富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《轟霊号》初出撃 XⅡ

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 100億の妖魔に加え、「ゲート」から青い巨大な女が出て来た。
 体長22メートル。
 異様に長い腕を持ち、顔の美しさと相俟って妖しい容姿だった。
 腿まで伸びる長い髪のようなものは、触手のように太い。
 霊素反応値を確認するまでもなく、強大な妖魔だと分かる。

 「御影さん、一緒にあいつを!」
 「おう!」

 相当ヤバい奴なのは分かっていた。
 「虎」の軍でも相手に出来る人間は何人もいないだろう。
 それでも御影さんは一瞬の躊躇もなく俺と一緒に来てくれた。
 本当はもう一人伊庭さんも呼びたいが、100億もの妖魔を相手に伊庭さんは外せなかった。
 《マルドゥック》(エクスタームドタイプ)が来てくれたお陰で何とかなっている。
 それでも押され気味だ。
 部隊に負傷者が出始めて、戦線はますます厳しくなった。
 青い女の両腕が上がると何かのエネルギーが伸びる。
 それに当たると地面が吹っ飛んだ。
 俺と御影さんが「レーヴァテイン」を奮って何とか攻撃を防ごうとしている。
 青い女の前で高速機動を繰り返して、回避しながら「レーヴァテイン」で斬り掛かる。
 青い女の両腕から伸びるエネルギーは不明だが、何とかその動きを見ながら俺と御影さんは回避している。
 俺たちの攻撃は一切通じないが、青い女の注意を引くことだけは何とか出来ていた。
 だがこのままでは必ずやられる。
 青い女の両腕の動きがどんどん速くなっているからだ。

 「「トラキリー」来ました!」

 この乱戦の中を、「トラキリー」が飛んで来てくれた。
 多分、俺たちの部隊の負傷者が一番多いのだろう。
 俺は必死だったので、戦況は断続的にしか受けられない・
 でも、どうやら他の《ハイヴ》でも同じく100億の妖魔に襲われているようだ。
 そして俺の隊とハーさんの隊に強大な妖魔が出て来たようだ。

 「トラキリー」は重傷者たちを抱えて即座に飛び去る。
 俺たちは負傷者の面倒を見る余裕もなく、本当に有難い。
 しかも、石神家で特訓したマンロウ千鶴と御坂鈴葉が途中で妖魔を斬り刻みながら移動してくれている。
 二人は負傷者の溜まった弱い部分をそうやって押し返しながら救助してくれている。
 元々美しい二人だったが、ここでは眩く輝いて見えた。
 他の「トラキリー」たちも凄まじい。
 混乱した戦場を縦横無尽に駆け巡り、負傷者を救出していく。
 「トラキリー」はこういう戦場を想定した訓練を相当こなしているらしいことがありありと伺えた。
 声を掛ける余裕も無いが、俺は胸の中で手を合わせて感謝した。

 「桜大隊長!」
 「おう!」

 茜と葵だ。
 俺の傍に降りて来る。

 「1割がやられてます! でも聖さんが来ましたから!」
 「本当か!」

 俺は必死で司令本部からの連絡も受けずにいた。
 まだまだ甘い。
 青い女の上に聖さんが浮かんでいた。
 聖さんが「聖光」を構えるのが見えた。
 巨大なマズルフラッシュが見えた瞬間に、青い女が四散して消えた。

 「一撃……」

 呆然としている俺の背中を御影さんが叩いた。
 笑顔で俺を見ていた。

 「おう、桜さん、妖魔を殲滅するぞ!」
 「はい!」

 まだまだ妖魔は膨大だ。
 俺は「レーヴァテイン」を降るって妖魔を殺して行った。
 聖さんから強烈な波動が来る。

 「「虎相」だ。ぐずぐずしてるとみんな聖さんが平らげるぜ」
 「はい!」

 聖さんの背中に巨大な翼が拡がったのが分かった。
 あれが聖さんの「虎相」か!
 翼に沿って無数の光の渦が生じて行く。
 そこから眩い光線が伸びて、妖魔たちを大量に消していく。
 俺も夢中で攻撃して行った。


