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『おはようございます! 御堂大統領!!』
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「みなさん、おはようございます! 『おはようございます! 御堂大統領!!』のお時間でーす!」
明るい声でヤマトテレビの女性アナウンサーの笑顔がアップで出ていた。
いつもの番組の始まりだ。
石神さんがこの番組のために作曲した『御堂の朝』が流れる。
明るく美しい曲だ。
カメラがパーンしてソファに座る御堂大統領が映る。
女性アナウンサーと司会の男性アナウンサーがソファに歩いて行く。
御堂大統領はにこやかに迎えていた。
「御堂大統領、おはようございます」
「はい、おはようございます」
「今日も宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
私は朝食を終え、飼い猫のモンドと一緒に番組を見ていた。
毎週日曜日の朝8時からの30分番組だ。
司会者が毎回御堂大統領に質問し、御堂大統領がそれに答えるという内容だ。
そのお答えがいつも素晴らしい。
それに、番組の公式ホームページでは、質問は事前に知らせないということだった。
取り繕った答えではなく、御堂大統領の本当のお考えを知るためなのだと言っている。
ネットではそれを疑問視する声もあるが、私は本当だと思っている。
番組を観ていると、それを感じるからだ。
御堂大統領のお考えは一貫しているのだ。
人気のために考えられた内容ではなく、本当に日本のためを思い、そのためのしっかりとした理念を持っておられる。
だからどんな質問にも即答し、またその内容が非常に深いのだ。
毎週欠かさずに観ている。
この時間が楽しみなのだ。
石神さんたちがアラスカへ移って早7年。
早乙女さんたちは御近所で今も仲良くしていただいているが、石神さんたちがいないのはやっぱり寂しい。
石神さんのお宅へ伺う時はいつも楽しかった。
それにロボちゃんと散歩で会うことが一番の楽しみだった。
ロボちゃんもアラスカだ。
元気だろうか。
「モンド、御堂大統領だよ。いつも素敵だねぇ」
「にゃー」
モンドも御堂大統領のことは大好きみたいだ。
番組が始まると夢中になって観ている。
今日の御堂大統領は白い麻のスーツを着ていらっしゃる。
ネクタイは濃紺で少し刺繍が入っているもので、ポケットチーフも同じ濃紺だった。
品の良い御堂大統領によく似合っている。
ああ、石神さんも物凄くオシャレだったことを思い出す。
「今日は御堂大統領に「政教分離」についてお話を伺いたいと思います」
「それは随分と大きなテーマですね」
「はい。日本は欧米諸国と違って宗教観が薄いと言われることがあります。まずそのことについて御堂大統領はどうお考えですか?」
「そうですね、僕は日本は別に宗教観が薄いとは思っていません。前に親友の石神と話したことがあるんですが、石神は先祖崇拝が日本の宗教なのだと言っていました。僕もそう思います」
「先祖崇拝ですか」
「はい。日本は古来より仏教も神道もあります。それらも立派な宗教ですが、本当の宗教は先祖崇拝なのだと」
「ほう、興味深いですね!」
モンドがまたジッと画面を観ている。
今日はちょっと難しそうなお話だ。
どんな質問にも御堂大統領は淀みなく、しかも深いお話をして下さるのでこの番組が好きなのだ。
視聴率も結構高く、朝の番組にも関わらず毎回50%を超えているそうだ。
ネットによるテレビ離れのこの時代には驚異的だ。
「今もお墓参りをする人も多いと思います。自分が先祖代々の末端に位置する者として、先祖を敬い安らかに眠ることを祈る。自分たちを見守って欲しいと願う。そういうことが日本の宗教の根幹です。これは言い過ぎかもしれませんが、仏教も神道もそのためにあるのではないかと考えています」
「深いお話ですね」
「ちょっと言い過ぎだったかもしれませんが、僕は仏教も神道も、それが根幹にあるのではないかと考えています。仏教は古代インドで発祥し、中国を経由して日本に入りました。それらをよく見てみると、日本の仏教とはちょっと違います。日本人は仏教を先祖崇拝のために使っていると、僕は考えるのです」
「神道はどうですか?」
「神道は神を奉る宗教ですが、その神は日本人と地続きです。『古事記』などを読めば、原初の神々はともかく、非常に人間的な神々の物語が綴られているのが分るでしょう」
本当に今回は難しいお話だ。
それでも、御堂大統領が分かりやすく話して下さっている。
「なるほど。それではそろそろ今回のテーマの「政教分離」について伺います。御堂大統領は、そもそも政教分離はどのような理由で出来たと思われますか? 多くの国では今は普通のことと考えられていますが」
「そうですね、それは両者の扱う領域の違いと思います」
「領域ですか」
