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《オペレーション・チャイナドール》 XⅤ
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「一江、新型「マルドゥック」が来た! 40体だ!」
「そうか!」
有難いのだが、一体どれほど戦力になるのか。
私はアラスカの蓮花さんにすぐに問い合わせた。
ジェシカさんが出た。
「蓮花さんはお休みになっています」
「え?」
「また無理をなさったのです。新型「マルドゥック」の出撃と同時に倒れました」
「大丈夫なんですか!」
ジェシカさんは笑っていた。
「時々あることです。24時間もすれば目を覚まされます」
「そうですか。性能をお聞きしたかったんですが」
「はい、私も手伝いましたから大丈夫です。新型「マルドゥック」は攻撃速度に特化した機体です。そのため「ヴォイド機関」を80%増やし、クロック周波数も速めてこれまでの「エクスタームド・タイプ(殲滅型)」の13倍の攻撃力があるはずです」
「そんなに!」
「はい。蓮花さんが極限まで機体性能の調整を行ないました。長期間の運用は難しいかもしれませんが」
「分かりました! ありがとうございます!」
「いいえ、我々も出来るだけ御協力します」
「蓮花さんにも宜しく御伝え下さい」
「はい、必ず」
ありがたいことだ。
そして待っていた報告が来た!
部長が戻ったのだ。
だが、部長は大分衰弱しているらしい。
一旦戦線を離脱し、こちらへ連れられて来るようだ。
「大森、ここを頼む!」
「お前は?」
「部長の衰弱が激しいらしい。様子を見て来る」
「頼むぞ!」
「おう!」
私は司令本部から駆け出た。
すると目の前の廊下に怒貪虎さんが部長を抱えて来た。
すぐに司令本部のドアを開け、中に入れる。
部長は痩せ細り、意識を喪っていた。
「部長!」
「ケロケロ」
「え、怒貪虎さんが!」
部長は怒貪虎さんによって眠らされているそうだ。
「ケロケロ!」
「はい、すぐに! 大森! 至急ベッドを!」
「分かった!」
大森が出て行って、大きなソファを抱えて戻って来た。
背を斃してベッドにもなる、少し堅めのタイプだ。
緊急時なので、最速で手に入る物をちゃんと持って来た。
「ケロケロ!」
「はい!」
横たえた部長の「Ωコンバットスーツ」を脱がせ、怒貪虎さんが部長の身体に施術を始めた。
全身の経絡を押しているのが分かった。
怒貪虎さんの全身にも激しく汗が滲んで来る。
それが水蒸気となって立ち上って行く。
私と大森は戦況を注視しながら、それを時々見ていた。
30分も過ぎて、部長の意識が戻った。
「おい! どうなってる!」
「今はまだ現状維持です!」
「部長、大丈夫ですか!」
「「タイガー」と呼べ! 今は戦場だ!」
「すいません!」
作戦行動中は「タイガー」と呼ぶように言われている。
でも普段は以前のように「部長」と呼んでいるのだ。
常に「タイガー」と呼ぶのが正しいのだろうが、そう私たちが呼ぶと、どこか寂しそうな顔をする。
「タイガー」と呼んで何か言われたことは無いのだが、私も大森も何か部長の大切なものを支えているような気がして、普段は「部長」とお呼びしているのだ。
「タイガー」の意識は大丈夫そうだ。
「「え!」」
驚いて怒貪虎さんを見た。
いや、誰だ!
