富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,893 / 3,202

《轟霊号》初出撃 XⅠ

しおりを挟む
 俺たちはジェヴォーダンとバイオノイドの群れを難なく殲滅した。
 ジェヴォーダンとバイオノイドについては様々な戦力を想定し、何百回も訓練し、どんなに来ようと俺たちが負けるわけがない。
 《デモノイド》は多少厄介だったが、デュールゲリエたちが操る《スズメバチ》が上手く射線に誘導し、「バハムード」装備のデュールゲリエが挽肉に変えて行った。
 これでハーの隊に向かう奴はいなくなったが、俺は油断していなかった。
 たったこれだけの攻撃で俺たちを撹乱出来るとは敵も思っていないだろう。
 多分だが、こちらへ戦力を割かせて、それを壊滅する用意がきっとある。
 だから俺は花咲里に命じてジェヴォーダンの死骸を集めさせた。
 あの硬く巨大な装甲でバリケードを築くのだ。
 作業が終わる頃、数馬が俺に「ゲート」反応が出たと言った。
 やはり追加の敵が来るのだ。
 多分、こっちが本番だ。
 数馬が叫んだ。

 「隊長、《地獄の悪魔》でっせ!」
 「ああ、そうだな。やっぞ!」

 俺も波動で分かっていた。
 《地獄の悪魔》に対抗出来る戦力は「虎」の軍でも少ない。
 だから後方を撹乱する目的であれば、必ず繰り出して来ると思っていた。

 「まったく、ハーさんの前じゃカッコシイ過ぎですって」
 「しょうがねぇだろう。俺たちはそのためにいるんだ」
 「はいはい」

 数馬が笑っている。
 
 「花咲里、どうだ?」
 「もう出来ますよ。結構重いです」
 「急げぇ!」

 花咲里は50人を率いて、斃したジェヴォーダンの死骸を引きずって来ている。
 それを今、U字型に並べ重ねているのだ。

 「ほんとにこれで効くんやろか」
 「やるしかねぇだろう! さあ、部隊を配置しろ」
 「へいへい」

 俺はU字型の前に出た。
 《地獄の悪魔》はデュールゲリエたちの攻撃を浴びながら真直ぐにこちらへ向かっている。
 そう進むようにデュールゲリエたちが巧みに誘導している。
 俺は「レーヴァテイン」を構えた。
 《地獄の悪魔》の姿がはっきりと見えて来る。
 全長200メートルもの巨大な蜘蛛のような奴で、頭に無数の化け物の仮面のようなものを着けている。
 背中に縦に針のような突起が並んでおり、そこから雷撃のようなものを出す。
 それと8本の足の攻撃がこいつの戦力らしい。
 デュールゲリエの攻撃はほとんど傷つけていないが、不快なことは確かなようだ。
 巨大蜘蛛が嫌がっているのが分かる。
 雷撃は撃つ前に突起が光るので、デュールゲリエたちは余裕で回避している。
 恐らく接近すればもっと強大な力を奮うのだろう。
 俺たちまでの距離1キロを切ったところで、俺は「レーヴァテイン」をロングソードモードにし、巨大蜘蛛の頭を斬った。
 仮面のようなものが一つ潰れ、巨大蜘蛛は俺へ向かって走り出した。
 ほとんど圧力を感じる妖気だ。
 再び「レーヴァテイン」で頭を攻撃し、また仮面のようなものを一つ潰す。
 近くなっているので、焼け焦げて煙が上がるのが見えた。

 「来い!」

 言うまでもなく、怒り狂った巨大蜘蛛が俺へ向かって来た。
 こいつをハーの所へ向かわせるわけには行かない。 


 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 僕たちはアカネとアオイたちに誘導されて、別な場所へ移動していた。
 全員がシャワーを浴び、柔らかい服を貰っている。
 アカネは、子どもたちを優先的に救うために、こうした子ども用の服を大量に用意していたと話してくれた。
 廊下の窓から外が見えた。
 とんでもない光景だった。
 悪魔のような怪物たちがこの要塞の空を覆っている。
 要塞の巨大な建物から、無数の長いものがうねり、怪物たちを攻撃している。
 他にも多くの場所から攻撃しているのが分かった。
 そして要塞上で一人の男が戦っていた。
 その人の攻撃が最も凄まじく、巨大な光や雷のようなものが伸びて、膨大な怪物が消えて行った。

