。
 それに、俺にはデータだのはよく分からない。
 でも、戦場に立てば大体のことはすぐに分かる。
 ミラーが言って来た状況も、俺にはもっと前に感じられていた。
 だが、ミラーは「ウラール」が算出した数に肝を抜かれている。
 これまで100億の妖魔が出たことは滅多に無い。
 俺の顔を見ていた。

 「コハクさん、笑ってますね」
 「タリメェだ! 高虎がよ、前にこんな数を楽々斃してた」
 「そうなんですか、流石はタイガーですね!」
 「舐めんじゃねぇ! 高虎に出来て俺に出来ねぇわけがねぇ!」
 「はい!」

 《ハイヴ》から出て来た4体の《地獄の悪魔》は全てぶっ殺した。
 今回の巨大「ゲート」出現は、どうやら12カ所の《ハイヴ》の同時攻撃らしい。
 「業」の奴、この数で押して俺たちをどうにかしたいらしい。
 まあ、以前の俺だったら厳しかっただろう。
 高虎が実際に100億の妖魔相手の戦いを俺たちに見せてくれていなければ、だ。
 高虎はいつも俺たちにとんでもねぇものを見せてくれる。
 俺なんかじゃ辿り着けない場所に連れてってくれる。
 すげぇ奴だ。
 尊敬する俺たちの当主だ。

 今回の《ハイヴ》攻撃は、結構強い連中が揃っているが、どこかで逼迫していたら、すぐに応援に行かなければならない。
 高虎はそのつもりで俺を送っている。
 あいつが俺に任せたのだ。
 絶対にあいつのために、俺は自分の役割を果たさなきゃならねぇ。
 でっかい「ゲート」が開いたようだけどよ、そんなこと関係ねぇ。
 すぐさま平らげて、他の《ハイヴ》へ行かねば。

 100億かぁ。
 それがどうしたぁ!
 高虎が蓮花研究所で見せやがった。
 あいつは100億なんて物の数じゃなかった。
 その後で1兆の妖魔と1000体の《地獄の悪魔》を自分一人でたちまちぶっ殺した。
 更にその10倍も難なく倒した。
 俺は圧倒され、感動した。
 高虎は石神家の当主としてとんでもねぇ力を持ってやがった。
 あいつは全身の周囲に無数の「魔法陣」を描いていた。
 あの発想が高虎の凄さだ。
 俺たちには思いも寄らねぇ。
 あいつは本当に凄ぇ。
 たまらねぇ。
 あれから俺も必死に修練した。
 まだ10個しか「魔法陣」は描けねぇ。
 高虎は遠い。
 高虎が人並外れた器用な奴じゃねぇことは分かってる。
 必死の人間なのだ。
 誰よりも考え、誰よりも努力して身に付けている。
 俺の尊敬して已まない最高の当主。

 俺は10個の「魔法陣」を描いた。

 「行くぜぇ!」

 見てろ高虎!


 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 私はドラゴンを相手にし、他のソルジャーたちには100億の妖魔を相手にしてもらう。
 先に「ニーズヘッグ」が来てくれていたことと、後から《マルドゥック》が4機も来てくれて大いに助かっている。
 《マルドゥック》のアサルトタイプ1機と私でドラゴンを攻撃している。
 情けないことに、それでもドラゴンは斃せない。
 とにかく再生能力が高く、首を破壊してもすぐに復元させてしまう。
 それにドラゴンのブレスが強力で、私も《マルドゥック》も急いで回避するので精一杯だ。
 幸いにも直線の攻撃で、破壊範囲が狭いことで回避さえすれば影響は無い。
 私も《マルドゥック》も高速機動で、回避は出来た。
 でも斃せない。
 問題は100億の妖魔で、今いるソルジャーでは手に負えない。
 みんな必死で戦っているが、死傷者が徐々に増えて行った。
 一江さんが《マルドゥック》を4体も送ってくれなければ早々にみんな死んでいただろう。

 そして後方から来るジェヴォーダンとバイオノイドを馬込たち「ハイドラ」に任せた。
 「ハイドラ」はまだ新生の実験部隊だが、馬込が仕上げていることは私がよく知っている。
 特に聖に鍛えられて、一層堅固になった。
 それに戦力だけでなく、馬込が私のところへ来てくれたことは本当に嬉しかった。
 突然極限状態になって私も焦っていたけど、馬込が来てくれただけで気持ちが落ち着いた。
 自分でも驚いてる。
 「ハイドラ」はジェヴォーダンやバイオノイド相手であれば大丈夫だろう。
 数は多いようだけど、あいつならばきっとやってくれるに違いない。
 問題は私の役目で、出て来たドラゴンは相当強い。
 まだ攻撃は喰らっていないが、波動で分かる。
 通常の《地獄の悪魔》よりも手ごわい奴だ。
 何よりも再生能力だ!
 今もドラゴンのでかい頭を落としたが、やはりすぐに再生してくる!
 全長で10キロもあり、意外と高速で移動するので捉え切れない。

 「後方に更に「ゲート」出現! 《地獄の悪魔》、来ます!」

 馬込の「トラキリー」にだ!
 アサルトタイプの《マルドゥック》は今は私とドラゴンの相手をしている。
 他の3機はエクスタームドタイプで、広範囲の妖魔を迎撃するように出来ている。
 《地獄の悪魔》には対応が不向きだ。
 それに100億の妖魔を迎撃するので今は手一杯の状況だ。
 その時馬込から私の心配を推し量ったかのような通信が入った。

 「ハー! ここは任せろ!」
 「何言ってんの! 《地獄の悪魔》だよ!」
 「大丈夫だ。俺たちは絶対にお前の隊には行かせねぇ!」
 「馬込!」
 「俺に任せろ!」
 「!」

 あいつ、「任せろ」って言いやがった。
 そんなこと言われたら、私は何も出来ないじゃん!
 馬込、死ぬな!
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