「タイガー」も驚いていた。
「なんで小島将軍が!」
「黙れ、まだ横になっていろ」
「!」
また「タイガー」はソファに寝かされ、再び施術された。
「小島将軍だったんですね」
「分からなかったのか。お前もまだまだ疎いな」
「すみません」
「タイガー」は大人しく背中を押されていた。
「お前、また死ぬところだったぞ」
「大丈夫ですよ。自分の身体のことはよく分かってます」
「そうじゃないからわしがこんなことをしているのだろう!」
「アハハハハハ」
やっぱり危険な状態だったのだ。
それはそうだ。
短い間にこれだけ痩せ細るなんて、異常過ぎる。
脂肪が全て燃焼し、更に筋肉のタンパク質まで燃料として使われた。
酷使し過ぎだ。
そこまで肉体を追い詰めれば、代謝系が大きな支障を来す。
タンパク質だけで言っても、筋肉だけ選ばれるわけではない。
内臓も筋肉であるし、他にも体内ではタンパク質の系統が幾つもあるのだ。
「そういえば、10年くらい前の寮歌祭で、小島将軍が磯良の「無影斬」を使ってましたっけね」
「あれで正体が分からないとは思わなかったぞ」
「想像出来ませんよ! だってカエルじゃないですかぁ!」
「タイガー」が思い切り尻を叩かれた。
悲鳴を上げる。
「その言葉を口にするな!」
「だって!」
もう一度尻を叩かれた。
「おい、誰かに野菜カレーを作ってこさせろ。大量にだ」
「は、はい!」
怒貪虎さんに思わぬことを言われ、慌てて指示した。
「あと1時間は動くな」
「分かりました」
「蓮花が新たな機体を寄越した。もう少しはもつだろう」
「そうですか」
「タイガー」は大人しく従った。
怒貪虎さんはその間も施術をしている。
「あの身体では上手く経絡を押せないからな」
「なるほど、そりゃそうですよね、だってカエ、いてぇ!」
「バチン」と大きな音が響いた。
大森と背中で聴きながら笑ってしまった。
あの世界最強の軍団の最高司令官が、いいようにやられている。
「高虎、あと2時間は戦線を維持出来る」
「そうですか」
それは、今の戦闘の限界が来るということだ。
私と大森は緊張した。
「お前がなんとかしろ」
「分かりました」
20分後、「野菜カレー」が届いた。
大森がテーブルを持って来た。
カレーが寸胴に一杯ある。
大森が皿に盛って「タイガー」の前に置いた。
「タイガー」は起き上がり、無言で食べて行った。
「小島将軍もどうぞ」
「わしが注文したのだ!」
「アハハハハハ!」
慌てて大森が皿を持って来て怒貪虎さんの前に置く。
二人で食べ始めた。
「美味いですね」
「お前のレシピだろう」
「あ、カールを持って来ましょうか?」
「いらん!」
お二人に戦況を報告していく。
新型「マルドゥック」は高性能で、常に毎秒10億の妖魔を駆逐して行っている。
蓮花さんが必死で組み上げたものだ。
20分で寸胴が空になり、また怒貪虎さんが「タイガー」の施術をした。
「タイガー」の顔色は戻ったが、やせ衰えた身体はそのままだった。
しかし肌に多少の艶が戻っていた。
まだやつれた印象は拭えないが、最初とは全然違う。
また20分が経過し、怒貪虎さんが言った。
「よし、行って来い」
「はい! ありがとうございました!」
「タイガー」が出て行き、怒貪虎さんがソファに横になった。
大森が近付くと、手を振って「なんでもない」と言った。
どういう施術だったのかは分からないが、自身の生命力を分け与えるかのようなものだと感じた。
大森がソファ位置を変え、寝たままでスクリーンが見えるようにした。
「タイガー」が戦線に復帰した。
「そうか!」
有難いのだが、一体どれほど戦力になるのか。
私はアラスカの蓮花さんにすぐに問い合わせた。
ジェシカさんが出た。
「蓮花さんはお休みになっています」
「え?」
「また無理をなさったのです。新型「マルドゥック」の出撃と同時に倒れました」
「大丈夫なんですか!」
ジェシカさんは笑っていた。
「時々あることです。24時間もすれば目を覚まされます」
「そうですか。性能をお聞きしたかったんですが」
「はい、私も手伝いましたから大丈夫です。新型「マルドゥック」は攻撃速度に特化した機体です。そのため「ヴォイド機関」を80%増やし、クロック周波数も速めてこれまでの「エクスタームド・タイプ(殲滅型)」の13倍の攻撃力があるはずです」
「そんなに!」
「はい。蓮花さんが極限まで機体性能の調整を行ないました。長期間の運用は難しいかもしれませんが」
「分かりました! ありがとうございます!」
「いいえ、我々も出来るだけ御協力します」
「蓮花さんにも宜しく御伝え下さい」
「はい、必ず」
ありがたいことだ。
そして待っていた報告が来た!
部長が戻ったのだ。
だが、部長は大分衰弱しているらしい。
一旦戦線を離脱し、こちらへ連れられて来るようだ。
「大森、ここを頼む!」
「お前は?」
「部長の衰弱が激しいらしい。様子を見て来る」
「頼むぞ!」
「おう!」
私は司令本部から駆け出た。
すると目の前の廊下に怒貪虎さんが部長を抱えて来た。
すぐに司令本部のドアを開け、中に入れる。
部長は痩せ細り、意識を喪っていた。
「部長!」
「ケロケロ」
「え、怒貪虎さんが!」
部長は怒貪虎さんによって眠らされているそうだ。
「ケロケロ!」
「はい、すぐに! 大森! 至急ベッドを!」
「分かった!」
大森が出て行って、大きなソファを抱えて戻って来た。
背を斃してベッドにもなる、少し堅めのタイプだ。
緊急時なので、最速で手に入る物をちゃんと持って来た。
「ケロケロ!」
「はい!」
横たえた部長の「Ωコンバットスーツ」を脱がせ、怒貪虎さんが部長の身体に施術を始めた。
全身の経絡を押しているのが分かった。
怒貪虎さんの全身にも激しく汗が滲んで来る。
それが水蒸気となって立ち上って行く。
私と大森は戦況を注視しながら、それを時々見ていた。
30分も過ぎて、部長の意識が戻った。
「おい! どうなってる!」
「今はまだ現状維持です!」
「部長、大丈夫ですか!」
「「タイガー」と呼べ! 今は戦場だ!」
「すいません!」
作戦行動中は「タイガー」と呼ぶように言われている。
でも普段は以前のように「部長」と呼んでいるのだ。
常に「タイガー」と呼ぶのが正しいのだろうが、そう私たちが呼ぶと、どこか寂しそうな顔をする。
「タイガー」と呼んで何か言われたことは無いのだが、私も大森も何か部長の大切なものを支えているような気がして、普段は「部長」とお呼びしているのだ。
「タイガー」の意識は大丈夫そうだ。
「「え!」」
驚いて怒貪虎さんを見た。
いや、誰だ!
