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王都誘致編
偽物聖女と冤罪王子の結託②
しおりを挟む「⋯⋯! 私の味方になってくれるって事?」
「だっ、だからそう言っているだろう。しかし、一つだけ条件がある」
首を傾げる小夜に、涙を拭ったミハエルは言い放つ。
「オレには或る野望がある」
「野望?」
いやに真剣な瞳をしたミハエルに、小夜はごくりと息を呑んだ。
「オレの野望⋯⋯それは此の国——エーデルシュタイン王国を転覆する事だ。お前にはそれに協力して貰う」
「は、はぁ!?」
(転覆ですって⋯⋯!? 噂は間違いではなかったの!?)
先程までの頼りない小動物の様な姿から一転して、肉食獣のように赤い瞳をギラリと煌めかせたミハエルは後退る小夜を壁際まで追い詰める。
「ちょっと、退いてよ!」
「黙って聴け」
ミハエルは逃れようとする小夜の退路を断つように、壁に手を突いて囲い込む。
「お前も目にしただろう? この国の現状を。荒れ果てた土地に貧困に喘ぐ者、満足な教育も治療も受けられなければ明日の生活も知れない。首都から離れる程それは顕著に現れる。この国では生まれが全てだ。民はどれだけ奮励努力しても報われず、僅か数%の人間の享楽の為に搾取されいずれは死んでいく」
ミハエルの瞳には静かだが激しい怒りが滲んでいた。
「対してこの国の貴族共は如何だ? そんな事は露知らず⋯⋯否、仮に知っていたとしても変わらないだろうな。自分自身は何も成し遂げて居ないというのに、運良く特権階級に生まれたというだけで我が物顔で奢侈贅沢を享受している」
「⋯⋯」
小夜は二の句が継げなかった。小夜が元居た世界でも感じていた憤りをミハエルが代弁してくれた為だ。
「しかし、今ではオレも同じ立場になってしまった。あれだけ憎んでいたというのに皮肉なものだな」
ミハエルは自嘲の笑みを洩らす。そんな彼を目の当たりにした小夜は、耐え切れずに心の内を明かした。
「⋯⋯無理矢理此処に連れて来られたんでしょ? 仕方ない事じゃない。でも、何故今も王宮に残ってるの? お兄さんが王位を継ぐのでしょう? 泣く程辛いなら逃げ出せば良かったじゃない」
「ルイスから聴いたのか」
「ええ。御免なさい」
「否、良いのだ。オレの野望は側から見れば無謀に等しい。しかし、叶えられない程遠いものでも無い。此処が⋯⋯王族でいる事が一番の近道なのだ」
「そんな覚悟で⋯⋯」
(きっと辛くて悲しくて堪らない時もあった筈なのに、それでも此の人は涙を流しながらも諦めなかったのね⋯⋯それが此の国の人の為になると信じて——)
「漠然とした計画は昔からあった。その為に知識を取り込み剣技を身につけ魔法の腕を磨いて来た。漸くだ⋯⋯お前に出会って漸く道が開けた。今が実行に移す時だ」
「具体的には何するつもりなの?」
口先だけならば如何とでも言える。小夜は最後にミハエルの覚悟を聴くために尋ねた。
「民は教会が掲げる事実無根の思想を信じ、その結果罪なき尊い命を散らしている。今、何よりも優先すべきなのはその者達を扶ける事だ」
「でも国中の人達が貴方が呪いを運んで来たって噂してるのよ? 扶けようとしている人達でさえも」
「そんな事は関係無い。お前も言っただろう? 他者の言葉は気に留めない。オレは為すべき事を為すだけだ」
ミハエルは微塵の迷いも無く言い切った。その瞳には確固たる強い意志を宿しており、小夜の胸は大きく高鳴る。
(此れがきっと⋯⋯本来上に立つ人の在るべき姿なんだわ)
「オレは救いたいのだ。昔日の自分の様に苦しみ嘆く者達を。生まれだけでその先の未来を決められ、数ある可能性を潰される者達を——。そして、何れは此の国をひっくり返す」
「その話、乗ったわ!!」
そんな言葉が考えるよりも先に口をついて出ていた。それだけ小夜の心はミハエルの言葉に激しく打ち震わされたのだ。
「弱きを助け強きを挫く⋯⋯面白そうじゃない。聖女というよりはヒーローみたいだけれど」
「⋯⋯お前ならそう言うのではないかと思っていた、デュースターの聖女よ」
フッとミハエルが柔らかい笑みを見せる。
「取引成立ね。忘れないでよ?」
「ああ、当然だ。お前こそ忘れるなよ?」
「当たり前じゃない! それはそうとさっきからお前や聖女って⋯⋯私には黒宮小夜っていう名前があるのよ!?」
「そうは言われてもオレは名乗ったと言うのにお前は名乗らなかったではないか」
「名乗ったじゃないの!」
「それはルイスに対してだろう? オレは聴いてない」
先程までの真剣な表情から途端に子どもの様な表情になったミハエルはふいっとそっぽを向く。
「あんたは子どもかっ! ⋯⋯そうだ、時々あんたはデュースターの聖女って呼ぶけれど如何いう意味なの? まあ、スターって言うくらいだから悪い意味では無いのでしょうけど」
「何を言っているんだお前は。デュースターの意味は『陰鬱』や『暗くて寂しい』って意味だぞ。そんな事も知らないのか?」
「はあ!? 私とは正反対じゃないのっ! 今すぐその呼び方やめなさいよっ!」
それから小夜とミハエルは見かねたルイスに止められるまでいがみ合い、殴打の応酬を繰り広げた。
それから如何にか和解を果たし——
「今日から私たちは運命共同体よ」
小夜が手を差し伸べると、ミハエルはそれを取る。2人はしっかりと目を合わせ、決意を表すように固く握手を交わした。
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