「ええ、宗教は信ずる者のために存在します。宗派によっては違うこともあるでしょうが、多くの場合は信じなければその人間は宗教によって守られません」
「なるほど、その通りですね!」
「でも政治は違う。国民である限り、どのような信仰、考えを持っていても等しく扱わなければなりません」
「信仰と信条の自由ですね」
「その通りです。国民としての義務を果たすのであれば、国家はどのような者も守ります。だから宗教と政治は切り離さなければならないのです」
「よく分かりました!なるほど、その通りですね!」
私にもよく分かった。
流石に御堂大統領は違う。
今日も勉強になった。
「だから政治家は国民のために存在しなければなりません。自分の利益のために政治家になる者は最悪です。そういう人間は自分の会社を起こせばいい。正々堂々と利益を追求すれば良いのです」
「その通りですね! 御堂大統領は大統領の報酬を全額返還されているとか」
御堂大統領が笑っていた。
「それは僕にお金は必要無いためです。政治家として報酬を受けるのはむしろ当然と思います。僕は石神のせいで一生使い切れないお金を持ってしまったので」
司会者の二人が笑っていた。
でもみんなが知っていることだ。
御堂大統領は物凄い資産家であり、それを理由に大統領の報酬は受け取っていないのだ。
そればかりか御自分の資産を使って、慈善事業や災害復興を支援なさっている。
「業」の戦争で被害に遭われた方々には、すぐに「御堂財団」からの支援金が渡され、多くの人々が感謝していると言う報道がいつもある。
それに「千万グループ」や「山王会グループ」「稲城会グループ」などからも同じく援助金や災害復興の人員が派遣されている。
もちろん御堂大統領の政策により、国からの支援の体制もある。
「御堂グループ、スゴイですよね!」
「そんな! みなさんが一生懸命なお陰です」
「御堂グループのお陰で日本の株価は毎年上がっています。他の企業の業績も御堂大統領の政策のお陰で同様に順調です」
「だから僕のせいではありませんよ。僕は日本を経済大国にしたいわけではありません。美しい国にしたいだけです」
「なるほど、その通りですね! ああ、御堂大統領は最初からそう仰っていました!」
私も笑ってしまったが、何も無償で働くことはないのにと思う。
御堂大統領程一生面命に働いている人はいないのだ。
それに報酬の返納も週刊誌が取り上げたことであり、御堂大統領は御自分では何も語っておられない。
そういうお方なのだ。
明るい雰囲気の中で、司会者が続けた。
そして、今回も御堂大統領が素晴らしいお話をされた。
明るい声でヤマトテレビの女性アナウンサーの笑顔がアップで出ていた。
いつもの番組の始まりだ。
石神さんがこの番組のために作曲した『御堂の朝』が流れる。
明るく美しい曲だ。
カメラがパーンしてソファに座る御堂大統領が映る。
女性アナウンサーと司会の男性アナウンサーがソファに歩いて行く。
御堂大統領はにこやかに迎えていた。
「御堂大統領、おはようございます」
「はい、おはようございます」
「今日も宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
私は朝食を終え、飼い猫のモンドと一緒に番組を見ていた。
毎週日曜日の朝8時からの30分番組だ。
司会者が毎回御堂大統領に質問し、御堂大統領がそれに答えるという内容だ。
そのお答えがいつも素晴らしい。
それに、番組の公式ホームページでは、質問は事前に知らせないということだった。
取り繕った答えではなく、御堂大統領の本当のお考えを知るためなのだと言っている。
ネットではそれを疑問視する声もあるが、私は本当だと思っている。
番組を観ていると、それを感じるからだ。
御堂大統領のお考えは一貫しているのだ。
人気のために考えられた内容ではなく、本当に日本のためを思い、そのためのしっかりとした理念を持っておられる。
だからどんな質問にも即答し、またその内容が非常に深いのだ。
毎週欠かさずに観ている。
この時間が楽しみなのだ。
石神さんたちがアラスカへ移って早7年。
早乙女さんたちは御近所で今も仲良くしていただいているが、石神さんたちがいないのはやっぱり寂しい。
石神さんのお宅へ伺う時はいつも楽しかった。
それにロボちゃんと散歩で会うことが一番の楽しみだった。
ロボちゃんもアラスカだ。
元気だろうか。
「モンド、御堂大統領だよ。いつも素敵だねぇ」
「にゃー」
モンドも御堂大統領のことは大好きみたいだ。
番組が始まると夢中になって観ている。
今日の御堂大統領は白い麻のスーツを着ていらっしゃる。
ネクタイは濃紺で少し刺繍が入っているもので、ポケットチーフも同じ濃紺だった。
品の良い御堂大統領によく似合っている。
ああ、石神さんも物凄くオシャレだったことを思い出す。
「今日は御堂大統領に「政教分離」についてお話を伺いたいと思います」
