図書と保健の秘密きち

梅のお酒

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22 作戦 (倉田)

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「無事に作戦成功しましたね」
私は葉加瀬先生におんぶされた三和先生を見ながらつぶやく。
「いや、一つわからないことがある」
なぜかホラー好きの先輩の声が震えている。顔色もなぜか悪い。
「え?」
その様子を見てなぜかこっちまで怖くなってきた。
「最後の声だよ」
「あれって先輩が流した音声じゃないんですか?」
「あんな音声は知らない」
「、、、」
嫌な汗があふれ出てくる。私の体は完全に固まった。

「一人にしないで、私と遊ぼ」
私と中山先輩は今日、三和先生が葉加瀬先生と話すきっかけを作るために作戦を実行した。その時に聞こえた不気味な声。あれはいったい誰の声だったのか?
あの声だけはあの作戦に全く関係のないものだったとこの時気づいた。


三和先生に召集された日の放課後、ある作戦を立てた。それは夜の学校に三和先生と葉加瀬先生を残し恐怖させ、吊り橋効果で距離を近づけるというもの。
この作戦は私と先輩がホラーが得意という前提になってしまっているが、私は幽霊とか超が付くほどではないが人並みに苦手である。そこで夜の学校に潜入しているときは中山先輩にずっと近くにいてもらった。
ちなみに中山先輩は趣味でホラー映画を見漁ったり、心霊スポットに一人で行ったりするほどのホラー好きらしい。

まず私が保健室の相談箱に依頼書を入れ、葉加瀬先生だけが夜に2-Bの教室に来る状況を作る。依頼書の内容を確認した保健委員が架空の人物である山田花子の元に行くのを見越して、中山先輩が近くから音声を流し、幽霊の仕業であると思わせる。音声は私の声を先輩が不気味な感じになるよう編集してくれた。どうせ編集するのにテイク8までやらされたのには腹が立った。

そしてその音声の言葉を保健委員の代表である葉加瀬先生に伝えさせ、2-Bの教室におびき出す。その間に私が保健室の近くから保健委員の会話を聞き、葉加瀬先生が2-Bの教室に来ることを確認する。万が一、葉加瀬が二人が聞いた音声の言葉を信じなかった時のために、窓に手形の血のりを付けて信じさせる予定だったがそれは不要だった。

また、その間に先輩が三和先生に睡眠効果のあるハーブティーを大量に飲ませた後、おすすめの本があるといって読書をさせ、眠気を誘う。そのまま寝てしまった三和先生を二人で2-Bの教室に移動させた。また万が一眠ってくれなかったり、移動中に三和先生が起きてしまったときのために睡眠薬を持っていたわけだがこれも不要となった。さすがに先生に睡眠薬を使うのは犯罪じみているので眠ってくれてよかった。

葉加瀬先生が2-Bの教室に向かっている間に音をたてたり、光で不気味な影を作ることで恐怖をあおる。本当に先輩の考えることはえげつない。今考えるとあの時の私は、夜の学校にいることよりも、葉加瀬先生が怖がっている姿を見て笑みを浮かべていた先輩を見て震えていたのかもしれない。
そのあとは2-Aの教室に向かい葉加瀬先生がやってくるまで先輩と待機する。この時私は先輩と夜の学校の教室で二人きりになっていたわけだが、吊り橋効果で先輩にときめくことはなかった。なんかごめんなさい。

三和先生と葉加瀬先生が2-Bの教室で合流した後、校舎を出ようとする二人を2-Aの教室で待機していた私が追いかける。振り返られたときはとっさに物陰に隠れることでごまかせた。どうやら私の前世は本当に忍者なのかもしれない。

その間に先輩は2-Bの机を並べなおしたり、保健室の電気を消したりと、夜学校に人がいた形跡をすべて消した。そのあと三和先生と葉加瀬先生が一緒に帰るのを見送って作戦成功。

そう、この作戦は成功したのだが、あの声、言葉が何だったのかが分からない。
「帰ろうか」
「もう帰るんですか?怖くて動けないんでもう少し一緒にいてください」
「これ以上この場所にいたら取りつかれるかもよ」
「、、、」
「それじゃ」
先輩は一人で歩いて帰っていった。どうやら帰り道は逆方向のようだ。
先輩と分かれた後、固まった体を必死に動かし全速力で自転車こぐ。さっきの声の主に追いつかれないように。

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