【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過

文字の大きさ
29 / 43
聖女爆誕編

治療は消毒に始まり、消毒に終わる。②

しおりを挟む





(⋯⋯遂に、この時が来たのね)

 エタノールで手指を念入りに消毒した小夜はマスク越しにごくりと唾を呑み、簡易机の上に置かれた薬剤と器具へと手を伸ばす。

 ストレプトマイシン硫酸塩は粉末状である為、1Vバイアルに対して3mLの日局生理食塩液で溶解する。注意点としては決して作り置きなどはせず、溶解後は速やかに使用する必要が有ることだ。
 出来上がった白色の薬液を空気を入れたシリンジで吸い上げた後は針を変え、空気を残さないように先端まで薬剤をつめる。(これをAir抜きと言う)
 そうすれば、後は患者に注入するのみだ。

(私の見立て通りだと、この村で流行しているのはペストの中では比較的軽症であるせんペスト。でも、だからと言って油断は禁物よ。ペストは速やかに治療を行う事で格段に生存率が上がる病。そして有効なのはこのストレプトマイシン)

 小夜が手にしているストレプトマイシン硫酸塩——成人には1日1g、週2~3日又ははじめの1~3カ月は毎日、その後週2日投与を行い、60歳以上の高齢者には1回0.5~0.75g、小児には適宜減量投与する。
 また、急性腎不全やアナフィラキシー等の重大な副作用が有る為、患者の容態を見ながら慎重に投与を行う必要がある。


「始めるわよ、ルッツ」

 小夜はフェイスシールド越しに目配せする。

「お、おう⋯⋯」

 1人目はこの村では一番病が進行している若い女性だ。痩せた細い身体には横痃おうげん(リンパ節の腫れ)が現れ、苦しそうに息を洩らしてベッドに横たわっている。

「⋯⋯」
「⋯⋯」

 何処からか息を呑む音が聴こえる。それがどちらの物か分からない程に2人の緊張は頂点に達していた。

「肩を出して」

 小夜の指示を受けたルッツは大きく頷き、穿刺せんしし易い様に女性の服を捲る。

 ルッツの仕事は大きく分けて2つ。小夜が処置だけに集中出来る様に簡単な補助をする事と無闇に患者の不安を煽らない為に注射から気を逸らす事だ。

 エタノール綿で拭き、練習通りに肩峰から指3本分の場所に狙いを定めピンと皮膚を伸ばす。

(人体は表皮、真皮、皮下組織、筋肉の順に構成されているわ。この薬液は皮下組織に入ると腫瘍しゅようが出来てしまう可能性が有る。思い切り良くいかないと⋯⋯)

 チラリとルッツの様子を窺うと、彼は女性から小夜の姿を遮る様に膝をつき必死に声を掛けていた。

(初めは強引にだったけど、ルッツは身元も知れない私を信じてくれているのよね。何としても彼の信頼に報いたい)

 ルッツの真剣な眼差しを見るとギュウッと胸が締め付けられる心地がした。
 それから小夜は感傷的な気持ちを振り落とす様に頭を振り、目の前の患者に集中する。

(親指と人差し指で掴んで中指を添えるように⋯⋯後は躊躇わずに刺す!!)

 小夜は垂直に、勢いよく針を刺した。すると、痛みにビクリと女性の身体が跳ねる。

「痺れはあるか?」

 小夜が針を刺した事を横目で確認したルッツが女性へと尋ねると、彼女はゆるゆると首を振った。

(ルッツったら⋯⋯上手い具合に気を逸らしてくれているわ。彼女に腕に針が刺さっているところなんて見られたら卒倒してしまいそうだものね。手早く済ませないと)

 痺れと逆血の有無を確認した後は、いよいよ薬液を注入する。

(聞いた話では意外と力がいるらしいけれど⋯⋯如何なのかしら?)

 プランジャーを押し込む。
 小夜はそれまで半信半疑だったが実際に経験してみて理解した。確かに抵抗を感じる。

(⋯⋯やっぱり机にかじり付くだけじゃ分からない事も有るのね)


 左手でシリンジを支えながら薬液を注入すると、女性が身体を捩った。それをルッツが如何にか宥める。

 永遠にも思える時間、ツウと額を汗がつたう感触で我に返った。針抜し、アルコール綿で押さえたら薬液を広げる為に綿越しに揉み解す。

「⋯⋯終わったわ」

 ふうっと深く深く息を吐き出す。如何やらいつの間にか呼吸を忘れていたようだ。

(未だ1人⋯⋯でもやり切ったわ! これで私も少しはあの人に近付けたかしら⋯⋯?)

 こんな事を後何十回も繰り返すのかと思うと些か気が滅入ったが、それ以上に達成感と高揚感で不思議と悪くない気分だ。
 小夜は再びエタノールで手指消毒を施し、ルッツを伴い次の患者の元へと向かうのだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。

具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。 ※表紙はAI画像です

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...