 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 《地獄の悪魔》が俺に迫って来た。
 仮面を潰されたことで怒り狂っているのが分かる。
 《地獄の悪魔》にも感情があるのかと思った。
 まあ、挑発するつもりで攻撃したのだが。
 俺は上空に飛んで、ジェヴォーダンを積み上げたバリケードの上に立った。
 《地獄の悪魔》があの電撃攻撃を見舞ってくる。
 だがジェヴォーダンの分厚い装甲と肉を抜けることはない。
 考えた通りだった。

 「総員準備!」

 俺の号令で「ハイドラ」の100名全員がジェヴォーダンのバリケードの上に立つ。
 デュールゲリエたちも空中から、また「バハムード」装備の奴は俺たちと一緒に。
 《地獄の悪魔》を左右と前から取り囲む形になっている。

 「撃てぇ!!」

 一斉に「カサンドラ」のロングソードモードで《地獄の悪魔》を攻撃していく。
 たちまちバリケードの内側は数億度の高温に見舞われる。
 それでもレジストしていた《地獄の悪魔》だったが、徐々に形を崩して行った。
 だが、バリケードにしていたジェヴォーダンの死骸も超高温で爆ぜて行った。
 足場が崩れ、隊員が空中に浮遊しながら攻撃を続けている。
 「カサンドラ」の持続時間の5分を過ぎ、出力が萎んで行った。
 クールタイムが始まる。

 「第2射準備!」

 全員が「カサンドラ」を持ち換えた。
 一人3本ずつ持っている。
 激しい熱風の中、《地獄の悪魔》はまだ完全には消えていなかった。

 「馬込さん! 行きます!」

 突然インカムに声が入った。

 「竹流かぁ!」
 「はい!」

 竹流が直上から「マルミアドワーズ」を《地獄の悪魔》に撃ち込んだ。
 地上で激しい爆発が生じる。
 俺たちも爆風で吹っ飛び、僅かに残ったジェヴォーダンのバリケードの外側に吹っ飛ばされる。

 「馬込さん!」
 「てっめぇ! でかすぎだぁ!」
 「すいません!」

 竹流は大真面目に謝って来たが、俺たちは笑っていた。
 すぐに数馬と花咲里が負傷者を確認したが、誰もが軽傷で済んでいる。
 竹流も加減をちゃんとしていたのだ。
 俺たちがカッコ悪く吹っ飛ばされただけだった。
 《地獄の悪魔》は跡形もなかった。

 「大丈夫ですか!」

 竹流が俺の傍に降りて来た。

 「助かったぜ」
 「いいえ、馬込さんたちがもう決してましたから。2回目の攻撃で斃していたでしょう」
 
 竹流はそう言ったが、本当にどうなっていたのかは分からない。
 《地獄の悪魔》はまだ生きていた。
 ならば最後にとんでもない攻撃をしていた可能性もある。
 だから竹流は迷わずに止めを刺したのだ。
 まあ、俺たちも油断はしていなかったが、何にしても任務は果たした。

 「竹流、ハーを手伝ってくれ。苦戦しているようだ」
 「はい!」

 竹流が笑顔になり飛んで行った。
 俺たちはまだ追加の攻撃を警戒していた。
 ハーに背後を任されたのだ。
 絶対に守り切ってやる。
 
 俺の傍に空中から誰かが降りて来た。

 「ふん、見事じゃった」
 「斬さん!」

 驚いたことに、斬さんまでがここへ来ていた。

 「よもやお前たちが《地獄の悪魔》を斃してしまうとはな」
 「来てくれたんですか!」
 「まあな。お前たちの手に負えないだろうと思ったが。見事じゃった」
 「はい! あ、すぐにハーの所へ! とんでもない奴が来てます!」
 「分かっておる。まあ、わしが行くまではもつだろう」
 「はい!」

 「もつ」というのはハーの無事ではなく、敵のことだろう。
 斬さんが自分で仕留めたいということだ。
 斬さんはすぐに竹流の後を追った。
 斬さんには分かっているのだ。
 あの竹流でさえも苦戦する敵であることを。
 本来は俺もハーたちを助けに行きたい。 
 だが、俺たちの役目は背後の敵の対応だ。
 だからここに残って次の敵襲を待つ。

 ハー、みんな、無事でいてくれ。
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