「それは随分と大きなテーマですね」
「はい。日本は欧米諸国と違って宗教観が薄いと言われることがあります。まずそのことについて御堂大統領はどうお考えですか?」
「そうですね、僕は日本は別に宗教観が薄いとは思っていません。前に親友の石神と話したことがあるんですが、石神は先祖崇拝が日本の宗教なのだと言っていました。僕もそう思います」
「先祖崇拝ですか」
「はい。日本は古来より仏教も神道もあります。それらも立派な宗教ですが、本当の宗教は先祖崇拝なのだと」
「ほう、興味深いですね!」
モンドがまたジッと画面を観ている。
今日はちょっと難しそうなお話だ。
どんな質問にも御堂大統領は淀みなく、しかも深いお話をして下さるのでこの番組が好きなのだ。
視聴率も結構高く、朝の番組にも関わらず毎回50%を超えているそうだ。
ネットによるテレビ離れのこの時代には驚異的だ。
「今もお墓参りをする人も多いと思います。自分が先祖代々の末端に位置する者として、先祖を敬い安らかに眠ることを祈る。自分たちを見守って欲しいと願う。そういうことが日本の宗教の根幹です。これは言い過ぎかもしれませんが、仏教も神道もそのためにあるのではないかと考えています」
「深いお話ですね」
「ちょっと言い過ぎだったかもしれませんが、僕は仏教も神道も、それが根幹にあるのではないかと考えています。仏教は古代インドで発祥し、中国を経由して日本に入りました。それらをよく見てみると、日本の仏教とはちょっと違います。日本人は仏教を先祖崇拝のために使っていると、僕は考えるのです」
「神道はどうですか?」
「神道は神を奉る宗教ですが、その神は日本人と地続きです。『古事記』などを読めば、原初の神々はともかく、非常に人間的な神々の物語が綴られているのが分るでしょう」
本当に今回は難しいお話だ。
それでも、御堂大統領が分かりやすく話して下さっている。
「なるほど。それではそろそろ今回のテーマの「政教分離」について伺います。御堂大統領は、そもそも政教分離はどのような理由で出来たと思われますか? 多くの国では今は普通のことと考えられていますが」
「そうですね、それは両者の扱う領域の違いと思います」
「領域ですか」
「ええ、宗教は信ずる者のために存在します。宗派によっては違うこともあるでしょうが、多くの場合は信じなければその人間は宗教によって守られません」
「なるほど、その通りですね!」
「でも政治は違う。国民である限り、どのような信仰、考えを持っていても等しく扱わなければなりません」
「信仰と信条の自由ですね」
「その通りです。国民としての義務を果たすのであれば、国家はどのような者も守ります。だから宗教と政治は切り離さなければならないのです」
「よく分かりました!なるほど、その通りですね!」
私にもよく分かった。
流石に御堂大統領は違う。
今日も勉強になった。
「だから政治家は国民のために存在しなければなりません。自分の利益のために政治家になる者は最悪です。そういう人間は自分の会社を起こせばいい。正々堂々と利益を追求すれば良いのです」
「その通りですね! 御堂大統領は大統領の報酬を全額返還されているとか」
御堂大統領が笑っていた。
「それは僕にお金は必要無いためです。政治家として報酬を受けるのはむしろ当然と思います。僕は石神のせいで一生使い切れないお金を持ってしまったので」
司会者の二人が笑っていた。
でもみんなが知っていることだ。
御堂大統領は物凄い資産家であり、それを理由に大統領の報酬は受け取っていないのだ。
そればかりか御自分の資産を使って、慈善事業や災害復興を支援なさっている。
「業」の戦争で被害に遭われた方々には、すぐに「御堂財団」からの支援金が渡され、多くの人々が感謝していると言う報道がいつもある。
それに「千万グループ」や「山王会グループ」「稲城会グループ」などからも同じく援助金や災害復興の人員が派遣されている。
もちろん御堂大統領の政策により、国からの支援の体制もある。
「御堂グループ、スゴイですよね!」
「そんな! みなさんが一生懸命なお陰です」
「御堂グループのお陰で日本の株価は毎年上がっています。他の企業の業績も御堂大統領の政策のお陰で同様に順調です」
「だから僕のせいではありませんよ。僕は日本を経済大国にしたいわけではありません。美しい国にしたいだけです」
「なるほど、その通りですね! ああ、御堂大統領は最初からそう仰っていました!」
私も笑ってしまったが、何も無償で働くことはないのにと思う。
御堂大統領程一生面命に働いている人はいないのだ。
それに報酬の返納も週刊誌が取り上げたことであり、御堂大統領は御自分では何も語っておられない。
そういうお方なのだ。
明るい雰囲気の中で、司会者が続けた。
そして、今回も御堂大統領が素晴らしいお話をされた。
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