「タイガー」も驚いていた。
「なんで小島将軍が!」
「黙れ、まだ横になっていろ」
「!」
また「タイガー」はソファに寝かされ、再び施術された。
「小島将軍だったんですね」
「分からなかったのか。お前もまだまだ疎いな」
「すみません」
「タイガー」は大人しく背中を押されていた。
「お前、また死ぬところだったぞ」
「大丈夫ですよ。自分の身体のことはよく分かってます」
「そうじゃないからわしがこんなことをしているのだろう!」
「アハハハハハ」
やっぱり危険な状態だったのだ。
それはそうだ。
短い間にこれだけ痩せ細るなんて、異常過ぎる。
脂肪が全て燃焼し、更に筋肉のタンパク質まで燃料として使われた。
酷使し過ぎだ。
そこまで肉体を追い詰めれば、代謝系が大きな支障を来す。
タンパク質だけで言っても、筋肉だけ選ばれるわけではない。
内臓も筋肉であるし、他にも体内ではタンパク質の系統が幾つもあるのだ。
「そういえば、10年くらい前の寮歌祭で、小島将軍が磯良の「無影斬」を使ってましたっけね」
「あれで正体が分からないとは思わなかったぞ」
「想像出来ませんよ! だってカエルじゃないですかぁ!」
「タイガー」が思い切り尻を叩かれた。
悲鳴を上げる。
「その言葉を口にするな!」
「だって!」
もう一度尻を叩かれた。
「おい、誰かに野菜カレーを作ってこさせろ。大量にだ」
「は、はい!」
怒貪虎さんに思わぬことを言われ、慌てて指示した。
「あと1時間は動くな」
「分かりました」
「蓮花が新たな機体を寄越した。もう少しはもつだろう」
「そうですか」
「タイガー」は大人しく従った。
怒貪虎さんはその間も施術をしている。
「あの身体では上手く経絡を押せないからな」
「なるほど、そりゃそうですよね、だってカエ、いてぇ!」
「バチン」と大きな音が響いた。
大森と背中で聴きながら笑ってしまった。
あの世界最強の軍団の最高司令官が、いいようにやられている。
「高虎、あと2時間は戦線を維持出来る」
「そうですか」
それは、今の戦闘の限界が来るということだ。
私と大森は緊張した。
「お前がなんとかしろ」
「分かりました」
20分後、「野菜カレー」が届いた。
大森がテーブルを持って来た。
カレーが寸胴に一杯ある。
大森が皿に盛って「タイガー」の前に置いた。
「タイガー」は起き上がり、無言で食べて行った。
「小島将軍もどうぞ」
「わしが注文したのだ!」
「アハハハハハ!」
慌てて大森が皿を持って来て怒貪虎さんの前に置く。
二人で食べ始めた。
「美味いですね」
「お前のレシピだろう」
「あ、カールを持って来ましょうか?」
「いらん!」
お二人に戦況を報告していく。
新型「マルドゥック」は高性能で、常に毎秒10億の妖魔を駆逐して行っている。
蓮花さんが必死で組み上げたものだ。
20分で寸胴が空になり、また怒貪虎さんが「タイガー」の施術をした。
「タイガー」の顔色は戻ったが、やせ衰えた身体はそのままだった。
しかし肌に多少の艶が戻っていた。
まだやつれた印象は拭えないが、最初とは全然違う。
また20分が経過し、怒貪虎さんが言った。
「よし、行って来い」
「はい! ありがとうございました!」
「タイガー」が出て行き、怒貪虎さんがソファに横になった。
大森が近付くと、手を振って「なんでもない」と言った。
どういう施術だったのかは分からないが、自身の生命力を分け与えるかのようなものだと感じた。
大森がソファ位置を変え、寝たままでスクリーンが見えるようにした。
「タイガー」が戦線に復帰した。
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