 「立ち止まらないで! ここは危険だから!」

 アカネが叫んで僕の腕を引いた。
 確かに危険だ。
 怪物たちからも無数の攻撃が来ている。
 要塞のあちこちが破壊されているのが見えた。
 
 僕たちは要塞の地下へ移動しているようだった。
 階段を幾つも下って降りていく。
 相当降った所で、分厚い扉の中へ入れられた。
 
 「ここは安全だから」

 アカネがそう言った。

 「アカネ、外の戦いを見せて」
 「え?「
 「あの男の人の戦いが見たい! お願いします!」
 「……」

 あの男の人が僕たちを救いに来てくれたのだと何となく分かった。
 あの人は「負けない人」なのだ。

 「あの人が僕たちを救いに来てくれたんだね! あの人の戦いを見ていたい!」
 「分かったよ」

 アカネとアオイは頷き合って、部屋の中の大きな画面のスイッチを付けてくれた。

 「不安になるかと思ってた。でも、そうだよね、何も分からない方が不安だよね」
 「はい!」
 「あの人はトラさん。絶対に負けない人。あの人が負けないって言ったら、絶対に大丈夫。敵がどんなに強かろうと、どんなに多くても、絶対に勝つの。そういう人だよ」
 「そうですね!」

 僕にもよく分かった。
 あの人は「絶対」なのだ。
 そういう人間がこの世にはいるのだ。
 僕たちは顔を輝かせて「トラさん」の戦いを見ていた。
 凄まじい攻撃をしながら、「トラさん」は美しかった。
 怪物を無限に殺しながら、輝いて見えた。
 あの人がいれば大丈夫というアカネの言葉を信じた。
 僕たちは海賊たちに「命」を奪われていた。
 本当の命は生きていることじゃないんだ。
 自分が決めて、そこへ向かうことが「命」なんだ。
 それが「トラさん」の戦いを見ていて分かった。
 死ぬことは命を喪うことじゃない。
 向かわなくなった時に、「命」は離れていくのだ。

 「アカネ、僕たちも戦いたい」
 「え?」
 「あの人のために戦いたい」

 アカネとアオイは笑っていた。

 「そう、よく分かるよ。そうだよね、トラさんのために戦いたいよね」
 「うん!」
 「みんなそう。ここに来ている全員がそう思っている。だから必死で頑張るの」
 「はい!」
 「でもね、君たちはまだダメ」
 「どうしてですか! 僕にも銃は撃てる!」

 僕はろくでもない連中のために銃を撃って来た。
 でもこれからはあの人のために撃ちたい。

 「君たちは弱いから。戦いたい気持ちはよく分かる。でもね、みんなあたしたちは戦うために一生懸命に訓練してきたの。君たちが戦うというのなら、訓練を受けなきゃ。力を付けないと、そうでしょう?」

 その通りだと思った。
 あの人の役に立つには、自分も頑張らなきゃいけない。

 「今はここで大人しく見ていて。きっと君たちも感じるから。「虎」の軍は最高なのよ!」
 「はい!」

 ジャンが僕の隣に来て肩を組んだ。
 他の連中も傍に来た。

 僕たちは地獄を抜け、ここに辿り着いたんだ。

 「私たちも行くね。ここにいれば大丈夫。「トラさん」がいるからね」
 『はい!』

 アカネとアオイが出て行った。
 きっと戦いに行くのだろう。
 それはきっと、素晴らしいことに違いない。
 僕たちは画面に見入って「トラさん」を応援した。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...