図書と保健の秘密きち

梅のお酒

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21 2-B (葉加瀬)

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21時
俺は2-B組に足を運ぶ。
それにしても夜の学校というものは本当に暗い。今学校にいるのは俺だけだろうか?
ガタン
音のするほうを見ると風が窓を揺らしただけだった。こうも静かだと余計な音が聞こえてきて本当に不気味だ。
ホラーゲームとかはよくやるが、やはりキャラクターを操作するのと自分が実際にその場を歩くのは全然違う。
自分が鳴らす足音ですらほかの人の足音に聞こえるような錯覚を覚える。
保健室から二年の教室までは2つ分の階段を上らないいけないのだが、登って角を曲がるたびに何かいるのではと考えてしまう。
保健室の代表者一人で2-Bに来いというのはどういうことなのだろうか。
代表者といわれれば委員長の立花か養護教諭の俺かに絞られる。でもこんな夜の学校に生徒を残すわけにはいかないと考えいると、俺が呼び出されていると考えて間違いないだろう。もしそれがこの学校の人間ならだけど。
もし本当に幽霊だったりしたら、だれでもいいから呪おうとしているだけとか?
わからん。
俺が呼び出されているとするなら、なんでだ?
何か考えているほうが気が紛れて怖くない。
いつの間にか2-Bの教室に着いていた。中からは何の音も聞こえない。
恐る恐るドアをスライドさせる。すると教室に一人机にうつぶせになっている人がいた。
膝ががくがく震える。
一度扉を閉め冷静に考えてみる。あれは誰だ?こんな時間にあんなところで何をしているんだ?
幽霊というよりちゃんと人間に見えたけど、、、
もう一度扉を少しだけ開けて様子を見る。その人物が動く気配はない。
もうこれは声をかけるしかないか。
意を決して声をかける。
「あの、どちら様ですか」
「、、、」
反応はない。仕方がないのど教室に入り近づいてみる。
「あのー、、もしもーし」
「、、、」
これだけしても反応はない。もしかして死んでる?
昨日見たミステリードラマが思い浮かぶ。死んでいたら大問題だ。俺は恐怖を忘れてその人物をゆする。
「大丈夫ですか?生きてますか?返事してください」
「、、、はい」
その人物が顔を上げる。
「ん?」
「ん、ここは?」
お互いに疑問の表情を浮かべる。なんでここに三和さんがいるんだ?
「三和さん。こんなところで何してるんですか?」
「はかせこそ何してんのよ」
「俺は21時にここに来るように依頼を受けてきただけだ」
「あらそう。でもなんで私こんなところに」
「何も覚えてないのか?」」
「うん」
「そうですか。もう遅いので帰りましょ」
「はい。怖いのでて握ってもいいですか」
「しょうがないですね。外に出るまでですよ」
「はい」
俺は三和さんと一緒に出口に向かう。すべての部屋の明かりは消えていて、やはり学校に残っていたのは俺と三和さんだけのようだった。
「あの、何であんなところにいたんですか?」
「ほんとに何も覚えてないのよね。でも、はかせが来てくれてよかったわ。あんなところに一人でいたら怖くて死にそうだもん」
「そうですか。俺も怖かったんですよ」
「なんかすいません」
「それじゃ、この後何かおごってくださいよ」
「しょうがないですね」
誰もいないはずの後ろから足跡が聞こえてくる。三和さんも足音に気づいたようで同時に後ろを振り返る。
しかしそこにはもちろん誰もいない。お互い顔を引きつらせながら目を合わせる。
そして同時にうなずいて走り出すと、また後ろから走って追いかけてくる足音が聞こえてくるがもう振り返らない。
ようやく昇降口まで来たところで後ろからの足音がやむ。
「なんだったんでしょう」
「わかりません。急いで学校から出ましょう」
「はい」
すると次は声が聞こえてきた。
「一人にしないで、私と遊ぼ」
そのの発生源が全く分からない。全方向から一斉に聞こえるように錯覚するが錯覚ではないのかもしれない。人間が発したとは思えないほど薄く儚い声が校舎を響かせる。
風は全く拭いてないのに肌寒さを感じ体が固まる。
どさっ
三和さんが腰を抜かす。
「どうしました」
「ごめん。腰抜けちゃったみたい」
「、、、ほら、」
俺は仕方がないのでおんぶする態勢になる。
「良いんですか」
「今回はしょうがないです」
俺の背中に三和さんの全体重が乗っかる。
「おもっ」
思わず感じたことをそのまま口にしてしまう。
「うるさいバカ」
ぼそっと照れながら何か言っている。この距離でなければ絶対に聞こえないか細い声だった。
三和さんの体温を感じてか、少し体がほぐれて動きやすくなった気がする。
この状況で誰かが隣にいることは本当に安心する。
吊り橋効果的なものか思わず背中にいる三和さんのことを一瞬考えてやめる。今はこんなことを考えている場合はない。
とりあえず学校から逃げるように校門を出た。

校門から出てもしばらく走り続け、校舎が見えなくなったところで足を止める。
普段あまり運動しないからか、成人女性一人を負ぶって400メートルダッシュはかなり足腰に来た。明日はきっと筋肉痛だろう。
「あの、もう大丈夫そうですか?」
「まだだめ」
三和先生はまだ腰が抜けているのか、背中に張り付いたまま降りようとしない。
「わかりました。どっか店に入って休みましょう」
「それならお酒飲んでさっきのこと忘れたい。半、だ、」
最後に何かボソッと言っていたような気がするが、よく聞き取れなかった。
「それじゃすぐそこの居酒屋さんで飲みまくって忘れましょう」
「はい」

そのまま三和さんをおんぶしたまま近くの居酒屋に入り、終電の時間までさっきまでのことを忘れるまで二人で飲みまくった。

それからの記憶はあまりないがいつの間にか家に帰ってきていた。
久しぶりにこんなに飲んだな。
恐怖から安心の幅が広すぎて想像以上に疲れていたのか、ソファに倒れこんで起き上がる気力がわかない。
寝転がったまま今日のことを思い返す。結局、立花と草餅、そして俺と三和さんが聞いた声は何だったのか?あの足音は誰のものだったのか?保健室の前の相談箱に入っていた依頼書は書いたものなのか?何もわからないが明日また考えるとしよう。
シャワーも明日でいいか。
俺はそのまま眠った。
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