美咲ちゃんはちっちゃくてカワイくて、そしてとっても早い

青夜

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足が速いね

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 製薬会社で研究職で勤める俺・兜坂孝道(とうさか たかみち)は、現在30歳丁度。
 自分で言うのもアレだが、結構優秀だという評価を頂いている。
 東京大学の医学部を卒業し、病院勤務ではなく、大手外資系製薬会社アストラールに入社した。
 医者としてやっていくことは、最初から考えていなかった。
 研究職に就きたかったのだ。
 俺は最初から運よく、ある分子の構造体に着目したことで若くして成功を収めることが出来た。

 製薬は、その製薬会社が持つ膨大な化合物の構造データを元に、目的となるタンパク質などの分子の鍵穴を探していくことなどが主流になっている。
 つまり、各々の製薬会社の持っているデータ規模が大きな競争力になっていると言える。
 俺が入社したアストラール社は、外資系の大規模な企業であり、データ量の競争力も世界有数と言える。
 しかし、俺は偶然からまったく未知の分子構造を発見し、それが非常なる有用性を認められたのだ。
 その構造体が既存の一部の製薬の薬効を飛躍的に高め、尚且つ副作用を抑えるものだと判明した。
 学会にも発表され、「トウサカ・ストラクチャー」と名付けられた
 画期的な発見として、世界中で評価された。
 他の研究者によって更に幾つもの有用性が期待され、引き続き研究開発がなされている。
 俺の見つけた分子構造はアストラール社に莫大な利益を生み、今後もしばらくは続くだろうと思われる。
 アストラール社は外資系の会社だが、外資系の良い所は成果主義であることだ。
 年齢も経歴もまったく関係ない。
 俺の成果は正当に認められ、会社に結構な貢献を果たすことになった。
 だから若干30歳にして、一つの研究部署を任されるようになり、報酬も莫大なものとなった。
 以前から話には聞いていたが、外資系は本当に報酬が桁違いだ。
 そのためある程度の資産を得て、若くして引退する人間も多い。
 まあ、それだけ物凄く働くのだが。

 俺には夢があった。
 それはナノマシンによるガンの克服だ。
 ナノマシンは世界的にまだまだ基礎研究の段階ではあったが、会社に俺の研究を認めさせることが出来た。
 そして俺が見つけた分子構造体の開発部署と別に、ナノマシンの研究開発室の責任者となった。
 多大な利益をもたらした俺のために、会社は研究開発の設備も整えてくれ、研究者も5人部下に付けてくれた。
 部下たちはみな俺よりも若かったが、新しい分野なのでその方が都合が良い。
 秘書も別途一人付けてくれ、俺のスケジュールの他、研究開発の差配までやってくれる有能な人間だ。

 人体には免疫機構があり、免疫細胞が様々に展開して病気を克服している。
 現実に、免疫機構以上の医薬は存在しないと言ってもいい。
 薬によって様々な病気を治癒すると考える人も多いが、本当は違う。
 人体に備わった物凄い免疫機構がやっているのだ。
 薬はその手助けと言ってもいい。
 まあ、極論すればだが。

 ナノマシンに俺が注目したのは、人体の免疫機構をそのまま真似ることが出来る可能性があるからだ。
 もちろんまだまだ研究途上で、実際に有用なナノマシンはこの世に存在しない。
 研究者はいるが、今の段階ではせいぜいが研究者の考えた単純なデザイン通りの形を作ることしか出来ない。
 人体に有用なデザインはまだ分かっていないし、またそのデザイン制作も自由自在とは言えない。
 要するに、研究途上の端緒という段階だ。
 だからこそ遣り甲斐があると俺は考えていた。
 東大の生物学の成田宋憲(なりた そうけん)教授と手を取り合って、その研究を進めている。
 成田教授はナノマシン開発の世界的な権威だ。
 学生時代から関わって来た。




 秘書の蓮見さんが美咲が来ていることを内線で伝えて来た。
 ここはアストラールの中でも最先端研究の部署なので、セキュリティが異常に高い。
 決められた研究者でなければ立ち入れない構造になっている。
 アストラールは全ての人間がセキュリティカードを持っており、カード認証によって出入り出来る区画が決まっている。
 それに加えて、一部の開発部署には生体認証のゲートがあるのだ。
 更に俺の研究部署にはテンキーによる承認コードまである。
 カードが奪われても、これは怖いが生体の一部を持ち込んでも大丈夫なようにだ。
 俺は出掛ける準備をしていた自室にいたため、秘書の蓮見さんが美咲をゲストとして案内出来る。
 俺は慌てて美咲を部屋へ通すように言った。
 荒々しく俺の部屋のドアを開けて、美咲が叫ぶ。
 今日は生成りの麻のパンツに淡いピンクのブラウス、それにベージュの軽いジャケットを羽織っていた。
 可愛らしい。
 が、美咲が叫んだ。

 「兜坂! もう、待ってたのに!」
 「悪かった! ああ、もう時間かぁ!」
 「バカ!」

 俺の部屋に入って来たのは、同じ研究棟の佐伯美咲(さえき みさき)だ。
 美咲は俺とは別な製薬開発の部署にいる。
 美咲は俺と生まれた頃からの近所の幼馴染で、小中高、そして大学、おまけに就職先まで一緒という信じられない長い付き合いだ。
 身長が145センチほどの小柄な体形。
 俺は身長177センチで、一緒に歩くと親子のようだ。
 美咲は多少童顔だが綺麗な顔立ちで、明るい性格で、同時に無邪気で身体の小ささと相俟ってまるで子供のように元気一杯に見える時がある。
 しかも時々感情を抑えきれなくなり、子供の頃から周囲を混乱させ俺を振り回して来た。
 基本的に優しい奴なのだが。

 今日は昼食を一緒に摂るつもりで約束していた。
 会社の近所の「フーシェ」というフレンチレストランだ。
 評判の良い店で少々値段は高めだが、それに見合った味の店だった。
 格式も高く、サービスは良いのだが客にも厳しい面がある。

 「早くぅ! キャンセルにされちゃうよ!」
 「悪い、すぐに行く!」
 「あの店でノーショウなんてやったら、今後出禁で食べられなくなるよー!」
 「わ、分かってる!」

 美咲は既にパニック状態のようで俺を必死に急かしている。
 俺は白衣を脱いで上着を持って部屋を出た。
 一緒に小走りで外に出て、たちまち距離を離される。
 何度も後ろを振り返る美咲に叱られる。

 「兜坂! 遅い!」
 「お前が速いんだよ!」

 美咲は小さな身体のくせに、走るのが速い。
 研究に没頭し俺は5年以上も運動はしていないので、美咲の足に追いつけない。
 マジで速い。




 俺はあまりにも早い美咲を必死で追い掛けた。
 自分がいくらダメでも、何とか美咲を追い掛けることしか出来ない。
 それ以外に考えることはない。
 美咲はあまりにも早かった。
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